夕凪君視点なので、コードネームが使えないのが少し不便でした。
七階 VIPフロア
ここは基本客室なので、通るのに苦労する事はなかった。しかしまた、八階に続く階段に見張りがいる。
「まぁ、相手が何だろーがぶっ倒さなきゃしょうがねぇだろ」
「その通りです寺坂君。そして倒すには君が持ってる武器などが最適ですねぇ」
「……ケッ、透視能力でもあんのかテメェは」
そう言うと、寺坂は鞄の中を漁り始めた。
「……できるのか?一瞬で2人共仕留めないと連絡されるぞ」
「任せてくれって…………おい木村、あいつらをちょっとここまで誘い出してこい」
「俺が?どーやって?」
「知らねーよ。何か怒らせること言えば良いだろ」
「じゃあ、こう言ってみ木村……」
カルマがとても愉快そうに木村に伝えている。まぁ、こう言うのはクラス一だからな。
木村は緊張した様子で、見張りの前に出て行った。
「ん?何だボウズ?」
「……あ、あっれェ~?脳みそ君がいないなァ~?こいつらは頭の中まで筋肉だし~………人の形してんじゃねーよ豚肉共が」
そう言って、木村は踵を返して歩き出す。
………………………
「おい」「待てこら」
見張りの男2人が、とんでもない形相とドスの効いた声で走ってきた。まぁそりゃあ怒るだろうな………
しかし、流石はE組イチの俊足の木村だ。直線での勝負なら誰にも負けない。追いつかれることなく俺達がいるところまでおびき寄せることができ、すかさず見張りの男に寺坂と吉田がタックルをかます。
抑えつけた見張りの首元に、2人はスタンガンを当てて気絶させていた。
「タコに電気試そうと思って買っといたんだよ」
「いい武器です寺坂君。ですが、その2人の胸元を探ってください。きっと、もっと良い武器があるはずです」
殺せんせーに指示されて胸元を漁る。そして出てきたのは………実弾入りの本物の銃だった。
「そして……千葉君、速水さん、この銃は君達が持ちなさい。烏間先生はまだ精密な射撃が出来る所まで回復していない。この中で最もそれを使えるのは君達2人です」
「だ、だからっていきなり……」
「ただし!」
千葉が反論しようとするが、殺せんせーがそれを遮る。
「先生は殺す事は許しません。君達の腕前でそれを使えば、傷つけずに倒す方法はいくらでもあるはずです」
千葉と速水は不安が隠せない様子だった。そりゃそうだろう、殺せんせー暗殺で失敗したばかりだ。
「さあ行きましょう。ホテルの様子を見る限り、残りの雇った殺し屋は精々2人まででしょう」
殺せんせーはそう言い、皆がおう!と答えた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
八階 コンサートホール
「15……いや、16か?呼吸が若い。殆どが10代半ば……驚いたな。動ける全員で乗り込んできたのか」
誰かがホールに近づいて来るのが分かり、急いで座席の後ろに息を潜めて隠れたわけだが………やってきた男は、気配や微かな呼吸音だけで、人数等の基本情報を把握してきた。こりぁ、かなり手強いかもしれない。
すると男は、後ろの照明を銃で撃ち抜いた。馬鹿でかい音がホールに鳴り響いた。
「言っとくが、このホールは完全防音でこの銃は本物だ。お前ら全員撃ち殺すまで誰も助けに来ねぇ。おとなしく降伏してボスに頭下げとけや!!」
そう言いながら、その銃男は銃をクルクルと回していた。
すると、また発砲音がする。撃ち出された銃弾は銃男の顔の横を通り過ぎていく。
撃ったのは速水、恐らく銃を狙ったんだろう。だがやはり不調だった。
「意外と美味ぇ仕事じゃねぇか!!」
すると銃男はそう叫び、ステージの照明の明かりを強くさせた。クッ……逆光で向こうがよく見えねぇ……
すると、銃男は銃を発砲をした。その弾は座席の隙間を通り、速水の横を通り過ぎた。
嘘だろ!?こんな狭い間をあんなに正確に………
「1度発砲した敵の位置は絶対忘れねぇ。もうお前はそこから動かさねぇぜ。さぁて……奪った銃はあと一丁あったはずだが……」
皆の間に緊張が走る。すると、突然殺せんせーの声が響いた。
「速水さんはそのまま待機!!今、撃たなかった千葉くんは懸命です!君はまだ敵に位置を知られてない!ここぞという時まで待つんです!!」
銃男は声の主を探していた。そしてそいつは………堂々と最前列の座席に置いてあった。
「テメー何かぶりつきで見てやがんだ!!」
そう叫んで、銃を殺せんせーに乱射する。まぁ、完全防御形態なので全て弾かれてるわけだが……
どうやら、一番見やすい所で無敵な殺せんせーが指揮を取ってくれるらしい。
「チッ、その状態でどう指揮を執るつもりだ」
「では………木村君!5列左へダッシュ!!寺坂君と吉田君はそれぞれ左右に3列!」
「なっ……!」
銃男は突然のシャッフルに驚いていた。その間にもどんどん指示が出されていく。
「死角ができました!茅野さんはこのスキに2列前進!!カルマ君と不破さんは同時に右8!!磯貝君と夕凪君は左に5!!」
指示された通り、左へ5つ移動する。だが、敵も馬鹿じゃない。多分、今名前を出した人間は場所ごと覚えられているだろう。
「出席番号12番!!右に1で準備しつつそのまま待機!!」
「へ!?」
すると殺せんせーは、出席番号で指示を出し始めた。銃男は驚いた様に声を上げていた。
「4番と6番はイスの間からターゲットを撮影!律さんを通してステージ上の様子を千葉君に伝達!!ポニーテールは左前列へ前進!!バイク好きも左前に2列進めます!!」
更に特徴での指示に変える。成る程、これならかなり混乱させることができた筈だ。
「最近竹林君イチオシのメイド喫茶に興味本位で行ったらちょっとハマりそうで怖かった人!!撹乱のため大きな音を立てる!!」
「うるせー!なんで行ったの知ってんだよテメー!!」
寺坂がメイド喫茶って……やべぇ、合わなすぎて笑える。メイドさんに超デレデレしてそう。
「女装趣味!最前列までダッシュです!!」
……あんの野郎………
俺は渋々、ダッシュで最前列の座席に隠れた。
「あれ?本当にそんだったんですかぁ?女装が趣味なんて知らなかったですねぇ~」
「ブチ殺すぞタコ!!」
ハメやがった。てか、何フザけてるんだよ………
「……さて、いよいよ狙撃です千葉君。次の先生の指示の後……君のタイミングで撃ちなさい。速水さんは状況に合わせて千葉君のフォローを。敵の行動を封じる事が目的です」
今、千葉と速水は途轍もない緊張に襲われているだろう。殺せんせーが何か言ってくれるかもしれないが、俺は自分で2人に言いたかった。
「……律、千葉と速水に繋げてくれ。少し話したい」
「了解しました!」
そう言って、律は千葉と速水の携帯に繋げてくれた。
「もしもしー、女装趣味では決してない夕凪君です」
『……アンタ、根に持ってたの?』
べ、別に気にしてねーし!
「……ハァ。お前ら、絶対に外しちゃいけないとか、そんなこと思ってるんだろ?でも、それは焦りだよ。邪魔でしかない」
『そんな事言っても……俺が外したら、その後どうすれば………』
「だから!別にお前だけで背負いこむ必要ねぇだろ!お前らよりか下手かもしれねぇけど、皆だって訓練受けてんだ。お前が外しても、誰かが成功させてくれるさ」
『『……………』』
「………だからさ、その責任感を一回捨てて、気楽に撃ってみろよ。そうだな………俺と賭けをした時みたいに、ハーゲンダッツ狙うつもりで撃ってみろ………お前らなら、外さねぇよ」
それだけだ、と言って電話を切った。
これで、良い感じに緊張がほぐれてると良いんだがな。
(全く、夕凪らしい励まし方だな………背負いこみ過ぎ、か……そうだな、外しても大丈夫だ。俺には頼れる仲間が居るんだ……)
(……フッ、バカみたい。でもおかげで、さっきまでの震えも止まった……)
((今度は、絶対に外さない!!))
俺の話が終わり、いよいよ狙撃だという時、ふと銃男の方を見ると、何かに気づいたような顔をしていた。もしかして……千葉を特定された?
そんな不安を感じた時、殺せんせーが叫んだのだった。
「出席番号12番!!立って狙撃!!」
……ん?12番?
その声と同時に人影が立ち上がる。すると、銃男はその人影の眉間に銃弾をぶち込んでいた。
しかし、その人影は千葉ではなく人形、12番は菅谷の番号だった。てか、あの間によくこんなの完成させたな。菅谷マジ職人。
「分析の結果、狙うならあの一点です」
「オーケー、律」
すかさず千葉が別の場所から出て発砲する。
しかし、銃男はどこにもその弾が当たっていない事に気づいた。
「……フ、へへ……外したな。これで2人目も場所が……」
その瞬間……
ゴンッッ!!
吊り照明が銃男の体にぶつかる。とんでもない音を出して、銃男に衝撃を与えていた。千葉が撃ち抜いていたのは、吊り照明を留めていた金具だったのだ。
「く……そがッ……!」
今にも切れそうな意識の中、銃男はまだ銃を構えようとする。
しかし、それを速水は撃ち抜いた。今度こそ、正確に。
「ふぅ……やっと当たった……」
唯一の攻撃手段を失った銃男は、なす術なく意識を失った。すかさず、皆で出て行ってガムテープでぐるぐる巻きにする。
「肝を冷やしたぞ。よくこんな危険な戦いをやらせたな」
「ほんと、うちの先生はぶっ飛んだ事を考えますね」
俺は烏間先生の言葉に賛同する。すると、殺せんせーは言った。
「どんな人間にも、人生で大きく成長できるチャンスが何度かあります。しかし、それには集中力を引き出すような強敵や、経験を分かつ仲間達が必要です……だから私は、それを用意出来る教師でありたい。生徒の成長の瞬間を見逃さず、高い壁を、良い仲間を、揃えてあげたいのです」
それと……と、殺せんせーは続ける。
「夕凪君、先程はありがとうございます。言わなければ私が言うつもりでしたが、2人と仲が良い君ならと、あの場は任せました」
「別に、大したことは言ってないさ。あの2人があんな性格だから、緊張をほぐしてやろうかと思ってな」
千葉と速水は、行動で語る仕事人タイプの人間だ。それは逆に、口での主張が少ないという事。
そんな2人だからこそ、自分1人で抱え込もうとしていた。そりゃ外すだろう。どんだけ銃の扱いが上手くても、そのプレッシャーは半端なものではない。
でも、今回で2人は仲間を頼る事を身で覚えた。良い感じに変わったのが見て分かる。
だって、あんな戦いをしたにも関わらず、お互いを讃え合う今の2人の顔は仕事人じゃない。馬鹿な事を言い合ったり、遊んでいる時に見せる、中学生の顔なんだから。
「それはそうと殺せんせー?」
「はい?何でしょう?」
そう聞いてくる殺せんせーの袋をガシッと掴み、俺は思いっきりぶん回した。
「だぁれぇがぁ女装趣味じゃああぁあああ!!!」
「にゅやアァアァァアアァア!!!」
やめて下さい!やめて!目が回るぅ!!と叫んでいるが、知った事か。処刑じゃ処刑!
「けど夕凪、自分で動いてたってことは……本当は女装趣味なんだrヘブゥ!!」「ふんにゃァア!?」
寺坂がふざけた事を言い出すので、殺せんせーを腹目掛けてぶん投げた。
「痛ぇ!何すんだ夕凪!」
「寺坂テメェ……腹掻っ捌くかケツの穴開くか……どちらか選べ」
「どっちでも死ぬわ!!」
「大体寺坂だってメイド喫茶にハマりそうになるとか何だよ!どーせ女の子にモテなくてメイドさんは優しくしてくれるからデレデレしてんだろ気持ち悪!!」
「うッせェ!!お前だって女装してるとき満更でも無さそうだったじゃねぇか新たな扉開いちゃってんじゃねぇのか気持ち悪!!」
「「あ"ぁ"!?」」
ギャアギャアと騒ぐ俺と寺坂と、悲鳴を上げる殺せんせー。それを皆は、とても楽しそうに、笑って見るのだった。