新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺―   作:キングオブコージ

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瀧家のお茶会2

「Sレートの特待留学生!へぇーっ、すげぇ!なんか特別っぽい!かっけぇ!」

 

「ぽいじゃない、本当に特別だっての」

 

 瀧に振舞われたお茶菓子のチョコパイをバクバクと食べながらクリスに感嘆する後藤。当然ながらSレートとは実力者だ。事実、一緒に戦って分かる。クリス・ド・レイは強い。

 クリスが最初に受けたレート判定はBだとされる。恐らくそれはジャックの事件当時の実力。あの時でさえその力に戦慄したのに、今ではSとは……。

 光輝が見た当時よりも遥かに強くなっているのだろう。それだけクリスは努力をしたはずだ。BレートとSレートの壁は大きい。その差を、1年間にも満たない間に埋めるなんて。

 

「ふふ、そうですか?ありがとうございます」

 

 礼を言うクリス。クリスは元々自信家だった、素直に褒められる事は彼女にとって嬉しいことだろう。あの時ジャックに砕かれた自信を今は取り戻せているようで良かった。

 

「向こうのSレートはクリスだけなのか?」

 

 瀧の疑問。瀧は強い奴が好きだ。Sレートが居ると知ったら、飛んでいって対面を挑むだろう。対面はイクシーズ内だけの制度ではあるが、教えて大丈夫なのだろうか……コイツはそいう奴だ。というかクリスにすらいつ喧嘩を挑んでも……。

 光輝の心配をよそに答えるクリス。

 

「はい、私が会った中には居ませんでしたね。多分、元々ただ異能者として自分を高めたいって人はイクシーズにそのまま入ると思いますよ」

 

 それもそうか。研究の進んでいる場所に向かうのは当然。クリスも……いや、彼女の場合は大分事情が異なるが。

 

「なるほど。クリスは違うわけか」

 

「私は大学の過程を終えれば警察学校を経てロンドンの警察に就職するという目的がありますから。イクシーズに留学に来たのは自分を高めるという建前が1割、光輝に会いたかったという本音が10割です」

 

「本気のようだね」

 

 いやおい、11割って100パーセント超えてるぞ。その、なんだ?まるまる俺に会うためみたいに聞こえるじゃないか。

 

「……」

 

 光輝は新しく入れ直したティーカップのコーラをあおり、内心で突っ込みを入れる。クリスは本当にそのために来たようだ。……おかしいだろう、もっと優先する事はないのか?

 

 特待留学生。クリスが来る前は多分無かった制度。いや、あったのかもしれないが、それを満たす者が居なかった、もしくは必要なかったのか。前例を聞いたことがない。それは能力者オタクの岡本光輝が自信を持って言える。

 イクシーズの中でSレートを取ってから外へ出ることは比較的容易だ。むしろ、東京や京都・大阪、上は札幌から下は福岡まで。主要都市の重役にはSレートが派遣されているレベルだ。クリスがイクシーズに住みつつ過程を終えてロンドンの警察に就職する、という事も当然可能なはずである。

 そう。どれだけイクシーズが能力者を離したくないとは言え、クリスにも事情があるはずだ。レイ家も易々とご自慢の長女を手放すわけがないだろう。それが故の、特待留学生といったとこか。それ以上の思惑は想像するだけ無駄だ。それは妄想に過ぎないし、光輝に利益をもたらす訳でなく何の意味も無いからだ。ただの学生が考える事じゃない。

 

「コーちゃん……クリスって美人すぎんか」

 

 こっそりと耳打ちしてくる後藤。何を言い出すんだコイツは。いや、その通りなんだけどな。光輝は頷く。

 

「そうだな」

 

「胸が控えめだったら……正直、好みだったかもしれない」

 

 そうか。俺にはどうでもいいな。やっぱりコイツはロリコン寄りだ。いや、でも自分に正直な姿。俺は尊重するよ?

 

「お聞きしたいのですが……瀧が思う強さの秘訣とはなんでしょう?私、まだ強さというものに疑問を持っていまして」

 

「ふむ、そうだな……」

 

 クリスの強さという概念への疑問。それもそうだろう。彼女は一度自分の強さを信じ、正義を突き進み、命を落としかけた。あれは例外中の例外とも言える状況ではあるが、異能者を相手にする場合は常にその例外という危険が付き纏う。彼女はまだ、不安なんだろう。

 

 瀧は少しだけ悩む。そして何かに気付いたように答えた。

 

「強さとは、思いを貫き通す力。私はね、そう思っているよ」

 

「思いを貫き通す力、ですか……」

 

「そうだ。それが強さだ。だとすれば強さの秘訣とはなんだと思う?」

 

「……己の信じる道をただひたすら突き進む……事ですか?」

 

 疑問で答えるクリス。それもそうだ。クリスはそれが答えでないことを知っている。

 

「それもまた一つの答えだがね、私は違うと考えている。思いを貫き通すとは、無闇に突き進むのとは訳が違う」

 

 イクシーズの最強格がそう述べる。

 

「周りを受け入れて、考えて。だからこそ自分の進むべき道を正せる。必要なのは盲信じゃない。確信だ。私が思うにね、強さの秘訣とは柔軟性。自分を多方向から見て、その方向全てに独りよがりでない答えを出すことができれば、それは大きな飛躍となるだろう。そうして人は強くなる事が出来る、革新する事が出来る」

 

「なるほど……」

 

 ふぅん、この前暴虐の翳りを見せたばかりの少女がご高説を垂れる。が、それは彼女が自分なりに見つめ直して出した答えなのだろう。それこそが革新、か。

 

「だから私は言いたい。友を作れ、友と道を歩め。そして互いを高め合え、切磋琢磨せよ。友が居れば道を違えた時も正せ合える。それが私の答えかな」

 

 その場に居る誰もが感心してしまっていた。クリスは瀧という人物をよく知らないから素直に感心できるだろうが、少なくとも光輝とホリィは違う。狂戦士のような一面を知っているのだ。その瀧が、そんな真面目な回答をできるとは。いや、瀧の答えたそれは、予想以上に納得の行く物だ。

 

「つまり……光輝、互いに高め合いましょう!」

 

「……ま、まあ?控えめによろしく」

 

 キラキラとした目で見てくるクリス。その対象が俺でいいのか本気で分からない。だが、クリスがいいのならよしとしよう。

 

「コーちゃん、俺も強くならなきゃいけないんだ……一緒に戦ってくれるか?」

 

「いや、何とだよ」

 

 後藤はスルー。コイツは絶対深く考えていない。だって馬鹿だから。ハーレム作るために強くなりたいとかどんだけ不純なんだよ。

 

「さて、他に強さへの秘訣があるとするなら……いざ戦いという状況に置かれた時、敵が強大であれば強大であるほど脚が竦むこともあるだろう」

 

「それは」

 

 心当たりのあるクリス。彼女はその場に直面している。そう、それは。

 

「恐怖。恐怖は人の心を著しく蝕む。それでは自分の真の力が出せない。そういう時は自分で自分を鼓舞してやるといい。……岡本クン、いいかな?手伝ってもらっても」

 

 瀧は部屋の掃き出し窓からテラスへ出ると、光輝を手招きする。今から何かするつもりのようだが、光輝はまだ察していない。訝しげな顔でついていく。

 

「一体何を」

 

「私の口上だ。聖霊祭の決勝ができれば望ましい。できるかな?」

 

 ほう──これはまた。

 

 ニヤリ、と光輝は笑む。

 

「いいね、乗った。氷室翔天(ひむろしょうま)役だな……やってみる」

 

「流っ石!では、行くぞ」

 

 嬉しそうに笑う瀧、説明を聞き光輝はなんのことか直ぐに理解した。瀧は再現をしようとしている。それは聖霊祭の決勝戦、瀧シエルと氷室翔天。1年と3年のSレートの戦い、その再現だ。

 

 成り切ってやろう、俺は能力者オタクなんでね。

 

「1年生か。君が強いことはよく分かる。よくぞそこまで磨き上げたものだ。だが、僕の計算では君に万一つの勝ちもない。「氷天下(ひょうてんか)」氷室翔天……君は知ることになるだろう」

 

 瀧の前に立つ光輝は無い筈のメガネをクイ、と人差し指で押し上げる動作をする。その相手は2年前に聖霊祭を制した男、「氷天下」氷室翔天。さしずめ、厚木血汐の対になる男。冷静沈着の氷使い。

 

 だが、瀧シエルは大胆不敵を行く。己の能力「精霊の加護」を解放し、その身に風を纏う。

 

「ふっ、ははは!」

 

「……」

 

 彼女から、溢れる、プレッシャー。その勢いに、その場の誰もが飲まれる。

 

 おいおい、これはごっこだってのに随分と本気で力を解放する……!!

 

「私が挑む?違うな。青年。挑むのはお前だ。お前の目の前にあるそれは世界最大の「不浄利(ふじょうり)」だ。決勝戦で2年前の優勝者を倒せるなど、最上の状況。約束しよう、1分。その間に倒す」

 

 それが瀧の答えだった。氷室の口上を演じた光輝は、一字一句その通りだった事を確認する。それが、瀧シエルの口上。敵が実力者だろうがなんだろうが関係ない。瀧は、試合が始まる前に敵を煽る。傲慢に、自分こそが最上だと。自己を鼓舞する。

 その代名詞が世界最大の「不浄利」という言葉。自分は凄いのだと、強いのだと誰にでもなくアピールをする。そして瀧は動くのだ。その不浄利を持って、敵をねじ伏せるのだ。

 

「……と、このように。いざという場面で自分に自信を付ける時、自分を鼓舞してやれ。武将が名乗りを上げるのと同じだ、非常に役に立つ。手のひらに人を3回書いて飲み込むよりも私は重宝している」

 

「いやいや、本気で死ぬかと思ったんだが」

 

 あまりプレッシャーを出しすぎないでくれ、心臓は弱い方なんだ。

 

 ……しかし、最強だ最強だと言われてるけど、瀧にも人間らしいトコってあるんだな。まさかあの言葉が自分を応援するものだったとは。それもそうか、こう見えて俺らと一緒の高校一年生なんだよな。

 

「瀧はすげーけど、よくコーちゃん氷室の言葉覚えてんよなー。やっぱ能力者オタクだわ」

 

 うるさい。印象的だったし覚えてるもんは仕方ねーだろ。

 

「なるほど……あ、たぶん私、日本文献で似たもの見たことあります。光輝、やってみていいですか?」

 

 クリスは一人頷くと、光輝を相手に実践したいと言う。

 

「……やりたいのか?」

 

「はい」

 

「ま、やってみるか」

 

 今度はクリスと光輝が向かい合う形に。そしてクリスは重力制御を解放し、光輝を見据える。

 

「……吾は面影糸を巣と張る蜘蛛。──ようこそ、この素晴らしき重力空間へ」

 

「一体どんな日本文献見たんだよ」

 

 クリスの口上に間髪入れず突っ込む光輝。なんかいけない方向に向かっている気がする。その方向に進んでは駄目な気がするのだ。またおかしな日本文献を読んだに違いない。

 

「えっ、ダメでしたか……!?そんな、「奈落より深い!ジパングの心」を何回も読んだのですが……」

 

 何そのタイトル。

 

「おう、出直しだ。もっとちゃんと練り直してこい」

 

「えー」

 

 残念そうな顔をするクリス。うん、駄目だ。間違っている事は間違っていると、友が道を正してやらねばな。大丈夫、まだ間に合う。

 

「はい、コーちゃん、俺も、俺も!」

 

「また今度な」

 

 事前に断る。コイツも似たようなことやりそうだ。名乗りを上げる、ねぇ。自分に自信のない俺には、関係の無いことか。

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