人類を愛し、人類が求める魔王   作:聖:

2 / 4
第1話

水柱が上がる。

それを横目に少年はゆっくりと地面に降り立つ。近くに隠れている者の気配がするが、獣の類だと思い目を湖に向ける。湖から少年と少女が2人、1人の少女に抱かれた猫が上がってくる。

「信じられないわ!まさか問答無用で引き摺りこんだ挙句、空に放り出すなんて!」

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ。」

「………。いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」

「俺は問題ない。」

「そう。身勝手ね。」

少年と少女はフンと鼻を鳴らして服の端を絞る。

「此処……何処だろう?」

「さあな。まあ、世界の果てっぽいのものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねえか?」

猫を抱えていた少女の呟きに少年が答える。

「まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前達にも変な変な手紙が?」

「そうだけど、まずは”オマエ”って呼び方を訂正して。私は久遠飛鳥よ。以後気をつけて。それで、そこで猫を抱きかかえている貴方は?」

「…………春日部耀。以下同文。」

「そう。よろしく春日部さん。で、野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」

「高圧的な自己紹介をありがとよ。みたまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様。」

「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君。」

「ハハ、マジかよ。今度作っておくから覚悟しとけ、お嬢様。」

そして、3人が此方を見る。

「それで、1人だけずぶ濡れを免れた貴方は?」

「私は………。」

一瞬、考える。妹に呼ばれる時は兄様。他の者に呼ばれる時は総称みたいなものだった。自分の名が無い。

「……悠斗。宜しく。久遠さん。」

「ええ、よろしくね。悠斗君。」

 

 

 

 

心からケラケラと笑う逆廻十六夜。

傲慢そうにそうに顔を背ける久遠飛鳥。

我関せず無関心を装う春日部耀。

彼らを物陰から見ていた、扇情的なミニスカートとガターソックスで包んだ美麗な足を持つ、黒ウサギは思う。

(うわぁ……なんか問題児ばかりみたいですねぇ……)

召喚しておいてアレだが……彼らが協力する姿は、客観的に想像出来そうにない。黒ウサギは陰鬱そうに重くため息を吐く。そして、

(あの方はどちら様で御座いましょうか?)

召喚したのは3人。しかし目の前には4人いる。紺のジーパンとパーカーを着た少年は十六夜ら3人を興味深そうに眺めている。

(ですが、降ってきたという事は何処のコミュニティにも参加されていないはず。私達の力になるギフトをお持ちなら、ついでにゲットしてしまうのですよ!)

黒ウサギは悪い顔をしながら算段を立てる。

 

 

 

十六夜は苛立たしげに言う。

「で、呼び出された事はいいけどなんで誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」

「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの。」

「……この状況に対して落ち着きすぎているのもどうかと思うけど。」

(全くです。)

黒ウサギはこっそりツッコミを入れた。

ふと十六夜がため息交じりに呟く。

「仕方がねえな。こうなったら、そこに隠れている奴にでも話を聞くか?」

物陰に隠れていた黒ウサギは心臓を掴まれたように飛び跳ねた。

3人の視線が黒ウサギに集まる。悠斗は何も言わず、3人を眺め続けている。

(この人間たち…良いものを持っているな。)

悠斗はそんな事を考えていると茂みから3人の殺気を籠めた視線を受けた黒ウサギが現れた。

「や、やだなあ皆さん。そんな怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは1つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいのでございますヨ?」

「断る。」

「却下。」

「お断りします。」

「……」

「あっは、取りつくシマもないですね♪」

バンザイと降参のポーズをとる黒ウサギ。しかしその眼は冷静に4人を値踏みしていた。

(肝っ玉は及第点。この状況でNOと言える勝ち気は買います。まあ、扱いにくいのは難点ですけども)

黒ウサギが考えを巡らせていると悠斗が近づく。

「君は…帝釈天の月の兎か?」

黒ウサギは驚愕で声を発せなかった。目を見開き悠斗を見る。

「ど、どうしてそれおぎゃ!?」

黒ウサギが悠斗を問い詰めようとしたその時、耀が黒ウサギのウサ耳を根っこから鷲掴みし力いっぱい引っ張った。

「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」

「好奇心の為せる業。」

「自由にも程があります!」

「へえ?このウサ耳って本物なのか?」

十六夜が片方を掴み引っ張る。

「……。じゃあ私も。」

「ちょ、ちょっと待っーーーー!」

飛鳥がもう片方を引っ張る。左右に力いっぱい引っ張られた黒ウサギは、言葉にならない悲鳴をあげ、その絶叫は近隣に木霊した。

悠斗は興味をなくしたかの様に黒ウサギ達から離れ、懐からどうしまっていたのか、本を取り出し読み始めた。

 

 

 

「あ、あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこの様な状況を言うに違いないのデス。」

「いいからさっさと進めろ。」

半ば本気の涙を瞳に浮かばせながらも、気を取り直して咳払いをし、両手を広げ、「それではいいですか皆さん。定例文で言いますよ?言いますよ?さあ、言います!ようこそ”箱庭の世界”へ!ーーーー」

黒ウサギが説明を話す中、悠斗は如何でも良さげに本を読む。黒ウサギに幾つか質問をする3人の声を聞き流しながら。

「ーーー悠斗さん!」

「ん?」

読むのに夢中になり過ぎて呼び掛けに気が付かなかった。

「説明は終わったのかい?」

「はいな♪基本的なことはさらっと、且つしっかりと説明しました!って、悠斗さん聞いてました!?」

「いや、本を読んでいて聞いていなかった。」

「そうですか。読書がお好きなのですね♪ーーって聞いてて下さいよ!!」

黒ウサギのテンポの良いノリツッコミに悠斗は感心する。

「大丈夫だ。ルールやらは理解している。」

「へ?やっぱり聞いていて下さったのですか?」

「いや、”見た”というのが正確だが、まあ、私は1度箱庭にいた事があるしね。」

「えぇ!?そうなのですか?」

黒ウサギが困惑する。悠斗は自分のコミュニティの状況を知っているのだろうか。十六夜達にはまだ話すことはできない。知っているのなら悠斗が話してしまうのでは、と黒ウサギが考えていると悠斗が心配ないと言う。

「ふふ。そう慌てなくても、私から何かいう事は無いよ。」

「そっそうですか。」

黒ウサギは安堵する。

「悠斗さんはどこかのコミュニティに所属しておられるのですか?」

「いや、私はどこにも所属していないよ。だから君達のコミュニティの話を聞かせてもらってから、入るか判断させてもらう。」

「分かりました!」

黒ウサギは頷き、1度皆の顔を見渡す。

「では、取り敢えず町まで私が案内するので付いてきて下さい!」

黒ウサギが歩き出したので4人はその後ろについていった。

 

 

 

 

「ジン坊ちゃーン!新しい方を連れてきましたよー!」

湖から街道に出て、少し歩くと箱庭の外門前にいるジンと呼ばれた小さな少年に黒ウサギが手を振る。

「お帰り、黒ウサギ。其方の御三方が?」

「はいな、こちらの4名の方々がーーーー。」

クルリ、と振り返る黒ウサギ。

カチン、と固まる黒ウサギ。

「……え、あれ?もう1人いませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から”俺問題児!”ってオーラを放っている殿方が。」

「ああ、十六夜君のこと?彼なら”ちょっと世界の果てを見てくるぜ!”と言って駆け出して行ったわ。」

「な、なんで止めてくれなかったんですか!」

「”止めてくれるなよ”と言われたもの。」

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

「”黒ウサギには言うなよ”と言われたから。」

「嘘です、絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう!」

「「うん」」

ガクリ、と前のめりに倒れそうになるが何とか堪え悠斗を見る。

「悠斗さん!なぜ止めてくれなかったのですか!」

「ん?十六夜のことか?まあ大丈夫だろう。」

黒ウサギの代わりに、ジンが蒼白になって叫んだ。

「そん悠長な!”世界の果て”付近には強力なギフトを持つ獣や幻獣がいます!出くわせば最後、とても人間では太刀打ち出来ません。」

「あら、それは残念。もう彼はゲームオーバー?」

「ゲーム参加前にゲームオーバー?……斬新?」

「冗談を言っている場合ではありません!」

ジンは必死に事の重大さを訴えるが、2人は叱られても肩を竦めるだけ。悠斗はジンを興味深そうに見ている。

「はあ、ジン坊っちゃん。申し訳ありませんが、御三方のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「わかった。黒ウサギは如何する?」

「問題児を捕まえに参ります。……とそれと…。」

黒ウサギはジンに耳打ちをする。

「そこにおります殿方、悠斗さんは如何やら1度箱庭に来た事があるらしいのです。」

「え!?…本当に?」

「はい。ですが如何やら何処にも所属しておられない様なので、私達の同士になってくれる様、説得をお願いします。」

「わ、わかった。」

黒ウサギはジンから離れ、艶のある黒い髪を淡い緋色に染め、

「一刻ほどで戻ります!皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能ございませ!」

全力で跳躍し、弾丸の様に飛び去った。

「で、では、コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。皆さんの名前は?」

「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えているのが。」

「春日部耀。」

「私は悠斗。よろしく。」

ジンが礼儀正しく自己紹介をする。飛鳥と耀、悠斗はそれに倣って一礼した。

「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ。」

飛鳥はジンの手を取ると、胸を踊らせるような笑顔で箱庭の外門をくぐるのだった。

 

 

 

外門をくぐり抜け箱庭の中へ、とはいったもののその中は太陽の光が降り注ぐ外と変わりなかった。飛鳥と耀が不思議そうに街並みを見ながら、”六本傷”の旗を掲げる店のカフェテラスに4人とも座る。

注文を取るために店の奥から素早く猫耳の少女が飛び出してきた。

「いらっしゃいませー。御注文はどうしますか?」

「えーと、紅茶を2つに緑茶1つと珈琲を1つ。あと軽食にコレとコレを。」

『ネコマンマを!』

「はーい。ティーセット3つに珈琲。それとネコマンマですね。」

耀が信じられないものを見るような眼で猫耳の店員に問いただす。

「三毛猫の言葉、分かるの?」

「そりゃ分かりますよー私は猫族なんですから。お歳のわりに随分と綺麗な毛並みの旦那さんですし、ちょっぴりサービスもさせてもらいますよー。」

『ねーちゃんも可愛い猫耳に鍵尻尾やな。今度機会があったら甘噛みしに行くわ。』

「やだもーお客さんったらお上手なんだから♪」

猫耳娘は長い鍵尻尾を揺らしながら店内に戻る。

「……箱庭って凄いね、三毛猫。私以外に三毛猫の言葉が分かる人がいたよ。」

『来てよかったなお嬢。』

「ちょ、ちょっと待って。貴女もしかして猫と会話出来るの?」

飛鳥の動揺した声に、耀が頷く。悠斗はジッと三毛猫を見る。

『なんや?にいちゃん。にいちゃんの面に肉球の痕つけたろか?』

「ふふ。それは勘弁して欲しいね」

『なら何か用か?』

「いや、方言を喋る猫は初めて見たものでね。気に障ったのなら謝ろう。」

『そうやったか。なら……ん?』

三毛猫が首を傾げる。そして耀がまた、驚いた顔でこちらを見る。

「……貴方も猫と喋れるの?」

悠斗が頷く。

「そう……2人とも素敵な力があるのね。羨ましいわ。」

笑いかけられ、困ったように頭を掻く耀。

「久遠さんは…」

「飛鳥でいいわ。よろしくね春日部さん。」

「う、うん。飛鳥はどんな力を持ってるの?」

「私?私の力は……まあ、酷いものよ。だって…」

「おんやぁ?誰かと思えば東区画の最底辺コミュ”名無しの権兵衛”のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はお守り役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」

品の無い上品ぶった声がジンを呼ぶ。振り返ると、2mを超える巨体をピチピチのタキシードで包む変な男がいた。

「僕らのコミュニティは”ノーネーム”です。”フォレス・ガロ”のガルド=ガスパー。」

「黙れ、この名無しめ。聞けばーーーーー」

悠斗はガルドを一瞥すると興味が無いと本を出し読み始める。飛鳥と耀がガルドから”ノーネーム”の現状を聞いているが、悠斗はどうでもいい。

「そ、そちらの少年は?」

ガルドが顔を引きつらせながら聞いてくる。本を読みながら聞き流していたが、どうやらコミュニティに誘っているようだ。

「いや、いい。」

「な、なぜ?」

「……ワータイガー如きがリーダーのコミュニティに入る位なら”ノーネーム”でいい。」

ガルドの額に青筋が浮かぶ。そして飛鳥が入らない理由を説明し、それに反論しようとしたガルドに黙れと命令する。するとガルドの口が勢いよく閉じる。悠斗は飛鳥を見る。

そこからガルドは飛鳥の質問に強制的に答えさせられているが悠斗はそんな事は如何でもよかった。ただ飛鳥を興味深く見る。

(ふむ。これは…命令?いや、強制的に従わせているのか。)

ガルドの卑劣な行いを聞いて、飛鳥は俗物でも見るかのような冷ややかな視線を飛ばす。

「こ……この小娘がァァァァ!!」

飛鳥の支配から解かれたガルドは雄叫びと共に体を激変させた。巨軀を包むタキシードは膨張する広背筋で弾け飛び、体毛は変色して黒と黄色のストライプ模様が浮かび上がる。

「テメェ、どういうつもりか知らねえが、俺の上に誰が居るかわかってんだろうなァ!?箱庭第六六六外門を守る魔王が俺の後見人だぞ!!俺に喧嘩を売るってことはそのーーー」

「煩い。」

悠斗は、怒りのまま飛鳥へ襲いかかろうとしていたガルドの首を掴み、地面に叩きつける。

「ワータイガー風情が喚くな。それに虎が虎の威を借る狐をしてどうする。」

「…が…ぐぁ…。」

ガルドは悠斗の力になす術もなく地面に叩きつけられている。見ていた者達が呆然とその様子を見ている。悠斗の動きを誰も追えなかった。気が付いたらガルドが地面に抱きついていた。気を取り直した飛鳥は笑みを浮かべながら言う。

「さて、ガルドさん。私は貴方の上に誰が居ようと気にしません。それはきっとジン君も同じでしょう。だって彼の最終目標は、コミュニティを潰した”打倒魔王”だもの。」

「……はい。僕たちの最終目標は、魔王を倒して誇りと仲間達を取り戻すこと。今さらそんな脅しには屈しません。」

「そういうこと。つまり貴方には破滅以外のどんな道も残されていないのよ。」

「く……くそ……。」

飛鳥が足先でガルドの顎を持ち上げると悪戯っぽい笑顔で話を切り出す。

「だけどね。私は貴方のコミュニティが瓦解する程度の事では満足できないの。貴方のような外道はズタボロになって己の罪を後悔しながら罰せられるべきよ。そこで皆に提案なのだけど。」

飛鳥の言葉に顔を見合わせ首を傾げる。

「私達と『ギフトゲーム』をしましょう。貴方の”フォレス・ガロ”存続と”ノーネーム”の誇りと魂を賭けて、ね。」

 




プロローグだけじゃ寂しいので続けて投稿しました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。