あと、この季節は虫がヤバいですね。蚊とかハエとか、鬱陶しいったらありゃしません。
書きながら思ったのが、E組の校舎って、虫がヤバそうですよね……
ピピピピピピピピ
「……朝か………」
休みが明け、やってきた月曜日の朝。学生の皆さんは、これほど憂鬱な時は他に知らないだろう。
かけていた薄い肌掛けが恋しいので、もう少し寝転がることにした。
学校に行くのはやはり憂鬱だが、それでも、今の俺は学校に行きたいと思っている。それはやはりE組のおかげだ。
今日はあの教室で、皆と、先生達と、どんな事があるのか、それを思うと楽しみで仕方がない。
そんなことを思っていると良い具合に覚醒してきたので、朝食の支度をしようと立ち上がろうとする。
その時、悲劇は起こったのだ。
「ぎゃあぁああぁあぁぁああ!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「………ぉはよ……」
「ああ、おは……うおっ!?」
前原に驚かれてしまった。クラスの皆も驚いた顔をしている。きっと、今の俺はムンクのような顔をしているのだろう。
「ど、どうしたんだ?夕凪……」
「全身筋肉痛で痛ぇ……」
俺は昨日のことを簡潔に説明した。これは間違いなく昨日のトレーニングによる筋肉痛だ。E組の訓練が始まった頃には少しあったが、この痛みはその時の比ではない。
昨日のトレーニングがそれだけキツかったのだろう。組み手で全身を動かして、その上に何度も技をかけられたりしたせいだ。
ちなみに、玄斗さんの事や孤児院のことは前話した時に知られている。
「へぇ……そんなことがあったのか」
「というか、烏間先生に頼めば良いじゃん」
「烏間先生は忙しいからな、それに……俺の目測では、玄斗さんは烏間先生並に強いぞ」
「「「ええぇええ!!!」」」
倉橋の問いに答えると、皆驚いていた。実際稽古をつけてもらってはっきりした。玄斗さんと烏間先生は良い勝負をするだろう。
「烏間先生と同じくらい強い人がまだいるのかよ……」
「その人、何やってる人なんだ?」
「……さぁ?」
孤児院経営だってとんでもない金を注ぎ込んでいるはずだ。どっかの資産家だろうか。
「てか、夕凪」
すると杉野が、机でだらけながら話す俺に聞いてきた。
「ん?」
「お前、そんなんで今日どうすんだよ。今日暑いのに」
「何が?」
確かに今日は暑いが、それとこれと何の関係があるのだ。
「何がって……今日から体育は水泳だぞ?」
「……………what's?」
え?え?何それ聞いてない……
「まさか……お前忘れてたのか?一週間前からHRで言ってただろ。昨日だって言ってたし」
そーいや言ったような無かったような……
「えぇええぇ!俺準備してねぇよ!水着とか色々!」
「水着は殺せんせーが多分何とかしてくれるよ。それよりも……」
矢田がそう言うと、皆は一斉に俺を見る。特訓の所為で、くしゃんくしゃんになった男の姿を。
「……お前、溺死すんじゃねぇの?」
「Oh…………」
さっきも言った通り、今は夏真っ盛りなわけで、これから暑くなっていくだろう。そんな学生達を癒してくれるのが水泳の時間だ。
しかし、そんな水泳も見学となると死ぬ程辛くなる。小学校の頃、一度だけ水着を忘れて見学していたのだが、プールサイドの暑さは尋常じゃない。人が軽く死ねるレベルだ。それ以来水着は絶対に持ってくるようにしていた。
しかし、今年は鷹岡やら何やらですっかり忘れていた。全く去ってからも迷惑をかける男だ。鷹岡許すまじ。
「……いや、これから涼しくなるかもしれねぇだろ!何せこんな山の中だ。プールに入らなくなってもマイナスイオンが俺を天国のような涼しさに導いてくれる!!」
「そ、そうか……」
すると、丁度チャイムが鳴った。俺はそんな儚い望みに賭け、朝のHRを迎えることになった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
一時間目 総合
「ええ〜〜、今日は職業研究のレポートです。各自の資料を使ってまとめて下さい」
「少し暑くなってきたな」
「そうだね〜〜」
二時間目 理科
「ええ〜……では木村君……この触手の中で正しい触手は?」
「……結構暑いな……」
「窓、開けよっか」
三時間目 数学
「えぇ……では……菅谷君、この問い1の答ぇを……板書して下さぃ……」
「カルマァ……ジュースあったらくれよぉ…」
「あるわけ……ないでしょ……」
四時間目 社会
「……え"え"〜……だがらごの地域ではぁ〜こーなっで……暑ぃ"い"……」
「テメェは溶けてねェで授業やれェ!!」
思わず叫んでしまい、また体温が上がった。
「暑ッぢぃ〜〜〜…」
「地獄だぜ……クーラーのない教室とか………」
教師も生徒もこの様では、授業どころでは無いだろう。かく言う俺もくたばったままだ。ったく誰だよマイナスイオンでて涼しいとか言ったの。
「温暖湿潤気候に生まれたのだから我慢しなさい。ちなみに先生は放課後には寒帯に逃げます」
「「「「「ずりぃ!!」」」」」
とにかく、この暑さではダメだ。溶ける。
「仕方ありませんねぇ……全員、水着に着替えてついて来なさい」
殺せんせーも思うところがあったのか、そう言った。
「どこ行くんだよ?」
「裏山に小さな沢があったでしょう、そこに涼みに行きます」
ああ、俺が前に昼飯食ってたとこか。
しかし、そこは殆ど水が流れていなかったはずだ。まぁ、無いよりはマシだが。
「ほら夕凪、早く着替えるぞ」
杉野が俺を急かす。俺も準備しようとしたとき、あることに気づいた。
……水着がない。
「……助けて殺せんせぇ〜」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
全員が着替えて裏山に向かった。
俺は、殺せんせーに即席で作ってもらった水着を着た。山から採ったもので作っていたが、溶けたりしないか心配だ。
「渚君、この前凄かったらしいじゃん、見ときゃ良かったよ渚君の暗殺」
「本当だよ〜、カルマ君面倒そうな授業はすぐサボるんだから」
「えーだってあのデブ嫌だったし……てか、夕凪君は大変だったらしいね〜」
「まーな、つい熱くなっちまって」
「夕凪君も凄かったよ、鷹岡先生相手にあんなに戦えるなんて」
茅野はそう言うが、もう一度鷹岡と戦ったらおそらく俺は一撃も入れられない気がする。あの時は無我夢中だったのだ。
そんな事を考えていると、目的地に着いたようだ。
しかしそこにあったのは、前に見た小さな沢では無かった。
「なにせ、小さな沢を塞き止めたので、水が溜まるまで20時間!25メートルコースもバッチリです!」
そこには、れっきとしたプールがあった。
「制作に1日、移動に1分、あとは1秒あれば飛び込めますよ」
「「「「いやっほぉおう!!」」」」
皆は一斉に飛び込んだ………俺を除いて。
「……おい、何で俺は触手に絡め取られているんだ?」
「そんな体で飛び込みなんてしたら、溺れるかもしれないじゃないですか。君は足だけです」
………あんまりだぁ……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
プールでクラスメイト達がワイワイと遊んでいる。とても楽しそうだ。
それを俺はプールサイドで恨みがましく見ている。とても可哀想だ。
まぁ、ここでも十分涼しいからいい。マイナスイオンとはこういうことを言うのだ夕凪颯よ。
すると、不破が話しかけてきた。
「暇そうだね、夕凪君」
「……あっちで遊んで来なくていいのか?」
「うん、少し休憩」
そう言って、横に座る。
「あーあ、プール開きに筋肉痛とか失敗したなぁ」
「そんなにキツかったの?その特訓」
「ああ、烏間先生のよりよっぽど鬼畜だ」
「……凄いね、それ……」
烏間先生の放課後訓練も結構キツいからなぁ。それよりとなると、想像して苦笑いしてしまうのだろう。
「まぁ、これも自分でやりたいって言ってやったことだからな。確実に強くなってる気がするし、辞めたいとは思わねぇよ」
「へぇ〜…何で急に特訓なんてしようと思ったの?やっぱ……鷹岡先生?」
「まぁな……一撃入れられたけど、それだけじゃ到底敵わない。俺は、鷹岡レベルでもそれ以上でも倒せるようになりたいんだ」
そう言って、空を見上げる。不破は俺の話を聞いてくれるようだ。少し考えてから、俺は口を開いた。
「……こんな異常な教室だからこそ、これから色々なことがあると思う。もしかしたら、鷹岡よりもずっと手強い殺し屋と戦闘になるかもしれないんだ。その時に、俺は皆を守れるようになりたいんだ。助け合えばいいかもしれないけど、いざと言う時に、守れる力が欲しいんだよ」
そう言って、俺は自分の手を見つめる。相変わらずプールの方は騒がしいが、それも気にならなかった。ただ、決意を固めていた。
「……凄いね、夕凪君って」
「そうか?」
「うん、仲間の為とか、そう言う理由で努力できる人間て、凄いと思う。まるで、ジャンプの主人公みたい」
不破はそう言う。主人公とは、気恥ずかしいな。俺はただ、皆に恩返ししたいだけなんだけど。
「まぁ、そんな訳だ。それに、特訓すれば暗殺にも役立つだろうしな」
「うん、そうだね」
そう言って笑い合う。そして、相変わらず騒がしいプールの方を見ると、あるものが見えた。
「………あいつ……」
そこには、岡島が鼻の下を伸ばしながらカメラを女子に向けていた。
俺はそこら辺の土を取り、握る。
握って、握って、できた。昔懐かし泥団子だ。
それを持ってプールサイドまで行き…………
「そぃっ!」
「ウヘヘ……これはこれは、中々良いのが撮れべフォッッ!?」
おっしゃあ!クリーンヒットォ!
「何すんだよ夕凪!俺の秘蔵の写真が危うく全部無くなるところだったぞ!」
「ムカついたからやった。後悔も反省もしていなぁい!」
てか秘蔵の写真て……あいつ女子にゴミを見るような目で見られてるの気づいてないのか?
ピピーーーッ!
「こら夕凪君!泥をプールの中に入れてはいけません!」
すると殺せんせーが、笛を吹いて注意してきた。
「岡島君のカメラは没収!あと木村君!プールサイドを走ってはいけません!それからそれから……」
(((((こ、小うるせぇ……)))))
こりゃあれだな、自分のテリトリーだと調子乗っちゃうやつだな。それで何度奏矢にイラッときたことか。
「堅いこと言わないでよ殺せんせー、水かけちゃえ!」
そう言って倉橋は水をかけた。すると………
「きゃんっ!!」
…………………………………
な、何なんだ今の声は?気持ち悪い。
俺達が唖然とする中、カルマがそっと近づいて監視イスを揺らすと、殺せんせーはとても慌てていた。
「……いや別に泳ぐ気分じゃないし、水中だと触手がふやけるとかそんなのないしぃ」
誤魔化しているようだがバレバレだ、殺せんせーは、水に弱いのだろう。
ほぉ、これは良いことを知った。
俺は殺せんせーに近づき、言った。
「殺せんせー、俺筋肉痛でとても泳げないからさぁ」
「………え?」
そう言って、俺は殺せんせーの座るイスを蹴り飛ばす。殺せんせーごと。
そして、悪魔のような顔で告げるのだった。
「楽しんでこいよ。プール遊び」
「……びやぁああぁあぁあ!」
殺せんせーは落下していく。すると、水中では素早く動く影が1つあった。
その影は殺せんせーの着地点に行き、水に落ちる瞬間にナイフらしきものを殺せんせーに突き刺そうとする。
「……ハァ、ハァ………」
しかし、殺せんせーはギリギリで手足を伸ばし、ナイフの届かない位置で止まった。そして、プールサイドに戻った。
「死ぬかと思いましたよぉ!!」
「当たり前だろ。殺す気でやってんだもん」
「それはそうですけどぉ!」
ぺちゃくちゃうるさい殺せんせーをほっておいて、俺はプールの方を見た。
「もうちょっとだったんだけどなぁ。惜しかったね、夕凪君」
さっきの影は片岡だった。どうやら髪留めにナイフを仕込んであるらしい。
しかし、さっきの動きはとても速かった。刺せる寸前までいったのだ。
「ふふ、水の中なら私の出番かもね」
水は、これまでで一番使える弱点だ。そこに片岡がいれば、かなり良い暗殺計画が練れるだろう。
これは、とても頼もしいな。