新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺―   作:キングオブコージ

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「イオリさんを日守で引き取らせていただけませんか」

『っ、いきなりだな。寝言は寝て言え、あれは私の駒だ』

「いくらでも余ってるじゃないですか。一つぐらい構わないでしょう?人使いの荒いこと」

『本来なら死刑でもいい者を人として扱っているんだ。人道的措置としてね』

「あらあら。能力の実験台にしておいてよくそんな事が」

『とにかくダメなものはダメだ。要件はそれだけか?』

「そうですねぇ、後はー……神域の宝刀二つを価値も分からず無闇に危険に晒し、あまつさえ当たり前のように奪われた事についてどう思われているかお伺いしても?」

『……その件についてはとても感謝している。危うく世界の均衡が崩壊するところだった』

「ふふ。どういたしまして。統括管理局も大変でしょうから、此方で出来る事はしてあげたいんです。ねえ、煉禍(れんか)さん」

『他の事ならなんでもくれてやる』

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、どちらが大事だと思います?」

『……お前、それは禁じ手だろう』

「安いものじゃないですか、取るに足らない能力者の一人ぐらい。世界が一つ救われたと思って、ドーンと奮発しませんか?」

『フン……続報は追って返す。期待はしてるといい。が、あれが首を縦に振るかは私には知らん話だぞ』

「ありがとうございます。煉禍さん大好き♪」

『あまり調子に乗るなよ小娘。今回は特別だ」

「はーい」

 プツッ、通話が切られる。やった。やったぞ。人生を一つ手に入れた気分だ。それにしても──ふふ、ツンデレだなあ。口調こそ強いが、なんだかんだ良くしてくれている。悪魔のような人間だが、上に立つ者として話せば分かってくれる。彼女は彼女でいっぱいなのだ。人類を導くために。

 ドカり。自室のソファに背中から思いっきり体重を預けた。あと1時間もすればあの人が日守に来てくれる。名物で存分に持て成してあげるんだ。特注の衣装も完成したし。ああ、こんなに浮かれているなんて、いつ以来だろうか。……時間あるし、シャワーぐらい浴びておいた方がいいかな?念の為に、ね?

 ふふ、さて。彼をどうやって篭絡しましょうか──




──楽しみだなぁ♪


幕間:明けない夜に輝く赫き月、名付けて『霊装・赫月』

「やっぱり!とっても似合ってます!」

 

「……ああ」

 

 宿の一室。「天邪鬼」を使えるアルトは当然の如くこの場には居らずやむなしに女の姿で一晩を過ごしたイオリは、喜びの表情の佐藤麒麟の隣で借りてきた猫のように──黒の着物を身に纏っていた。

 

 黒の下地に、随所に散りばめられた赤色の桜の花弁。足元の裾はあえてそう作っているのだろう、新品の筈だがダメージ加工のように擦れて使い古したように見える。その姿はまるで。

 

「あの夜のイオリさんをイメージして特別注文で作ってもらいました。()けない(よる)(かがや)(あか)(つき)、名付けて『霊装(れいそう)赫月(かくげつ)』」

 

 そう。そう言えばあの時の吾はアルトが紡ぎなおした浴衣を着ていたから、こんな感じだったか。……あのオート紡織(仮名)、本当に便利だった。神威解除後のスーツもしっかり体に合ってたし。

 改めて今の自分を姿鏡で見る。……確かに、悪くない。全体的に黒色で整っており、かといって赤い桜が主張して味気なくは全くない。むしろ渋さの中にほんのりと派手を感じていい。さらにさらに、しっかり両腰に刀を携える為の帯風ホルスターが付いている。……ありがたいが、特注にも程があるだろう。

 

「さらに。裾をわざと痛んだようにしているのであの歴戦感も健在!レプリカではありますが原作再現も欠かしてないんです!風に靡けばまさに亡霊!」

 

「原作とかあるのか」

 

 普段の落ち着きからは思えないような熱量で捲し立てる佐藤。いや、そんなに本気になられても、当の吾がついていけない。

 それに裾はオート紡織で布地が足りなかった為に足りずほつれてボロボロになってただけなのだが、まあそれは黙っておこう。実際再現度は本当に高く、サイズもぴったりであまりにも感服し……ってちょっと待ってほしい。

 

「吾のサイズ、いつ測った……?」

 

 自分の女の体のサイズなど測ってないし、そもそもこの姿に成ることが滅多にない。だとしたら、なぜこうもピッタリに?彼女はさらりと。

 

「アルト様が教えてくれました、快く」

 

「あんの座敷童子……ッ!?」

 

 そういえば一回、スーツを紡いでもらう為に「卑屈な万魔殿(リトル・パンデモニウム)」で測らせた……っ!あいつ、人の体のデータを本人の許可なしに勝手に渡しやがって……!

 

「後は記憶を鮮明に思い出して、ホルスターも必要だなってお願いしました。あの夜の事はいつでも思い出せますから」

 

 そう、にっこりと笑む佐藤。うっ、好意の中に何かしらの思惑が潜んでそうな、天使のようで悪魔かもしれない笑顔が、それでもやっぱり眩しい……。顔だけは可愛いのは認めよう。吾にこれを着せて一体どうしろというのだ。

 

「しかし、ピカケの花火……じゃないんだな」

 

 それは、着物の柄。再現とするなら確かにピカケの花火柄だった筈だが。今あしらわれているのは舞うような桜の花弁だ。

 

「そこは日本の国花、桜の吹雪を。それも“赤き亡霊”イオリ・ドラクロア仕様で赤色で入れさせていただきました。ふふ、どうでしょう?満足していただけると思うのですが」

 

「なるほど、な」

 

 どこからその熱量が生まれるのかは分からないが、かなり本気で作られたらしい。これは流石に大事に着なければいけないと思う。まあ、一つ懸念があるとするなら。

 自分一人で着物なんて一生着れる気がしないが。帯とかどうなっているんだこれは?今だって佐藤に着付けをしてもらわなければ普通に無理だった。

 

「……すまないな、中身が男のヤツに着付けをするなんて嫌だろう」

 

「いえ?全然。それに今のイオリさんは女性ですし」

 

 迷う素振り、一刻の余地も無し。あまりにも迷いが無さすぎるだろう。こっちは結構恥ずかしかったんだが。

 しかして、さあ。こんなものを着せて、これから一体俺にどうしろと──

 

「失礼します」

 

「どうぞ」

 

 襖の向こうからかけられた永親の声に佐藤が応えると、襖が開いて覗く人影が二つ。一つは当然、近江近衛永親。そしてもう一人は。

 

「おはようございます麒麟様……ってえぇ!?イオリさん!?なんで?!」

 

 朝からうるさいなおい。茶色のゆるふわショートボブ、白黒チェックスーツ。綺麗さの中に可愛らしさも見える顔、あとは……かなり強調されたバストライン。

 あの夜に支援として大活躍した火力の申し子、土御門祈が。驚きの表情での場に立っていた。それもそうだろう、吾は日守連盟の人間じゃないのだから。吾もなんでここにいるか驚きたいぐらいだ。

 

「久々だな、祈。今日はお姫様のお出かけに付き添う事になっている」

 

 そんな内心を堪え、1人の強者に対して挨拶を返す。彼女もお出かけとやらに呼ばれたんだろう。

 彼女はビシッと元気よく敬礼して。

 

「お久々です!確かにイオリさんも居た方がいいですもんねっ、それにしても……」

 

 まじまじと、着物姿のイオリに彼女が瞳を輝かせてものすごく見てくる。

 

「格好良い……、どうしたんですかこの着物?」

 

「う、うん。これはな」

 

 あまりの勢いに少したじたじになる。ここまで懐かれるような間柄だったか?と思い返して……以前、感情のままに彼女の頭をわしわしと撫でた事を思い出した。そうか、距離を詰めたのは吾からだったか……。

 

「私からのプレゼントです。今日一緒に来てもらう為に、威厳をより引き出そうと思いまして」

 

 女性二人が吾の容姿を見てはしゃいでいる。はっ、これが男の体の時だったらどれほど嬉しかった事か。女の体では素直に喜ぶ事も出来ない。

 そんな風に心の中で少しいじけ、少しの疑問。

 

「……口ぶりからして二人とも向かう場所が明確に分かっているんだな?結局大津の何処に行くんだ?」

 

 そう、滋賀県大津の。何処に行くのか、何をしに行くかはまだ教えてもらえてなくて。

 

「あれ、麒麟様まだ言ってなかったんですか?」

 

 ふふ、と。いつも通りの笑みで佐藤は答える。

 

「今日はですね、報告に行くんです。『久遠(くおん)方舟(はこぶね)』の滋賀支部に、刑部之也討伐作戦が成功しました、と」

 

「『久遠の方舟』……あの『久遠』か」

 

 そこまで聞いて、成る程。と理解した。確かにそれは大事な事だ……いや待て。

 

「『久遠』に?吾が?深雪かアルトを呼べばいいだろう」

 

 なぜ統括管理局所属の吾が行く事になるんだ?関係ないだろう。

 

「深雪さんは日守ですが雪花街の出ですし、アルト様はほら、邪神じゃないですか。体裁もあるので」

 

 まあ、アルトはまずいか。しかし。

 

「だったら吾は──」

 

「ですので、今日はよろしくお願いします。新しく日守に所属となった若き英雄“シオリ・ドラクロア”さん」

 

 その知らない肩書きと名を聞いて、イオリは。

 

「……」

 

 静かに黙り込み、天を仰ぐしかなかった。なんて無茶振りを──!

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