新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺―   作:キングオブコージ

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敗走

 起きた。イオリ・ドラクロアは起きた。さっきまで何をしていた?雨の中。夜の中。駆けつけ、戦い、敗れ、今──

 

 ズキリ。胸部の痛み。胸に手を当てる。俺は斬られた、そう、斬られたんだ。刑部之也の一閃をこの身に受け、倒れて、そして。

 

「奴はッ!?」

 

 がばりと起きた。布団をひっぺがし、寝ていたその身を起こす。時点で、理解した。

 

 状況は、手遅れであると。

 

 周りを見渡す。和室。一点の曇りもない和室。イオリ・ドラクロアは和室で、布団の上で、衣類は……寝巻き、だ。知らないありふれた寝巻きに身を包み、そう、これは。

 

 寝かされていた。

 

「起きたか」

 

 戸を開けて入って来たのは、黒の浴衣に身を包んだ邪神、鴉魔アルト。よくも悪くも無いような顔でイオリを見ている。

 

「……どうなった」

 

 分かりきっている質問を、せずにはいられなかった。あの後、俺たちはどうなったのかを。

 

 目を少し伏せた後、重い唇をアルトは開いた。

 

「負けたよ」──

 

──「イオリッ!?イオリ!!」

 

 アルトが身を翻らせて倒れたイオリに駆け寄る。酷い出血、このままではまずい!!

 

 アルト自身が放つ闇でぐったりとした彼の身を包む、出血を抑え止血の効果を測る為……だが、このままでいい訳がない!!早く病院へ!!

 

「強いんだ、キミ」

 

 焦る背中にかけられた声、振り向けばその姿は刑部之也の隣に立つ穂浪。右腕は無い、先ほどの戦いで消し飛んだからだ。逆に言えば、アルトの放った「破光“夜”」から腕一本の被害で済ませたようだ。

 

「でも、今回は“私たちの勝」

 

「第六天『魔王』」

 

「ち”──」

 

 直後、この場を飲み込む威圧の一閃が放たれた。

 

 止められた時間から解き放たれた、天領牙刀の渾身の一振り。

 口上という存在の証明が省略され、無唱として放たれたそれは。それでも生命を脅かす一撃として敵を襲う。

 

 が。

 

 ギィン!!一振りの刃がその一撃を受け止めた。それは刑部之也でも穂浪でもない、その前に割り込んだチャイナ服の男の刃だった。

 

白鞘から抜かれた刃は煙を上げ、ギラリと光る。男が白い歯を剥き出しにして笑った。

 

「おっさん、凄ぇな。また戦ろうぜ」

 

「では、また」

 

 之也が手をひらひらと振り、彼らは靄に飲み込まれ消えていく。それをアルトは、牙刀達はどうしようもなく、一先ずの脅威が去ったという安堵と、目的は達成されたのだろうというやるせなさを胸に、ただ見送る事しか出来なかった──

 

──アルトの話したその後の情景に、イオリは溜め息をついた。

 

 そうか。

 

「負けたか……」

 

 天を仰ぐ。上には木目の天井が。年輪の模様を見て、少しして、気付く。

 

 ここは、確実に病院ではない。

 

 自分の身につけていた衣類をはだけ、胸を確かめる。斬られた跡が──あるのに、無い。

 正確には、傷跡はある。が。出血などがない。まるで治ってから大分経った後の、傷跡のような。

 

 ドクン。嫌な汗が吹き出す。一体、俺は。

 

「俺は、どれだけ寝ていた」

 

「半日」

 

 半日。時に換算して、およそ12時間。だったの12時間だ。

 

 それを聞いて、ひとまずほっと胸を撫で下ろす。長い時では無かったようだ。

 

……は?

 

「待て、今なんて言った?」

 

「半日だ」

 

 半日。それであの深い傷が塞がる訳がない。それに。

 

「ここは何処だ?」

 

 イオリの知らない部屋。怪我を負い、生死を彷徨い、にしたっては大掛かりとは程遠い、自分が置かれた状況がわからない。

 

紗蔵庵(さくらあん)。イクシーズから船で運ばれて、お前は今。日守(ひのもり)の管轄、紗蔵庵に居る」

 

 その話を聞いて、イオリは病みあがりの脳で冷静に現状を解きほぐした。能力者都市「イクシーズ」から海を隔てて向かい側、日本の神の根城とされていた場所の一角。その場にイオリは本人の知らぬ間に運ばれていた。

 それが、唯織(イオリ)draclawyer(ドラクロア)にとって大きな大きな運命の奔流になるとは、まだ誰も、思いもやらぬのであった──

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