新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺―   作:キングオブコージ

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夜を駆けろ2

「な、なんなんだアンタら!?」

 

 城のエントランス、役場の職員が乗り込んで来た四人に驚く。無理もない、いきなり岩男と同時に門が吹っ飛んできたのだから。

 

 イオリ、一瞬の思考。そうだな、敢えて名乗るなら。

 

「奪われたものを取り返しに来た者だ!」

 

 そう言ってイオリは突っ切る。交戦は最小限にしたい、無闇やたらに被害を出すのは良くない事だから。そう、目的さえ果たせばいい。

 最優先目的、「ドウタヌキの奪還」。それが終われば離脱して作戦終了。だからごめんな、少しばかり荒らしていくけど、許してくれ。

 

 動きの速い小雨、深雪、イオリが建物内を駆ける。それを追いかけようと何人もの職員が集まって来るが──

 

絶対領域(アブソリュート・ゼロ)

 

 一瞬で氷が地面を伝い、職員たちの足に張り付く。

 

「な、なんだこれ!?」「足がっ、凍って動けねぇ!」「どうにかしろっ、ならんか!」

 

 氷室翔天は凍った地面を、止まった群衆の中を、氷のスパイクを形成した靴でゆっくりと優越感たっぷりに歩いていく。

 

「妖怪も人も、体を構成する成分はおよそ変わらないらしい。いい事を教えてやろう。地球の表面、人の体積、大気の構成物。それらを加味して、この世で最も強いとされる能力は水属性──」

 

 瞬時、上から降ってきた何か。視覚外からの一撃を、翔天は薄い氷の壁で受け止めた。

 

(なんじ)、手練れか」

 

「策を弄すタイプに見えるだろう」

 

 氷の壁、分りづらいように薄くしているが、いともたやすく砕くとは。一撃が防がれた、目前の男……紺の作務衣の端からは枯れ木のような細腕が除く、坊主頭の修行僧のような佇まい。

 どうやって飛んできた?拳で氷壁を砕いた?それにしては、痩せすぎだ──、随分と貧相な見た目だと思った翔天は男を見て、眼鏡をクイ、と人差し指と中指で整える。

 

「この世で最強とされる水属性より強い能力。それは──」

 

 直後。この大きな広間を、強大な冷気が襲い、この場の皆の体温が奪われていく。

 

「「氷結」だ。「三極」の一人、氷室翔天。今日ばかりは手加減無しだぞ」

 

魔戒(まかい)八卦(はっけ)、心頭滅せば氷もまた涼し」

 

 その冷気をまるで気にも留めぬように、修行僧の男・八卦は翔天と対峙する──

 

──階段を駆け抜けていき、現在三階。この建物は何階あるんだ?エレベーターは見当たらない……。

 

 通路の敵を足で蹴って進み、またその先で敵を蹴って進み、その次は壁、敵、地面──と目にも止まらぬ速さで戦場を駆ける三嶋小雨。攻撃が飛び交うが、速すぎて誰の攻撃も当たらない。回避行動が決定打になり、移動と攻撃が同時進行で行われていく。

 ので。

 突入僅か十分足らずにして、彼女が戦闘不能にした敵の数は42人。今、43、44人。どれだけ強力な力を持っていようと、彼女を認識できなければ。彼女に届かなければ。意味が無いのだ。その姿に付いた二つ名、「無双(ノーバディ)」。

 

「っと、階段!さっさと」

 

 部屋の端に階段を見つけて向かおうとした小雨。その前に黒いとんがり帽子の少女が立ちはだかる。

 

「呼ばれて飛び出てぱんぱかぱ~ん!ブギー・パンプキンちゃんとーじょー!逆賊よしんみゃぎゃっ」

 

 ぐにっ、少女を飛び越すように跳ねてついでにとんがり帽子を踏む小雨。そっから飛んで向こう側へ。階段を上ろうとして。

 

 ごいん!

 

「あだっ!?」

 

 なづっ!?仰け反る小雨。何かにぶつかった。結構な勢いでそれにぶつかった為、おでこがまあまあ痛い。脳震盪は幸い無い。いや、何だこれは!?小雨は懐から取り出した匕首で目の前の空間を切り裂こうとして──弾かれた。これは、もしや見えない壁?

 

「こら!無視するな逆賊!言っとくけど、ブギーを倒さないとそっから先へ進めないから!!」

 

 小雨が声の方を見ると、其処には地団駄を踏む少女の姿が。黒いとんがり帽子に、現世ではハロウィンでしか見た事無いような黒・橙・紫の三色ベースの派手な魔女風ドレス。木製らしき杖まで持ってるし。うわあ、なんだか凄いことになってるぞ。

 

「はー、めんどくさ」

 

 小雨はしっかりと彼女に向き直り、これまでとは違って抜き身の匕首を構える。本当の臨戦態勢だ。

 

「そんな事言ってられるのも今だけよ!我が名はブギー・パンプキン、妖怪学校始まって以来の天才なんだから!」

 

 少し重そうな帽子をくい、と上げて自信満々に小雨を見るブギー・パンプキン。その言葉に、小雨は表情を殺した。

 

「天才?へーえ、天才かあ……」

 

 ぞわり。感じた悪寒。ブギーは目の前の小柄な女の視線を受けて、これまでの明るい表情(かお)に怯えを見せた。なんだ、なんでこの女は。

 

「いいじゃん。やろうぜ」

 

 こんなに、冷たい目が出来るんだ……!?──

 

──びぃん……通路に佇むローブに身を包んだ女が、琵琶を弾いた。四方八方に響き渡る音が、通行者に襲い掛かる。逃れる事はできない。

 

「幻惑の四重奏……この音色を聴いた貴方は、もう夢の中──」

 

人は何れ死ぬと知れ(メメント・モリ)

 

 チィン。気づけばローブの女の前に立った男が刀を鳴らす。その姿に、ローブからほんの少し覗く瞳が焦る。

 

「あのっ、えっ、なんで──」

 

 いつの間にか距離を詰められてた。なんで?そんな訳ない──

 

魔王(まおう)

 

 一閃。イオリ・ドラクロアの放った刃が、琵琶の弦を切り裂く。ローブの女は茫然とする。これでは術が使えない。いや、そもそもなんで術が効かない!?

 

 ぽん、と肩に手を置かれた女はビクッと跳ねる。まずい、さっきの剣技から見ても分かる。間違いなく達人、ドクッ、ドクッと心臓が跳ね回る。私、此処で、死──

 

「怪我をするといけない。まだ戦いは続くから避難しているんだ」

 

 どうして。襲撃者からかけられた声に困惑する女。目の前の男は、見た目からは思えぬほど、想像していたよりも優しくて。当たり前のように通り過ぎるその後ろ姿に、なんの声もかけれず目で見送るだけだった。

 

 駆けていくイオリは、戦いながらも考える。

 

 俺の持っている刀は。誇り高くあるべきだ。故に、無闇な殺生はしない。

 

 それは、夢の中でワタヌキと誓ったからだ。

 

 「俺がお前に、最大の賛辞を贈ろう」と──

 

 ならば、誇れる戦いをしないといけない。この刀を背負う為に、イオリ・ドラクロアが胸を張れなければいけない。

 正義か悪か、曖昧な戦いの中でも。自分だけは。自分の中だけでは。線引きをしておく。それが今のイオリ・ドラクロアの思い。

 

 ……少なくとも、「死線」でないうちは。

 

 通路を駆け、広いフロアに出た。其処には他の通路から来たであろう、三雲深雪もやってきていた。

 

「三雲、大丈夫だったか」

 

「深雪でいいわ。小雨と翔天はまだね、結構昇ってきたけど……」

 

 と、合流してすぐ。広場の奥に階段が見えた。あれを昇れば、さらに奥へ。そろそろ頂上だろうか。

 

 が。

 

 ズゥン……。空気が一度に重くなったのが分かった。イオリと深雪は目配せをする。

 

 分かっている。この空気の重さ。

 

「お前らが襲撃者か。待ってたんだぜ?」

 

 階段の前。白鞘を握った、チャイナ服の青年。この男から、これまでの妖怪とは遥かに違う、とんでもない量の「力」を感じる──!

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