夕凪颯の暗殺教室   作:カゲロー@

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第37話 「異変の時間」

 

「これぞ先生の奥の手中の奥の手、完全防御形態です!!」

 

「「「「完全防御形態!?」」」」

 

何その名前カッコ良い……

 

「この外側の透明な部分は高密度に結集したエネルギー体。この形態になった先生は無敵、水も対先生物質も効きません!」

 

シロとイトナに襲撃された時、殺せんせーがまだ奥の手はあったと言っていた。それがこれなのだろう。

 

「そんな……じゃあずっとその形態でいたら殺せないじゃん……」

 

「ところがそう上手くいきません。このエネルギー結晶は24時間程で自然崩壊し、先生は元に戻ります。そして、結晶が崩壊するまでの24時間、先生は全く身動きが取れません」

 

それは中々のリスクだな。動けないという状況なら対策はいくらでもある。

しかし……今の俺たちには、この完全形態をどうにかする術はない。それまで殺せんせーの計算尽くだったわけだ。

俺達の………完敗だ………

 

「そっかぁ、弱点無いんじゃ打つ手ないね」

 

すると、カルマはそう言いスマホの画面を殺せんせーに見せる。それは、先程の三村の映像にもあった、殺せんせーの恥ずかしい写真だった。

ほぅ、動けないってことは………

 

「やめてー!!手がないから顔も覆えないんです!!」

 

「ごめんごめん。じゃあとりあえず至近距離で固定してと「全く聞いてない!?」」

 

「カルマカルマ、ここにウミウシもいたぜ」

 

「ナイス夕凪君……ほいペチャッと」

 

「ふんにゅあぁぁあッ!!?」

 

「あ、この柱にフナムシいっぱいいるからここに固定しようぜ」

 

「いいねいいね」

 

「やめてぇえぇええ!!」

 

ヤベェ楽しいぃ!日頃の恨みを晴らしてやるぜ!

 

「はぁ……とりあえず解散だ。上層部とこいつの処分方法を検討する」

 

そう言って、烏間先生はカルマから殺せんせーを取り上げた。ちぇ、良いところだったのに……

 

「失敗はしましたが、皆さんは誇っていい。世界中の軍隊でも先生をここまで追い詰めなかった。ひとえに皆さんの計画の素晴らしさです」

 

殺せんせーは、俺達に対してそう言った。しかし、皆落胆の色が隠せていない。まぁ、これだけ計画を練って、準備してきた最大の一撃だ。それが失敗したという重圧が、皆にのしかかっていた。特に、千葉と速水は最後の一撃を外した分、特に重い顔をしていた。

……俺だけだ。殺せんせーが死ななくて、少しホッとしている奴なんて。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ホテルに戻り、テラスで皆休憩を取る。その空気は重く、疲れ果てているのがわかる。

 

「はぁ……疲れたな、夕凪……」

 

「あぁ……でも、これで明日は沢山遊べる。前向きに考えようぜ、杉野!」

 

「……あぁ……そうだな……」

 

そう返して、杉野は伏せってしまった。よっぽど疲れたのか……いや、なんかおかしい。

俺は異変に思い、杉野の額を触ってみる。

 

「っ!?、おいこれ凄い高熱じゃねぇか!どうしたんだ!?」

 

俺の問いかけにも、ぐったりしていて答える余裕がないようだった。辺りを見回してみると、顔を赤くした奴が何人もいた。

 

「いやぁ……もう想像しただけで……鼻血ブ……いや、あれ……?」

 

「岡島!!?」

 

岡島が尋常じゃない程の鼻血を出した。やはり何かがおかしい。一体、何が起きているんだッ……!

俺達が困惑していると、烏間先生の携帯に着信が入った。

 

『やぁ先生、可愛い生徒が随分苦しそうだねぇ』

 

「何者だ?まさかこれはお前の仕業か?」

 

烏間先生はそう電話相手に聞いていた。その声音は低く、怒りに震えていることが分かった。

俺達にも聞かせるよう、烏間先生はスピーカーにした。

 

『ククク、最近の先生は察しが良いな。今、生徒達が苦しんでるのは人工的に作り出したウィルスだ。1度感染したら最後、1週間もすれば全身の細胞がグズグズになって死に至る。治療薬も1種のみのオリジナルだけた。渡すのが面倒だから直接取りに来てくれないか?山頂にホテルが見えるだろう。手土産はその袋の賞金首だ』

 

この瞬間も、皆は苦しんでいる。治療薬が無ければ……皆死ぬのか?

 

『その様子だと、クラスの大半がウィルスに感染したようだな…………フフフ結構結構』

 

「ク………ソッ……!」

 

『治療薬はスイッチ1つで爆破出来る。山頂の普久間殿上ホテル最上階まで、一時間以内にその賞金首を持ってこい。だが持ってくるのは、こちらの指定する生徒だけでだ。そうだな……そこの緑髪の小柄な女子、青髪の小柄な男子、そして、茶髪混じりの髪の男子だ」

 

おそらく防犯カメラから様子を見ているのだろう。てか、元気な中で茶髪混じりの男子って……俺じゃん。何故、俺と茅野と渚なのだろう……

 

『素直に来れば賞金首と薬の交換はすぐに済む。だが外部と連絡を取ったり、1時間を少しでも遅れれば即座に治療薬を破壊する。礼を言うよ、よくぞそいつを行動不能まで追い込んでくれた。天は我々の味方のようだ!』

 

そう言って、電話は切られた。

 

「……そういうことだ……すまない……」

 

烏間先生は、沈鬱な表情でそう言った。すると、烏間先生の部下の園川さんが近づいてきて言った。

 

「烏間さん……案の定ダメです。政府としてあのホテルに宿泊者を問い合わせても、"プライバシー"と繰り返すばかりで……」

 

「……やはりか」

 

その報告に、烏間先生は重苦しい声音で答える。その言葉に殺せんせーは疑問を覚えたようだ。

 

「……やはりとは?」

 

「警視庁の知り合いから聞いた話だが、この小さなリゾート島は"伏魔島"と言われてマークされている。殆どのホテルは真っ当だが、あの山頂のホテルだけは国内外のマフィア勢力やそれに繋がる財界人等が出入りして、違法な商談やドラッグパーティを連夜開いてるらしい。更に政府のお偉いさんともパイプがあり、迂闊に警察も手が出せん」

 

「ふぅん、そんなホテルじゃこっちに協力するわけないね」

 

「どーすんスか!?このままじゃ皆死んじまう!殺される為にこの島に来たんじゃねぇよ!!」

 

吉田がそう叫ぶ。その通りだが、落ちつかせる為に話しかけた。

 

「吉田、気持ちは分かるが今は落ち着こう」

 

「落ち着けるかよ!お前だって、皆のこと心配じゃねぇのか!ムカついてねぇのか…………ッ!?」

 

吉田は俺の目を見て言葉を詰まらせた。俺も、相当ムカついてるからな。

 

「………ああ、ムカつきすぎて狂いそうだぜ?こんなクソふざけた事しやがる奴によ?………でも、今は落ち着け。そうしなきゃ何も出来ねぇよ」

 

「そうそう、そんな簡単に死なない死なない。じっくり対策考えてよ」

 

「お、おう……悪ぃな二人共……」

 

俺と原さんの言葉で、吉田も落ち着いたようだ。てか、原さんの包容力半端ねぇな。

すると、寺坂が意見を言う。

 

「いう事聞くのも危険だぜ。指定したのって渚と茅野と夕凪だろ?夕凪はともかくこのちんちくりん二人だぞ!?万が一の時に対処出来ねぇよ!」

 

そう言って渚と茅野の頭を叩く。うん……茅野ムカついてるから。また殴られるぞ……

 

「第一よ、こんなやり方する奴らがムカつくんだよ!人のツレに手ェ掛けやがって!要求なんぞシカトだ!病院に運んじまおうぜ!」

 

続けて寺坂はそう言うが、それに竹林が反対した。

 

「もし仮に人工的に作られたウイルスなら、それに対抗できる抗ウイルス薬はどの大病院にもない。そうなれば患者のリスクが増えるだけだ………対症療法で応急処置はしておくから、急いで取引した方が良い」

 

そう言って、竹林は手袋をはめた。

取引に応じるか否か、どちらともリスクが高い。応じた後取引が上手く済めば皆助かって終わりだが、もしかしたら俺達まで捕まるかもしれない。皆を守る為に特訓していたのに情けない話だが、手練に大勢で襲われたら勝てる気がしない。

しかし、竹林が言った通り、応じないとしてもその先の対策が思いつかない。取引に応じず、かつ治療薬を手に入れる方法……か………

 

「良い提案がありますよ。敵に従うより、大人しく病院にいくよりは」

 

すると、殺せんせーがそう言い出した。

 

「律さんの下調べも終わったようですし、元気な人は来て下さい。汚れても良い服装でね」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

律に案内されたのは、ホテルの裏にある崖の下だった。来たのは、俺と渚と茅野の他に、カルマ、寺坂、吉田、千葉、速水、不破、菅谷、磯貝、片岡、岡野、木村、矢田、そして烏間先生とビッチ先生だった。

 

「正面玄関と敷地一帯には大量の警備が置かれていて、フロントを通らずホテルに入るのはまず不可能です。しかし、ただ1つこの崖を登った所にある通用口は、まず侵入不可能な地形なので警備も配置されていないようです」

 

「敵の意のままになりたくないなら手段は1つ。患者10人と看病に残した2人を除き………動ける生徒全員でここから侵入し最上階を奇襲して治療薬を奪い取る!!」

 

「「「「「!!」」」」」

 

こりゃまた、ブッとんだ事考えるのな。

 

「……危険すぎる。この手慣れた脅迫の手口、敵は明らかにプロの者だぞ」

 

「ええ、しかも私は君達の安全を守れない。大人しく私を渡した方が得策かもしれません。全ては君達と、指揮官の烏間先生次第です」

 

……確かに、難しいミッションだ。一歩間違えれば死人が出るかもしれない。

でも、病院へ運ぶより、取引するより、確実な方法だと思った。

俺は崖を駆け上がって枝を掴み、そこから岩に手と足をかける。それに続いて皆も登り始める。

 

「よっと!」

 

烏間先生が気づいた時には、俺達はかなりの高さまで登って来ていた。

俺は手頃な足場に降り、言った。

 

「俺はそんな奴らの取引に応じる気はありませんよ。セコいやり方で横取りしようとしてきてさ………この手でぶっ潰して、それで薬も奪い取れば良いじゃないですか?」

 

「でも、未知のホテルで未知の敵と戦う訓練はしてないから……烏間先生、難しいけどしっかり指揮を頼みますよ」

 

「おう、こんなふざけたマネした奴等にキッチリ落とし前つけてやる!」

 

続いて磯貝、寺坂がそう言うと、烏間先生か決心したように大きく息を1つ吐き、俺達を見据えて言った。

 

「注目!!目標、山頂ホテル最上階!!隠密潜入から奇襲への連続ミッション!!ハンドサインや連携については訓練のものをそのまま使う!!いつもと違うのはターゲットのみ!!3分でマップを叩き込め!!

……19時50分作戦開始!!」

 

「「「「「おう!!」」」」」

 

こうして俺達の、未知の敵との戦いが始まるのだった。

 

 

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