新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺―   作:キングオブコージ

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 宿の布団の上で、年甲斐もなく足をじたばたさせる。

 言った、言ってしまった。

 毎晩瞳を閉じると勇姿が瞼に浮かぶなんて、今思い出しても顔から火が出そうで。

 それに、不意打ちだった。「吾もキリンは好きだ」、なんて。そういう意味じゃないのに。あの時の私、変な顔してたよなぁ……。

 でも、出来るだけ自然な流れで、私の想いを伝えられた筈だ。

 “日守に来ませんか”──。

 違和感は無かった筈だ。あれなら1人の少女ではなく、一国の姫として振る舞えた筈だ。

 私情に(まみ)れた想いの吐露を、佐藤麒麟()という体裁で()り固めて嘯く。

 もう諦観とやらで日和る時間はない。だから、アクセルは踏めるだけ踏んでやる。

 明日で、全て終わらすんだ。そして、その先で。





──そう、はじめて自分を生きる


幕間:そうですね、無難に

 太陽が燦々と照る晴天の中、三重県から滋賀県へ。永親がハンドルを握る黒のスカイラインが高速道路を突っ切り、およそ数刻。

 到着したその場の奥には──成層圏を映した青。大きい、本当に大きな湖が広がっていた。海と錯覚するが、知識で認識する。これは湖だ。

 そして、その手前には。天の方へと見上げてようやく最上が見えるような高層ビル。……40階はあるな。一帯のビルと比べても高い。

 

「運転お疲れ様です、永親。さあ。ここが『久遠の方舟』──滋賀支部です」

 

「ほえぇ……」

 

 祈がぽかーんとなるほど、それは本当に大きなビルである。これが、『久遠』。その一つの支部。

 

 『久遠の方舟』。慈善事業を名目とした、宗教団体の一つ。

 

 “お願いをすれば、なんでも解決してくれる”。所謂、万屋(よろずや)とでも言うのか。報酬さえあれば、法の内側であれば本当に何でもやる。その事業がどれだけ繁盛してるかは……この高層ビルを見ていただければ分かるだろう、少なくとも支部でこれだ。

 『久遠』は幅広くの人を救う為に、より多くの願いを叶える為に支部を各地に展開しており、その場で現地の能力者を優先的に受け入れている。能力者とは「不可能を可能にする」者達である。必然として求められるのだ。

 そのストイックさが現代における能力者の受け皿という一面もあり、その事実は中央能力者社会(イクシーズ)も把握していている。

 ……力をつけすぎない内は、自浄作用として暖かい目で見ていられる。全人類が適切な距離感を保って生きていけるように。だから、「人が人を救う」という体裁の彼らに異は唱えられる事はない。

 

 自分たちを「選ばれた者」程度に思っているのなら、そこに問題はないという事だ。

 

 佐藤麒麟がお淑やかに歩み『久遠』のエントランスに入っていく。それと同時に女性の職員が駆け寄ってきて。

 

「お待ちしておりました麒麟様、すぐに支部長を呼んでまいります」

 

 ふむ。ここでも麒麟様、と呼ばれるのか。いくら滋賀が神の根城とされる三重、平安の地とされる京都の間にあるとはいえ。日守の姫の威厳は宗教団体の『久遠』まで届いている、と。

 それから数分ほどして、現れる一人の清潔感溢れる爽やかな青年。両手を広げ大袈裟に、彼女を盛大に迎え入れるように。

 

「やあ!よく来てくれたね紗蔵(さくら)神子(みこ)。寂しかったなあ、二か月ぶりくらいかい?」

 

 彼がこの滋賀支部の長か。

 

 第一印象。イオリが感じたのは、これは女子受けするだろう──とでも言うような。支部長にはぴったり、と言うのも意地悪か。パーマを当てたウルフカット、ラフな白のロンTに黒のジーンズスタイル。服の上から分かる筋肉もデカすぎず、引き締まっていて。

 ……アイドルグループに居てもおかしくはないだろう、それぐらいには容姿のいい男だ。宗教団体のカオを務めるにはピッタリだが、邪推はいけない。これだけ容姿が強くて才能まである可能性も大いに。まだ何も彼の事を知らないのだから。

 

「ごきげんよう、久住(くずみ)さん」

 

 佐藤はいつものように微笑んで返す。男は姫をエスコトートするように身を振るって。

 

「今日は大所帯だね。さあ、行こうか。今日の要件はなんだい?(くだん)の刑部之也かい?」

 

 久住と呼ばれた男に招かれるように四人はエレベーターに乗り、何十もの階層を飛び越え、煌びやかな装飾の広い廊下を通り過ぎて、入ったのは──壁一面から見渡す、広大な青が広がる一室。

 

 壁の半分が窓……!?とんでもない部屋だが……それより、さっきとは迫力が……これが……湖?これが?本当に?海じゃないのか?

 

 知っていてもそう錯覚するその光景の名、琵琶湖(びわこ)。一つの県の三分の一程を占める湖。あらかじめ知識として仕入れてはいたが、先ほど地上から見たが。まさかここまで大きいとは。真面目な話、「イクシーズから日守の地」よりも果てまでが遠い。この高さで、それに初めて気づいた。

 そんな湖が一望出来る位置に立ったビル、間違いなく一等地だろう。どれだけかかったんだ……そういう気持ちも感じながら、ソファにゆったりと座った目の前の男、久住を見る。

 

「なんでも言ってごらん。君の為なら何でもしよう」

 

 にこやかにそう言った久住に、向かい合って座る佐藤は和柄のゴシックドレスの懐からある物を取り出す。

 

「ありがとうございます。今回の要件は、此方です」

 

 それは。どう見ても二つに斬り裂かれてしまった古びた書物。

 側から見ればガラクタ、それが何かを知らない人が見れば即座にゴミ箱行きの其のおんぼろ姿に久住は疑問の表情を浮かべる。そんなものがどうかしたのかと。

 

「……なんだい?それは」

 

「刑部之也が持っていた「妖怪百科・百物語」の原典です。今は両断されて力を失っていますが」

 

 その言葉に、察しのいい者ならすぐに気付くであろう事を。

 

「?」

 

 気付かない。気付けない、その男は。あまりの突拍子のなさに。

 

「成功したんです、刑部之也討伐作戦が」

 

 ほんのりと微笑むのは佐藤麒麟。その不可能を可能に、否定を否定して成し得た無理難題の結末の証拠が其処にある。

 

「……え?」

 

 初耳なのだろう、彼女も直接伝える為に来たのだ。本当に理解できないといった表情で。それもそうだ、その話をいきなりされて信じれる者はそういない。

 

 刑部之也討伐作戦。妖怪の王(あれ)の名を知ってる者なら、そんな事が出来る訳無いと思っている。八百万(やおよろず)の神々の長、イクシーズの精鋭達が指先すら触れる事の出来なかった相手だ。

 

 それを、佐藤麒麟は自信満々に、胸を張って。

 

「今までお心遣いありがとうございました。心配してくれる貴方に、ちゃんと目の前で伝えておきたくて……」

 

 遠目に見たらそれは、丁寧に頭を下げる大和撫子のように。奥ゆかしく、そう見えるだろう。

 

「ですので、これからは気にかけていただく事はありません。これからも『久遠』の繁栄を祈って」

 

 祈の目はともかく、イオリ・ドラクロアはその光景を「この強かな少女は」と半ば呆れながら眺めて。

 

 「百物語」を再び懐にしまうと椅子から立ち上がりぺこり、と日守の姫は綺麗な桜色が目を引く頭を下げて。

 

「それでは」

 

 そう言い残して部屋を去る。それに続くイオリ、祈、永親。

 

 カチャリ、閉まるドア。部屋に残された久住は、静かにそのドアを見つめて。

 

「……へぇ、そうか。そんなに強がるか。いいね、猶更落とし甲斐があるってもんだ」──

 

──「しっかり伝えれてよかったですね!」

 

 キラキラとした目で佐藤麒麟に笑顔を贈る土御門祈。「ふふ」とお姫様が返す。なんだろう、この()には善の心しかないのか?あまりの純粋無垢に、仮にも中身は年上なイオリが心配になる。

 

「……本当にあれがそう見えたのか」

 

「?はい?」

 

 ふと問うてしまったイオリ、綺麗でかわいい顔を崩さぬまま疑問の相槌をする祈を見て……まあ。いいか、お前はお前でいいよ、と彼女の清らかな心に納得をした。

 

 それよりは。

 

「よかったのか?」

 

 この大立ち回りを堂々と歩むお姫様の方に問うてみる傭兵。

 

「……はい?なんでしょう?」

 

 イオリの方へ、柔らかい、屈託のない笑顔を向ける佐藤麒麟。いつもの薄ら笑いと違い、それはそれは嬉しそうな。その笑みが何を意味するかは知らないが、とぼけているのは間違いない。

 

「ずっと伝えたかった感謝を言えたんです。ふふ、本当によかった」

 

 その言葉の終り際に、いつもの薄ら笑いが見えて。

 

「お前は……」

 

 イオリに彼女の何かが分かる訳じゃない。が、雇われた者と雇い主の関係(なか)で感じたものは確かにある。

 

 それがお姫様のやり方なら、後は傭兵(吾達)の出番だ。

 

 ツッ──。暗転。彼らが歩いていた建物の廊下が急に真っ暗になった。なんだ?時刻はまだ日中の筈だが、この廊下には窓が無い?故に、何も見えない──。

 

「わっ停電!?」

 

「静かに」

 

 耳を澄まし、特段の異常が無い事を確認し。ポワァ……、イオリがドウタヌキとワタヌキの神力を覗かせ、鞘ごと二振りの宝刀が光る。その光が光源になり、辺りを見渡せるように。……周りに怪しい奴は居ないか。

 

「えっ!?そんな事出来るんですかイオリさん!?」

 

「静かにしろと言ったのにお前は……まあいい」

 

 ひたすらうるさい無邪気っ娘の首根っこを捕まえ、顔をぐっと寄せて耳打ちする。

 

(今はシオリと呼べ。それにお前の炎で同じことが出来る筈だ)

 

(は、はい……っ!すみません!!)

 

 祈を離し、辺りに注意を向けるイオリ。その隣で炎を掌に宿し「あっ、成る程」と周りを照らす無邪気っ娘。……実戦経験はこれから足していけばいいか。

 

()()()()()()()()()?お姫様」

 

 かつての指令違反の件もあって念のために確認を取るイオリ。佐藤は微笑みを零さず。

 

「そうですね、無難に」

 

 随分と強気だな?だがそのオーダー……確かに任された。

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