不破さん回と言いましたが、半分は夕凪君の話です。
鷹岡騒動のあった週の土曜日、とある一室にて。
私、不破優月はいつも通り、漫画を読んでいた。夕凪君に借りた漫画だ。
夕凪君は色々な漫画を持っていた。私もかなりの種類を読んできたが、夕凪君はそれ以上に持っていて、自分でも読み切れていないらしい。
そんな漫画だが、今日は全然内容が入ってこない。好きな探偵物の漫画なのだが、全く集中できていない。私にはあれ以来、ある悩みがある。
思い出すのはあの騒動のこと。夕凪君が過去を話した、あの日のこと。
正直、夕凪君の過去にはとても驚いた。同い年のはずなのに、夕凪君は私達よりもずっと辛い思いをしていたのだと思うと、自分も辛くなった。だから、それを皆で背負おう、そう決めた日だった。
けど、私を悩ませるのはそのことじゃなかった。
「……カッコ良かったなぁ………」
私が鷹岡先生に掴まれたとき、全力で助けてくれた。鷹岡先生を思いっきり吹っ飛ばして、私を受け止めてくれた。優しく声をかけてくれた。
その時の真剣な顔、優しい声が、頭から離れない。
「はぁ、どうしちゃったんだろ……」
そう言いながら、漫画を本棚に戻そうとした。すると、丁度ある物が目に入った。
それは、陽菜乃ちゃんに借りていた少女漫画だった。少々アレなシーンが多かったので、今度返そうと思っていたものだ。
何を思ったのか、私は読んでいた漫画を戻すと、その少女漫画を取り出した。ベットに寝転がり、それを読み始めた。
それは学園もので、主人公の憧れである学園の王子様のようなイケメンが実は主人公のことが好きだったという、王道のストーリーだった。陽菜乃ちゃん曰く、細かいところに凝ってるらしく、色んなところでキュンとさせられるらしい。
適当にページを開いて読み始める。この男は根は優しいが基本はプライドが高いようで、そう言う言動が多かった。なるほどこれは、自虐的な発言が多い夕凪君とは違うタイプだね。
場面は廊下で二人が会話しているところだ。主人公が緊張しながら会話していると、男が主人公を壁に押し当てて壁に手をついた。いわゆる壁ドンだ。
私はこれくらいでもう赤面してしまう。いつもなら漫画を閉じているけど、今日は赤面しながらも読み進める。
二人は成り行きで一緒に帰ることになり、途中で雨が降ってしまったので、仕方なく主人公の家に一旦雨宿りすることになった。これもベタな展開だが、それでも面白かった。
二人は順番にシャワーを浴びた。後に入った男の為に、主人公は着替えを用意しようとしたところ、風呂からでた男と鉢合わせしてするというシーン。
慌てて出る主人公が転びそうになるのを止めようとして、二人とも転んでしまう。
床に押し倒す形で見つめ合う二人、そして、言葉を交わすことなく顔を近づけあった。
この時点でもうパンク寸前だ。顔はおそらくとんでもないくらい真っ赤だろう。
私はよく、登場人物を自分に重ねて想像してしまう。この手の漫画でもそうだ。押し倒され、見つめ合い、そして………夕凪君と
「何やってんだおま「ふぎゃあぁぁあああ!!?」」
突然聞こえた声にびっくりして飛び上がった。とんでもない声を出してしまった。
私は声の主を見て睨む。
「兄さん!びっくりさせないでよ!」
「いや、ただ声かけただけなんだが……それよか何でそんなに赤くなってんだ?」
やはり、他が心配するくらい赤くなっていたようだ。
読んでいた少女漫画を後ろに隠した。
「だ、大丈夫だから!今はもう出てって!」
「あ、おい!熱があるなら言え……」
「大丈夫だから!」
そう言って兄さんを追い出す。
普段は黙って入ってきても私は何も言わないけど、今日が間が悪かった。後で兄さんには謝っとかないと。
今はそれよりも………
「何で夕凪君が出てくるのよ……」
最初の方から、もうすでに夕凪君が相手の男の人だった。そして主人公は、恥ずかしいが私だった。
「はぁ……重症だな、これ………」
もう、認めなくちゃいけない。
不破優月は、夕凪颯に恋をしているのだと。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ふんぎゃあぁぁあぁあ!!」
そんな好かれた幸せ少年は、
「ふんぐおぉおぉぉおぉお!!」
逮捕されるレベルで奇声を発していた。
「ふぎいぃいぃぃ「うるせぇ!」フベホッ!!?」
幸せ少年ってのは意味分からんが、俺は決してトチ狂ったわけではない。
ここは霧島チャイルドホーム、俺が住んでいた孤児院だ。
今俺を殴ったのは、同級生の不知火奏矢だ。わーかっこいー、名前だけ。
何故ここに来て、玄斗さんに弟子入りして、挙げ句の果てにこんな奇声を発しているのかというと………
「にしても何で急に、玄斗さんに鍛えてくれなんて言いに来たんだ?」
「色々あんだよ。そしてまず殴ったことを謝れ」
そう、鍛えてもらいに来たのだ。
鷹岡との戦闘で自分の弱さを知った俺は、もっと強くなりたいと思った。もちろん、中学生が努力したところで烏間先生みたいになれるわけがないのだが、それでも強くなりたかった。
皆は、俺の過去を知りたいと言った。一緒に背負いたいと、言ってくれた。
だから、俺も皆の為に何か出来るようになりたかった。だから、少しでも皆を守れるような強さを手に入れたかったのだ。
「強くなって損はないだろ?」
一応国家機密の一部なので、奏矢にははぐらかしておいた。
それと、何故烏間先生ではなく、玄斗さんなのかというと……ぶっちゃけ、玄斗さんも超強いのだ。
「……なぁ、玄斗さんが強盗倒したのっていつだっけ?」
「んあ?確か………6年前くらいだったかな」
となると、俺達が小3の頃だな。
休日に、確か皆に買い出しに行った時だ。その頃は孤児院にいた子供も少なかったので、全員で近くのスーパーに行った。そして買い物中、強盗みたいなのがナイフを持って入ってきた。
『おいゴラァ!この袋にある金全部詰めろォ!!あと、誰一人動くんじゃねェ!!殺すぞォォ!!!』
今でこそ冷静に対応できる自信があるが、当時、俺達はたったの9歳だ。当然、俺達全員が恐怖した。
『皆大丈夫だよ、落ち着いて』
だが、玄斗さんのその言葉を聞いた瞬間恐怖がなくなり、不思議と安心できた。
すると玄斗さんは、静かに、そして素早く強盗に近づいた。危ないと思ったが、強盗は焦っているようで、全く気づいていなかった。
そして、急接近した玄斗さんは軽く飛び、上段回し蹴りを決めて人のいない方に吹き飛ばした。顎にクリーンヒットしたようで、強盗は気絶していた。
「あの時の玄斗さん、今思い出しても凄かったな」
「あの後しばらく皆のヒーローだったもんな」
あんな綺麗でカッコイイ蹴りを見せられたら、誰だって憧れるだろう。施設の子供達はしばらく玄斗さんに夢中だった。俺や奏矢はもちろん、朋樹や紫苑までそうだったのだ。
今思い出してみると、あの動きはかなり洗練されていた。玄斗さんの戦闘シーンはあの時しか見ていないが、あれを見る限り、烏間先生にも匹敵する戦闘力をもっていそうだ。
本当に、あの人は謎だ。
「あ、そうだ、言い忘れてた」
突然、奏矢が言った。
「ん?」
「そのトレーニング、途中で止まったら最初からな」
……………………………………
「はあぁぁああぁあぁあ!!?!?」
思わず叫んでしまった。
「いやだって、玄斗さんはそうしろって………」
「じゃあ何でテメェは邪魔したんだよ!!!」
超人玄斗さんに弟子入りした俺は、最初にトレーニングをしていた。内容は腹筋なのだが、ただの腹筋ではない。傾いたトレーニング台の上の方に足を向け、さらに腕や首やらに錘をつけられたままでの腹筋だ。これを30回。
少ないかもしれないが、一回一回がかなりキツい。玄斗さんによると、キツいトレーニングを短期間でやる方が力がつくのだそうだ。
しかし、ここにきて聞かされていない追加ルールときた。しかもこいつはそのルールが分かってて邪魔したのだ。納得できない。
すると、奏矢が口を開いた。
「いや……ここだけの話な、一回目は必ず邪魔するように言われてるんだよ」
「Oh………」
それはなんだ?俺があんな奇声あげてまで力を振り絞って頑張った意味が無かったと言うのか?
「ふじゃけるなあぁああぁあ!!」
どうやら、思ったよりもずっと鬼畜な人に弟子入りしてしまったようだ……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ゼェ……ゼェ……」
「やぁ、お疲れ様」
「じゃあ、また後でな」
動きやすそうな服に着替えた玄斗さんが入ってきて、奏矢が出て行った。
あの後俺は、同じ条件での背筋や錘付きスクワットなどを同じようにやらされ、その度に邪魔してくる奏矢に殺意が湧いた。てか、何でアイツ俺が脇腹弱いの知ってんだよ、能力者か。
「それじゃ、本題に入ろう。ついてきて」
そう言って行く玄斗さんについて行った先は、小さな道場だった。格闘技を一対一でするのに丁度良い大きさだ。
「……何でも揃ってるんですね……」
「体を動かすのは好きでね、ここら辺は趣味の領域だよ」
わぁお、趣味でトレーニングルームや道場作っちゃう玄斗さんマジパネェっすわ。
そんなことを思いながら、俺は道場に足を踏み入れた。玄斗さんに向かい合い、少し構える。
「やる気満々だね。それじゃ、まずは……………避けてくれ」
「………は?」
次の瞬間、俺の顔に玄斗さんの蹴りが迫っていた。
「………ッ!!?」
俺はバックステップをして、間一髪のところでそれを避ける。
てか、危ねえぇ!!説明も無しにいきなり避けてくれって、普通だったら思いっきり当たってたぞ!
「ハハッ、やっぱり夕凪君は反応できるね。それじゃ、続けるよ!」
「ちょっ!!待って……」
俺の制止を無視して、玄斗さんが襲いかかる。仕方がないので全力で避けることにした。
玄斗さんは多彩な蹴りやパンチを放ってくる。やはり、それの全てが洗練されていて、避けるのは大変だった。
視線を常に正面に向け、しっかりと攻撃を見る。いくら速いとはいえ、しっかり見ていれば対処できた。
しかし、そう思った瞬間……
「うおッ!!?」
俺の体は宙を舞った。
投げられたのだろうが、全く反応できなかった。気がついたら宙にいた感じだ。おそらく、パンチに隠して足払いを決めたのだろう。俺が前の訓練で烏間先生にやったのと同じだ。
「隙があれば、どんどん技を決めていくよ。僕の全ての動きに集中するんだ」
そう言って玄斗さんは俺に手を出して立ち上がらせる。
「僕の攻撃をいなすのは構わない。打撃や投げ技、関節技など全ての技を食らわずに、3分耐えたら第1ステージクリアだ」
あの攻撃を3分耐えろ、か。1ヶ月かけても出来なさそうだが、これも強くなるためだ。やってやるさ。
「じゃ始めるよ。準備は良いかい?」
「………はい!」
俺は決意し、力強く返事をした。
不破さんが気づきましたねぇ〜
でも、くっ付くのはもう少し後です。