Admiral of Roughneck~From black to white~   作:八意 颯人

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第100話「柏木救助作戦 後編」

ドイツの現地時間 0730 ベルリン州の高速道路(アウトバーン)を走行している救急車の車内にて……

 

柏木死亡(タイムリミット)まで残り『90分』……

 

今、高速道路(アウトバーン)に乗ったわよ!そのまま上城病院に向かうよ!!

 

「……漸くか」

 

「ええ……」

 

ん?どうしたの?何かあったの?

 

オクは相当切羽詰まっているのか声を荒げ、焦りながら後部座席で柏木を手術している勇人と永琳にロシア語で報告すると勇人と永琳はオクの運転技術の低さに少し怒りながら不満を溢した。

 

何かあったの……じゃねぇよ!!テメェ、高速道路(アウトバーン)に乗るまでに何回ぶつけているんだ!!これでもアイツの専属メイドか!!このままだと病院に着く前に廃車になっているぞ!!柏木だけでは無く俺達を殺す気か!!

 

「……『咲夜』か『佐世保(勇人)の方の赤城』を連れてくれば良かったわ。これは酷過ぎるわ……」

 

勇人と永琳は高速道路に乗るまでにオクが道中ぶつけまくったせいで勇人の愛車と同じく『廃車寸前になった痛々しい姿になった救急車』を見て怒鳴り散らすとオクは二人の言葉に反論(逆ギレ)するかの様に怒鳴り返した。

 

し……仕方無いじゃない!!私だって()()()にして漸く免許取ったんだし……多少のミス位、目を瞑って!!

 

「「ペーパードライバーかよ!?しかも四回も落ちたのか!?」」

 

「……後、悪報を『もう1つ』……今、()()()()()()()()()()

 

「「え!?マジで………」」

 

勇人と永琳はオクのカミングアウトと悪報を聞き、二人はガラス越しではあるが、恐る恐る後ろを見ると……

 

警察だ!!其処の救急車!!今すぐ止まれ!!

 

止まらないと強行手段に移るぞ!!

 

我がドイツ車の性能は世界一ィィィ!これに勝る物はないイイィ!!!

 

「「…………」」

 

其所には『けたたましい警告音(サイレン)』を鳴り響かせた『白のポルシェ911』に『白のAudi アヴァンド』そして『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』こと『ランボルギーニ・カヤルド polizei』が勇人達が乗っている救急車を煽っていたのだ。

 

勇人と永琳は後ろで煽っているポルシェとランボルギーニを見て顔面蒼白になり、永琳は声を震わせ、物凄く狼狽えながら勇人に言った。

 

「は……ははは……勇人、あれ……ど……どどど……どう見ても……勝ち目無いよね。『車の性能的』にも『ドライバーの技量的』にも……」

 

「チッ……仕方無ぇ、妹紅達に連絡してみるわ」

 

勇人は自身の車を回収し終えているであろう妹紅に電話をすると通話相手である妹紅が勇人の電話に出て、何か『後ろめたい気持ち』があるのか挙動不審になりながら応答した。

 

「ど……どどど……どうしたんだ勇人?私にな……何か……」

 

「ああ。実は今、警察に追われているから回収した俺の車を使って警察を撒きたいんだが……高速道路(アウトバーン)に持ってきてくれないか?」

 

勇人は簡潔に、そして冷静に今の状況を説明し、自身の車で警察を撒きたい主旨を伝えると妹紅は自身の『後ろめたい気持ち』になった原因である『勇人の車を廃車にした事』を詫びる様に申し訳無さそうに謝罪した。

 

「ご……ごめん勇人!実は……あの車を回収に行ってた鈴仙が『廃車』にしてしまって……今、にとりの所で『大規模修理中』なんだ」

 

「………スマン妹紅。今『車が廃車になって幻想郷(にとりの所)で直している』と聞こえたが……俺の聞き間違いか?」

 

勇人は妹紅の謝罪に余程ショックだったのか、一時的に思考が停止したものの再度、聞き返すと妹紅は近くに居た鈴仙と輝夜と共に相当申し訳無い気持ちで一杯なのか、そのまま土下座をするかの勢いで再度、勇人に謝罪した。

 

「ご………ごめんなさい!!聞き間違いでは無く、ガチで廃車になりました!!」

 

「ご………ごめんなさぁぁぁぁい!!私のせいでぇぇぇぇ!!師匠だけには言わないで下さぁぁぁぁい!!」

 

「本当に申し訳無い事をしたわ……あの高級車を廃車にして……」

 

「………泣けるぜ。後、鈴仙……既に手遅れだぞ」

 

勇人は三人の善意のある謝罪に怒る気力が無くなると共に鈴仙に一言だけ伝えると隣で聞いていた永琳は鈴仙達に説教をしたい気持ちを押さえているのか、ドスの効いた低い声を発しながら言った。

 

「……鈴仙、勇人の車の修理代は貴女の『毎月の給料』から引いておくわ。そして姫様に妹紅、今後『FG〇(スマホゲーム)の課金』を『禁止』します。分かったわね?」

 

「ッ!?い………yes ma'am!!」

 

「yes sir!!」

 

「え!?ちょ……私だけ重くないですか!?ってか師匠が居るのなら教えて下さいよ勇人さん!!」

 

輝夜と妹紅は電話越しではあるが永琳の殺気(怒り)に触れ、声を震わせながら永琳の罰を了承し、鈴仙は永琳の罰に不服なのか、勇人に八つ当たりをするかの様に怒鳴ると永琳は鈴仙の不服に激怒しながら反論した。

 

「当たり前じゃない!!!根本的に言えば貴女が『勇人の車(ランボルギーニ)』を壊したんでしょ!!只でさえ永遠亭(ウチ)は二人の『3桁を行く程(100万以上)の重課金』のせいで『火の車(大赤字)』なのに、追い討ちを掛ける様な真似をして……それを遣り繰りしている私の身にも、なって欲しいわ!!!」

 

「ウグッ!?そ……そう言われると……反論出来ません」

 

「「………本当に、ごめんなさい」」

 

永琳は火の車と化した家計を遣り繰りしている苦労と不満をぶつける様に三人に反論すると勇人は暴走している永琳を窘める様に優しく言った。

 

「……先生、今は……」

 

「……そうだったわね。じゃ、チャッチャッと治療(手術)しますかね……勇人、隙間経由でセボフレン(全身麻酔)投与」

 

「……隙間解放、セボフレン(麻酔)投与」

 

永琳は自身の家族のせいで勇人の車を廃車にした事による罪悪感を募らせながらも電話を切り、気持ちを入れ替える様に一呼吸をし、手術を始めた。

 

「……身体検査(バイタルチェック)、異常無し」

 

「……分かったわ。メスと開口器を……」

 

永琳は勇人に命令しながらも撃たれた右肩の傷口を広げる様にメスを入れ、開口器を使って血管や破損した筋繊維を掻き分けて行くと『何かの薬品が凝固している黒い粒子が備えられている弾丸』を見付け、その弾丸を再確認するかの様に軍兵器に詳しい勇人に聞いた。

 

「……見付けたわ勇人。例の『弾丸(AAF弾)』よ」

 

「ああ。だが摘出は俺がやる……弾丸に備えられている粒子には『枯葉材(TCDD)』と『エボラウィルス』そして今、流行している『例のウィルス(新型コ〇ナウィルス)』が混合した『BOW(生物兵器)』が入っているから医療だけでは無く兵器関係の専門家じゃないと摘出出来ない弾丸だ。しかし、この粒子が破裂して柏木に感染しなくて良かったぜ……でないとベルリン……いやドイツ全土が大規模感染(パンデミック)が起きるからな」

 

「……一番考えたく無い結末ね。なら御願いするわ」

 

「分かった」

 

永琳は勇人の説明を聞き、自身が言った『一番考えたく無いの結末』の内容が『某ゾンビゲーム(バイオ〇ザード)』の『街並み(ラ〇ーンシティ)』を想像したのか、少し安堵しながら助手に回っていた勇人に変わると、勇人は隙間からピンセットを取り出し、慎重に弾丸を左に回しながら摘出し始めた。

 

だが、此処で問題が起きたのだ。

 

何故なら………

 

「ッ!?……ぬ………抜けねぇ……何でだ……坐骨に刺さって無ぇのに……」

 

……AAF弾が何かしらの原因で摘出出来ない状態に陥ったのだ。

 

永琳は勇人の呟きを聞いて、少し動揺しながら傷口を確認しに覗いた。

 

「……え?ちょっと見せて……ッ!?成程……これがレミリアが言っていた『時限爆弾の正体』だった訳ね……」

 

「……何か分かったのか?」

 

永琳は傷口を見て、少し動揺ながらも『弾丸が摘出出来ない原因』を判明し、少し苛ついている勇人に簡潔に説明した。

 

その『原因』とは……

 

「……凄く簡単な理由よ。彼の身体が自己修復を始めているわ。しかも相当『速い速度』で……」

 

「チッ……そう言えばコイツの自然治癒力も俺と同じ高い治癒力を持っている事を忘れてた……なら……」

 

……凄まじい速度で破損した筋繊維や毛細血管等が再生し始め、それが原因で弾丸を粒子ごと押し潰すかの様に圧迫し始めたのだ。

 

つまり勇人と同じ身体を持つ『柏木の()()()()()()()()()』が『AAF弾(生物兵器)を起爆させる為のスイッチ』として化けていたのだ。

 

勇人は完全に失念しながらも『ある事』を行う為に永琳に真剣な表情になりながら言った。

 

「……先生、今から『止める』から俺に触れて下さい」

 

「分かったわ。ちょっと失礼するわ……」

 

永琳は勇人の命令を微笑みながら承諾し、彼女が装着している手術用のゴム手袋には血が付いている為、必然的に身体を勇人に預けるかの様に密着し、寄り添う形に触れると勇人は永琳の行動に同じ医者として納得しつつも、永琳の魅力的な美貌と女性らしい魅惑的な身体に男性として少し照れているのか、それを表す様に赤面し、苦笑しながら発言した。

 

そう、勇人が発言した『止める』と言うのは………

 

「はい。触れたわよ……さっさと止めて頂戴」

 

「そこまでガッツリと密着しなくても………まぁ良い、本日『二回目の()()()()』だ……スペルカード!幻影『白金星の世界(スタープラチナ・ザ・ワールド)』!!」

 

……『二人以外の()()()()()()()()()()』だったのだ。

 

勇人は自身の能力の『発動呪文』である『スペルカード』を高々に宣言すると景色や高速道路(アウトバーン)を走行中の車両等、二人以外の『全て』が()()()()()()()()()()()()()()()()と永琳は能力を発動させた勇人から離れ、先程の密着行為が恥ずかしかったのか赤面しながら言った。

 

「……これで自己再生(時限爆弾)が止まったわ。さぁ、再開するわよ………」

 

「ああ……鋏型ピンセット(ケリー)を……」

 

勇人は気合いを入れ直すかの様に真剣な表情になりながら柏木の身体に埋め込まれている弾丸(AAF弾)を左に回しながら摘出し始めた。

 

そして、時間を止めた事が功を成したのか……

 

「……フン!!」

 

グチャッ……

 

カラン……

 

……長時間、空気に触れたせいで粘り気が増した血液が付着したものの無事、1つ目の弾丸(AAF弾)の摘出が成功したのだ。

 

勇人は慎重に、そして粒子に触れない様に摘出した弾丸(AAF弾)を受け皿が入った密封式の袋に入れ、右肩の傷口を素早く縫合しに取り掛かると永琳は相当集中していたのか、冷や汗を流している勇人の額をハンカチで拭き取りながら優しく言った。

 

「……漸く1つ目が摘出出来たわね」

 

「……本当に『漸く』だな。『2つ目』と『3つ目』は『腹部』に……そして『最後』は……」

 

「『胸部』ね。それじゃ私は腹部を行うから胸部の所を御願いね」

 

「……ああ。頼む……ッ!?」

 

永琳は先程の摘出手順を覚え、勇人に命令すると勇人は右肩の縫合を終え、『一番難所』である胸部に埋め込まれている弾丸(AAF弾)の摘出作業に取り掛かった。

 

そして勇人は胸部に撃たれている弾丸(AAF弾)には備え付けられた粒子の一部が流出され『とある臓器』に注入するかの様に刺さっており、先程以上の危機感を募らせたのか少し顔を強張せながら鋏型ピンセットこと『ケリー』を使って摘出作業を行った。

 

何故なら……

 

(………弾丸(AAF弾)が肋骨を貫通し、肺まで達してやがる。しかも粒子が流出している……仕方無い!術後、暫くの間『不整脈』が起き『息苦しくなる』が恨むなよ柏木……)

 

……その『とある臓器』の正体である『肺の一部』が亀裂が入った粒子の成分に浸食され、その弾丸(AAF弾)が粒子の成分を注入するかの様に刺さっており、弾丸(AAF弾)のみの摘出が不可能になっていたのだ。

 

勇人は柏木の超人的な自然治癒力に全てを賭けるかの様に『とある摘出方法』を利用して『鋏型ピンセット(ケリー)』から『電気ケーブルが備え付けられた特殊なメス』こと『電気メス』に持ち変え、柏木の肺に向け、電気メスを入れた。

 

その方法とは……

 

(………弾丸(AAF弾)を浸食された肺の一部と共に切除する『楔状切除(けつじょうせつじょ)』で除去するしか方法が無い!!)

 

……そう勇人は肺癌の手術に用いられている肺切除術『楔状切除』という方法を使い、弾丸(AAF弾)を摘出しようとしたのだ。

 

読書の皆様にも分かり易く説明するが『楔状切除』と言うのは『肺癌』の手術に最も用いられている手法であり、切除方法は文字通り、肺の外側の『ほんの一部』を()()()()()()()()()為の肺切除術である。

 

勇人は肺癌の手術を応用し、浸食された肺胞と弾丸(AAF弾)を除去しに電気メスを入れると電気メス特有の高周波電流による高熱が発生し、何かを燃やした様な不快な匂いと共に煙が舞い、それと同時に高熱によって『正常な肺胞』と『汚染された肺胞』との境目を斬りながら電流メスの高熱による『正常な肺胞の切創部(切り傷)』を溶接の様に塞ぎながら除去施術を行うと、先に摘出が終わった永琳が心配そうに勇人に言った。

 

「……ソッチは相当ヤバい事になっていたわね……大丈夫?」

 

「正直言って『止めれる時間(活動時間)』を越えているから持って『10秒』だ……永琳、急いで別の袋を準備してくれないか?」

 

「ッ!?分かったわ!!」

 

勇人は短期間で『2つ以上の能力を乱用した事』による『精神疲労』が発生し、それが原因で超人的な精神力を持った勇人でさえ集中力が低下し、視界がぼやけ、辛そうに命令し、自身の疲労を抗う様に自前の根性で施術し続け、そして……

 

「……よし。取れた……永琳!!」

 

「はい!!」

 

ポトッ……

 

……無事、摘出する事に成功したのだ。

 

そして………

 

「縫合と『艤装展開防止装置』の起動は任せる……………()()()()()………()()()()………スペルカード……凍符『完全凍結(パーフェクト・フリーズ)』……現時刻を以て手術(オペ)終了っと……」

 

……疲労困憊になりながら『後始末(縫合処置)』を永琳に任せると共に時間停止を解除し、先程摘出した『汚染された肺胞が着いた弾丸(AAF弾丸)』を瞬間凍結させ、凍結させた弾丸(AAF弾)を永琳が先程、準備した袋に入れ、空気が漏れない様に密封したのだ。

 

永琳は後始末(縫合処置)をしながら勇人を労った。

 

「お疲れ様、後は休んでて……」

 

「……ああ」

 

勇人は永琳の労いの言葉を素直に受け入れ、備え付けられた椅子に深々と座ると運転中のオクが疲れきった勇人に渇を入れる様に怒鳴った。

 

()()()に何、一服してんのよボンクラ御曹司!!!それに私達、警察に追われているのよ!!!何とかしなさいよ!!!

 

オクは『勇人が手術中に一服している事』と勝手に思い込み、警察に追われている状態と合わさって切羽詰まった口調で言うと、勇人は疲労困憊になりながら、オクに安心感を与える様に優しく報告した。

 

何故ならば……

 

「……安心しろ。もう『()()()()()()()』それに()()()()()()()から焦らんで良いぞ

 

はぁ?()()()()()()()?それ、どういう………ッ!?パトカーが路上で()()()()()()()!?一体、何が起きたのよ!?説明して頂戴!!

 

……先程まで追跡していた3台の警察車両がボンネットから煙を出し、路上に停車していたのだ。

 

オクはバックモニターとミラー越しではあるが『3台が原因不明の故障により停車している事』と『既に手術が完了している事』に先程まで切羽詰まった状態による不安感が拍車が掛かる様に混乱しながら言うと、永琳は後始末(縫合処置)を終え、柏木の上半身を『高速修復材を染み込ませたガーゼと包帯』を使って巻きながら優しく微笑みながらオクの質問を冗談混じりで答えた。

 

さぁね♪日頃の行いが良かったんじゃない?……勇人、休んでいる所を悪いが艤装展開防止装置を起動させてくれない?艤装(きかい)に関しては専門外だから………」

 

「はいよ……よしっ!起動完了っと……まぁ、そういう訳だ

 

いやいや、そんな『神頼み(運任せ)』で解決する様なトラブルじゃないでしょ!!私にもカラクリを教えなさいよ!!先程の『密着の件』やら『変な空間から医療器具が出てきた事』全てを!!

 

オクは相当腑に落ちなかったのか、バックミラー越しで一部始終を見ていた為、その一部始終の出来事について物凄く強い口調で問い質すと二人は微笑みながら答えた。

 

それに関しては()()()()()()()()だから運転に集中しろ

 

()()()()()()()()()()()だから気にしないで♪

 

「……日本の特別防衛機密(例のアレ)』ね。なら触れないでおくわ。私だって命が欲しいし……取り敢えず、そのまま病院に向かうわ

 

賢明な判断だな。んじゃ頼むわ……後、八意先生『コレ』を……」

 

オクは二人が遠回しではあるが、先程の行為が『特別防衛機密』に触れる事を察し、問い質すのを諦めたかの様に覇気の無い溜め息を吐きながら答え、運転に集中すると勇人はオクに聞かれない様に小声で懐から『ケースに入れてあるCD』を取り出し、それを永琳に渡した。

 

「ん?何これ?」

 

「CDだ」

 

「それ位、分かっているわよ!!CDの『中身(データ)』を聞いているの!!こんな時にボケないで!!んで中身は?」

 

永琳は勇人の返答(ボケ)一喝(ツッコミ)をしつつも再度、CDの中身(データ)について聞くと、勇人は勝ち誇った笑みを溢しながら『CDの中身(データ)』を答えた。

 

「『平行世界の紫の能力』が入っている」

 

「……え?ちょっと待って………それって確か『陰の世界』に『宣戦布告』を出した時に彼方の紫から()()()()()()()()()()()()()()……あのCDよね?まさかだと思うが、それを彼に?」

 

永琳は勇人からデータの内容を聞いて数日前、永琳自身は関わって無いが舞鶴で起きた『もう1つの厄介事』である『アズールレーンの世界』と『この世界の平行世界』である『陰の世界』で起きた『平行世界の勇人を救助』と『護衛』そして『陰の世界の住人達に対する宣戦布告事案』こと『重桜護衛作戦』を思い出し、その『戦利品の1つ』である『CD』と『勇人の考え』を察し、物凄く嫌な予感を募らせながら聞くと、勇人は微笑みながら肯定した。

 

「そう。コレをアイツの『艤装』の『代用品(代わり)』として与えるつもりだ。勿論、柏木に合わせて調整(チューニング)はしてある」

 

「……大丈夫なの?調整(チューニング)を施したとは言え、あの『紫の能力』よ?精神に対する負荷(ストレス)が相当大きいわよ」

 

永琳は平行世界とは言え『紫の能力』である『転移能力』こと『隙間』の強過ぎる能力(ちから)が柏木の精神を蝕む事を懸念していると勇人は永琳の心配事を払拭するかの様に微笑みながら答えた。

 

「それなら『検証済』だ。同じ物を複製したCDを優花にあげたが、何とも無かったぞ」

 

「貴方ねぇ……自分の部下を実験台(ラット)にするなんて……貴方イカれているわ」

 

永琳は彼の部下である優花に『実験台』として検証した勇人に対して汚物を見る様な殺気ある強い眼差しをし、落胆した低い声を出しながら軽蔑すると勇人は永琳の誤解を解く為に苦笑しながら『実験台についての経緯』を簡潔に弁解した。

 

「一応言っておくが、その『案』は優花(アイツ)が『発案』したんだ。しかも発案理由が『あのチート能力が複製出来るんなら複製品でも良いから私に頂戴!!早苗ちゃんには負けたくないから!!』と『私欲』と『早苗に対する嫉妬心』丸出しの『犬も食わない下らない理由』で俺の反対を押し切り、自ら施術を施したんだ……しかも、その『強い欲望』のせいなのか紫の能力を()()()()()()()()()()()からな……俺でもさえ自身の能力を手懐けるのに四苦八苦していたのに……泣けるぜ」

 

「……同情するわ勇人。そして先程は疑ってしまってゴメンね……検証が済んだ経緯(りゆう)が分かったから始めましょ」

 

永琳は毒が入った勇人の弁解(経緯)を聞き、『発案理由が下らな過ぎる事による呆気』と『勇人に対する同情(労い)』をしつつも肩にポンと手を添えながら先程の誤解を詫びると勇人は苦笑しながら柏木の上半身を起こし、永琳に指示を出した。

 

「そうだな。それじゃCDを柏木の頭に入れてくれ」

 

「分かったわ。彼が暴れない様にしっかり押さえてね」

 

勇人は柏木の身体を固定する様に押さえると永琳はCDケースからCDを取り出し、それを柏木の頭に恐る恐る近付けるとCDは柏木の頭の中に入る様に消え、永琳は『柏木の身体に何も起きなかった事による安堵感』と『初めて他人に能力を与える施術をした事によるプレッシャーからの解放感』そして『物凄く簡単な施術で能力を授けた事による確認が出来ない疑心感』が一気に込み上がり、その現実を再確認するかの様に恐る恐る勇人に聞いた。

 

「こ……これで良かったの?物凄くアッサリと終わったんだが……」

 

「それで良い。後は……目覚めるのを待つだけだ。そしてオク……」

 

何よボンクラ?

 

勇人は不安になっている永琳を窘める様に優しく答え、柏木の手術そして能力付加施術が完全に終了した事により多少、気持ちに余裕が生まれ、何時ものチンピラ染みた口の悪い口調に戻り、運試中のオクに優しく言った。

 

「………ありがとう。お前のお陰で柏木を治す事が出来た。後、医者に"柏木を至急『高速修復材が入った浴槽』に浸けてくれ"と伝えてくれないか?俺達は帰国するから……」

 

勇人は柏木を助ける為とは言え自身の無茶振りに答えてくれたオクに礼を言うとオクは勇人の御礼に戸惑い、気味の悪い寒気を感じ取り、狼狽えながら答えた。

 

………アンタが私に()()()()()()()()………何か嫌な事が起きそうで怖いわ……それに今の言い方だと『故郷に婚約者を待たせている一般兵士の最後の言葉』を言っている様に聞こえるわ

 

オクは勇人の御礼に物凄く縁起の悪い喩えで勇人に答えると勇人と永琳はオクの喩えに苦笑しながら答えた。

 

「……んな訳無ぇだろ。俺には婚約者ところか『御相手(カノジョ)』すら居ねぇし、身体の頑丈さに自信があるから、そんな『死亡フラグ』は立たねぇよ。んじゃ、後は頼んだ

 

そうよ。何せ、勇人の『生命力』はゴキブリの様に『しぶとい男』だから問題無いわ。それじゃ……」

 

二人は柏木の事をオクに任せ、さりげに二人の足元に展開していた隙間に飛び込む様に入るとオクは『勇人の言葉(手術結果)』に感極まったのか目に涙を潤わせ、声を震わせながら呟いた。

 

バカ………御礼を言いたいのは私の方よ。本当にありがとう『ボンクラ御曹司』………いえ……元『御主人様』……」

 

オクは自身の前職が『上城財閥』の『メイドの一人』しかも勇人の『元 専属メイド長』だった為、勇人の事を『御主人様』と呼びながら只、勇人の義侠心によって救われた事にひたすら感謝しながら柏木を上城病院に向かい、到着後は医師に勇人の伝言を伝え、それを処方したお陰で………

 

 

 

 

翌日、上城病院の特別病室にて……

 

 

「う……う~ん……ん?此処どこ?俺は確か撃たれて……それに撃たれた所が治っている!?ま……まさか勇人が……」

 

は………疾風!!大丈夫!?何処か痛い所ある?

 

ッ!?イテテテ!!傷口に染みるから抱き着くな!!早く離れろ!ソッチの方が痛ぇよ!!

 

あっ………ゴメン………

 

………何事も無かったかの様に病室のベットから起き上がり、何時もの『微笑ましいやり取り』で目覚めたのは言うまでも無かった。

 

 

そして『一つ目の厄介事』が終わったのと同時に『勇人にとって人生最悪の厄介事』こと『佐世保鎮守府創設以来の大問題』という『時限爆弾』が刻一刻と刻み始めて行った。

 


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