新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺―   作:キングオブコージ

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この夜の向こうへ

 お前が其処に居るというのならば。俺は、どう足掻いてでも其処に辿り着いてやる。

 

 城の最上階へと続く階段を全力で駆け上るイオリ。その向こうに何があっても、先ずは。ドウタヌキの顔を見る為に。

 

 刑部之也が待ち構えようが。お前に与えられた使命が何かは、とりあえず何でもいい。だが、あの時。あの瞬間。お前は、何を思っていた──

 

 最後の一段を踏み、部屋へと飛び込む。腰にはワタヌキを構え、いざとなればその場で一触即発も覚悟し。あの日、手の届かなかった彼女へ手を伸ばす為に。その部屋で。

 

 一人佇んでいた女を見つけた。

 

 長い黒髪を上の方でポニーテールに結い、身に纏うは水色のポンチョ、白のインナーとレーススカート……間違いない。彼女は此方の姿を視認すると、目を見開いて驚く。最後に別れた時そのままの姿を見て、イオリは今一度その名を呼んだ。

 

「ドウタヌキ──!」

 

「──貴様、イオリ・ドラクロア!?どうして……此処に!」

 

 ザシュン!駆け寄ろうとするイオリの足元に、閃の跡が刻まれる。

 

 斬撃の、衝撃波。

 

 目前を見れば。ドウタヌキが手に刀を握り、此方に向けていた。

 

「……なぜ、来てしまったんだ……!」

 

 その顔は、困惑であり、怒りではなく、苦しそうで、見ていられない。

 

「お前を、迎えに来た」

 

 だから、イオリはそうとしか言えず、一歩を前に踏み出す。その姿にドウタヌキは顔を顰め、絶えず言葉をぶつける。

 

「迎えに?何様のつもりで?之也(あやつ)に手も足も出なかった癖して!」

 

「お前がいなかったからな」

 

 耳が痛くなるような正論を棚上げし、前へ、ゆっくり歩いていくイオリ。ワタヌキは構えない。その姿にドウタヌキは自分自身の刀を向けてはいるが、振るう素振りを見せず。

 

「……私が、貴様と一緒だったら、何かが変わったとでも」

 

「ああ」

 

 あの時の、あの戦いの結果が本当に違ったとは思ってない。だが。少なくとも、彼女が居れば。そう今は思えて答えた。今なら、変えられる。

 

 そう覚悟して此処に来た。

 

「──っ、世迷言を……」

 

「変える為に、蘇り此処へ来たんだ」

 

 まるで自分が死者とでも言わんとばかりのイオリを、ドウタヌキは若干罰の悪そうな顔で見る。

 

「……貴様とワタヌキが無事なのは分かっていた。之也が私で貴様を斬った時、()()()()感覚があった。けど、不安だった。こうして貴様を見れて、確信して、安堵してる自分が居る……」

 

 イオリとワタヌキが敗れ、離れた後で。葛藤した彼女に安堵を送れたのなら何より。

 

 だが。

 

「ははっ、嗤えるだろ。罵れよ、所詮はどちらでも無い刀を」

 

 彼女はぐしゃっと、自分の前髪ごと頭蓋を握り口を歪めた……。イオリ・ドラクロアが目の前に現れただけでは、彼女の世界は変わらない。

 

「私は、元は之也(あやつ)の刀だ。之也の目的、妖怪と人間が手を取り合う世界、それをいいとすら思っている。だから」

 

 この刀は。とてもいい刀だ。所有者の意図を汲んで、それを想い、その為になら無現の輝きを放つ刀。

 

 霊剣、ドウタヌキ。刑部之也が欲しがる訳で。

 

「教えてくれ、イオリ・ドラクロア。私はどうすればいい?私はなんの為に産まれ、なんの為に存在するのか──」

 

 迷いあぐね、苦悩する顔。その姿に、イオリは、手を差し出して。

 

「それをこれから見つけに行こう。……刑部之也は何処に?」

 

 彼女は面を上げ、信じられないようにイオリを見た。瞳を見開いて、イオリの顔を伺う。

 

「何を、莫迦を……」

 

「お前が此処にいるんだ。あいつは“来い”と言っている。それぐらいは分かるさ」

 

 そう淡々と話すイオリに、ドウタヌキががなる。

 

「莫迦だ!!行く理由が無い!!無理だ、之也には──」

 

()()()お前が欲しい。俺とワタヌキだけでは無理だ」

 

 それは夢物語。まだ結末に指すら触れてない可能性に。

 

 これは、彼女を受け止める為の方便。

 

 その言葉に、彼女は。

 

「……上だ。本当にいい、んだな?後戻りは出来ぬぞ……!」

 

 何を思っているんだろう。分からない、だが。今欲しいのは間違いなく彼女で。

 

「俺はお前と再び戦場を駆ける為に来た。お前と、ワタヌキがなぜこの世に産まれたのか。それを今から証明しに行く」

 

 だから、今選ぶべき最善の道はこれだと。確信して、イオリは彼女の手を取る。

 

「ふ、はは……!馬鹿な奴だ、貴様は。後で後悔してもしらんぞ」

 

「お前と共に進む道に後悔などない。だから、共に行こう──」

 

 その手を、強く握りしめて。

 

「──この夜の向こうへ」

 

 イオリの手を握り返したドウタヌキ。2人は光に包まれて、彼女は一振りの刀に。左の腰にドウタヌキ、右の腰にワタヌキ。二つの刀をホルスターに構えたイオリは、最後の階段を昇る──

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