新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺―   作:キングオブコージ

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ニアミス:逢魔〜岡本光輝の場合〜2

 雑踏の中。立ち止まり、素性の分からぬ女を見やる岡本光輝。そして。

 

「それで終わりですか?それじゃ」

 

 踵を返して明後日の方向へと進む。いや、無理でしょ。胡散臭さがエグすぎる。誰が乗るんだその話。

 

「そこから先聞かないんだ!?」

 

「バーナム効果。別に全思春期男子が女の子探してる訳じゃないからって逆張りどうかと思います。それじゃ」

 

 すたすた、と歩き去る光輝。夜雲と名乗った女はため息をついて、

 

幽世(かくりよ)に興味は無いかー……」

 

 光輝は振り向く。たったそれだけの言葉で、強がってた心を引き留められた。露骨に見える夜雲寧々子の笑み、時すでに遅し。釣られた。

 

 幽世。この世ならざる場所。岡本光輝が視えている、特殊な世界。それに連なる場所があるとするならば──

 

「……アンタ、“何処まで”見えてる?」

 

「そう、その眼差し!いいね、お姉さんそういうの欲しかったんだー……、うち来る?」

 

 流れゆく人々。忙しい彼らに、この二人の熱は伝わらない。が、向かい合う二人にのみ理解(わか)る緊張感。次の相手の一挙一動、どう札を切ればより優位に立てる……?

 ドクン、と心音が鳴るのが分かる。この人は、自分では手の届かない何かに手を“届かせられる”人物かもしれない。相手は何故かこちらに興味があるらしい。それは行幸。だからと言って、むやみやたらに「はい」で言い訳がない。

 岡本光輝は考える、今自分が何をすべきかを。見極めるんだ、最善の一手を──

 

「見つけた」

 

 そう聞こえた。目の前の彼女じゃない、また別。人込みの中の遠く、でも確かに此方に向けて発せられた声を聞いて。

 

「失礼、追われてるんだ。それじゃ」

 

 ふっと、さっきまでの空気を破り駆け出す夜雲寧々子。

 

「は!?」

 

 いや、そりゃない。あれだけ誘っておいて、いざ勝負ってなったら逃げだすのはそれはよくない。

 

「さっきまでの威勢は何処に!」

 

 仕方なく追いかける光輝。足を止めるつもりなく加速していく寧々子は答える。

 

「坊や、大人は間違いを起こさないんじゃない、起こした間違いを誤魔化す力があるだけなんだよ」

 

「ああもう!俺の周りの大人の女性、変な人しか居ない!!」

 

『それ私のこと?それとも白髪のアイツ?』

 

 うっせぇ、全員そうだ。もう本当に勘弁してほしい。

 

 夜雲寧々子を追いかけ、路地裏、繁華街、バス通り、袋小路──。

 

 そして、行き止まり。逃げ出した寧々子を追いかけた光輝は一緒に狭い路地の奥で立ち止まることになる。その逃走の甲斐も無く、追い込むように一人の少女がやってきた。

 

「やっと捕まえましたよ……覚悟はいいですか?」

 

 鋭い瞳にシャープな顔立ち。黒の長髪を……ポニーテールで結った、スカジャンの少女。まだ若いな、同い年ぐらいだろうか?スカジャンのブランドはDOG TOWN(そう刺繍されている)、一体何者なんだ彼女は。見るからに……チンピラか?

 

 光輝は後ろにいる寧々子に問う。

 

「なんかしたんですか、占い料ぼったくったとか」

 

「いやいやいや、私の占いは絶対に当たるしぼるとかないから。うーん、追っ払ってくれないかな?」

 

「なんでそんな事を俺が」

 

 じと、とただでさえ暗い瞳をより深くして寧々子を見る。

 

「先ほどの占いの続き、聞きたいんじゃないのか?」

 

 ……この人は。はあ、とため息をついて。

 

「……逆恨みされてもしりませんよ?」

 

 一歩前へ出る岡本光輝。美麗なチンピラ少女と対峙する。

 

「申し訳ないけど、そこのお姉さんに頼まれたから。君を倒そうと思う、すまない」

 

 そう謝る光輝に、チンピラ少女は。

 

「それも試練というなら。いいだろう、お前と本気で戦う」

 

 ……なんだろう。別に全然チンピラっぽくなかった。なんか、もっと高潔な感じがする。

 

「はあ、対面開始」

 

 と、言った瞬間。

 

(テール)!!」

 

 先手必勝か、少女の背後から何かが伸びてこちらを襲う。あれは……水の鞭!?

 

「ちぃっ!」

 

 光輝は懐から二振りの特殊警棒を手に取り、展開して鞭を払う。刹那、水の鞭は霧散して霧になる。

 

 ……目くらましか。けど、この眼の前には無意味!

 

「なんっ」

 

「ひゅう♪」

 

 と思った光輝。が。どうも違う。周りの反応、これは純粋に……攻撃が、予想外の対処をされたような?

 

『へえ。“理論方程式”を(ほど)いたか。いい反応をしている』

 

 何にせよ、対処は出来たようだ。特殊警棒を構えて、敵に滲み寄る。

 

「……相手に不足なし、全力でやる!(ネイル)!」

 

 次に少女から飛んできたのは炎の閃、それがクロス状に。それを見て、一考。水の能力者じゃない……?温度の能力者だとでも?

 

魂深結合(フル・コネクト)

 

『お姉さんにお任せ♪』

 

 ここから先の対処は一人では困難だと思った光輝は、遠慮なく逢坂緑に頼った。「魂結合(こんけつごう)」のその先、「魂深結合(フル・コネクト)」。

 逢坂緑の能力、「電磁操作」により、脳と筋肉に信号を与え、岡本光輝が『これまで経験した全て』をおおよそ可能にする。今の光輝が求めたそれは。

 

「──DRUG(ドラッグ)!!」

 

 強制的なプラシーボの促進。光輝がこれまで幾度となく潜在霊「ジャック」と使ってきた、切り札。

 

 これまで良かった視界がより鮮明になり、何がどう動くのかが脳内に鮮明に叩き込まれる……現代では“ゾーン”とも呼ばれる状態。故に──

 

 統べてが視える!

 

「なっ」

 

 少女の放った炎の閃は速度も良く、当たればひとたまりも無いのだろう。が、軌道は単調である。身体の向上も相まって、特殊警棒の一振りで流しつつ光輝は斜めへのサイドステップで回避した。それと同時に前へ突っ切る。

 

 今の岡本光輝に、その程度は牽制にもならない。

 

 バチリ、と音がなる。見えたのは、黒と紫の稲妻。それが少女の足に漲る。

 

(ウル)──」

 

「悪い」

 

 次の技を放とうとする少女の目前まで駆け、ひとっ飛び。その鳩尾をつま先で蹴りぬいた。

 

「かっ……」

 

 呼吸の混濁、それでは能力の発動どころではない。吹っ飛んで背後の壁にぶつかり混濁する意識の少女の横っ面に、逆手に持たれた特殊警棒がすり抜けて背後の壁を貫く。

 

 ぱらり……。コンクリートの破片が床に落ちて、少女は息を飲んで、瞳を閉じた。状況を呑み込んだんだ。

 

「俺の勝ちだ」

 

「ぐっ……!」

 

 決着。蓋を開けてみれば10:0。勝つために手段を択ばない光輝に、今更この程度の戦いは恐れるものではない。多分、今回の勝敗の一番の決め手は「場慣れ」……。戦って感じたのは、この少女の能力の多彩さと、かといって適切な能力を要所で使えていたかというかとそれは違う。最後に出そうとしていた恐らく大技も、あの場面でぶっ放す技では──

 

「で、状況を説明してくれますか?」

 

「いや、お見事」

 

 ぱちぱち、と拍手を送るのはその一部始終を傍観者として眺めていた夜雲寧々子。こちらに歩み寄ってくる

 

戌助(いすけ)をこうも容易く破るとは……彼女は私の秘蔵の弟子なんだよ?」

 

 は??

 

「は??いやさっき追われてるって」

 

 思考と言葉が重なって口に出るぐらいには驚いた。

 

 実質抑え込んでる形に近い戌助と呼ばれた少女の方を見てみる。すると、目じりには、薄らと涙が。

 

「……寧々子さん、すぐ居なくなるから、探してたのに、試練すらこなせないようでは、……不覚」

 

 さーー……と青ざめる自分の体温が分かる光輝。いや、この女は。なんて事をしてくれるんだ。

 つまり、俺は師匠を探しに来た従順な弟子の女の子を本気でぶち負かして、泣かせてしまったと。向こうも本気だったとは言え、事情を知ってればここまで無慈悲にはやらない。そんな子のお腹、蹴ろうと思わないし。流石に慌てふためく。

 

「強かった。君は強かった。なんとか読み勝ったけど、一手一手をまともに受けてれば普通に負けていた。センスはある、まだまだこれからだから!」

 

 特殊警棒を仕舞い、少女を慰める光輝。実際そうだ、全て読み勝ったから対処出来たものの、技の一つ一つはいいクオリティだった。身になるのはこれからである。

 キッ!と寧々子の方を睨むと、気まずそうにそっぽを向いて口笛を吹いてる。

 

「たはは……いや待って、そんな目で見ないで!?すまなかった。興が乗ってね、戌助もすまなかった!後で何でも聞いてあげるから!!」

 

 寧々子は戌助の肩を抱いて、歩き出す。その通り抜けざまに。

 

 ぽん、と光輝に一冊の古びた書物を押し付けた。

 

「ごめん、今日は私が悪かった。日付が変わったら遊びにおいで、話の続きをしよう」

 

「……次会った時は勝つ」

 

「あっ、おい!」

 

 話は終わってないが、二人は目の前に生まれた黒い靄の中に消えていった。そんな不思議な光景を眺め終わった後、手の中に残った本を見る。そのタイトルは。

 

『妖怪百科・百物語……?』

 

 逢坂緑が読み上げた、その名。一体、これは俺に何をもたらすのだろうか──

 

 その数時間後、イクシーズ市街に大雨と共に神々が訪れるなんて、そんな大事、岡本光輝には知る由も無いのだった。

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