初めてのオリ回なので、かなり変な部分があると思います。また、結構だらだらと長引いてしまいました。
そんなこんなで出来た話ですが、暖かい目で見て頂けると嬉しいです!
両親が殺された。
その日に幼稚園に迎えに来たのは、母さんじゃなくて、知らない、スーツを着た人達だった。初めは怖かった。だけど、一番大きな男の人がしゃがんで、俺に話しかけてきたんだ。
「怖がらないで。僕達は、君のお父さんとお母さんの……友達なんだ」
そう言って笑いかけるこの人が、すぐに優しい人なんだと分かった。だけど、その笑顔にはなんだか悲しみが含まれていた。
隣では、女の人が幼稚園の先生と話している。先生は話しているうちに、だんだんと悲しみと驚きの混じった顔になっていった。
目の前に、両親の亡骸があった。
大きな建物に連れてこられた俺に、両親に会えないのは辛いからと言って見せてくれた。
当の俺は、泣く事も喚く事も出来なかった。只々、目の前の光景が信じられなかった。朝まで、あんなに元気だったのに、笑顔で幼稚園へ送ってくれたのに、今はピクリとも動かない。
大好きだった両親の死が、その時の俺には受け入れられなかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
どれ位経ったのだろうか、俺は例の大きな男の人に、ある場所へと連れて行かれている。そこは、親が居ない子を育てるところらしい。話では、"霧島チャイルドホーム"と言っていた。
「君には親戚が居なかったからね。とある施設で、これからは生活してもらうよ」
俺はあれ以来、ずっと黙ったままだった。それは心の中もで、やった事行った場所は覚えているのに、そこに感情が見えない。
今だって、この男の人の一方的な話になってしまっている。
「最初は慣れないかもしれないけど、そこにいる人はとても良い人だ。それに、少しだけど友達もいるよ」
そんな話を聞いているうちに到着したようだ。ドアを開けて降りその場所を見てみると、白い大きな建物があった。
見た感じは新しかった。後ろには木々が生い茂っている、森があるのが見えた。
玄関の所には、男の人が立っていた。細身で高身長のスラリとした体形だった。顔からはとても優しげな印象を受けた。
「霧島さん、この子が例の……」
「分かってますよ」
そう言って、その男の人は俺の目線までしゃがんだ。
「夕凪颯君……だね?僕は霧島玄斗。今日から君の、新しい家族だ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あの後一通り建物の中を案内された。
中もとても綺麗だったが、大きさの割に人が全く見られなかった。
そして最後に、自分の部屋に連れてこられた。シングルベットに机、普通ぐらいのサイズのクローゼットがある。部屋の大きさも、幼稚園児からしたら大き過ぎるぐらいだ。
「今日からここが君の部屋だ。荷物は必要そうなものがそこに置いてある。ここの部屋は、君が自由に使っていいよ」
一人部屋なんて、秘密基地みたいではしゃぎそうなものだが、特に何も感じなかった。ただ、ここでこれからずっと過ごすんだと、漠然と考えていただけだった。
………俺は、これからどうしたら良いのだろう………
「案内は一通り終了したか………それじゃあ、ここに住む皆に会いに行こうか」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
俺は霧島さんに連れられて、大広間らしき所に連れてこられた。そこには、本を読んでいる大人しそうな男の子がいた。読んでいる本は絵本なのに、妙に様になっていた。
「彼は橘川紫苑君、こっちは新しく入ってきた夕凪颯君だ。さぁ二人とも、挨拶して」
「「……………………」」
二人ともだんまりだ。コイツに限っては俺に目もくれない。
「……全く、初めて何だから挨拶しないとダメだよ。ほら!」
「………………夕凪颯」
「………………橘川紫苑」
俺たちの乾いた挨拶に、霧島さんがため息をつく。
「……そうだ、二人はどこ行ったんだ?」
「……姉さんなら、朋樹さんを引っ張って遊びに行っちゃったよ」
「えぇ!?今日は新しい子が来るからここに居てって言っといたのに……」
なんだか面倒な話になってきたな……
話を聞くに、あと二人ここには住んでいるらしい。大人一人に子供四人でこんな馬鹿デカイ施設に住めるなんてな。
「仕方ないか……夕凪君、二人が来るまで好きなように過ごしててくれ。外に出てても良いけど、あんまり遠くには行かないでね」
そう言って、行ってしまった。
とりあえず暇になった。流石に紫苑と鬼ごっこ。なんてことはあり得んだろう。さてどうしたものか………
ふと、さっきの森が気になった。なぜかはよく分からんが、神聖な雰囲気が俺を惹きつけた。
俺は、誘われるように森に入って行ったのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
施設の裏に、森に続く道があったので、そこを進んで行くことにした。これなら、道に迷うこともないだろう。
あたり一面の自然に風の音が重なって心地いい。やっぱり、この森は魅力的だった。
どんどん進んでいく。時々、小動物や虫がいた。珍しいものは追いかけて行った。
久しぶりの有意義な時間だった。自然と笑っていた気がする。
チョウがいた。追いかけた。
リスがいた。追いかけた。
バッタがいた。追いかけた。
面白そうなものを、追いかけて……
追いかけて………
追いかけて……………
「…………あれ?」
ここ………どこだろ………?
気づくと、広い所にいた。真ん中にデカい大木がある、とても広い空間。
どうやって来たのか、分からなかった。帰り道が、分からない。
さっきまでの楽しさが嘘のように消え、俺の心は空っぽになってしまった。そして代わりに、言い知れぬ孤独感が俺を襲う。
聳える大木の影が俺を覆う。さっきまでが嘘のような静寂が、俺を包み込む。秋頃の心地いいはずの風が、俺の心を絶対零度まで冷やしていく。
こんなに孤独なのに、寂しいのに、辛いのに、涙は出なかった。両親の亡骸を見たときから、俺の涙は枯れてしまったのだろうか。
蹲った俺は、ただただ無表情な顔を膝に押し付けた。ただ一言、呟いた。
「……………寒い」
「じゃあ、何でそんな所にいるの?」
声がした。明るい声が、別世界な気がして
「ほら、こっちへおいでよ!」
でもそれは、現実で
手を伸ばすのは、二人の少年少女だった。
「夕凪颯君だよね。今日来るって言ってた………」
「……え?そうなの?」
「また話聞いてなかったの?此衣はいつも注意されてるんだから、直さなきゃ」
呆れた少年に、此衣と呼ばれた少女は誤魔化すようにアハハと笑う。
「……僕は相良朋樹。こっちは橘川此衣。君と同じ、施設に住んでる。君に凄い悪いことがあったってことは、玄斗さんに聞いた」
そう言う朋樹に続いて、此衣が言った。
「……難しいこととか分かんないけどさ、颯はまだ生きてるんだから」
そう言って二人は近づいてくる。暗く、色が無くなってしまった俺の視界でも、二人が輝いて見えた。
二人は俺の両隣にきて、優しく抱きしめてくれた。
「辛いこと苦しいこと全部吐き出してさ、楽になって良いんだよ?」
「それで空っぽにしたら、私達と遊ぼう!また、私達でそれを埋めていこ!」
暖かかった。二人の暖かさは、俺の凍りついた感情を溶かしていく。冷え切った心を暖めてくれる。
思い出したのは、両親と過ごした日々だった。二人の亡骸を見た冷たい記憶じゃない、もっと昔の、楽しかった日々だった。
朝起こしてくれる母さん。優しく揺すって、頬にキスをしてくれた。リビングに行くと、父さんが仕事へ行く支度をしていた。俺を見るなり、頭に手を当ててわしゃわしゃしてくる。二人とも働いていて幼稚園に迎えにくる時間は遅いけど、家に帰ると大体二人ともいた。
いつでも優しい母さん。怒る事はあっても、それに対して不満に思った事なんてない。母さんはいつも正しかったんだから。
いつでも楽しい父さん。警察官の偉い人で、厳しい人なはずなのに、家族といるときは笑顔を絶やさない。ひょうきんで、いつも俺を笑わせてくれた。
大切な家族、いつも暖かかった家族。
だけど、もうその温もりはない。だって、二人は死んじゃったんだから。
「………………………あれ……?」
気付いたら、涙が溢れてきた。ずっと流れなかった、枯れてしまったと思っていた涙が、流れてきたのだ。
「あれ?なんで……なんで今になって……だって……」
「全部吐いて良いんだよ?」
「私達が、受け止めてあげる」
「!!……っうわあぁぁぁあぁぁん!!」
もう、そこからは何がなんだかわからなかった。一度流れてしまった涙は、止めようと思っても止められなかった。今まで溜め込んできたナニカが、一気に溢れ出したのだ。
だけど構わなかった。俺がどれだけ弱いとこ汚いとこ悲しいとこを見せても、二人の暖かさは受け止めてくれる。だってそれは、両親と同じだったんだから。
秋の森に、ただただ子供の泣き声が響き渡るのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「……はぁ……はぁ………」
「もう、大丈夫そうだね」
ようやく泣き止んだ俺に、朋樹が優しく声をかける。目は真っ赤に充血していたが、その目でしっかりと二人を見た。
「……ありがとう、朋樹、此衣」
「どういたしまして!」
此衣が明るく答えた。そして彼女は上を向き、俺に言った。
「もう一度、この木を見てごらんよ」
よく分からないが、俺も同じように見上げて木を見た。すると……
「………………凄ぇ……」
どれ位ここに居たのだろうか、空は茜色に色づいていた。その光が山の木々に当たって、草花に当たって、この大木に当たって、照らしていく。それはとても幻想的で、俺にはその全てが虹色に輝いているように見えた。
「ね?綺麗でしょ?」
「この時間のここは特別だよね」
笑いながら話しかけてくれる二人。
さっきまであんなに怖い場所だったのに、暗くて、俺を冷やしていく場所だったのに。俺が変われたからだろうか、全てが美しかった。
「……ねぇ、二人とも」
不意に此衣が話しかけてきた。此衣は寝転び、言葉を続けた。
「私達、今日からずっと、親友だよ。三人で一つの、かけがえの無い大親友だよ」
その言葉が、何より嬉しかった。二人とこれからもずっと一緒にいられる。
「そうだね」
此衣の言葉に、朋樹もそう言って寝転ぶ。俺も同じように寝転び、大木と空を見上げた。
今だって泣きそうだ。今度は嬉し涙だけど。でも、泣かない。ここは堪えた。格好がつかないしな。
俺は手を伸ばした。空に向かって。
両親にはもう届かないけど、二人には届く。だから、言うんだ。
「俺達は、かけがえの無い大親友だ」