新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺―   作:キングオブコージ

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白き叢守

 襲撃を受け城の外まで大騒ぎだった様子の町役場が、今は雨の静寂に覆われている。

 

 それを遠巻きに見るのは、佐藤麒麟たち支援組。

 

「穂浪様の結界……私の「句繰術(くくりじゅつ)」が届きませんでした」

 

 結界に干渉しようとして弾かれ、皮膚が裂けた血の滴る右手を握りしめる八雲鳳世。あの雨が降っている最中では、うかつに飛び込む事も出来ない。だが、それは妖怪側も同じ。神としての(くらい)が高くなければ、城の内部に増援も呼べない。

 ただ、特に懸念すべきは。建物の中から百物語で現世に戻ろうにもあの雨の結界をどうにかしないと不可能だろうという事か。

 

「私とアルト様はともかく、これでは近付けませんね」

 

 そう言って佐藤麒麟は目を凝らして、城の屋上を見る。其処には、傘をさした男と連れ添う少女。

 

「叢雲鳳世様……」

 

 千里先までを見通す力。「感覚共有」の法術、佐藤麒麟は今、現世で待機している(もり)(あさひ)の能力「千里眼(せんりがん)」の力を借りていた。故に、状況確認は佐藤麒麟が担っている。

 

「雨で城が覆われる前に翔天さんが現世へ戻ったのは百物語の反応で確認済み。後はイオリさんがドウタヌキを回収して現世へ戻る事が出来れば」

 

 城に残った戦力は残り三人、ドウタヌキの回収は三人に任せるしかない……が、まさか刑部之也が城の屋上に雨を降らせて待っているとは。あれでは彼に近づけるのは潜入組では三雲深雪だけ。してやられた、しかし。まだやり方次第でどうにでもなる。

 

 相手がこちらの上手(うわて)を行くように、此方にもまだ奥の手がある。

 

 だが、その肝心のドウタヌキ。回収しなければいけない一番のお宝を刑部之也は「持っていない」。一体、どういう……?

 

 直後、思考していた麒麟は自分の瞳に映った光景に驚愕する。

 

「えっ……!?イオリさん!?なぜ其処に!!」

 

 城の屋根に新たに登場する一人。イオリ・ドラクロアが、「時を止める雨(叢雨)」の中で立っているではないか。それも──霊剣・ドウタヌキを携えて。

 

「何ッ、イオリがその場に居るのか!?」

 

 アルトも、いや……この場の全員が驚いていた。その状況は。

 

「ドウタヌキとワタヌキを持ってあの場所に!刑部之也と向かい合って……時間は止まっていません!」

 

 理解が追いついていないが……しかし、今回の作戦の条件を抑えている、ならば成功一歩手前。

 

「なんと……いや、これは僥倖」

 

 八雲鳳世は少しこめかみを抑えた後、土御門(つちみかど)(いのり)の方を見て重い声を発した。

 

「だとすれば……、祈さん。遂に出番です」

 

 ドキンッ!?その言葉に祈は心臓をビクつかせた。

 

「はいぃ!?わ、私こんな場で何をすれば……」

 

 覚悟を決め、鳳世が祈にお願いしたのは。

 

「とびきり強力な爆弾を作ってください」──

 

──「魔弾・一不二(ヒーロー)

 

 ドン!三雲深雪が床を蹴りチャイナ服の男へ渾身の飛び蹴りを放つ。銀色の長髪が白き閃を描いた。

 

 刹那。

 

 スゥ……。手応え無し。まるで暖簾に手押し。通り過ぎた先で地面に派手な擦れ音を立てて着地する。

 

 深雪、その一瞬で自分の感じたものを思い返す。この感覚……。

 

「受け流しね」

 

「ご明察。俺は「見斬り」が得意でね、ま。あれぐらいなら直感で反応出来る」

 

 男は刀で受け流すように深雪を弾いた。まさか、あの速度に反応出来るとは。

 

 カカッ、と男は笑う。

 

「大抵の奴は受けのついでに斬れるから終わっちまうが……すげぇな姉さん、傷一つ付いちゃいねぇ。なんだそれ?」

 

「さあて?なんでしょう?」

 

 三雲深雪から溢れ出る神力。それが、他の何物も三雲深雪を害す事を許さない。だから、一撃が無比。なのに彼女は傷を負うことなく、全力で敵を蹴りぬける。

 

 それは、もはや暴力。神力と速度の蹂躙の前に立っていられる者はどれほどか。

 

「つれないね……まあいい。斬鬼(ざんき)夜叉(やしゃ)左京(さきょう)長宗(おさむね)。いざ、尋常に参る!」

 

 長宗と名乗った男が右手に長身の刀を逆さ持ちにして飛び込んでくる。

 

「──」

 

 一閃、目前を切り払うそれをバックステップにて避ける。

 

「ははっ!(はえ)ぇ!」

 

「あなたも……!」

 

 次に長宗が構える前に、深雪は回避行動の直後地面に屈んで思いっきり足をバネにして長宗の腹部を蹴り穿つ。

 

 が。それは左手の鞘で防がれ……鞘ごと長宗を蹴り飛ばした。

 

「がっ……」

 

 入りが浅い。

 

魔弾(まだん)剛拳(ごうけん)

 

 追撃、右拳のフック。を放とうとして──取りやめ、下がった。何も無いその場を刃が斬り抜ける。

 

 危ない、欲張らなくてよかった。

 

 あの一撃をまともには受けず。誘って斬撃を狙っていた、とでもいうのか。なんという戦闘センス。

 

 刃が空振った長宗が、刀を背後に大きく構えた。刀身が燃えるような赤い光を放つ。

 

「はっ、楽しいぜアンタ!行くぜ鍔鬼(つばき)ィ、九龍砲刀(クーロンカノン)ッ!」

 

 この存在感、分かる。この刀も付喪神か。

 

 鍔鬼が宙空に降り抜かれ、その刀身が九つに分かれた光を放ち、部屋一帯を埋め尽くすほどの質量のそれが弧を描いて三雲深雪に襲い掛かる──!!

 

陸式(ろくしき)阿修羅(あしゅら)

 

 身に降りかかる強烈な九つの光を前に深雪は逃げる事なくその場に立ち、冷静に両手を使って円の動きで受け流していく。1、2、3、4、5、6──僅か0,5秒の間、計六つに放たれた掌底が目前の九龍を捌いて後方に受け流す。

 

 ドドドドォッ!!背後の壁に流れていった九龍の音を聞いて、深雪は満足げな笑みを浮かべ長宗を見る。

 

「凄い威力ね」

 

 あんぐり。チャイナ服の男の驚愕顔が彼の心境を物語っている。

 

「お、オイオイ……!楽しいじゃんよ!!」

 

 そう敵を焦らせて、三雲深雪──内心、冷や汗。

 

 参ったわね。

 

 左手の小指と薬指、脱臼。二度目は流せない──!

 

 決着は今、弱った相手に畳みかける。地面を蹴り、二度目の。

 

「魔弾・一不二(ヒーロー)ォ!!」

 

「来いよ怪物!!」

 

 ギィン!二度目の一不二も受け流される。幸い、この速度の一撃を斬り切れる程の刃では無い。それが救いであり、決め手──!!

 

 ダン!蹴り抜けた先で、深雪が脚を着いたのは、壁。

 

 さっき流した九龍は壁に衝突したが、あの威力のエネルギーが壁を抉る程度で止まったのが閃きだった。恐らくはこの建物全体がそもそも結界、ならばこの一撃も耐えてくれる──!

 

 結果、深雪、壁に一不二を放つ形に。そして、さらに。その壁を蹴ってもう一度長宗に飛び込む。

 

魔弾(まだん)──」

 

「読んでたぜ、それもよぉ!」

 

 追撃の一不二に対して長宗は構える。予定だった。

 

 が、視界が捉えたのは。

 

 想定よりも遥かに速い、蹴りではなく。

 

「──(しろ)

 

 拳が。長宗の頬を捉えて殴り抜く。

 

「ごがぁっ!?」

 

 ドォン!!吹っ飛んだ先で壁に衝突し、意識を失う長宗。蹴りから蹴り──ではなく、蹴りから拳。威力は低くなるが、モーションの差で無駄が減り、決着は最後の切り札を読ませなかった深雪に軍配。

 

 着地し、汗で頬に張り付く銀色の前髪を、すっと横に流して彼女は笑う。

 

「ふう……みんなには申し訳ないけど、ちょっとだけ楽しんだわ。やるわね、あなた」

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