新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺―   作:キングオブコージ

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Have a Yehoshua

火炎(かえん)雷轟(らいごう)水流(すいりゅう)魔刃(まじん)刃翼(じんよく)脆弱(ぜいじゃく)──」

 

「──」

 

 和室のフロアを駆けまわる小雨に絶え間ない魔の法が襲い掛かる。杖を構えたブギー・パンプキンが言葉を発する度に発動するそれは、まさに終わりなき回廊。小雨を狙い、小雨を追うように、小雨を迎え撃つようにブギーは呪文の発動を続ける。

 

 この魔女、やるな。

 

 通常、能力の発動・行使には手順がある。大まかに言って、『理論方程式の構築』『理由の定義』『存在の証明』、この三つの順序だ。一般人から見れば能力者が異能力を発動してる所なぞ「おー、すげー」程度だろう。そんな中でも、能力者が能力者たる法則として細分化すれば、確実に「この要素」が絡む。

 

 三嶋小雨のような身体能力強化系は、大体その脳から体にかけての信号で完結する事が多い。故に分かりにくいだろう。

 だが、三雲深雪が見せた「魔弾(まだん)一不二(ヒーロー)」や氷室翔天の「絶対領域(アブソリュート・ゼロ)」のように、強力・また広範囲なものを使う場合。見るからに「言葉にする」という手順が加わっている。その言葉にする、というのが『存在の証明』の最終段階。これを行うことで能力をより強力な物にしうる──と現代では解明されている。

 

 だが。

 

「──落雷(らくらい)炎槍(えんそう)光々(こうごう)氷砕(ひょうさい)爆炎(ばくえん)!!」

 

 弾幕を縫って小雨はブギーに近付きつつあるが、ついに囲むような形で呪文が繋がった。急遽の出来事、小雨はやむをえず空に飛ぶ。

 

 多彩すぎる。一体、なんの能力──いや、妖怪に限っては能力者という括りにするのは違うか。とはいえ、天才。あながち間違っちゃ無いようだな。

 

 ブギーが言葉を放つ度に別の属性の呪文が飛んでくる。現世でこれぐらいの事が出来る人間を知らない……雷属性だけで言えば来雷(くーらい)娘々(にゃんにゃん)、四元素ひっくるめた使い方なら瀧シエル辺りが該当するだろう……が。

 属性の切り替えにまるで繋ぎ目が無い。ここまでの技の豊富さ・発動速度、またその威力に至って。どんな理論方程式を展開している……?一つの存在を証明し終えた後、また次には別の存在を証明している。数学で例えるなら問題集の問いを式無しに次々と答えていくような物だ。確かに凄い。

 

 空中に飛んだ小雨が、天井に足を突こうとして。

 

闇槌(あんつい)!!」

 

 その天井に大きな魔法陣が浮かび、黒い槌が小雨に降りかかる。

 

 へぇ、躊躇なし。油断なし。範囲よし。

 

 やるね。

 

魔弾(まだん)崩天(ほうてん)

 

 小雨がそう言った瞬間を、ブギーは目で追うのが精いっぱいだった。

 

 空中ジャンプ……!?

 

 キィン!!次の瞬間には、小雨はブギーを通り過ぎていた。何の音?気が付いた時には、ブギーが持っていた杖は真っ二つに。

 

 ブギーの脳内に、数舜遅れて自分が視認した現実が突き付けられる。黒い槌が小雨を襲う前に小雨は空中を蹴って、ものすごい速度でブギーを通り過ぎてついでに匕首で杖まで斬ってはるか遠くに居た。

 

「……は?」

 

 何が起きたか、理解したくても出来ず青ざめるブギー。そんな訳がない。そんな訳がないのだ。悪い夢でも見ているのだろうか?呪文の数でも質でも負けるわけがない、予測できないように可能な限り複数の呪文を切り替えて放っている。妖力すら感じない目の前の女が。ただ速いってだけでここまで出来る訳がない。

 

 一度でも当ててしまえば勝てる筈。なのに、当たらない。なんで?

 

「強いじゃん。天才だよお前は。もっと強くなりな。じゃ、この扉開けてくれよ」

 

 手を伸ばしても届かない目の前の小柄な女が勝った気でいる。ふざけるな。

 

()っっ鹿()に…………」

 

 直後、ブギーを中心に風が吹き荒れた。スカートが舞い、帽子が飛び、オレンジ色の長髪が風に靡く。

 

「するなぁーーーーーーーー!!!」

 

 強風を受け、小雨はしっかりとブギーを見据える。まだやる気か。

 

「おっ、水色。意外……もう勝負ついたろ?」

 

「っ!?パン……見るな!!じゃない!!いいわ、貴女には本当の「ブギー・パンプキン」に逢う資格がある!」

 

 ブギーが手を広げると、フロア全体を覆うほどの魔法陣の数。それがブギー自身をも包むように。

 

「杖を壊したぐらいで勝ったと思わない事ね!あれは拘束具、手加減よ!」

 

 手加減……、というには語弊があった。ブギー・パンプキンは膨大な妖力をその身に宿すが、若さ故にその力のセーブの仕方というものをまだ分かっていない。ので、あの杖はいわば抑制機。ブギーが自分の力を一つ一つ、丁寧に使う為のアブソーバー。

 だから、そんな杖が無くなり。ブギーが感情のままに呪文を唱えれば。

 

 答えは見ての通り。全方位へ魔法陣が展開されてしまっている。無造作、他の何も顧みない才能の暴力のみが襲いかかる──!

 

「理論方程式の構築、理由の定義、存在の証明──その到達点!見よ、これが「大いなる力(アルス・マグナ)」──」

 

「“ 御神渡り(Have a Yehoshua)”」

 

 トッ。魔法が発生する前。次の瞬間には終わっていた。フロア半分以上の距離をゼロ秒で縮めた小雨の、匕首による峰打ち。薄紫に光る刀身を鞘に納め、気絶し倒れゆくブギーを片手で抱える小雨……重っ!?意識の無い人間ってこんな重いのか!?

 

「わたしはほら、小柄だろ?だからその分姉より速い。あの天才、三雲深雪よりだぜ?」

 

 三嶋小雨は、ほんの僅かに神力……妖力とも呼ばれる力をその身に宿している。三雲深雪が当たり前のように溢れ流しているそれを、神職者の家系としては無才と言っていい程の量ではあるが持っていた。

 それを、全部「脚の強化」の能力にぶち込む事で発生する、超高速移動。全てを置き去りにするその技の名を、彼女は「御神渡り」──“Have a Yehoshua”、と証明する事にした。巷では『電磁投射砲(レールキャノン)斬鉄剣(ざんてつけん)』とか呼ばれてるが、全然違うし。だれだ最初にあれ言い出したやつ。

 

 ブギーが気絶した事によって展開された魔法陣は全て消滅し、見えない壁も無くなっただろう。部屋の隅にゆっくりと寝かせて、小雨は階段へと向かう。

 

「天才か。天才と呼ばれた人間が一番になれる訳じゃないんだぜ、頑張りな。」

 

 聞こえていないだろうが、小さな魔女を応援するように。これからの彼女に祝福あれ、と無双の能力者は前へ足を進めた。

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