新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺―   作:キングオブコージ

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願った祈りを、掬い集めて

「さて。急な呼びかけにもかかわらず、皆さんよく来てくださいました」

 

 紗蔵庵応接間。来訪者を迎え、重大な決戦を目前に揃った作戦メンバーを眺め落ち着いた笑みを浮かべる佐藤麒麟。

 

「先ずは──園田園代表、八雲(やくも)鳳世(ほうせい)

 

 点呼も兼ねて、一人一人に覚悟の声を聞いていく。

 

「どうも」

 

 ドレッドヘアーに羽織り袴、百八神社の神主・傾奇者「八雲鳳世」。

 

「雪花街の白き叢守、三雲(みくも)深雪(みゆき)

 

「任せて頂戴」

 

 赤いマフラーに白装束。見ようによってはそれこそ妖怪……雪女にも見える、威圧の存在感「三雲深雪」。

 

「イクシーズ唯一無双の最速、三嶋(みしま)小雨(ささめ)

 

「あいよ」

 

 小柄な見た目、可愛らしさの裏側には牙が宿る──無力にして無敵、自作自演の令和の怪物「三嶋小雨」。

 

「雪花と新社会の間に佇む氷結、氷室(ひむろ)翔天(しょうま)

 

「未熟者だが、全力で行く」

 

 学生の身でまだまだ若いが、経歴は確か。Sレート「氷室翔天」

 

「300年の悪夢、夜魔の邪神鴉魔(からすま)アルト」

 

「良きに計らえ」

 

 邪悪な力が滲みだす座敷童、この上なく“味方でよかった”「鴉魔アルト」。

 

「統括管理局の硬き門番、イオリ・ドラクロア」

 

「精々足掻こう」

 

 経歴を詳細に語られても困るが、どうしても肩書でネームバリューがガクッと下がる。正直純粋戦力としても2……いや3ランクほどは……、イオリ・ドラクロア。腰のホルスターにワタヌキを携える。

 

 そして。

 

日守学宮(ひのもりがくぐう)五行・火属性論外級、土御門(つちみかど)(いのり)

 

「あっ、どうも……」

 

 茶色のショートボブパーマに白黒チェックスーツ、綺麗め……ながらも少しおどおどした女性、「土御門祈」。叢雲家でもなく、別格でも訳ありでも無い彼女がこの選抜メンバーに入っていること、正直これは麒麟も想定外の1人であって、事は少し前に遡る──

 

 

──駅前で合流した小雨・翔天・深雪の3人は送迎車に乗り紗蔵庵を訪れる。すると、その門前にはもじもじとした人影が。

 

 門を叩くのか、叩かないのか……。煮え切らない様子に、祈りはとりあえず歩み寄る。

 

 その姿に見覚えあり、横顔を見ておやと思い、声をかけた。

 

「……祈さん?」

 

 振り向き顔を見て、確信した。深雪の知っている人物だ。学宮で同期だった、土御門祈。

 

 かけられた声に、当の本人もやたら驚いた。

 

「ほぇあっ!?あっ、深雪ちゃん!久しぶり、その、卒業式以来……だっけ」

 

 2人とも顔見知りでありながらどこかよそよそしく、状況の読めない小雨と翔天は傍観するしかなかった──

 

──『あの、私も、作戦に参加させてもらえませんか?』

 

『入れるべきよ。彼女は間違いなく、入れるべきだわ』

 

『いや、しかし、百物語の数が……』

 

『あっ。もしかして、それって、これですか?』

 

『えっ、なんで貴女がそれを?』

 

『実は、その、旭さんから……』

 

『はぁ、後輩に甘すぎる男だなぁ……』

 

 と、紆余曲折あって今に至る。揃い踏む精鋭メンバーを見て、イオリ・ドラクロアは感嘆した。

 

 ……これはまた、すごいメンバーだ。これなら或いは、絶望的な状況を打開するに至るのでは……!

 

「このメンバーなら或いは。と思う人も居るかもしれませんが」

 

 部屋から襖を開け縁側へ、履物でじゃり、じゃりと玉石を踏み鳴らしていく佐藤麒麟。庭に出る。

 

「皆さんに作戦を見てもらった通り、名ばかりの「討伐作戦」です。本当の目的は言わずもがな偵察、奪還、そして何より『生還』です。今回の一番の成功条件は」

 

 麒麟が全員に深い目配せをし、そして最後に。イオリ・ドラクロアを。

 

「全員の生還──それだけがあれば、ほかの何も要りません。現地で何かあれば直ぐに「百物語」を」

 

 彼女は懐から、古びた書物を取り出した。表紙には「妖怪百科・百物語」と書かれている。

 刑部之也が作ったと言われる、大昔の書物の複製(コピー)。それを抱き暫くすると、黒い靄が溢れた。

 

「八雲も説明しましたが、今一度。皆さんにお渡しした「百物語」には現世へ繋がる糸が法術によって紡がれています。願えば、閉鎖空間などでなければ“一度だけ”現世に戻れる機能があります。本当に“一度だけ”ですので、いたずらに願わぬよう。ですが、絶対に「どうしようもない」と思ったら躊躇なく使ってください」

 

 作戦説明時に念を押された言葉。再び彼女がそれを言う。ここからは、後戻りの出来ない現場へ。

 

 全員が庭へと降りる。麒麟が瞳を閉じ、すると、彼女の周りを漂うものが。これは、桃色の──桜の花弁?

 

桃御太刀(もものおんたち)

 

 桜の花弁が彼女の周囲を吹きすさび、差し出された手の中に集い、そして形取り、握り込む。それは──小柄な彼女が手にするにはいささか大きすぎる、言わば「太刀」。

 

 両手で、それを黒い靄を切るように、目の間に振り下ろす。『(まい)』にも思える美しき一連の流れ、その先には空間の裂け目が。

 

 「神」の「威」を借る故、『神威』。佐藤麒麟の能力は、妖怪桜をその身に宿した「夢桜(ゆめざくら)」……と、イオリは聞いた。人と神との共鳴の先だという。

 僅か24歳の女性が日本の神道を担うトップ、「神の子」に選ばれたから。そんな理由で威厳と言う名の重い枷を。

 

 女性で無ければ、「神の子」に選ばれない。そして、選ばれたのは「佐藤麒麟」だった。

 

「此処から先は、「現世(うつしよ)」では無く「幽世(かくりよ)」。対峙するのは人ではない、神々の町、「妖怪横丁」……常識が通じるような世界ではない。皆さん、本当に準備はいいですか?」

 

 その言葉に全員が頷く。今更それで二の足を踏む者は居ない。故、麒麟が一歩を踏み出し、後の全員が、秘書の永親に見送られながら続いて靄に飲まれる。

 

「ふふ、常識が通じないメンバーで組んだ価値がありました。それでは、「刑部之也討伐作戦」、──開始」

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