「白。どうやら春日部さんが勝ったようだよ。」
悠斗は白夜叉の肩を叩き、黒ウサギ達の下へ歩き出す。白夜叉は悠斗の言葉を一度吞み込み、悠斗の後ろを歩く。
『見事。お前が得たギフトは、私に勝利した証しとして使って欲しい。』
「うん。大事にする。」
耀とグリフォンが話している。白夜叉が拍手をしながら近づいてくる。
「いやはや大したものだ。このゲームはおんしの勝利だの。」
「……見てた?」
耀がジト目で白夜叉と悠斗を睨む。
「ちゃんと見てたよ。……ところで、おんしの持つギフトだが。それは先天性か?」
「違う。父さんに貰った木彫りのおかげで話せるようになった。」
「木彫り?」
首を傾げる白夜叉に耀はペンダントにしていた丸い木彫り細工を取り出す。白夜叉は渡された手の平大の木彫りを見つめて、急に顔を顰める。悠斗も白夜叉の隣から木彫り細工を覗き込む。
「……。これは。」
「ほう。これは凄いものを持ってるね。」
悠斗は感嘆の声をあげる。十六夜と黒ウサギも覗きこんで神妙な顔をして鑑定に参加する。
(これを人間が作ったのか。ふふ、やはり人間は面白い。そしてこれを自分の娘に持たせるのか。人間の欲というのはどこまでいくのかな。)
悠斗は木彫り細工を眺めながら思う。
「おんしさえよければ私が買い取りたいぐらいだの!」
「ダメ。」
木彫り細工の本質までは分からないが、この木彫り細工の希少性は理解できた白夜叉が興奮しながら言うが、耀はあっさりと断って木彫り細工を取り上げる。
「それで今日は鑑定をお願いしたいのですけど。」
ゲッ、と気まずそうな顔になる白夜叉。
「よ、よりにもよってギフト鑑定か。専門外どころか無関係もいいところなのだがの。」
困ったように白髪を描き上げながらチラリと悠斗を見る。悠斗は目を逸らし雪原を見つめる。
(おのれ。こういうのはおんしの方が私より得意なはずじゃ!)
「ふむ。3人ともに素養が高いのは分かる。しかしなんとも言えんな。おんしらは自分のギフトの力をどの程度に把握している?」
「企業秘密。」
「右に同じ。」
「以下同文。」
「……あ、私は全部把握しているよ。」
「うおおおい?いやまあ、仮にも対戦相手だったものにギフトを教えるのが怖いのは分かるが、そらじゃ話は進まんだろうに。……そして悠斗には聞いていない。」
「別に鑑定なんていらねえよ。人に値札貼られるのは趣味じゃない。」
ハッキリと拒絶するような声音の十六夜と、同意するように頷く2人。
そして少し拗ねたように本を読む悠斗。
困ったように頭を掻く白夜叉は、突如妙案が浮かんだとばかりにニヤリと笑った。
「ふむ。何にせよ”主催者”として、星霊のはしくれとして、試練をクリアしたおんしらには”恩恵”を与えねばならん。ちょいと贅沢な代物だが、コミュニティ復興の前祝いとしては丁度良かろう。」
白夜叉がパンパンと柏手を打つ。すると4人の眼前に光輝く4枚のカードが現れる。カードにはそれぞれの名前と、体に宿るギフトを表すネームが記されていた。
コバルトブルーのカードに逆廻十六夜・ギフトネーム”正体不明”
ワインレッドのカードに久遠飛鳥・ギフトネーム”威光”
パールエメラルドのカードに春日部耀・ギフトネーム”生命の目録””ノーフォーマー”
黒ウサギは驚いたような、興奮したような顔で3人のカードを覗き込んだ。
「ギフトカード!」
「お中元?」
「お歳暮?」
「お年玉?」
「ち、違います!このギフトカードは顕現しているギフトを収納できる超高価なカードですよ!耀さんの”生命の目録”だって収納可能で、それも好きな時に顕現できるのですよ!」
「つまり素敵アイテムってことでオーケーか?」
「だからなんで適当に聞き流すんですか!あーもうそうです、超素敵アイテムなんです!」
「白。」
黒ウサギが る中、悠斗は白夜叉を呼ぶ。
「なんで私にも?ゲームをしたのは3人なんだが?」
「ま、まあ。先程も言ったがコミュニティ復興の前祝いだ。……それとおんしとの再会の記念に、な。」
「??」
悠斗は首を傾げた。最後の方は白夜叉が頬を赤く染め俯き、小さな声で呟く。悠斗にはよく聞こえ無かった。
(((面白いものを見つけた)))
だが、問題児達には聞こえていた。いいネタが手に入りそうだとニヤニヤしている。
「白。私は別に”ノーネーム”に入るとは決めていないぞ?」
「なに?」
「え!?」
白夜叉は首を傾げ、黒ウサギは驚愕の声をあげる。
「ちょっと、悠斗君。貴方、ガルドの誘いを断る時に言ったんじゃなくて?」
「?あれは彼奴のコミュニティに入る位なら”ノーネーム”でいいと言っただけで、まだ正式に入るとは決めていない。」
「な!?そ、そんなぁ……」
黒ウサギのウサ耳がヘコタレて俯く。
「黒ウサギよ。別に入らないとは言ってはいない。」
「え?」
「もう少し、ジンと話す必要がある。私からの条件があるのでな。それを呑むと言うのなら私は喜んで”ノーネーム”に入ろう。」
「ほ、本当で御座いますか!?」
「ああ。」
黒ウサギは嬉しそうに飛び跳ねる。まだ入るとは決まってないのだがなと苦笑いを浮かべる悠斗。
「おい、悠斗。」
「ん?」
十六夜が呼ぶ。
「よかったらお前のギフトカードを見せてくれないか?」
「な!ちょっと…!?」
「ああ、いいよ。」
「なに!?」
白夜叉が何か言おうとしたが、それより先に悠斗が十六夜にギフトカードを投げ渡す。それを受け取った十六夜は記されている内容に目を見開く。
スカイブルーのカードに名は記されていない。
ギフトネーム”理想郷””夢の一人歩き””夢の実現””夢の貯金箱””神の弑虐”
十六夜はこれは…と呟き、悠斗を睨みつける。
「……へえ。分かったんだね。」
悠斗は感嘆の声を漏らす。
「…おい、白夜叉。」
「なんじゃ。」
「此奴は何桁に相当する。」
十六夜の質問に白夜叉はため息を漏らす。
「……ふむ。それについて話す為にいったん戻ろうかの。」
「………ああ。」
「「「???」」」
十六夜の突然の変化に黒ウサギ達は戸惑う。 と、刹那。先程いた和室へと戻る。白夜叉は上座に座る。
「さて、話をする前に黒ウサギ達にも、悠斗のギフトカードを見せてやってくれ。」
十六夜は黙って隣にいる黒ウサギ達に悠斗のギフトカードを渡す。
「「??」」
「……な……!?」
飛鳥と耀は、渡されたギフトカードを見るが、よく分からないと首を傾げる。黒ウサギはそれを理解し、悠斗を睨む。
「……」
悠斗は正座のまま、気にした様子もなく座っている。
「それで白夜叉。悠斗は何桁に相当する?」
「……そうだの。此奴、悠斗は最低でも二桁だな。」
「……」
「ええ!?」
十六夜は沈黙し、黒ウサギは驚愕の声をあげる。
「最低でも、という事はどういうことだ?」
「それは、此奴が本気を出したとこを私は見たことないからだ。」
「本気ではなく二桁…ですか…。」
「悠斗のギフトネームに記されておる”夢の実現”。十六夜はなんだと思う。」
白夜叉の質問に腕を組み、考える。
「夢の……実現、か。まあ真っ先に思いつくのはあるが、読んで字の如くではあるが…余りにも馬鹿らしくてハズレていることを祈るな。」
「おそらくその予想であっておるよ。」
「…そうか。」
ヤハハ、と乾いた笑みを浮かべる。
「えっと、どういう事でございますか?」
黒ウサギ達は理解出来ていない。
「ふむ。”夢の実現”とは読んで字の如く、夢を体現するギフト。」
「夢を…体現…。」
「ああ、夢というのは2種類ある。1つは己の願い、思い。将来の夢と言った方が分かりやすいの。そしてもう1つは眠る間に見る夢。記憶の整理をしていると言われておる。この箱庭では人間は勿論、獣、悪魔、神さえも夢を見るだろう?」
「そうですね。」
「その夢というのは其々が違う夢を見て、違う夢を懐く。その中には奴より強くなりたい。誰にも負けない力が欲しいと願う夢がある。」
「………まさか…。」
「そう。此奴のギフト、”夢の実現”はそれを己の力として体現する事が出来る。」
「な、それでは悠斗さんは!?」
「何でも出来る。どんな困難な夢も、果てしない想いも、誰かが1度それを願うとそれが悠斗の力となる。」
「な、何という恩恵……しかし!その夢はいつか叶うなり諦めるなりするはず!」
「そう。」
白夜叉は女性店員が持って来ていたお茶を飲み一息。チラリと悠斗を見る。これ以上の情報を渡してよいのかと。悠斗はその意思を理解し頷く。
「夢は儚く、その願いは叶う者、叶わぬ者がおる。叶った者は次の願いを見つけ、叶わなかった者は諦めず食らいつくか別の夢を探すか。どちらにしろその願いというのは消えたり変わったりする。」
「だが、ここからが悠斗の本当に恐ろしい恩恵。悠斗は1度願った夢を消えずに貯めておけるのだ。それが”夢の貯金箱”だ。」
白夜叉の言葉に沈黙する十六夜と黒ウサギ。飛鳥と耀は何とか理解でき、悠斗を見る。
「まあ。」
悠斗とが黒ウサギ達を見回し微笑む。
「今は君達と敵対する事は無いよ。話を聞いてもまだ君達が私を受け入れられるのなら、同じコミュニティに入るかも知れないしね。」
「………ケッ!」
「……フン。」
「…………。」
悠斗は、自分を仲間にしたく無いのならそれでいいという意味を込めて言ったが、3人は他の意味も含んでいると思った。
”私が怖いのなら、私を遠ざけることをお勧めするよ”っと。
「上等だぜ悠斗。お前が嫌だと言ったとしても、ぶん殴って連れてくぜ。」
「そうね。いずれ貴方を私達の前に跪かせてみせるわ。」
「上等上等。」
「………ふふ。」
十六夜達の物言いに呆然とする。だが、笑いが込み上げてきた。
「いや、私にそんな事を言ってくる者は何千、何万年振りだろうか。」
「ゆ、悠斗。」
白夜叉は心配そうに悠斗を見る。
「ふふ、大丈夫さ。今は何もする気は無いよ。」
白夜叉の心配を察して何もしないと手を振る。それを見て白夜叉が安堵の息を吐く。
「それで、黒ウサギは?」
「………2つ聞かせて下さい。」
「ああ、いいとも。」
黒ウサギが真剣な表情で此方を見る。
「1つは、この”理想郷”というギフト、もう1つは貴方がジン坊ちゃんに提示する条件を。」
「ふむ。」
悠斗は指で顎を摩り、考える。どこまで話していいものやら。黒ウサギの表情から察するに、おおよそ検討はついている様に見える。
「1つ目の事は、詳細は話せないな。それでも?」
「はい。それでも。」
「では、一言。これは人類に課された最後の試練の1つなり、と。」
「っ!!!や、やはりそうなのですね。」
「ああ。」
黒ウサギは薄々気付いていたが悠斗の言葉で確信を得たようだ。
「そしてもう1つ、それは私が此処に来た目的を達成する為に”ノーネーム”を抜けるかも知れないという事。」
「……その目的とは?」
「…妹との再会だよ。」
「…妹?」
黒ウサギは首を傾げる。悠斗の本性に心当たりのある黒ウサギは、伝記や古文に悠斗に関する事がごく僅かだが読んだ事がある。だが、それには妹がいるとは書かれていなかった。
「まあ、急に居なくなりはしないさ。」
悠斗が黒ウサギを安心させるように言う。
「最初の質問の事も、私から戦いをふっかけることはしない。そして条件の事も別に急いではいない。”ノーネーム”の再興し終わってからでもいいと思っているよ。」
「…そうですか……では、私達に力をお貸し下さいませんか?」
黒ウサギが正座のまま、綺麗に頭を下げる。悠斗が立ち上がり、皆の前で宣言する。
「…ふふ、あまり魔王の前で下手に出るのは良く無いが、いいでしょう。…私は最古参に数えられし魔王!この力、”ノーネーム”の再興に微力ながら協力しようではないか!」
「…はい!ジン坊ちゃんは条件を呑むと思いますので、よろしくお願いします!」
「黒ウサギ、面を上げよ。我らは同志となる者。対等な者として接しよ。」
「はい!」
黒ウサギは嬉しいそうに頷く。そこに十六夜が口を挟む。
「まて、お前魔王なのか?」
「ふふ、そうだね。昔はそう呼ばれていて、途中で箱庭から出たからまだ魔王のままだね。」
口調を戻した悠斗が十六夜達を見る。悠斗を見る視線に好戦的なものが含まれている。悠斗はその視線を受け、笑みを浮かべる。
「私を倒したかったらいつでも来なさい。その時は互いに命を賭けて戦おう。」
「ヤハハ!まじかよ。」
「ふふ。それは楽しみね。」
「その時は私も。」
「このお馬鹿様達!同志なる者と決闘するなど言語道断です!悠斗さんも煽らないで下さい!!」
悠斗と3人が睨み合う中央で黒ウサギが怒鳴る。途中からずっと見ていた白夜叉が柏手を1つ打ち、場を正す。
「これからの方針は決まったようだの。おんしらは全てを承知の上で黒ウサギのコミュニティに入るのだな?」
「そうよ。打倒魔王なんてカッコいいじゃない。」
「カッコいいで済む話ではないのだがの……全く、若さゆえのものなのか。無謀というか、勇敢というか。まあ、魔王がどういうものかはコミュニティに帰ればわかるだろ。それでも魔王と戦う事を望むというなら止めんが……そこの娘2人。おんしらは確実に死ぬぞ。」
予言するように断言する。
「魔王の前に様々なギフトゲームに挑んで力を付けろ。小僧や悠斗はともかく、おんしら2人の力では魔王のゲームを生き残れん。嵐に巻き込まれた虫が無様に弄ばれて死ぬ様は、いつ見ても悲しいものだ。」
「……ご忠告ありがと。肝に銘じておくわ。次は貴女の本気のゲームに挑みに行くから、覚悟しておきなさい。」
「ふふ、望むところだ。私は三三四五外門に本拠を構えておる。いつでも遊びに来い。……ただし、黒ウサギをチップに賭けてもらうがの。」
「嫌です!」
黒ウサギは即答する。
「つれない事言うなよぅ。私のコミュニティなな所属すれば生涯を遊んで暮らせると保証するぞ?三食首輪付きの個室も用意するし。」
「三食首輪付きってソレもう明らかにペット扱いですから!」
怒る黒ウサギ。
「なら、私は白を貰いにゲームに挑戦しにいこうかな。」
「なに!?」
笑っていた白夜叉が悠斗の言葉に驚く。
「もちろん。三食首輪付きで私の部屋でね。」
「な!?え、えと…それは!?」
悠斗がウインクを白夜叉に飛ばす。白夜叉は頬を真っ赤にし動揺する。
「ふふ、冗談だよ。」
「……わかっておったわい。」
白夜叉はフンッと鼻を鳴らし拗ねた様に顔を逸らす。
「ゴメンね。それとさっきの腕試しの件、後ででいいかな?ジンと話さないといけないから。」
「……よい。さっさと行け。」
「ふふ。ゴメンね。」
悠斗は白夜叉の頭を撫でる。それを見ていた4人は、白夜叉をからかうネタが出来たとニヤニヤしていた。
はやみんみん様、感想ありがとう御座います。忙しくて返信出来ませんでした事お詫び致します。
そして評価して下さった皆様、ありがとう御座います。