新社会「イクシーズ」―最弱最低(マイナスニトウリュウ)な俺― 作:キングオブコージ
イクシーズの中心部から少し離れた郊外、そこには木造建築の大きな屋敷があった。
瓦葺きの屋根、池も備えた白い玉石の敷き詰められた庭園。イクシーズでそれほどの屋敷を持つというのは、ただアパートやマンションに住むのとは訳が違う。多大な金額がかかっている家であった。
その屋敷のある一室。10畳の厳かな和室に、二人の若者が居た。
「さあ、では総会議だ。征四郎、お前の収穫を全て晒せ」
一人は、長い黒髪を後ろで赤いリボンで一つに束ねた、背の低い少女。しかし、その風格に幼さは無く、堂々たる風格だ。
「はい、分かりました」
向かいのもう一人はまた、背の低い少年。髪は美容室にて切ったのだろう、ワイルドながらも綺麗に纏まっている。身なりに手を抜いていない。その名は後藤征四郎。イクシーズの高校に通う、1年生だ。
征四郎は横に置かれた大きなバッグから慎重に物を取り出していき、畳の上に並べていく。それはB5サイズからA5サイズの、通常の本よりも厚さがかなり薄めの本だ。表紙には可愛い女の子が書かれているものばかり。それを、これでもかとバッグの中から取り出していき、畳の上にズラーっと並べていく。言葉にするならそれは壮観。
並べ終えたそれを見て、満足そうに少女は放った。
「パーフェクトだ、征四郎」
「感謝の極み」
褒められた征四郎は、向かいの少女に対して座礼をする。傍から見たそれは、とても堅苦しい。普段の後藤征四郎という少年にはとても似ても似つかしくない物だった。
それもその筈だ。征四郎の目の前に居る少女は征四郎の「師匠」たる人物だった。
「とまあ、この辺りにしといて。有明遠征初参戦でよくここまで仕留めたもんだ。やはり私の目に狂いはなかった」
「いやぁー、そりゃもう師匠による指導の賜物ですよー」
瞬間、征四郎の表情が崩れ満面の笑みになる。普段の征四郎の表情だった。
この二人は三日間、イクシーズの外に出て東京の「創作の祭典」に参戦していたのだった。そこでは同じ志を持った者達が集い、戦い、肩を組む。辛くも楽しい、そんな祭がお盆に三日間だけ開催されていた。
「私が速さを追い求めたのも、有明遠征の為でもある……私は願ったのだよ。誰よりも速く歩けるという事は、誰よりも早く買えるという事だ」
「なるほど……その通りですね。今、心に刻みました!」
「うむ」
少し遠い目をして語る少女と、頷く征四郎。
「して、収穫祭は小休止で征四郎よ。よくぞやった」
少女が取り出したそれは、5枚の商品券。イクシーズ内でだけ使える、二千円の商品券5枚だ。そう、それは後藤征四郎が学校のキャンプの、肝試し大会で競り取った優勝賞品だった。征四郎はそれを、己が残した実力の結果として少女に献上していた。
「肝試し大会にて瀧シエルを他者が相手取っている間に優勝を掻っ攫い、テログループ「シェイド」の強襲の中でメンバーの一人を捕獲。私の弟子としてのスタートとしてはまずまずじゃないか」
「いやぁー、それほどでも」
征四郎が成したそれは、凄いことだった。少なくとも、日々を呑気に暮らして、平凡に生きている学生からすれば、それは破格のものだ。
「しかし、これで終わりじゃない。お前への真の課題は大聖霊祭の優勝だ」
そう、少女が課した後藤征四郎への課題。それは、「大聖霊祭」での優勝だった。その為には、あと二回ある祭「オータムパーティー」「聖夜祭」の内どちらかで優勝をしなければいけない。その為には乗り越えなければいけない壁が幾つもあった。
三極の内、既に「サマーフェスティバル」で優勝を収めた厚木血汐は除いたとして、残りの二人は確実に出てくるだろう。氷室翔天と、
そして、最近話題の白金髪の不良、白銀雄也。コイツも、五大祭に参戦してくると読んで間違いないだろう。話では対面グループのリーダーということだ。絶対に、強い。
「ちなみに分かってると思うが、大聖霊祭に参加すら出来なかった場合は
「分かってますよ。大聖霊祭での優勝っすよね。やりますよ、俺は」
他にも多くの手練が居るだろう。それらを押しのけての優勝。参加すらできなければ、破門。
考えただけで、手が震える。しかも、現在大聖霊祭への出場権を得ているのは「厚木血汐」と「瀧シエル」。両者共にSレートだ。
ゴクリ、と生唾を飲む。まだ先の話だというのに、緊張が止まらない。
「よろしい。まあ、幸い次の祭「オータムパーティー」まで2ヶ月もある。その内に出来る事は全部やっとけ。その為に、私もお前を徹底的にいびり倒してやる。必要なのは「理詰め」じゃない、全ての状況に対応出来うる力だ。理屈だけで勝てるなら、私はSSレートになれなかった。分かるな?最弱だろうがなんだろうが最強に勝つ方法はある」
「はい……よく分かっています」
つい、目線を下にやる征四郎。征四郎は掲げた目標がある。ハーレム王に、俺はなる、と。小説の、漫画の主人公のように、強くなって、どんな敵でも倒して、女の子にモテまくりたい。栄光を歩みたい。それは、少年が抱いた、夢であった。
しかし、それが何を意味するのかぐらい分かっている。所詮そんなのは夢物語だ。自分は彼らのように強くない。才能も無い。神から与えられた力も無い。あるのは人よりも少なめの身体能力と、それを補うための申し訳程度の能力。
……勝てるのだろうか、これで?あの瀧シエルや、厚木血汐といった天才共を相手に?この俺が?
無理だ、諦めよう、仕方ない。それらの言葉を吐くだけで、簡単に終わってしまいそうな自分の世界。いや、違うか。そうすれば始められるんだ、身の程を弁えた生活を。それが正しい。今の自分は無謀だ。
けど。だって。目の前の少女はそれらを全部、やってのけたんだ。
「
征四郎を諭す少女。征四郎は目線を上げ、少女を見た。その眼に、言葉に、表情に偽りはない。
「私は努力した。そして成功した。お前に、私を越せとは言わない。私と並べとは言わない。けれど、追いすがってみせろ。私の背中を捉えてみせろ。それが出来るだけで、お前が凄いやつだって証明になる」
この少女は、自分をこんなにも信用してくれている。期待してくれている。だったら、立ち上がるしかないじゃないか。
「はは、そうですよね。だって、イクシーズ最速にして対面最強、
後藤征四郎の前に在る少女。彼女の名前は、三嶋小雨。三嶋流斬鉄剣の使い手にして、2年前の「大聖霊祭」の優勝者、対面最強。唯一の、「SSレート」。
「その意気込みだ、征四郎。まずは「オータムパーティ」で、サクッと優勝して来い!話はそれからだ!」
「師匠が2年前に制した大会ですね。分かりました。そして名実ともに、師匠の弟子だって証明して見せますよ!」
少年は立ち上がる。目の前の少女の想いを受けて。自分の中の想いの為に。そして、きっといつかは、彼女の背中を捉えるのだと。
三嶋小雨が唯一取った弟子、後藤征四郎。彼が目指した場所は、遥か頂。今は霞も視えない。しかし、進むしか無いだろう。少年が、それを望んでいるのだから。