新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺― 作:キングオブコージ
ふにゃり。
朝、目を覚ました光輝は、在りえない感覚を覚えた。
冷静に考える。自分の部屋だ。しかし、眠っているベッドになぜか違和感を感じる。部屋の内装も、家具も、何もかもが知っている物なのに、だ。
少し考え、ふと結論に至った。それもそうだ。当たり前じゃあないか。ちらりと、現実を視認するため視線を横に向ける。
「くー……、すー……。」
隣に黒魔女・クリス・ド・レイが寝ているのだ。光輝に抱きつく形で。
ッッッッ!?
静かに、麗しいその寝顔から顔を背け光輝は視線を天井に移した。
……心臓の破裂で、死にそうになったぞおい。
いや、なんで!?彼女が此処に!?と、思い出して、不服にも納得した。
ウチにホームステイするとか云う馬鹿みたいな事を言い出したんだコイツ……!!
腕はクリスに枕にされ、脇腹に主張ある胸が当たっている。……俺はどうするのが正解なのだろうか。悩む。
思考回路が寝起きの筈の脳で超新星爆発のような活性を起こし、脳内に決断すべき選択肢が生まれる。
『叩き起こす。「や〜れやれだぜ」』
『あなたならどうする……?最高だった……』←
選んだ答えは……今、この時を静かに楽しむ。
馬鹿か俺は!?何をしている!?
驚愕。自分の中の男子高校生が、抗ってはいけないと。今はステイだとらしく無い答えを出した。
待った、落ち着いてほしい。光輝は夢の中で、昔の夢を見ていたような気がする。クリスも出てきたような気がした。あまり覚えていないが、そのせいでクリス・ド・レイという少女を意識してしまっている。
だから、これは悔い無き選択だと。ひとまず、そうさせてほしい……そう、誰にしてるかわからない弁解を心の中で行った。
「こーき~、わたしはあなたをわすれません、そしていつか~」
ビクリ、と驚愕で心臓を高鳴らせる光輝。その言葉を発したのはクリスだ。罪悪感に駆られる。
「あ、いや、すまん、悪気は無くてですね……」
「すう……すう……」
と、慌てて弁解しようとしてそれが杞憂だったことが分かった。クリスはまだ夢の中にいるようだ。
……よし。俺もまだ夢の中だ。随分幸せな夢だ。もう一度、寝直そう。
自分を誤魔化すように、言い訳するように、この場での出来事を消し去ろうとするかのように。興奮冷めやらぬ中、無理矢理再び意識を落としていった──
──今、岡本光輝とクリス・ド・レイはイクシーズの街中を走っている。
「すいません、つい寝過ぎちゃってて!」
走りながら謝るクリス。今日は暑苦しいローブではなく、外出用の半袖の黒いワンピースだ。
「えと……ごめん」
光輝はつい謝る。二度寝をしなければこのような事態にはならなかった。しかもその二度寝の理由を言えるわけがない。クリスと隣り合わせで寝るのが心地よかったなどと。もう少しだけ、それが続けばいいなどと。
『坊主は意外と助平よのう』
おい、うるさいぞ。しかし……否定できない。
ともかく二人は、急いでいた。今日はクリスが来てから二日目。瀧の家で、クリスが来た記念にお茶会をやるとのことだ。
その待ち合わせに、時間が遅れそうなのである。
……俺も要るのか?
そう少し思い、疑問を消して。仮にも友人に誘われたなら顔を出すが礼儀か。クリスを案内しなくちゃいけないし。
駅で電車を降りてから、走る。光輝は魂結合を使っていない。日常生活でも、いざという時以外は頼らないようにしたいのだ。これは光輝の意地でもある。
あーっ、普段からもっと運動しておけば!
道を走り、遠巻きに視える白い屋敷。光輝の目には鮮明に映る。事前に聞かされていたあれが、瀧の家だ。
「クリス、視えたぞ!あの白い家だ!」
「分かりました……光輝、私に掴まって」
「え……」
クリスは光輝の体を抱き寄せる。そして感じる浮遊感。クリスの能力、「重力制御」だ。
「スカート抑えててくださいね、見せていいのは光輝だけですから」
「いや、見る気はなっおおおおおお!?」
クリスの跳躍。一気に光輝とクリスは空高く舞い上がる。光輝は驚きつつも脚を出来るだけ触らないようにクリスのスカートを抑えてやる。
それはまるで「無重力」。その感覚は空を飛んでいるようで、光輝は離れていく地面に恐怖を覚える。絶叫コースター程ではないが、支えは重力制御とクリスの身体だけ。光輝は、クリスに回す手を無意識に強めた。今、落ちれば死ぬかも。命綱はクリスのみ。これは、予想以上に怖い。
走るよりもずっと速く、あっという間に瀧家への距離が縮まる。空中でクリスは重力調整をする。落下速度が速くなったり遅くなったりで、とにかく心臓に悪い。
遂に、瀧家の真上まで来た。下に芝生が視える。
「最終調整です!行きますよ!」
「おおおおおお!?」
最後、重力が一気に増した。まるで、
トッ、と瀧家の庭に降り立つ二人。最後は重力を弱めてくれたようだ。だが、光輝の心臓はバクバクと音を立てている。
「すいません、光輝が抱きしめてくれるものだからつい本気を出してしまいました」
「いや、マジで、勘弁してくれ……心臓に悪い」
悪戯な笑みを浮かべるクリスだが、光輝からしたらたまったものじゃない。空から落ちるという事象があんなに怖いものだとは。かつて天空で翼をもがれたイカロスはさぞ怖かっただろうと光輝は思った。
「おお、随分と派手なお出ましだな。待っていたぞ」
「
登場人物に男の子なりの強がりを見せて挨拶をする。
「お行儀悪くてすみません……っ!はじめまして、クリス・ド・レイです」
ぺこり、と頭を下げるクリス。対して、龍神は朗らかに笑う。
「構わない。私も妹も派手な方が好きだ。私の名前は龍神王座、シエルの姉だ。さ、案内しよう」
「龍神、ですね。よろしくお願いします」
クリスのおかげでなんとか時間には間に合ったようだ。いきなり家の庭には入ってしまったが、龍神は許してくれたようだ。
龍神に案内され、白い屋敷の中を進む。初めて入ったが、随分と広い屋敷だ……。内装は和と洋の調和、といった雰囲気で。どちらともつかないそれが、瀧家の豪快さを表しているとも言える。瀧シエルの性格は親に似たのだろう。
「さあ、この部屋だ」
二階にあがり、ある部屋の前で龍神がギィッ、と木製のドアを開ける。その中はテラスに続く広い空間になっており、中央にはテーブルに座った瀧シエルがティーカップを手に持って佇んでいた。
「夏の日差しは、心地の良いものだ。雲一つ無き晴天は、曇った心も晴れ飛ばす。そう、それは、太陽の導きだ」
瀧は呟き、クイ、とティーカップに口を付ける。
「ようこそ、岡本クン、クリス。どうだね、君達も一杯」
「おっす、瀧」
「お邪魔ます」
光輝は瀧の誘いに乗り、中央のテーブルに向かう。クリスもまた、光輝に着いてく。
彼は席に座ると、用意されていたティーカップを手に取り、一口。一瞬であおる。
……一口で?そういう飲み方をするのが、ジパング方式……?
クリスはその姿を訝しんだ。郷に入っては郷に従え、それが通説だからだ。
「ティーカップに注がれたコーラ……なるほど、有りだな」
「そう、その状況が良い」
「え、コーラ……?」
クリスも一口頂いて確信する。シュワっとした刺激、濃くも爽やかな甘み。これは、間違いなくコーラだ。
光輝と瀧は拳をグッ、と合わせる。二人の、他者には理解できぬやり取り。龍神は眉一つ動かさず傍から見ているだけだが、それを何一つ理解してない。クリスは疑問を浮かべている。なぜティーカップにコーラを注ぐ必要があるのだろうか。2人の考えが読めない。
「あ、光輝さんとクリスさん来たんですね!」
「よっ、コーちゃん!……それと、誰だ?」
部屋のドアから入ってくる新たな二人。それはホリィと後藤征四郎だった。
「よう……後藤も居るのかよ」
「その言い草は酷いぜコーちゃん」
そうして、総計6人の瀧家のお茶会が始まった。
「これが、ジパングのお茶会なの……?」