新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺― 作:キングオブコージ
刑部之也討伐作戦の報告、とはよく言ったものだ。あれではまるで拒絶しているかの様な──いや、その為に此処に来たのか。まるで断ち切ろうと言わんばかりに。
そして、この停電。偶然な訳がない。このお姫様が、あの支部長が何を考えているかは分からないが。今とにかく分かるのは、また少しばかり面倒くさそうな事に巻き込まれたという事。
だが、それは決して悪い事ではない。その為に連れてこられたのだろう。安いものだ、これで信用を取り戻せるのなら。
二振りの宝刀から放たれた光が照らす薄暗い廊下の先、現れる一つの影。髪型、骨格、服装……薄暗い中、臨戦態勢のイオリの赤い瞳が捉える。女性だろうか。
「ただの停電──って訳じゃなさそうだな」
イオリが喉仏の無くなった女の姿からしか出ない、低めの、だがしっかりと女性特有の声でその人影に問う。
「支部長から伝言です。「丁重に可愛がってあげよう」と──『影縫い』」
ずあっ。女がそう堂々と答えると、その足元から黒い影が伸びてこちら側まで瞬く間に辿り着き全員の足元に嫌悪感が絡みつく。──足が動かせない。成る程、捕縛の類という訳か。だとするなら。
「祈、これ剥がせるか」
隣に居る土御門祈に確認を取るイオリ。その言葉を受け、彼女は眉を顰め一瞬戸惑う。
「えっと、
ほう、随分と自信がある様だ。彼女の出力精度がどれほどかは分からない。が、この程度の拘束なら「刑部之也討伐作戦」の時のようにはならんだろう。節度ぐらいは分かる筈だ。
「頼んだ、迷わず行け。責任は佐藤が取る」
「えっ私ですか」
当たり前だ。他に一体誰が責任を取るのだと。その了承を聞き届け、覚悟を決めた彼女は。
「では──御免っ、「
ットォン!!豪華な廊下の床を、燃え盛る拳が貫いた。その焔が激しく光を放ち、立ち込める影を穿ち。バチリっ、と辺り一帯の地面を張っていた影が弾け飛ぶ様に消滅する。
「っ──」
と、同時。その影を這わせていた能力者であろう女がクラりと床に向かって揺れる。
「佐藤を頼む」
「はい」
永親に声をかけ、自由になった足で廊下を瞬時に駆けるイオリ。影の女が床に倒れ込む前に腕で抱きとめ、安全を確保する。
……呼吸はある。気絶しているだけなら良かった。結界術か何かだっだのだろう、刑部之也ですらが雨雲の結界を破壊された時に立て直すのに時間を要していた。強力な力には制約が付き物、と云う事か。
その女を廊下の端に寝かせ──束の間。
「──姫様っ!」
永親が叫ぶ。佐藤麒麟を庇い、身を挺して薄暗い中で奇襲を受ける。襲撃者の相手は絵に描いたような忍装束の姿、鈍い音が鳴り響いた。肉弾戦か──。
ズザッ。永親に対処された忍装束が着地し、一旦距離を取る。
「反応が良い。流石は近江」
「
向かい合う長親と、声色からして女──忍装束の、服部と呼ばれた女。面識があるのだろうか、お互いの名を呼び合った後──
「結構結構。へぇ、やるじゃないか。」
ぱちぱち、とわざとらしく音が鳴るように手を叩いて暗闇から新たに現れたのは──『久遠の方舟』滋賀支部長その本人、
「一応データベースの評価では二人ともAレート判定なんだよ?それを容易くいなすなんて……随分と優秀な部下を揃えたんだね、紗蔵の神子」
「褒められてますよ祈さん」
「えっ?ありがとうございます!」
絶対にそういう意味ではないだろう挑発を悪乗りして祈に流す佐藤。祈も祈だ、素直すぎる。
しかし、こういう腹黒さ?は、本当に肝が据わっていると感嘆する。……今、
笑みから一転、久住は目線を細める。
「……余裕そうだけど。その顔、いつまで持つかな」
懐から彼は一枚のお札を取り出す。それが指先を離れ、宙に踊り。
「
ドン!お札が白く、強く光り、大きな音が木霊して。仄暗き通路に降り立ったのは……青白く光を放つ、大きな通路を埋めるほどの大きさの──怪物、いや、それは……「
その鬼の登場に、久住がしたり顔で笑む。
「僕の能力は「式神術」。この一匹にSレート能力者を圧倒するぐらいの力がある。しかも、それを同時に三体は使役する事が出来る」
まるでセールスを謳う様に己の力を誇示する。確かに強力、これが『久遠』の支部長が持つ力か。
「刑部之也を倒したなんてフカシた悪い子にはお灸を据えないとね。なあに、僕は優しいから
「
離れた位置で、黒い着物姿の女──イオリ・ドラクロアが左腰に携えた日本刀に手をかけ、言葉を紡ぐ。鞘越しの青白き光が強く輝いて。
随分と余裕そうだが、御託を述べる暇が何処にある。この場は既に戦場、研ぎ澄ませぬ平和惚けした
「“
抜かれた刀が強い一閃を描き、その威光が瞬く間に鬼に届いて。
パァンッ。巨躯の鬼が、風船のように爆ぜた。
「え」
チィン。青白き宝刀「ドウタヌキ」を納刀し。イオリが赤き瞳で、まだ状況を理解してない久住に問う。
「三体同時に使役出来るのだろう?試してみたらどうだ」
一瞬。ほんの一瞬で、切り札が消し飛んだ。その投げかけられた言葉に、言葉の主に、落ち着きながらも放たれる厳かな威圧感に、久住は意図せず後ずさりをしていた。
「い──いやいや!?そんな訳が無い!僕の
「格の違いとは」
ドウッ。瞬間、目の前の黒い着物の女から溢れ出る桁違いの「神力」に、久住は後ずさりしようとして足が地面の絨毯に引っ掛かり尻餅を付いた。
「こういうのを言うのか?」
「──」
言葉にもならない。仮にも統括管理局からSレートの評価を出されていた彼は、この日、生まれて初めて絶望と云うものを知った。
祝福に、至っている。人の身で在りながら。神力だけなら、紗蔵の神子よりも遥かに──ッ!?
「そうそう、申し遅れました」
怯える久住に、満面の笑みを向けるのは佐藤麒麟。本当に、嬉しそうに柔らかく言葉を紡ぐ。
「刑部之也を打ち倒した
それが、決定打。それがフカシでは無く事実なのだと確信した男は意図せぬ体の震えを止める事が出来ず。
「
自分でも歯が浮く台詞だ。
「
イオリは両腰に携えた刀を鞘から少し浮かせ、そして金打をする。辺りを染める程の青白き光、赤黒き光。その爆発とも呼べるような力の奔流に。
「あぁがっ──」
どさり。神力を解放したイオリ・ドラクロアの仕上げの見え切りを受けた久住は、放たれた