新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺―   作:キングオブコージ

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ニアミス:逢魔〜岡本光輝の場合〜

 1月後半、白い息が出るほどの寒さが残るイクシーズの街並みを。懐にブラックミスリル製の特殊警棒を忍ばせた、カーディガンに量販店のダウン姿の青年、岡本(おかもと)光輝(こうき)は歩いていた。

 

 宗教団体・月の兎の一件、地下繁華街占拠事件。ニュースでの報道を見ていても分かる、表向きには当たり障りなく取り扱われたが、裏側ではそうも行くわけがない。

 

 一体、どれだけの人物が知っているんだろうか、新社会「イクシーズ」の主要人物、人類主席「逢坂緑」の死去を。まだ公になってはいない。隠し通せるつもりだろうか。

 

 彼女は有名人だ。メディア露出の中では、能力者の中では上位に当たる。やはり誰が見ても凄いと思える三嶋小雨、瀧シエルに比べれば流石に……ではあるが、「今の総理大臣を知っていますか?」と日本国民に問えば。能力者の中ではそれぐらいの力がある彼女を失って。

 

 イクシーズは。

 

 どうするのか──

 

『たこ焼き!ねえ私あれ食べたいな!』

 

 あんねぇ!!俺真面目に今後の事考えてるんですけどねぇ!!

 

 脳内で響く元・人類主席「逢坂緑」の声を心の声で返して、岡本光輝はたこ焼き屋に500円を払って8個入りの船を受け取った。おかか、揚げ玉多め。

 爪楊枝でぷつりと、息で冷まし、ふーふーして一口。

 

『うあっつ!??』

 

 分かる。自分でもそう思うのだから。口内の粘膜を焼くような、感覚を共有してる状態の逢坂緑にその熱が伝わる。

 

『ほふ、ほふ……おいし!!』

 

 うん、美味い。本当に美味い。醤油味にマヨと青のりの風味がくっと……。タコを小麦粉で包んで焼く、そんな食べ物がこんなに美味しいとは。能力でも使ってるんじゃないのか?違うというならば。タコと小麦粉、たぶん祖先は一緒だったんじゃないだろうか。

 

 寒空の下、街の温もりを感じて、ふと呟く。

 

「……変わりませんね、街は」

 

『主導者が一人消えた所で、急速に世界は変わりはしない。誰かが担い、それまでのルーティーンをとりあえずは繰り返す。故に、世界は変わらない』

 

 街並みを歩きながら、一人身で二人の会話を続ける。

 

『私は私に出来るだけの全てを置いてきた。だから、この先も当たり前のようにイクシーズは続いていく。いずれはそこに誰かが入って、より新たな革新をもたらすだろう』

 

 心の中にいる緑は何処か遠い目をして、

 

『それが人の世なんだ』

 

「……だからって自分で死ぬ理由にはなりませんが」

 

 詭弁の女王に若人は文句を垂れた。岡本光輝の目的を当たり前のように破棄したのだコイツは。自分で現世に引き留めておきながら、安堵故に軽口も出るもんだ。

 

 軽食を終え、街並みに戻る。こんなに寒いというのに、人々の流れは変わらず奔流。まだ学生の光輝には分からないが、いろんな事情があるんだろう。その人込みを、ぐいぐいと抜けていく。というのも。

 

 今回の外出、これが目的だったりする。

 

『そうそう、その調子』

 

 光輝は自慢の眼で人の流れを読み解き、縫うように避けていく。彼の能力は「超視力」、それは昔から判明していた能力。なのだが──

 

 ただ目がいいだけ、では説明がつかないんじゃない?

 

 と、逢坂緑が言った。眼がいいだけで幽霊が見えたりする?とか、色々あって試している最中。光輝はこれまで当たり前のように駆使してきた視力をもって、可能性の限りをこなしていく。

 

 眼の反応はすごく良い。それは間違いない。それよりもさらに先。確かに、眼がいいだけでは済まない気もする。

 

 なんだろう、これは──

 

『処理能力、だね』

 

「はい?」

 

『処理能力。眼は間違いなくいいけど、それを見て処理する能力がバツグンに高い。これはちょっと、前例が無いかも』

 

「いや、それって──」

 

 ドンッ。

 

「わっ」

 

「っと、すみません」

 

 視力に身を任せて人々を縫って歩いてた中、一人の女性にぶつかってしまった。可能な限り避けれるように歩いてたが、不注意……!!

 

 女性が体制を崩す前にその腕を取り、転ばぬ様引き留める。ベレー帽に、クリーム色のコートの女性。洋服を地面に着かせる訳にはいかない、なんとか支え切った。

 

 てへへ、と笑いながら女性は帽子をぽんぽん叩く。

 

「申し訳ないね、坊や。避けれるつもりだったが、読みが重なったようだ」

 

「こちらこそすいません、上の空でした」

 

 視えてはいたが、他事を考えていたのは確かだ。悪いのは確実に此方。

 

「いや、本当にすまない。こう見えてね、私は占い師なんだ。読み切れなかった失態、占いで返させてほしい」

 

 そういって女性は懐から水晶を取り出す。え?それそんな所に入る??

 

 じゃなくて。

 

「いや、本当にいいですって──」

 

憑黄泉(ツクヨミ)

 

「だからいいですって!?」

 

 彼女の持つ水晶が光を放つ。えっ、今の占い師ってそういうもんなの!?どうしよう、無料とは言いつつ高額請求されたり?そんな事されたら、払える訳が!!

 

「──人を探しているんだ」

 

「──」

 

 それは、そうだが。別に、誰だって。

 

「男性、か」

 

「──!」

 

 それを言われて、光輝は息を飲む。

 

 占いは、人の心を言い当てる。それは、逆に言えば、人が望んでいる答えを出せば、それは占いが成功したとも言える。

 だから、当たり障りのない、人となりを程ほどに読んで当て、人を慰めるだけ……そういう占い屋も居るだろう。そういう占い屋ばかりだと思っていた。

 

 だが、この二つのワード。「人を探している」、「男」。女性の素性から、もう目が離せない。魅入られたように──

 

「……なんなんですか貴女」

 

 にやり。美麗な顔は目標を定めた猫のような、少し寒気を感じる瞳で青年を見る。

 

夜雲(やくも)寧々子(ねねこ)(まじな)()さ」

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