此処には嘗て、全てが統治され、平等な世界があった。
人々は生を受け、教育を受け成長し、大人になり結婚する。そして子を成し、家族と共に生き、生を全うする。
誰もが思い浮かべる平凡且つ理想的な生活。その生活がある者により保障され確立している世界があった。そこは誰しもが同じ生活をしている。同じ時間に起き、同じ時間に飯を食べ、同じ時間仕事をし、同じ時間に家に帰り、同じ時間に寝る。その繰り返し。
優劣の無い世界。男は皆、同じ顔。女は皆、同じ顔。誰も疑問に思わない。否、思うことすら出来ない。
平等な世界には顔の優劣はいらない。余計な思考など要らない。欲など無い方が良い。持っている物、子の数も同じ。そして、皆が同じ宗教を信仰する。
全てが平等。『個』という概念を無くした世界。それこそが皆平等に生きる事の出来る世界。
それを体現した者がいた。その者が世界を統治し、あらゆる物を支配した。人々は支配されている事さえ気付かない。
しかしどの事象にもイレギュラーというものは存在する。それは平等な世界には不必要な存在。それを排除するのも統治者の役目だった。
だが、長く、永遠に続くはずだったこの世界はたった1人のイレギュラーな存在を見逃してしまったが故にこの世界に亀裂が走った。
その亀裂は徐々に大きく、修復が困難な程にまで大きくなっていった。そして、平等なる世界はイレギュラーとその者が率いる者達により崩壊し、幾年、幾百年も続いた平等は崩れ去り、新たに『自由』というものが世界に満ちた。
イレギュラーが平等なる世界の統治者と対面した時、憎しみより先に困惑の方が大きかった。その統治者は見た目はまだ15にも満たないだろう少女だったからだ。それでも、この世界に終止符を打つ為にその少女へ刃を振り下ろした。少女は終止微笑みながら何も抵抗する事無く、最後に小さく呟いた。
「兄様……また……ね。」
と。少女は遺体も残さず、灰となり消えた。後ろでは仲間達が歓声を上げている。しかし、イレギュラーは喜びもせず、只々少女の座っていた椅子を見つめ、少女の最後の言葉が脳裏から離れなかった。
とある世界。
白銀の城の中にある王の間と呼ばれる部屋に鎮座する椅子に紺のジーパンに灰色のパーカー、首にネックレスを付けた少年が座っている。まだ幼さが残るその顔はカッコいいというより美しいというべきか。豪華な装飾のされた椅子に似合わない格好だが、少年は気にもしないし、注意する者もいない。少年が本を読んでいるとふと思い出した。
「…………。」
少年は本を閉じ溜息を吐く。頬には一筋の涙が流れる。
「未だに信じられないな。妹を殺す程の者が、あの世界にいるとはな。」
流れる涙を拭うこともせず、少年は正面を見て独り言を言う。
「やはり近くに居てやるべきだったか。敵う者などいないと思っていたが、それは唯の慢心か。」
少年は目を閉じる。脳裏に浮かぶのは1人の少女。微笑む笑顔が美しい、愛しき妹。
「大丈夫だ。私がいる限り、君は消えない。」
少年は目を開け、本を近くの机に置き立ち上がる。部屋を出て、真紅の絨毯が敷かれている廊下を横切りベランダへ出る。眼下に広がる城下町。働く人々の声が此処まで聞こえてくる。
そこに突然、響き渡るような鐘の音が鳴る。それを聞いた人々の動きが一瞬止まる。そして人々が一斉に動き始める。誰もが他の事を何もせず、家へ帰って行く。そして町は静寂に包まれる。今まで聞こえていた人々の声が嘘だったかの様に聞こえなくなった。
全ての人が、同じ時間に家へ帰っていった。
この世界は全ての人が同じ時間を過ごしている。まるで平等なる世界の様に。ただ、違う点が幾つかある。先程のように町は活気が溢れ、商人の声やそれを買うもの、子供の活発な姿が町には溢れていた。
笑い声が聞こえていた。楽しそうに話をしていた。1人1人が『個』を持っている。しかし、鐘の音が聞こえると、突如自分のしていた事を辞め、家に帰るという事のみを行った。その皆の目は虚ろで濁っていた。まるで催眠にでも掛かったかの様に。
「ああ、内気なる妹よ。必ずやまた再開しよう。」
少年は町を見下ろし呟く。
「……ん?」
と、空から降って来る物が少年の視界に入り、見上げる。それを掴み確認すると、それは手紙だった。
「ほう。この世界でこんな物を見るとは。」
少年は期待に満ちた顔で手紙を眺める。封を開け、手紙を読む。
『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。
その才能を試すことを望むのならば、
己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、
我らの”箱庭”に来られたし』
「ふむ。別に悩んでも無いし望んでも無いのだが。」
少年は手紙の最後、”箱庭”という部分に目がいく。
「またあの世界にか。」
目を閉じる。数秒して目を開けると、体が宙に投げ出されていた。
「会うのが意外にも早いかもね。我が愛しき妹よ。」
眼下に広がる異世界を見て、心が高鳴るのを止める事は出来なかった。内気なる妹、全てを閉鎖してしまう愛しき妹を思いながら。
取り敢えず書いてみた。