『世界初のフルダイブ型MMORPG“ソード・アート・オンライン”新たなゲーム体験を求め、1万人のプレイヤーが剣の世界へ飛び込んだ。しかし、彼らはこの世界の創造主“茅場晶彦”の企む地獄のゲームへの供物だった。ログアウト不能、HPの消失は命の消失。それがプレイヤーに課せられたルール。脱出するにはSAOの舞台“天空城アイン・クラッド”の100層の突破。気の遠くなるような条件だ。だが、絶望するにはまだ早いぜ。最後の希望は確かにそこにあるのだから』
・
アイン・クラッド第1層、とある迷宮…
「はあ、はあ、はあ」
息も絶え絶えになりながらアスナは目の前の敵にソードスキルを発動する。アスナのレイピアが輝きを放って敵を砕いた。
経験値を手に入れてそのことを確認するもアスナは剣を収めなかった。
まだ足りない。もっとレベルがいる。アスナは焦っていた。1ヶ月、このデスゲームが始まって1ヶ月だ。なのに、それなのにまだこの1層からプレイヤーは出られていない。自分でやるしかないのだ。3週間経った時、アスナはついに決心して、こうして迷宮にこもった。1週間戦い通し、寝る時も迷宮内、そんな生活。思えばかれこれ三日三晩飲まず食わずだ。それでもアスナは止まらない。
私が戦う。アスナの脳にあるのはそれだけ、フラつく足に無理矢理喝を入れアスナは再び歩き出す。そうしているとノコノコと獲物が顔を出す。
お前も私が倒す。アスナが剣を構えると敵も戦闘体勢をとる。ソードスキル、アスナがこの世界の必殺技の発動モーションに入る。しかしその時、
「あっ…」
急に気分が悪くなって、アスナは膝から崩れた。目の前には迫る敵、終わった。アスナは悟る。まだ何もしてないのに!ギリギリと歯を食い縛るが動かぬ体、遠のく意識は正常には戻らない。音にならない慟哭とともにアスナは目を閉じ、死を受け入れた。黄金の輝きに包まれてアスナは闇へ落ちていった。
・
『コウガ、無愛想な顔して意外とムッツリなんだな』
「黙れザルバ」
誰かが話している?働かない頭で声を聞きながら、アスナはゆっくりと体を起こした。
『よう嬢ちゃん』
「誰⁉︎」
ようやく状況を飲み込んでアスナはたじろぐ。見知らぬ場所と目の前には白いコートの少年、確か迷宮でモンスターに返り討ちに遭いそうになってそれで…
ダメだ記憶が無い。誰なんだ目の前のこいつは。アスナは身を守るために構えた。
「助けてやったのに礼も無しか?」
そんなアスナを見て無愛想な声が言った。
「別に助けてなんて言ってないわよ!そっちこそ勝手な真似したくせに偉そうにしないで!」
『はははは!気の強い嬢ちゃんだ。コウガ、一杯食わされたな』
「誰⁉︎」
白いコートの少年とは違う声、しかしここには2人しかいない。キョロキョロとしていると少年はアスナの目の前に左手を突き出した。その中指には髑髏の指輪がつけられていた。
『喋ってるのは俺だ、嬢ちゃん』
カチカチと下顎を動かし、指輪が喋る。一瞬面食らったがここがゲームの世界であると思い出し、持ち直す。
「で、喋る指輪と白いナイトさんはなんで私を助けたわけ?私、お礼に渡せるものなんて無いんだけど?」
「だろうな、ただお前を見かけて、見捨てたら寝覚めが悪いと思っただけだ。死ねなくて残念だったな」
「なっ、ええそうね、残念だったわ。あなたみたいな人間性の欠けた人に拾われて、お礼はいらないんだったわよね。だから何も言わない。さよなら」
アスナはベッドから立ち上がると手早くローブをひっつかんで部屋から飛び出した。高圧的な目、態度、コートの少年、コウガとか言っただろうか?とにかく彼の全てが気に食わなかった。助けてくれたことに感謝していないわけではない。だが、あんな態度を取られたら話は別だ。
「ムカつく!頭冷やさなくちゃ…」
外の空気が吸いたい。いいベッドで寝られたからだろうか、体に蓄積された疲れは取れている。早くここから出よう。アスナは急いで宿屋らしきところから脱出する。だが目の前に広がっていたのは見知らぬ街の風景だった。
「どこなのよ、ここ!」
始まりの街とダンジョンの行き来しかしなかったことを後悔しつつ、アスナは絶叫した。
「トールバーナの街だ」
背後から呟く声が聞こえた。馬鹿を見るような目でコウガがこちらを見ている。
「ガイドブックに書いてあるだろう」
ガイドブック?アスナが首を傾げるのを見てコウガは言った。
「商店に無料で置かれていただろう。俺は金を取られたが、お前みたいな奴ならタダでもらえるはずだ」
知らなかった。呆然とアスナは呟く。今まで武器と回復アイテムに資産のほとんどをつぎ込んでいて、それ以外の物に興味を持たなかったのである。初心者のためのバイブルがあっただなんて露ほども知らなかったし、知ろうともしなかった。
「はあ…お前、そんなんでよく生きてこられたな。大したもんだよ」
「何よ嫌味⁉︎」
「半分はな」
残りの半分は⁉︎とアスナが聞くのを待たずコウガはコートを靡かせ歩き出した。
「ちょっと、どこへ行くのよ!」
「どうせ当ても無いんだろ?だったらついて来い」
コウガの言いように思わずむかっ腹が立ったが、彼の言う事は事実であった。アスナは仕方無いと必死に自分に言い聞かせて、後に続いた。
コウガに連れられアスナが街の中心部にある広場に着いたのは午後4時前だった。街を散策しながらここまで来たのであるが、ここに近づくにつれて目に見えて人口密度が増していた。
「なんでこんなに人が多いの?」
アスナが問う。
「今日の午後4時から、ここで第1層攻略会議が行われる」
えっ?とアスナは面喰らった。待てども暮らせど攻略が進まぬ今日の状況に、てっきり誰もが攻略を諦めたのだと思い込んでいたからである。しかし、諦めてなどいなかったのだ。自分が知らぬ所で着々と、ここにいる彼らは力を蓄えていたのだ。
「私、馬鹿みたい」
口をついてそんな言葉が出てきた。
『ふん、嬢ちゃん。どうせ死ぬならもっと意味のある所で死にな』
「ザルバ」
下卑た笑いを浮かべる指輪のザルバをコウガが諌めるが、アスナはそんな事気にしないとばかりにコウガを追い抜き、自らの意思で噴水を中心にした広場の段差に腰掛けた。それに倣うようにコウガも隣へ腰掛けるとちょうど4時を告げるチャイムを広場の時計が奏でた。
「みんな、今日は集まってくれてありがとう!俺の名はディアベル。気持ち的にナイトやってます!」
チャイムが鳴るのを今か今かと待っていたのだろうか。噴水を縁をお立ち台代わりに立つ青い髪の男ディアベルの顔は高揚しているように見えた。
「今日集まってもらったのは他でもない。昨日、俺達はついに見つけたんだ。この第1層を守るボスの部屋を」
ディアベルが宣言すると広場中から歓声が上がる。周囲の人間との接触を断っていたため。アスナはこの盛り上がりに乗り切れ無かった。しかし、隣を見ると早く進めろとばかりにディアベルに冷めた視線を送るコウガがいて、仲間ハズレではないという安心を感じた。
そんな風に一部冷めた人間がいるとは露とも思ってないようにディアベルは熱い思いを叫び続ける。
さすが鬱陶しいかもしれない。アスナはそう思って、もう一度コウガの顔をチラリと覗いた。コウガは眠っているようにジッと目蓋を閉じていた。
お察しの通り気の短い隣の男の様子に嘆息したアスナだったが「ちょっと待てや!」という関西弁の怒号を聞いて意識を広場の中心へ戻した。
「ワイはキバオウっちゅうもんやけどな。ちょっと言いたいことがあるんや」
怒鳴り声を上げたイガグリ頭のキバオウはみんなの注意を自分に集めてから、視線を移す。ピタリとキバオウと目があってアスナはギョッとしたが、すぐにそうではないと気付いた。キバオウが睨んでいるのは自分ではない。横にいるコウガだ。
「おい、そこの白コート。お前βテスターやろ!」
ザワザワと広場にいたプレイヤー達が視線を向けてくる。あまりの居心地の悪さにローブのフードを目深に被り、頭を抱えて伏せた。
『よう嬢ちゃん』
姿勢を低くすると、コウガの指にはまるザルバがにやけ声で話しかけてきた。
「ザルバ、どういうこと?あなたのご主人様はお尋ね者か何かなの?」
コソコソと周囲に漏れない声でアスナが聞いた。
『コウガが俺様のご主人?まあそれは良いとして、コウガは別にお尋ね者じゃないぞ』
「じゃあなんで?」
『あいつらが言ってただろう?βテスターって』
「なんなのそれ?」
『本当に何も知らないんだな。βテスターってのはこのゲームが正式に始まる前、つまり嬢ちゃんみたいな初心者がログインしてくる前にこのゲームが正常に動くか体験プレイした連中のことさ』
「それがなんで…」
言いかけたと同時、アスナは後ろからローブを引っ張られた。痛い、現実程ではないが衝撃と相まって不快感が襲って来る。しかしそれは一瞬にして消え去った。
「グエッ」
カエルみたいな声を上げてアスナの背後でキバオウの仲間らしき男が倒れていた。こめかみを押さえる男の視線の先には赤鞘の剣の柄頭を相手に向けるコウガがいた。恐らく倒れた男はあれで突かれたらしい。礼でも言いたいところだったが、それどころではなくなっていた。アスナを庇ったことで交戦の意思ありと見なされ、キバオウの仲間と目される男達数人がアスナとコウガを取り囲んで、武器の切っ先を向けて来る。そして仲間の男達に遅れてキバオウも来て、コウガと正面から睨み合った。
「堂々としたもんやなぁ。そんな綺麗なコート着て来やがって。そんなに目立ちたかったんか?ん?」
怒った声色でキバオウが言うが、コウガは無言で彼を睨んでいる。
「なんや、その目は?何をムカついてんねん。ムカついとるのはワイらの方や。お前らみたいなβテスターが情報を独占した結果、今までに2,000人が死んだ。お前はそいつらに詫びいれろや」
「それは…」
横暴だ!アスナが言いかけるが、別のところから声が上がった。
「それは違う」
ガタイの良い色黒の男性が手に持った冊子を掲げて言った。
「俺はエギルというんだが、キバオウ、あんたは間違ってる。情報は隠されちゃいない」
というとエギルは手に持った冊子を広げて見せた。
「こいつはどこの商店に行っても手に入れることが出来るプレイヤーメイドのガイドブックだ。こいつが配布されたのは、このトールバーナへプレイヤーが到達する前、しかしこの本には第1層どころか6層までの大まかな攻略法が記されている。β期間でクリアされたのは第6層まで、つまりこれを書いたのは他でも無いあんたが悪し様に言うβテスターだ」
「なっ…!でも」
エギルの言うことにキバオウは反論しようとする。しかしそれをディアベルが制した。
「キバオウさん、確かにあなたの気持ちはよくわかる。俺もここまでに仲間を失った。でも、今は前に進む事の方が重要なんじゃないか?死んでしまった人達が果たせなかった願いを、俺達が成し遂げるんだ。そのために俺は手段を選ばない。使える物はすべて使ってこのデスゲームを生き残る」
ディアベルの熱い言葉にキバオウは折れた。
「わかった。そこまで言うなら、ワイはあんたの言うことに従う。この白コートのことも見逃す」
そう言ってキバオウはディアベルと硬い握手を交わして、元の席へ戻った。去り際にキバオウはコウガに肩をぶつけ、
「お前が妙なことしたらすぐに袋叩きにしたるからな」
と捨て台詞を残していった。そんなトラブルに見舞われながらもその後、なんとか会議は終了した。
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「あなたのせいだからね」
会議の後、夕日に包まれたトールバーナの街でアスナはコウガに言った。
会議でのトラブルの後、ボス討伐の役割分担を決めることになったのだが、アスナとコウガは半ば無理矢理コンビを組まされ、さらに経験値やアイテムの分け前がほぼ無い後方支援へと回されてしまったのだ。すべてはキバオウが作ったアンチβテスターの空気のせい。アスナはコウガの仲間のβテスターとして扱われてしまったのである。
「死ぬよりはマシだろ」
「わかったようなこと言わないで」
口をついて怒りの言葉が出て来た。
「私は戦わなきゃならないの、戦って足掻かなきゃならないの。でなきゃ…誰も、私も、私を許せない」
「そうか…」
そう答えたコウガの口調は淡々としたもので彼の気持ちを読み取ることは出来なかった。でも、そんなのはどうでもいい。アスナは踵を返してコウガと別れた。
『危うい嬢ちゃんだ。どうするコウガ?』
アスナの背を見送ったコウガにザルバが問い掛けた。コウガは無言を貫いて、その場を後にした。
・
次の日の朝一番、トールバーナの街の門で集合した第1層ボス討伐隊は意気揚々と出陣した。隊列の一番後ろには後方支援を言い渡されたコウガとアスナの姿があった。
並んで歩いてはいるものの2人の間に会話は無く、和気あいあいとどこか遠足の様にも見える他の面子の中にあって異質だった。
そんな2人を連れた討伐隊は昼過ぎになってようやくボスの部屋にたどり着いた。
「みんな、ここまでに来たら言うことは1つ…勝とうぜ!」
ディアベルの高らかな宣言を合図に門が開かれる。ボス討伐が始まった。
「イルファング・ザ・コボルトロード…」
呟くようにアスナが部屋の主の名を読み上げるのをコウガは後ろで聞いていた。
「俺達の仕事は作戦が失敗した時の
『残念だったな』
「そう…」
アスナは呟いて、部屋の門の傍にコウガと同じようにもたれかかった。目の前では戦いが繰り広げられているのに2人の空間だけは呑気なものだった。
「ねえ」
あまりに暇を持て余して、アスナはふとコウガに問い掛けた。
「昨日、私を助けた時、なんで私を助けたの?」
「その質問は昨日も聞いたぞ」
「あんなふざけた理由じゃなくて、ちゃんとした理由を知りたいの」
眉をひそめたコウガにアスナは真剣な目で向き合った。すると彼は
「…お前の太刀筋が気に入った」
そう一言こぼして黙ってしまった。そんなこともお構いなしでアスナ達の眼前ではボス攻略がつつがなく行われていた。
・
「レッドゾーンだ。気を付けろ!」
ボス戦開始から1時間、ディアベルが叫んだ。コボルトロードは残りの体力が少なくなると攻撃パターンが変わる。フォーメーションを変えろと言う指示だ。攻略隊はコボルトロードの使う曲刀タルワールの攻撃に備え陣形を変える。しかしその途中、事件は起こった。
「タルワールじゃない!」
攻略隊の1人が悲鳴にも似た叫びをあげた。コボルトロードの手に握られていたのは曲刀というには真っ直ぐ過ぎる代物であった。
「野太刀だ」
アスナの背後でコウガは冷静に言った。そして次の瞬間、阿鼻叫喚の悲鳴とともに先鋒を務めていたプレイヤー達が宙を舞い。高くジャンプしたコボルドロードがそれらを刻んで青い粒子に変えてしまった。
「下がれ!」
仲間達の死を悲しむ間も無くディアベルが叫んだ。
『コウガ、仕事のようだな』
ザルバが言うとコウガは無言で退却する隊員達をかき分けて前線に出た。同じ仕事を言い渡されていたアスナもそれに倣った。
「どうするの?」
「死なないように注意しろ」
アスナが聞くとコウガはそう言って敵と向かい合う。
“ルイン・コボルト・センチネル”攻略隊に追撃を掛けようとしていた槍を持ったコボルドロードの取り巻き2体と相対していた。
「グルァ!」
センチネルの咆哮がゴングとなった。コウガにターゲットを絞った二本の槍が襲い来る。彼はその初撃を難無く躱す。続いてくる襲ってくる2体の攻撃の嵐もコウガは一切無駄の無い動きで躱し、剣さえ抜かずにセンチネルを1人で翻弄していた。
「すごい…」
アスナはコウガに加勢することも忘れ、感嘆の声を漏らす。いったいどれほど敵を倒せばあんな風に動けるのだろうか。他のプレイヤーとは比べ物にならない異次元の動きに、自分の力は邪魔になるとアスナは思った。
その直後、コウガはやっと剣を抜く。赤鞘から解放された両刃の直剣はセンチネルの槍を輪切りにし、1体を斬り裂き、1体を突き貫いた。
「ゴアアアアアアアアアア!」
センチネルが粒子となって砕け散るとコボルドロードの咆哮がコウガのコートを揺らす。
「コウガ君!」
「下がれ…」
「でも!」
「いいから下がれ!」
怒号が飛び、アスナは足を止めた。コウガは目の前の強大な敵に1人で挑もうとしていることは手に取るようにわかる。無茶だとアスナは思った。だって作戦を立てて沢山のプレイヤーが包囲して、それで初めて倒せるようなものだと言うことはすでに昨日の会議でわかっているから。あんな奴、1人で倒せるように出来ちゃいない。コウガにもそれがわかるはず。だが彼の背中は堂々としたもので、これっぽっちの恐怖も感じていないようだった。
「コウガ君…」
後ろでコウガを見守りながらアスナが呟く。
コウガは剣を掲げ円を描いた。コウガの頭上に光の輪が出来て、コウガを照らす。するとそこから飛び出た金属片が次々とコウガに張り付き彼の鎧となった。
「金の狼…」
コウガの纏った黄金の甲冑は憤怒に燃える狼を模していた。眩しく、しかし暖かな光にアスナと、そしてその後ろで退却しようとしていた攻略隊は目を奪われていた。
「グルァ!」
先鋒を務めていた隊員達の命を奪った野太刀が振るわれる。コウガは左腕のガントレットでそれを防ぐと強烈な右ストレートを放った。
ゴスッ!と鈍い音がしてコボルドロードが吹き飛び、その体力が削れる。
コボルドロードはそれでも戦いを続けようと起き上がる。相手が体勢を立て直す前にコウガはすでに飛んでいた。黄金の甲冑など身に付けていないように彼は軽やかに飛び、空中で回転しながらコボルドロードへ斬撃を放った。
「ギャアアアアアアアアアアアア!」
断末魔とともにコボルドロードが弾け飛んだ。
“congratulations”
コボルドロードを倒したことを告げるその文字が、部屋の中で華々しく輝いた。
「すげぇな…」
感嘆の声を漏らし、エギルとその仲間達が鎧を纏ったコウガに拍手した。それにつられ、ディアベルとその仲間達、そして隊員達へと伝播していく。その中でたった1人、キバオウだけが怒りに震えていた。
「なんやねん、なんやねん、その鎧!そんなもん使えるんやったら、なんで初めから使わへんねん。お前のせいや!お前のせいで犠牲が出た」
「言い過ぎだキバオウさん!」
怒り狂うキバオウをディアベルが宥める。しかし
「事実だ。すまなかった…」
コウガはそう言うと鎧を解除して、コボルドロードが消えたことによって開かれた階段を登って言った。
ディアベルに倣ってキバオウを宥め始めた攻略隊の中、アスナはその背中を見送った。
・
『良いのかコウガ?』
「何がだ?」
解放された第2層への階段を登る道中、ザルバが突然切り出した。
『あのキバオウとかいう奴のいる限り、お前はボス攻略に参加し辛くなる。良いのか?』
「そんなことか。別に構わん。俺には俺の目的がある、あいつらにペースを合わせてやる義理は無い」
『なるほど、で、黄金騎士“
「しばらくあの女を見張る」
『アスナの嬢ちゃんのことか?なぜだ?』
「あの女はやり手のプレイヤーになる。そして女ということも相まってプレイヤー連中があいつを祭り上げる。それが狙いだ」
『ほう…』
「勇者として祭り上げられればトラブルに巻き込まれることが多くなる。そのトラブルの陰に“ヤツ”の姿があるかもしれない」
『ヤツ?』
「これ以上は詮索するな。とにかくついて来い」
『ふん、まあ付き合いもそう長くないからなこの辺にしておいてやろう。ところでコウガ』
「なんだ」
『感情に振り回されるなよ』
「黙ってろ」
ムキになったようにコウガは答えザルバを指で弾いた。それ以降第2層に到着するまで2人は口を聞かなかった。