衛宮さんがセイバーじゃなくて抜剣者を召喚しました。 作:さわZ
最近、生活リズムが変わってなかなか投稿できなくて、それでもちょくちょく投稿していこうと思います。
肩まで伸ばした紫色の髪を持った女子高校生、マトウ・サクラはほぼ日課になっている自分の通っている部活の元先輩だったシロウの家まで行き、共に登校するつもりで自宅を出た。
ここ最近、自分の環境が大きく変わった恐らくこれからはこのように通うことは難しくなる。後ろ髪を引かれる気持ちだが区切りをつけなければならない。これから自分は平和とは程遠い環境におかれるのだからと。今は自分の義兄を中心に今までのように彼と接することが出来なくなる。それが終わるのは少なくても一週間以上。下手すれば一年以上はかかるだろう。
自分が今までのように接することが出来なくなればシロウは心配してこちらの方へと近寄ってくるかもしれない。今はそうなる事は避けたい。だからこそ今日からしばらくそちらへ伺う事は出来ないと伝える為に衛宮邸の門まで歩いていくと、
「うわああああんっ!女子力、先生力、戦闘力で負けたぁあああっ!」
道着を着てオレンジ色の髪を短く切った20代の女性が衛宮邸の門から飛び出してきた。そして、サクラの事を見つけると同年代の女子と比べて大きい部類に入る胸に顔を埋める様に抱きついてきた。オレンジ色の髪の女性。自分達の通う教師も務めているフジワラ・タイガは衛宮邸で様々な敗北感を植え付けられて飛び出してきたのだ。
「サクラちゃんっ、もうあなたしかいないわ!見せつけてやるのよっ、その女子力と後輩力を持ってあの女狐達からシロウを取り戻すのよ!」
「え、えぇ?」
いきなり泣きついてきたタイガにサクラは困惑していた。更にその後ろからパタパタとサクラが先輩と慕うシロウが追ってきた。
「藤ねえ、いきなり外に飛び出すと危ないぞ」
「そう言って私よりもあの家庭教師感がプンプンのあの人の方がいいんでしょ!シロウの浮気者!謝って!私とサクラちゃんに謝って!」
「なんでさ」
「何さ、こう見えても私だっておっぱい結構あるんだぞ!ヒップだってっ!う、ウエストだってぇ」
最後の辺りはしりすぼみになるタイガ。タイガはある女性のボディラインに嫉妬したのだろう。彼女が敵対視している女性は彼女のいた世界でもナイスバディに当てはまる。ぶっちゃけ、タイガよりも出るとこ出ていて引っ込むところは引っ込んでいる。更にはタイガよりも教師としての経歴も成果も比べるのもおこがましい。更には外見から滲み出る保護欲・被保護欲に駆り立てられるような容姿と性格。その上、朝ご飯をたかりに、もとい食べに来たタイガが見た物はシロウと道場で稽古をつけている彼女の実力と指導力をまざまざと見せつけられたのだ。
体つき、性格、指導力の三連敗を喫したタイガはそこにいるのが辛くなって飛び出したところにサクラがいたので飛びついただけなのだ。もはや勝てる見込みがあるのはサクラの家事力。女子力しかない。この時点でタイガは自身で勝つことを放棄している。完全敗北である。
「あ、あのタイガさん。私はこう見えても貴女よりも確実に教師歴が長いのでそう気落ちしなくても・・・」
「タイガー、そう気落ちすることも無いわよー。この人、伊達に『教官ドノ』と呼ばれてないんだから」
シロウの後から遅れて出てきた赤髪の女性、アティと体の殆どを霊体化させたライザーの形をしたヴァルゼルドを抱えた白髪で小柄な少女イリヤが顔を出してきた。サクラの目から見てもその二人は美女、美少女といっても過言ではないほどの女性達だった。更によく見ると後ろの方で見慣れない白い服を着た女性が二人いた。勿論こちらも美形だ。
「・・・先輩、少しお話があります」
勿論前もっていた自分の家庭事情ではない。どうして一夜にして四人もの女性がこの衛宮邸に来たのか話してもらうためだ。この時点でサクラの目から少し光が消えていた。
「・・・なんでさ」
シロウ少年の受難は続く。
居間に集められたサクラとタイガは畳の上に置かれたテーブルを挟んで向き合うように座っているアティとヴァルゼルドを抱えたイリヤ。その後ろにメイドの二人が佇まい、シロウはお客様達の為にお茶出しに出ていた。
「へー、セイバーちゃんとイリヤちゃんがあのキリツグさんのおしりあいだったとはねー」
「ちゃん付けですか。ちょっと恥ずかしいですね」
リンと別れてから少しだけ仮眠を取ったシロウ達は取ってつけたような偽りバックストーリーをタイガ達に話した。
アティはシロウの養父、キリツグの知り合いの知り合い。イリヤはアティの親戚でメイドさん。セラとリーゼリットはその付添い。そしてイリヤが抱えているライザー(ヴァルゼルド)はお気に入りのお人形だそうだ。見た目が少女のイリヤに対して彼女のサーヴァントであるヴァルゼルドにはそれがぴったりのポジションだろう。昨日の夕暮れにやって来た彼女達をそのまま泊めて、早朝にシロウが武術の心得があると聞いたアティが実際確かめてみようという事で稽古している所をタイガが目撃し、そして今にいたる。
「あ、私はあはうっ」
「ごめんね、お姉ちゃん」
アティが自分の名前を言おうとした瞬間にイリヤが抱えていたヴァルゼルドをアティの膝にぶつけるように落とす。見た目通りというか軽いが堅いその体をぶつけられたアティは小さく悶える。いい加減諦めたらどうだ思うイリヤと諦められないアティ。いつか絶対に自分の名前を言ってやると誓うのだった。思えばヴァルゼルドも教官ドノであり真名。クラスで呼ばれど、未だに本名で呼ばれていない。というかヴァルゼルドがいる時点で彼等には呼ばせてもいいんじゃないかと思うが、(アティ達が)不利になるから駄目と敵側であるイリヤに止められている。まあ確かに名前を知られるだけでも不利になるような術。リインバウムにも妖怪といった化生が住む世界、鬼妖界シルターンの呪術の中に似たような物があるので分からないでもないが諦められないアティだった。
「うう、はい。私はセイバーです」
「あはは」
シロウとしても自分のサーヴァントなんだから名前を知ってもいいんじゃないかと思っていたがイリヤに簡単な魅了の魔法をかけられてあっさり陥落した。シロウがアティの名前を知ると簡単に漏洩することが分かり断念した。と、なんやかんやあったがイリヤ・ヴァルゼルド組とは同盟とまでは行かなくても停戦までこぎつけたのがアティらしい粘り勝ちだった。
しかし、粘るのも当然。アティ・シロウ組は弱かった。アティは自分の切札のウィスタリアスを召喚しなければイリヤ・ヴァルゼルドに完封されるのはもちろん。リン・アーチャー組にも負ける。話し合いによる停戦が出来なければ完全に手詰まりなのだ。
サーヴァントは呼び出される際に最も力を有した時期で呼ばれる。戦士なら一番力を有していた若い時期で呼び出される。
ヴァルゼルドならとあるダンジョンにあるロボットとごくごくわずかの人間住むSFじみたシロウ達にとっては未知の世界、機界ロレイラルの技術で作られた装甲ヴァテック125という特殊装甲を装備している。これは大砲の弾を至近距離受けようとも傷がつかないアティの扱うシャインセイバーでも傷つかず、アーチャーやランサーの攻撃でも余程力を籠めないと傷がつかないだろう。更に麻酔銃といった結構身近に感じる物があるがこれの弾丸にあたれば象はもちろん巨大な昆虫。下手すればクジラすらも昏倒する威力を持つしかも後遺症無し。と、ふざけた能力だ。そして近距離装備に『勇者ドリル』。これまたふざけてんのかと思われがちだがそのドリルに穿てぬ物はなし。当たれば間違いなく必殺の一撃になる。それにプラスしてマスターであるイリヤの魔力の補助を受けてその防御力・対魔力。攻撃力はそうかして今のヴァルゼルドはかなり強化されている。正直な話こいつ一人でとある無限ダンジョンも下層までなら余裕じゃね?と言われるくらいに最終決戦装備である。
対してアティはというと装備品がシャインセイバーのサモナイト石と私服のみ。しかも自分が呼ばれた時期が『教師としての』力を最も有していた時期であり、自分が戦闘していた時の黎明期に比べると戦闘力はかなり見劣りする上に装備品が貧弱。たまの教師としての休みも好物であるフルーツパフェを食べているか釣りをしている。剣を握るのもごくたまにとある悪魔についていって炎の獅子に見てもらう程度だ。
ちなみにこの悪魔と獅子、二つ名ではなく正真正銘の悪魔と炎のライオンであるが、アティは悪魔に対してはさん呼びだがライオンに対しては様付け。理由はライオンなのに剣の指導ができるって凄すぎぃ。ってことらしい。さらに言うならいきなり別世界に召喚されても落ち着いているのはこの二人が自分がいない事に気が付いて探しに来てくれると信じているからである。よってアティがすることは二人が来るまでに今起こっている聖杯戦争をどうにかするために奔走するだけである。聖杯にかけたい願いも無いわけではないが誰かを殺してでも叶えたいわけではない。
「それじゃあ皆さんはしばらくの間先輩のところにいるのですか?」
「あはは、しばらくはうちで預かるつもりだ」
サクラはシロウに視線を合わせて彼女達のこれからについて質問する。が、それに対しての答えは未だに出ていない。聖杯戦争。戦争という概念からも拠点は重要になってくる。遠坂邸を然り、イリヤの住んでいるアインツベルン城。ヴァルゼルド達と交戦したキャスター陣営も立派な拠点を持っているが衛宮邸は心細いことこの上ない。ぶっちゃけ丸裸な拠点だ。そこで以外にもイリヤのメイド。リーゼリットが同盟を結ぶんならうち(イリヤ)の城にこればいいと言った。それに関してヴァルゼルドとアティは大賛成だったが、アティに対して警戒心がまだ残るイリヤとセラは反対した。シロウもよそ様の家に厄介になることに抵抗を見せたシロウ。そもそもまだ同盟が結ばれていない。なら結びましょうよ同盟。とサーヴァントの二人の要求(申請中)に実は負けそうなイリヤだった。ヴァルゼルドに関してイリヤとセラ、リーゼリットは実はすごく甘くなっている。アティに対する不信感が無くなればすぐにでも首を縦に振るだろう。
「って、もうこんな時間か、藤ねえにサクラ。部活に遅刻するんじゃないか?」
「あ、本当ですっ、急がないと藤村先生」
「えー、もうそんな時間。じゃあシロウも一緒に行く?」
「あー、俺は」
シロウはまだアティとイリヤと話し合って同盟を組むかの話がしたかったのだがアティがそれを止める。
「一緒に行ってきたらどうですか?学生は学業が本業ですし。あと私も一緒に行ってもいいでしょうか?」
先生としての生徒の学ぶ姿勢を崩したくないアティ。ついでにこの世界の学校というのも見てみたい。別世界から来たことは上手くぼかして伝えるとタイガはそれを了承。サクラもそれに追随するように促していく。最後にイリヤもシロウの通う学校というのを見てみたいと言いだしそれに折れたシロウは結局女性六人と機械兵士一名に見送られることになる。
校門前まで登校するシロウ達に幾人もの視線が集まっていくが当人たちはそれに気が付かない。サクラとタイガはいつもの通りだがそれにプラスしてアティやセラ、リーゼリットといった美女にイリヤという美少女がついていくのだ。なんだこのハーレムは。
「タイガ先生。サクラちゃん。シロウ君。お勉強頑張ってくださいね」
優しい微笑みで送り出されたシロウ。その笑顔に登校途中の男子生徒は誰もが見惚れ、そして。
「「「死ね、エミヤァアアアアアアッ!!」」」
「なんでさぁあああああっ!」
全男子生徒が嫉妬した。
アティ先生に笑顔を向けられたら私(作者)だって嫉妬する