「あぁ……愛しい夏休みよ……」
新学期の始業式
夏休みの気分をまだ引きずる中、その為に本校舎に来ていた。
あれから6ヶ月経った。一年も折り返し地点となり、残りの時間も6ヶ月だ。長いようで短いなぁ。
「久しぶりだな、E組ども」
そんな声が、式の開始を待っている俺達の元へ投げかけられる。そちらを見ると、そこには浅野を除く五英傑の面々だった。
「ま、お前らは2学期も大変だと思うがよ」
「メゲずにやってくれ。ギシシシシ…」
小山がそう言うと去っていった。てか、あいつの笑い方は何なんだろう……キャラ作り?
妙にニヤニヤしていたのが気になるが……
そんなやり取りをしてから、始業式が始まる。司会の荒木が進行しながら、嫌味ったらしい校長の話や各種行事連絡と会は進んでいく。
『それでは、皆さんに1つお知らせがあります。今日から一人、新たな編入生が加わります。そして………入学テストの結果、その人物はE組に配属される事になりました!!』
荒木のその言葉に、体育館は騒めく。それが嘲笑混じりだったのは、哀れみか、はたまた馬鹿にする対象として楽しんでるのか。
しかし、E組の皆は全く違う事を考えていた。
「編入生……また暗殺者か?」
「さぁ……でも、また変な奴だったら………」
「大変になりそうだねー……」
吉田と矢田とそんな会話をしていると、荒木が再び話し始めた。
『それでは入って来てください』
そう言うと………何やらローブを着込んだ人物が入って来た。顔はそのせいでよく見えない。その人物は、歩いて壇に立った。
その姿にまた体育館内が湧く。異端者が来た、そんな所だろう。
しかし、俺達の一部……南の島でホテル潜入したメンバー達には、分かった。
………アイツ…………
『それでは、編入生挨拶してもらいましょう!よろしくお願……い……しま……!?』
最後、言葉が途切れたのは、彼女がそのローブを取ったからだった。
「「「「「「!!?」」」」」」
肩までの美しい銀髪、透き通った翡翠色の目、雪のように白い肌、幼いながらも端正な顔立ちをした、美少女。
『シルヴィア・グレイフォードです………よろしく』
南の島で俺が倒した暗殺者が、やって来た。
「何あの子……外人?」
「てか、可愛い……!」
再び騒めき始める一同。相手がE組だということも忘れ、その容姿に驚き褒めている人も多かった。
しかし、一番驚いているのは俺達だった。
「おい夕凪!アイツって……」
「あぁ……俺が南の島で倒した子だ」
「何で、E組に……?」
そんな疑問が絶えない中、シルヴィアが続いて口を開いた。
『ここには……政府の要請で暗殺にーー』
「「「「「「待て待て待てぇ!!!!」」」」」」
いきなりとんでもない事を言い出すシルヴィアに対し、E組の面々が声を上げる。すかさず烏間先生が急いで壇上に上がり、耳打ちしていた。
「(暗殺の事は極秘だ!間違っても大勢の前で口に出すんじゃない!!)」
「(分かった……初めに言ってくれれば良かったのに……)」
「(何度も言った!!話を聞いてろ!)」
真面目に話を聞かない癖は直ってないようだった……
再度、壇に向かうシルヴィア。しかし、話す事を決めてなかったのか……そもそも話す事を聞いてなかったのか、口ごもっていた。
『ええと……何話そう………あ、そうだ……』
ようやく決めたようで、マイクに向かった。しかしそれは……
『私は……ハヤテが好き……』
「「「「ブフォッ!!?」」」」
とんでもない爆弾発言だった。
『(ハヤテに救われた)あの夜から……私の頭の中はハヤテ(が言ってくれた事)でいっぱい………ハヤテに(倒された後)抱かれた温もり……忘れられない……(恩人として)大好き………』
「ヤァメェロォォォォオ!!!!」
なんちゅう事言い出すんだあの子は!!?それだと誤解だらけだろうが!
あと優月サン?わなわな震えてるけどそれを俺にぶつけるのはやめて下さいよ?
『だから……そんなハヤテを助ける為に来た……これからよろしく』
「ハヤテって誰だ?」
「ソイツ……あんな子を連れ込んでそんな事したの?」
「……最低……不潔……」
全校生徒からそんな声が聞こえる。ヤバい……学校来れなくなっちゃう……
そんなざわめきを意に返す事もなく、彼女はステージ脇に消えていった。ホントマイペースな奴だな……
「ハハ……大変な子が来たね……」
「ホントにな……」
矢田の言葉に額を抑えながら返す。
まぁ、何はともあれ戦力になるのは確かだ。できれば戦いなどとは無縁なとこで暮らしてほしかったが……楽しそうなら良いか。
すると再び、荒木がマイクで話し出す。
『ええと……気を取り直して、もう1つお知らせがあります』
ん?まだあるのか?
『今日から……3年A組に一人仲間が加わります。つい先日まで、彼はE組に居ました』
「「「!!?」」」
E組の皆の間に、先ほどよりも大きな衝撃が走る。しかしそれに構わず荒木は続けた。
『しかし、たゆまぬ努力のおかげで好成績を取り、本校舎に戻る事を許可されました。それでは、彼に喜びの言葉を聞いてみましょう!!
……竹林孝太郎君です!!』
「竹林が……E組を抜ける?」
「何で……?」
疑問の言葉が漏れる中、竹林が壇上に立った。
『ーー僕は4ヶ月余りをE組で過ごしました。その環境を一言で言うなら……地獄でした。
その惨状から怠けた自分を悔い、本校舎に戻りたいと必死に勉強しました。
こうして戻ってこられた事を嬉しく思い、二度とE組に堕ちる事のないよう頑張りますーー以上です』
全員が唖然とした表情で見ていた。驚きで声が出なかったのだ。
しかし、ステージの脇にいた浅野が拍手する。いつもの作り笑いを浮かべ、よく聞こえないが竹林を賞賛する言葉を送ったのだろう。
その拍手を合図に、体育館内に歓声が広がった。
「よくやった竹林!」
「お前は違うと思ってたぞ!!」
拍手喝采、全校生徒が竹林に賞賛の声を上げる。そんな中、E組は唖然としたままだった。
……また面倒な事をしてくれるな……
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「なんなんだよアイツ!!」
前原が声を上げながら、苛立ったように黒板を叩く。前原だけでなく、E組全体で疑問や怒りの雰囲気を漂わせていた。
「百億のチャンス捨ててまで抜けるとか信じらんねー!!」
「しかもここの事地獄とかほざきやがった!」
「言わされたにしたってあれは無いよね」
口々に漏らす中、座っていた片岡が静かに呟いた。
「竹林君の成績が急上昇したのは確かだけど、それは殺せんせーに教えられてこそだと思う。それさえ忘れちゃったのなら……私は彼を軽蔑するな…」
その言葉に、渚や茅野、神崎さんといった面々は黙っていた。それぞれ、何か思うところがあるのだ。
「夕凪はどう思ってんだ?アイツの行動」
「……あぁ。ムカついてる」
「だよな!?アイツ、何もあんな言い方しなくてもーー」
「ん?竹林に対してじゃねぇよ?」
「……え?」
皆が疑問に思っている中、俺は続けた。
「半年一緒に過ごしただけだけど、アイツがそんな薄情には見えなかった。殺せんせーに恩義を感じながら……それでもアイツの中に、譲れないものってのがあるんじゃないか?」
「ま、まぁそうかもな……」
先ほどまでの険悪な雰囲気が幾らか和らいだ。きっと、皆も竹林がそんな奴じゃない事くらいわかっているのだろう。
「俺がイラついてるのは……あの親子だよ!ステージ脇の浅野の顔、絶対アイツが一役買ってるに違いない!そして黒幕は案の定理事長センセだ!」
「なんかいつになく苛立ってるね……」
「だってアイツが居なくなったら……オタクが俺しか居なくなるだろが!!ただでさえ皆から白い目で見られてるのに仲間を減らすような事を……ッ!」
「「「そんな理由!!?」」」
俺の言葉に、
「さっきから言ってる浅野って……誰?……悪い人?」
「あぁ悪い奴だね悪者だね!オタクを分断させるなんてロクな奴じゃねぇ!どうせ部屋では**で**な癖に!」
「「言葉が汚い!」」
「……その浅野って人の名前は?」
「あぁ?アイツなんかシ○太郎で十分だ!どうせ部屋では○コ○コばっかしてるシ○スキーなんだかrあ痛いですすんませんでしたぁ!!」
「颯君?自重しようか……?」
わなわな震えながら優月が関節を決めてきた。それ烏間先生直伝の奴じゃ……イタイイタイ!
「○コ太郎………消す……」
「「「消しちゃダメ!!」」」
取り出したのは対せんせー用ナイフなのに、殺気がプンプンして人間でも殺せそうだった。この子凄ぇな……
「と、とにかく、あの言い分は気に入らねぇ!放課後一言言いに行くぞ!」
前原がそう言い、他の皆も賛同する。
新学期初日は、そんな険悪な雰囲気のまま過ぎていったのだった。
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放課後、本校舎の生徒と挨拶を交わして出てくる竹林をE組の皆で待ち構える。前原が声をかけると気づいたようで、竹林はこちらを向いた。
「説明してもらおうか。何で一言の相談も無いんだ?」
「何か事情があるんですよね!?」
磯貝と奥田が口々に言うと、後ろで見ていたカルマが口を開いた。
「賞金百億、殺りようによっちゃもっと上乗せされるらしいよ。
分け前いらないんだ竹林、無欲だね〜」
挑発するように言うカルマ。それに対して竹林は、少し考えたようにした後口を開いた。
「……せいぜい十億円。僕単独で百億ゲットは絶対無理だ。上手いとこ集団で殺す手助けをしたとして、僕の力じゃ分け前は十億がいいところだね」
十億って金も、かなりのもののはずだが……
その疑問は、次の竹林の言葉でわかった。
「僕の家は、代々病院を経営している。十億って金はうちの家族には働いて稼げる額なんだ。
……出来て当たり前の家、出来ない僕は家族として扱われない」
何となく、皆は分かってきていた。竹林が抱えている、闇を。
「……昨日、初めて親に成績の報告ができた。トップクラスの成績を取って、E組から脱けれる事。そしたら…
『頑張ったじゃないか。首の皮一枚繋がったな』
……その一言をもらうために、どれだけ血を吐く思いで勉強したか!!」
竹林の声は、呪縛に囚われていた人間の必死の足掻きに聞こえた。
「僕にとっては、地球の終わりよりも百億よりも……家族に認められる方が大事なんだ。恩知らずも裏切りも分かってる
………君達の暗殺、上手くいく事を祈ってるよ」
そう言って、竹林は去っていった。
渚はその背中を止めようと声をかけようとした。しかし、それを神崎さんが止めていた。
「やめてあげて渚君。親の鎖って、凄く痛い場所に巻きついて離れないの。だから………無理に引っ張るのはやめてあげて」
それは、自分も似たような経験をしてるからこその言葉だった。他の皆もそう、E組にいる以上、多かれ少なかれその呪縛がある人の方が殆どだ。
「……今回は、俺はノータッチだな」
「夕凪?」
「俺には……正直その親の鎖ってのはわからない。だから、かけてやれる言葉もその資格も無い」
そう呟いて、俺は壁に寄りかかって呟いた。
「……俺は何を見ていたんだろうな。思い返せば旅行の時も、アイツが楽しそうにしてたのなんて見なかった。1日目なんて誰とも回ってなかったはずだ」
「確かに……ホテルに集まった時もいつの間にか現れて……」
きっと、部屋で勉強していたんだ。俺らが遊んでる間も、ずっと、ずっと……
クラスメイトのそんな異変にも気づかないで……ほんと……何やっていたんだろうな……俺……
「悪いなシルヴィア……編入してきたのがこんな時でさ……」
「ん……だいじょーぶ……全部終わってから……皆と仲良くなるから……」
全部終わってから、それはどうなった時だろうか。
竹林が戻ってから?それとも、時が過ぎてE組から、竹林孝太郎という存在が消えてからだろうか。
竹林が去り、ただそこには重苦しさだけが漂っていたのだった。
さて、再登場しました!シルヴィアちゃんです!
……はい、そんな雰囲気ではありませんね。
親の呪縛というのは、書いた通り多かれ少なかれあると思います。特に、E組制度の中ではそれは色濃く出るのだと思いますね。
あと、下ネタはスミマセンデシタ。これもきっとおそ松さんの影響だと(殴………はーい、自粛します。
アレは初めて見た時は驚きました。ああいうネタも好きですけどねw
シルヴィアの紹介などはひと段落ついてからという事で。