グサリ
生々しい音が聞こえる。
目の前には、ローブ姿の少女。その中は幼いながらも端正な顔立ちをしていた。
その少女が持つのは、刃渡り20センチ位のダガーナイフ。そのナイフが、刺さっていたのだ。
………俺の身体に。
「……夕凪颯……死んで」
そう言って、少女はナイフを引き抜く。
意識が遠のく。朦朧とした視界は、どんどん近づく地面を捉えていた。身体が、倒れていく。
痛みよりも、先に眠気を感じた。俺はまどろみの中に、落ちていった。
彼らの悲痛な叫び声も、聞こえることは無かった。
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「にゅやぁ……船はヤバい……」
暗殺リゾート当日、俺達は船に乗って島に向かっていた。いたのだが……
「先生、頭の中身が全部飛び出しそうです……」
殺せんせーは、すでに船でグロッキー状態だった。
「あ、見て見て!殺せんせー!」
倉橋がナイフを振りながら言う。皆デッキの柵に近寄り、離島を見た。
「東京から6時間、せんせーを殺す場所だぜ!!」
「「「「「島だぁーー!!」」」」」
ホテルに着いた俺達は、早々にチェックインを済ませて荷物を置いた。
その後、俺達はホテルのテラスでひと休憩するために座っている。
「ようこそ普久間島リゾートホテルへ。サービスのトロピカルジュースでございます」
ホテルの従業員はそれを配っていた。俺は少し席を立つ。あることを済ませ、元の席に戻った。
「なんだか、暗殺しにきたって気がしないね。茅野さん」
神崎さんがジュースを一口飲んで言う。ほんと、楽園みたいだからな。
俺は、そんなことを思いながらジュースを飲んだ。しかし……
「辛ええぇぇぇえぇ!!」
飲んでた分を思わず吐き出す。水、水をくれぇ!!
急いで外にあった水道で水を飲む。唐辛子っぽかったが、痛ぇ……ヒリヒリする……
席に戻ると、カルマが笑いを堪えてプルプルしていた。コイツか………
「カルマァ、何入れたんだ!?」
「えぇ?知らないよ……プッ……い、言いがかりは良くないよぉ?………ププッ……」
認める気は無いようだ。カルマは笑いを堪えながらジュースを飲もうとする………さぁ死ねぇ!!
「ブフゥォオッ!!?」
カルマは思いっきりジュースを吐き出し、水道に駆け寄った。
「……夕凪君、何入れたの?」
「センブリ茶だよ。船の中でカルマの悪戯袋からくすねてきた」
そう答えると渚が苦笑いしていた。
「一袋足りないと思ってたけど……夕凪の仕業だったんだ……」
カルマがハンカチで口を拭きながら戻ってきた。
「えぇ?僕知らないなぁ?言いがかりは良くないと思うよぉ??」
青筋立ててピクピクしてたが知ったことか。日頃のお返しだ。
「にゅやあぁぁあぁっ!何ですかこのジュース辛いぃいぃ苦いぃいい!!」
ふんぎゃあぁぁ!と飛んで行き、海に突っ込んだ。あの先生なら海水飲んだって大丈夫だろうからな。
「……やるな」
「……夕凪もね」
「「「「「お前らは普通にリゾート満喫出来ねぇのか!!」」」」」
何を言っているのだよ。こういう油断した時こそ引っかかりやすいんだよ。
すると、殺せんせーがげっそりした顔で戻ってきた。
「………酷い目に遭いました……」
「ま、まぁ気を取り直して、まずは遊ぼうぜ殺せんせー」
「例のアレは夕食の後にやるからさ」
「え、ええ、賛成です……」
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「殺せんせーは?」
「今、3班と海底洞窟巡りしてる。こっちの様子は絶対見えないよ」
1つの班が準備している間、他の班が暗殺の準備をする。俺達2班は、トドメとなる狙撃のスポット探しだ。
「じゃあ今なら、射撃スポット選び放題か」
「サクッと決めちゃいますか」
千葉と速水はそれだけ言葉を交わすと、黙々とスポットを探し始める。
「……シブいなあの二人……」
「ああ、もはや仕事人の風格だ」
「まぁ、二人共行動で主張するタイプだしな」
それに、二人共大役を任されて少し緊張してるかもしれないな。
「なぁ夕凪」
すると、岡島が耳打ちをしてきた。
「何だ?」
「お前あいつらとよくいるだろ?どの位進んでるのかわかるのか?」
どの位って……ああ、付き合ってるかとかそういうやつか。
「本人達は全くその気が無いらしいぞ?」
「マジか!?あんな気が合って一緒にいるのに!?」
「ああ。まぁでも、手を出しただけでとって欲しいもの分かったり、連携とか一瞬のアイコンタクトでできるし……なんかもう、夫婦以上の団結力だぞ?」
「えぇ……そんなんでお互いに脈無しかよ……」
「ああ。俺は似合ってると思うんだがな……早くくっ付けばいいのに」
まぁ、これは本人達の問題だからな。口出しなんて不毛なことはしないさ………多分……
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「いやぁ、遊んだ遊んだ。おかげで真っ黒に焼けました」
「「「「黒過ぎだろ!!」」」」
歯まで焼けるってどういうことなんだよ………
「で、この船で酔わせて戦力を削ごうという訳ですか……」
俺達は今、船の中だ。暗殺をする水上パーティルームにはこれに乗って行く。
「当然です。これも暗殺の基本ですから」
磯貝がそう答えると、殺せんせーはジュース片手に言う。
「実に正しい。ですが、そう上手くいきますかねぇ?暗殺を前に気合を入れた先生にとって、船酔いなど恐れるに足りませ「「黒いわ!!!」」…」
全く表情が分からない殺せんせーに思わず中村と片岡がツッコむ。
「……そんなに黒いですか?」
「表情どころか前も後ろもわかんないわ」
「ややこしいから何とかしてよ……」
「ヌルフフフ、お忘れですか?皆さん。先生には脱皮があることを……」
ああそれなら元どお……脱皮ィ!?
「皮を脱ぎ捨てれば、ホラ元通り!」
そう言って黒い皮を脱ぎ捨てる。確かに戻ったが、それって……
「月に一回の脱皮……」
「こんな使い方もあるんですよ。本来ならヤバい時の奥の手………あっ!、にゅやあぁああ!!」
「バッカでー……暗殺前に自分で戦力減らしてやんの……」
「どうして未だにこんなドジ殺せないんだろ……」
馬鹿だ……馬鹿の極みだ………
そんなこんなで、暗殺決行の時間が迫ってきた。皆、やる気をみなぎらせている。
ここで殺せんせーを殺せれば……
………殺す?
あれ?殺すって、そういうことだよな?殺せんせーが、死ぬんだよな?
ズキン!!
今まで気にしていなかったけど、殺したら、この異常な日常が終わるんだよな?それって、俺が望むものなのかな?
「夕凪君?」
「ひゃい!??」
「夕凪君、どうしたの?そんなぼうっとして」
「え?ああ、大丈夫だ不破。少し考え事してただけだ」
「ならいいけど……夕凪君」
「ん?」
「………絶対、成功させようね!」
「……おう」
そうだ、ここにいる皆が、今日の為に頑張ってきた。俺の勝手な思いで無駄にしちゃいけない。
両手で頬を叩き、気合を入れる。暗殺決行まで、あと少し!
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「さぁて殺せんせー。メシの後はいよいよだ」
「会場はこちらですぜ」
夕食が終わり、俺達は水上パーティルームに向かった。ちなみに殺せんせーはやっぱり酔った。
パーティルームに入ると、そこにはテレビと、その準備をした三村と岡島がいた。
「楽しい暗殺」
「まずは映画鑑賞から始めようぜ」
二人がそう言って、殺せんせーを座らせた。
「まずは、三村が編集した動画を見て楽しんでもらい、その後8人が触手を破壊して、それを合図に暗殺を始める、それで良いですね?殺せんせー」
「ヌルフフフ、上等です。君達の全力の暗殺を期待してます。遠慮は無用……ドンと来なさい!」
「言われなくとも、始めるぜ殺せんせー!」
そう言って岡島は明かりを消した。三村が映像を流し始める。
映像が流れている間、俺達は小屋を出入りし始める。これは殺せんせーの人数と位置の把握を困難にする為だ。まぁ、それだけではこのタコは誤魔化せないだろう。多分、ここに千葉と速水が居ないこともバレている。
しかぁし!これを見てもまだ他のことに気を配れるほど余裕で居られるかな?
【……先ずはご覧頂こう。我々の担任の恥ずべき姿を】
「…………にゅやあぁああ!!!?」
そこには、トンボのコスプレ……?みたいなものをして、山のようにあるエロ本を拾い読みしていた。これで擬態のつもりなのか………
【おわかり頂けただろうか。最近のマイブームは熟女OL。この本は全てこのタコが1人で集めたエロ本である】
「違っ……ちょっ岡島君達!皆に言うなとあれほど……」
【お次はこれだ。女子限定のケーキバイキングに並ぶ巨影…………誰であろう、奴である】
間髪入れずに次のネタが殺せんせーを襲う。反論の余地すら与えない。これ、思ったより残酷だな。因果応報なわけだけど。
【給料日前の奴である。分身でティッシュ配りに行列を作り、そんなに取ってどうすんのかと思いきや……何と唐揚げにして食べ出したではないか。教師……いや、生物としての尊厳はあるのだろうか?】
「ねぇねぇ殺せんせー、ティッシュって美味しいのか?」
「聞かないでぇ!私なりの節約術なんです……そんな心底不思議そうな顔しないで下さいぃ!いつもの馬鹿にされた感じより何倍も傷つきます!」
いやだって、これはドン引くでしょうよ。ティッシュだぞ?
【こんなものでは終わらないこの教師の恥ずかしい映像を1時間たっぷりとお見せしよう】
「あと1時間も!?」
その後も殺せんせーの痴態は続いた。全く、どんだけ人に言えないことしてんだこのタコは……
そして、
【完】
「……死んだ、先生死にました……あんなの知られてもう生きていけません……」
殺せんせーは船酔いの時よりもずっとグッタリとしていた。
【さて、秘蔵映像にお付き合い頂いたが、何かお気付きで無いだろうか殺せんせー?】
終わったと思っていた映像から、ナレーションの問いかけがあった。殺せんせーは下を見ると、やっと自分の足が、水浸しになっていることに気づいた。
これは満潮だ。あらかじめこの建物の支柱を短くしておいた。結果、誰も何も動かずに水を流し込むことができた。
「船に酔って、恥ずかしい思いして、海水吸って、だいぶ動きが鈍ってきたよね」
中村の言葉と共に、俺達は殺せんせーに近付いていった。
触手破壊権を持った8人が銃を構える。
「……じゃあ本番だ、避けんなよ?」
その寺坂の言葉と共に、7つの銃弾が放たれる。そして破壊した後、部屋の壁に亀裂が走り始めた。壁が崩れそれを合図に、今度はフライボート組が飛び上がる。外からはホースで水を撒き、さらに倉橋がイルカを従えて水飛沫を起こし、水の隙間を埋めていく。暗殺エリアを水で覆い囲み、水圧の檻を完成させた。
「せんせーの周囲1メートルへの射撃を開始します」
すると、律が水の中から浮かび上がり、それを合図に俺を含む射撃組が射撃を始める。しかしこれはダメージを与える為ではない。殺せんせーは当たる攻撃には敏感なので、周囲を撃つことで退路を更に狭くしていく。
が、じきに弾は切れる。水圧の檻にも対応でき始めているし、そうすれば逃がすだけだ。
だから………頼んだぜ二人共!
千葉と速水が水の中から出て、エアガンを構える。
そう、昼間探しに行った狙撃スポットはフェイクだ。殺せんせーは鼻が異常に良いので、そっちを警戒しているのだろう。
(せんせーの注意はフェイクが全て引きつけてる)
(私達の匂いも、発砲音も全て水が消してくれる)
((……もらった!!))
そして、2つの銃弾が放たれた。殺せんせーが気づいた時には、その弾はもう目の前だ。
(よくぞ……ここまで………!)
その瞬間………
殺せんせーの体が、閃光と共に弾け飛んだ。俺達は吹っ飛ばされ、海に落ちる。
これまでにはない手応え、やったのか?
「油断するな!!奴には再生能力がある。片岡さんを中心に水面を見張れ!!!」
烏間先生の指示が飛び、捜索を始める。すると倉橋があっ!、と、何かに気づいた。
そっちを見ると、泡がブクブクと出ていた。俺は銃を構えながら警戒すると………何やらオレンジ色と透明の殺せんせーが出てきた。
…………何あれ?
困惑していると、その丸い物体は言うのだった。
「これぞ先生の奥の手中の奥の手、完全防御形態です!!」