夕凪颯の暗殺教室   作:カゲロー@

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第47話 「渚の時間」

 

「殺してやる……よくも皆を……」

 

「はははは!その意気だァ!殺しに来なさい渚君!!」

 

殺気立つ渚を、鷹岡は挑発していた。

 

「渚……キレてる…」

 

「俺等だって殺してぇよあんなゴミ野郎!けどマジで殺る気か渚の奴!?」

 

片岡と吉田がそう言う。

俺は腹の傷を抑えて、フッと笑った。

 

「……夕凪君?」

 

「……下の少女には感謝しないとな。俺が万全だったら、エアポートに飛び乗って、その後鷹岡を嬲り殺してた………けど、この傷の痛みが俺を止めてくれる」

 

傷元をさすりながらそう言うと、俺は皆に向き直った。

 

「今俺達のする事は、怒りに任せて動く事じゃない。逆上したままじゃあ勝てる事も勝てなくなる……というわけで、まず渚を冷静にさせないと……」

 

その時……

寺坂が、スタンガンを渚に向かってぶん投げた。それは、見事渚の後頭部に命中した。

 

「チョーシこいてんじゃねぇぞ渚ァ!薬が破壊された時、テメェ俺を哀れむような目で見ただろ!一丁前に他人の心配してんじゃねェよモヤシ野郎!ウイルスなんざ寝てりゃ余裕で治せんだよ!!」

 

「寺坂……お前!」

 

ウイルスにかかってたのか……

 

「そんなクズでも息の根止めりゃ殺人罪だ!!テメェは怒りに任せて100億のチャンス手放すのか!?」

 

「寺坂君の言う通りです渚君。その男を殺しても何の価値も無いし、逆上しても不利になるだけ。治療薬の事は下の毒使いに聞きましょう。その男は気絶程度で充分です」

 

寺坂と殺せんせーは、そう渚に言った。

 

「おいおい、余計な水差すんじゃねェ。本気で殺しに来させなきゃ意味無ェんだ」

 

すると、鷹岡がそう言う。きっと、その上で勝ち、屈辱を晴らそうという訳だろう。

 

「渚……何が大切なのか、もう一度よく考えろ。どの言葉が、どの行動が正しいのか……お前なら分かるだろ?」

 

俺はそう渚に伝えた。

すると、寺坂がドサッと倒れた。慌てて木村と吉田が近寄る。

 

「お前……これ、熱やべェぞ!!」

 

「こんな状態で来てたのかよ!」

 

「……ぅるせぇ、見るなら……あっちだ……」

 

掠れた声でそう言う寺坂は、渚の方を指差した。

 

「……やれ、渚。死なねぇ範囲でブッ殺せ」

 

寺坂はそう言った。

それを見た渚は、スタンガンを拾ってそれを腰にしまった。

手にはナイフ、やはり殺す気なのか……いや、前より落ち着いてる。何か策でもあるのだろうか……

 

「ナイフ使う気満々で安心したぜ。一応言っとくが、ここに予備の治療薬がある。本気で殺しに来なければこれも破壊する……最後の希望だせ?」

 

そう言って鷹岡は、治療薬の入った薬を見せた。

 

「……烏間先生、もし渚君が命の危機と判断した場合は迷わず鷹岡先生を撃って下さい」

 

殺せんせーは烏間先生にそう小声で言っていた。

殺せんせーは先程、千葉と速水に不殺を命じた。でも、今はそう言っている。今はそれ程ヤバい状態なんだろう。

そもそも殺し屋である俺達は、前にも言ったように殺す事しか訓練していない。俺やカルマはクラスでもイレギュラーなのだ。

渚が先に動き出す。前のように殺気を隠して近づこうとするが、完全に警戒している鷹岡は油断しない。動き出した瞬間に渚の腹に蹴りを入れた。

かなりの威力だったのか、渚は吹っ飛ばされて咳き込んでいた。

 

「おらどうした?殺すんじゃなかったのか?」

 

立て直した渚は、鷹岡に対してナイフを振るう。しかし鷹岡はそれを手でいなし、顔面に裏拳を叩き込んだ。

その後も一方的だった。あらゆる攻撃が躱され、重い一撃が叩き込まれる。腐っても精鋭軍人、あらゆる面で渚は負けているのだ。

 

「勝負にならない……」

 

「勝てるわけねぇよあんな化け物!」

 

速水と菅谷がそう呟く。痛めつけられる渚を見て、皆も悲痛な表情をしていた。

 

「へばるなよ?今までのは序の口だ………さぁて、そろそろ俺もコイツを使うか」

 

そう言って鷹岡が取り出したのは、本物のナイフだった。クルクル回した後、それを渚に向けた。

 

「手足切り落として標本にしてやる。ずっと手元に置いて愛でてやるよ」

 

憎悪に満ちた顔で鷹岡はそう言った。

 

 

「烏間先生!!もう撃って下さい!渚死んじゃうよあんなの!!」

 

小声で、しかし焦った声音で茅野は言った。しかし、寺坂がそれを止めた。

 

「待て………手出しすんじゃねぇ」

 

「まだほっとけって?俺もそろそろ参戦したいんだけど」

 

「カルマ……テメェは練習サボってばっかで知らねぇだろうがよ……渚の奴、まだ何か隠し玉持ってるようだぜ」

 

渚の隠し玉?練習の時で俺が知らないって事は、夏休みのあの日か。

 

 

 

 

 

……ゾクッ

 

 

 

 

「ッ!?」

 

急に、殺気を感じて俺は振り向いた。

殺気は渚の方だ。

渚は……笑っていた。今までとは違う、暗殺者の目だった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

僕は、痛む身体を抑えながら、ロヴロさんの言葉を思い出していた。

 

『この技の発動には幾つかの条件がある。

一つ、武器を二つ持っていること。

二つ、敵が手練れであること。

三つ、敵が殺される恐怖を知っていること』

 

……良かった、全部揃ってる。

 

「ッ!?」

 

僕はあの時、鷹岡先生を倒した時と同じように、笑って歩いて近づいた。

殺し屋は、戦闘をする職業じゃない。気づかれる前に、殺さなければいけない。

僕が教わった技は、もしも戦闘になってしまった時、再び暗殺の場に戻す技だ。僕には戦闘の才能は皆無、だけどこの技を上手く使えば倒せる。

 

『手練れの敵なら、君の挙動の一つ一つを良く見ている。そして、近づくほど意識はナイフに集中するだろう』

 

僕は歩いて、ナイフの間合いの少し外まで近づいた。

 

(何考えてるか知らねぇが……警戒は怠らねぇ!返り討ちにしてやる!)

 

鷹岡先生の意識と緊張が、極限まで高まった……その刹那……

 

すぅ…とナイフが、僕の手から離れる。鷹岡先生はそれを目で追った。

僕は、それと同時に鷹岡先生の目の前に両手を持っていった。そして……

 

 

パアァァン!!

 

僕は手を合わせて、音を鳴らした。

端から見ればただ鳴らしただけ、しかし、極限にまで意識が高まっていた鷹岡先生にとっては、それは爆発にも匹敵する衝撃だっただろう。

 

「何……が…おこ……った……?」

 

鷹岡先生は仰け反る。暗殺者は、その数瞬を見逃さない。

寺坂君が投げてくれたスタンガン、それを抜き、流れるように振るう。そして……

 

バチィィイン!!

 

 

スタンガンを脇に食らった鷹岡先生は、膝をついて倒れた。

……やった、僕が倒せたんだ。

自分でも驚いてるけど、でも……これで終わりだ。

 

「トドメだ渚……首元にたっぷり流しゃ気絶する……」

 

寺坂君がそう言った。僕は、スタンガンで鷹岡先生の顔を持ち上げ、目を合わせた。そして、思った。

 

殺意を教わった。抱いちゃいけない殺意の事、それから引き戻してくれる友達の事、殴られる痛み、実践の恐怖、それを身をもって教わった。

酷い事をした人だけど、それとは別に授業の感謝はちゃんとしなければと、そう思った。

 

「……ッ!!?」

 

感謝を伝えるなら (やめろ!)

 

そう言う顔をすべきだと思ったから (その顔で終わらせるのだけはやめてくれッ!)

 

 

(もう一生その顔が……悪夢の中から離れなくなるッ!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

「鷹岡先生、ありがとうございました」

 

 

 

あの時と同じ笑顔でそう言い、電気を流した。バチッ、と音が鳴り、鷹岡先生は倒れた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

はしごを掛け直し、降りてくる渚を皆で称賛した。

 

「よくやってくれました渚君。今回ばかりはどうなるかと思いましたが……怪我も軽そうで安心しました」

 

「…うん、僕は平気。けど……皆への薬が……予備だけじゃ全然足りない……」

 

渚の言葉に皆沈黙する。これでは、ここまで来た意味が無い……

 

「……とにかくここを脱出する。ヘリを呼んだから君達は待機、俺が毒使いを呼んでくる」

 

烏間先生が携帯片手に言う。すると……

 

 

 

「フン、テメェ等に薬なんぞ必要無ぇ……ガキ共、このまま生きて帰れると思ったかい?」

 

「「「「!!」」」」

 

後ろから声が聞こえた。振り向くと、そこには下で戦った4人がいた。

俺達は慌てて戦闘体勢をとる。てかヤベェ!おじさんぬメッチャキレてますけどぉ!?

 

「お前達の雇い主は既に倒した。戦う理由は無いし、互いに被害が出る事はやめにしないか?」

 

烏間先生がそう言う。すると……

 

「ん、いーよ」

 

……え?

 

「ボスの仇討ちは契約外だ。それに、今言ったろ?お前等に薬なんて必要ねぇって」

 

えぇと、どういう事でしょうか?

皆も状況が掴めないらしく、困惑していた。

 

「お前等に盛ったのは食中毒菌を改良したもの、あと3時間は猛威を振るうがその後に無毒になる。ボスが使えと指示したのを使えば、お前等ヤバかったな」

 

「使う直前にこの4人で話し合ったぬ。ボスの設定した交渉期間は1時間、だったら、わざわざ殺すウイルスじゃなくとも取引は出来ると」

 

毒使いとおじさんぬがそう言った。それに岡野は疑問を覚える。

 

「でもそれって、鷹岡の命令に逆らったって事だよね?金貰ってるのにそんな事していいの?」

 

「アホか、プロが何でも金で動くと思ったら大間違いだ。もちろん依頼人の意に沿うように最善は尽くすが……ボスはハナから薬を渡すつもりは無かった。カタギの中学生を大量に殺した実行犯になるか、命令違反がバレる事でプロとしての評価を落とすか………どちらが今後のリスクになるかを天秤に掛けただけよ」

 

……そういう事か。確かに、毒使いが麻痺毒を使うのも、おじさんぬが堂々と待ち構えてるのもおかしな話だったな。

すると、少女が口を開く。

 

 

 

「……毒は偽物だったんだ……知らなかった……」

 

「「「「「「ハァ!?」」」」」」

 

いきなり意味の分からない事を言い出した。これには、俺達だけでなく殺し屋達も声を上げていた。

 

「知らなかったって……事前に話した時、お前も居たじゃねぇか!!」

 

「……あの時は………買っといたお菓子の美味しさに……感動してた……」

 

少女の答えは斜め上を遥かにブッ飛んでいた。何なの?天然なの?

 

「……全く、仕事の話くらいしっかり聞くぬ。何かあったらどうするぬ」

 

「………KitKatの抹茶味とか………マジ神!」

 

「話を聞くぬ!!」

 

少女のマイペースぶりに皆の緊張感が抜ける。と言うか、戦ってた時とエラく違うな。やっぱ、普通の少女なんだ。

あとおじさんぬ、お笑い目指せるぞ。キャラ立ってるし、ツッコミスキルも中々だ。

呆れた様子の毒使いが口を開いた。

 

「ハァ……まぁ、そんな訳だ。お前等は誰も死なねぇ。この栄養剤を患者に飲ませてやんな」

 

「……信用するかは生徒達が回復したのを見てからだ。事情も聞くし、しばらく拘束させてもらうぞ」

 

「………まぁ、しゃあねぇな」

 

烏間先生の言葉に銃男はそう答えていた。

すると、ヘリが到着した。鷹岡やその手下達がヘリに乗せられていく。

すると、少女が俺の前に立った。

 

「よぅ、さっきは殴ったりして悪かったな」

 

「戦ってたから……それはしょうがない………それよりも、ありがとう……貴方に色々と教えて貰った」

 

「そんな大層な事はしてねぇよ」

 

そう返すと、少女は笑みを浮かべて言った。

 

「それでも……ありがとう、ハヤテ」

 

「おう、ええと……そういや、お前名前なんていうんだ?」

 

そういえば、殺し屋達の名前は知らずに来てたな。

 

「……シルヴィア……シルヴィア・グレイフォード………それが私の名前」

 

「シルヴィア……」

 

確か銀色を意味したはずだ。この子の綺麗な銀髪を見て付けたんだろうな。

美しい響きも、この子に合っていた。

 

「……いい名前だな。それじゃシルヴィア、じゃあな」

 

「うん……またね……」

 

そう言って、少女はヘリの方に歩いていった。

全員を乗せ、ヘリは飛び立っていく。その間際に、銃男が叫んだ。

 

「ガキ共!俺等に狙われる位偉くなってみせろ!そん時にゃプロの殺し屋のフルコースを教えてやんよ!!」

 

そう言って薬莢を落とす。

殺し屋達を乗せたヘリは去っていった。あれは、あいつらなりのエールだったんだろう。

その後、俺達を乗せるヘリも飛んで来たので、それに乗り込んだ。

俺等の潜入ミッションは、問題無く終了したのだった。

 

「とりあえず、夕凪君は帰ったら手当てを受けてくれ。医療班も来ているはずだ」

 

「了解っス」

 

烏間先生に言われて思い出す。そういえば、意外とシャレにならない傷負ってたんだよな。

すると、殺せんせーが話しかけてきた。

 

「それにしても夕凪君、強くなりましたねぇ」

 

「まぁ、キツい特訓してきたからな」

 

「カッコ良かったですよ。特に、"未来を見通す眼(フューチャー・アイ)"なんて凄かったですねぇ〜」

 

「……何だそれ?」

 

(((また言ってるよ……)))

 

「………カッコ良いじゃねぇか!!」

 

「「「えぇ!?」」」

 

え?何か変なこと言ったか?

 

「お前……それで良いのか?」

 

「え?だってカッコ良いだろ?こう、何というか……中二心をくすぐるというか……」

 

(((コイツも同類だった!!)))

 

「ヌルフフフ……夕凪君なら分かってくれると思いました!あれも凄かったですねぇ、どんな必殺技でも返り討ちにしてしまうカウンター!名付けて、"必殺殺し(デッドリー・キラー)"!」

 

「うおぉ!それもカッケェ!!」

 

「「「………はぁ」」」

 

なんか、皆のテンションが低くなった気がする……

すると、俯いていた渚が寺坂の方を向いた。

 

「寺坂君……あの時、声をかけてくれてありがとう。間違えるところだった」

 

「……ケッ、テメェの為に言ったんじゃねぇ。1人欠けたらタコ殺す難度上がんだろうが」

 

その言葉に、渚は頷いた。これで、渚も、俺達も、大切な事を学んだんだろうな。

 

「寺坂〜素直になれよォ〜、男のツンデレは需要無ぇぞ?」

 

「うっせ!」

 

そんなやり取りをしている内に、皆の待つホテルに着いた。

薬の事を説明し、毒使いから貰った栄養剤を飲ませてやる。これで、事件は解決した。

俺は、医療班の人に案内されてホテル内に入る。大事には至らず、消毒と傷を縫い合わせるだけで済むらしい。

俺は、耐え難い睡魔に負け、治療を待たずに眠りについた。

 

 




不破(言えない……私もカッコ良いって思ってたなんて……)
友情、特殊能力、勝利、ですもんねぇ。
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