ソードアート・オンライン牙狼〈GARO〉   作:憐憐

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別離

時とは止まることなく流れて行く物である。尊敬する兄貴分にそう言われたことがある。だが、コウガに言わせればそいつは間違いだ。彼の時は止まっている。彼が6歳だったあの時から…父が死んだ、否、殺してしまったあの日から、幼い彼の目の前で父、大牙は何者かに刺された。だが、殺したのはそいつじゃない。俺だ。あの時からずっとコウガは犯人ではなく自分を憎んだ。父が刺されたのを見たコウガは何もしなかった。ただ泣いて叫んでいただけ、救急車を呼ぶことも犯人を追う事もしなかった。その所為で父は死に、犯人は未だに捕まっていない。すべては自分が弱かったから、自分の弱さが父を死なせた。

 

『コウガ、顔色が悪いようだが大丈夫か?』

 

ああ…と素っ気なくコウガはザルバに返して自嘲した。なぜこうも父が死んだ時の事を思い出すのだろう。理由は前日まで遡る。

 

 

「コウガ君、アスナ君、君たちが受注しているエルフのクエスト、結末を知っているかい?」

 

ギルド結成に付き合ってやった血盟騎士団の団長ヒースクリフが自身主催の打ち上げの席で2人に問い掛けた。

知らない。コウガとアスナがそろって答えると、ヒースクリフは残念そうにため息を吐いた。

 

「キバオウ君達には秘密だが私も熱心なβテスターでね、ゆえに知っている。君達が受けているクエストはエルフの涙と言うクエストだ。クエストの報酬は、この第3層のフロアボス、モラックスの弱体化」

 

「フロアボスの弱体化⁉︎私達、そんな重要なクエストを受けていたなんて…」

 

アスナが唖然とする。そんなアスナを見ながらヒースクリフはだが、と付け加えた。

 

「モラックスの弱体化はエルフの魂によってなされる」

 

「それってどういう…」

 

最悪のシナリオが頭に浮かびつつも、違うと言って欲しくてアスナは問いを投げた。

 

『仲間となったエルフを、コウガと嬢ちゃんの場合はキズメルを生贄に捧げなければならないということだな?』

 

「その通りだよ、ザルバ君」

 

アスナから教えられたコウガの喋る指輪にヒースクリフは答えた。アスナはわかりやすく肩を落としていた。

 

 

『アスナの嬢ちゃん、部屋に篭りっぱなしだ。よっぽど堪えたようだぜ』

 

だろうな、コウガは心中で肯定した。クエストをこなしていく内にキズメルとは談笑する程の仲になった。一時的な仲間、それはわかっている。だが、まさか自分達の意思で彼女を生贄にしなければならないだなんて、アスナのショックは計り知れない。

 

『お前はどうなんだ?黄金騎士?スカしてないで言ってみな?』

 

試すようにザルバが問う。何も思わないわけなどない。さっきから過去のトラウマのフラッシュバックで押し潰されてしまいそうだ。

 

「俺は使命を果たすだけだ」

 

口から出たのはそんな強がりだけだった。

 

 

「やあ、コウガ。アスナはどうした?」

 

野営地へ行くとキズメルが出迎えてくれた。彼女の問いにお前の運命を知って塞ぎ込んでいる。などと吐くことは勿論せず、調子が悪いらしい。と答えた。

 

「そうか、心配だな。見舞った方が良いだろうか?」

 

「必要無い」

 

人間らしい感情を見せるキズメルにコウガは感情を殺して答える。

 

「そうか…」

 

コウガの答えに余計な詮索などせず、キズメルは納得していた。

その日はキズメルが属するダークエルフと敵対している森エルフの斥候を彼女と共に倒した。

 

 

その日の夕刻。

3層主街区、コウガが宿泊する大樹の中に出来たホテルのスウィート、と言ってもエレベーター無しの階段登りを要求される不便な部屋の隣室からアスナが姿を現し、クエストを終えたコウガと数時間振りに顔を合わせた。

 

「どこへ行ってたの?まさか、キズメルさんのクエストを進めてたの⁉︎」

 

「そうだ」

 

「ヒースクリフさんの話、聞いてた?なんとも思わないの?」

 

「……」

 

「なんとか言いなさいよ!」

 

言葉を無くすコウガにアスナが詰め寄る。2人の間に一触即発の空気が流れる。しかし、それはいつの間にかそこにいたジャビによって断ち切られた。

 

「よう、コウガ。それに相棒のアスナだっけ?痴話喧嘩の最中で悪いんだが、付いて来とくれ」

 

後ろにチャクラムを背負った弟子のナタクを従えてジャビは言った。

 

「どこへ連れて行くんですか」

 

「この街で一番広い酒場さ、そこで攻略会議をやってる」

 

アスナの問いにジャビはそう答えた。

 

攻略会議、そう言えば参加するのは久方ぶりだ。気持ちを沈ませながらもアスナは思った。大きな円卓の周りには一際人が集まる。上座にはディアベル、キバオウ、ヒースクリフが座していた。

 

「久し振りだね、アスナさん、コウガ君」

 

柔和な微笑みを浮かべ、ディアベルが挨拶する。続いてヒースクリフが軽く会釈し、キバオウが睨んできた。

 

「お前ら呼ばれた理由は聞いとるか?」

 

口を開いたキバオウが横柄に問う。コウガはピクリと機嫌が悪そうに眉を動かした。

 

「俺達が受けたクエストの事か?」

 

コウガが問うとキバオウはしたり顔で頷いた。コウガの顔が歪む。

 

「そうや、ジャビはんから情報を買ったんやが、あのエルフのクエストは分岐する。助太刀した敵のエルフに劣勢に追い込まれれば味方側のエルフが自滅技でプレイヤーを助け、死に際に使いを任される“翡翠の秘鍵”こちらが正規ルートや、だがもう1つ」

 

「プレイヤーが敵側のエルフを倒すルート」

 

「その通り、それがお前らがやっとるクエストや。そうやろジャビはん」

 

「ああ…エルフのレベルは7層級、倒すのは至難の技だ。それこそ大部隊を編成してことに当たらねばならない。キバオウのアインクラッド解放軍、ディアベルの聖龍連合、ヒースクリフの血盟騎士団。有力ギルドの何がやっても少なからず犠牲者が出る」

 

「せや、わいらは命捨てたくない。そこでお前らが頼りになるわけや」

 

「コウガ君、気を悪くしないで欲しい。しかし、わかっているだろう。俺達は1人でも多くこの世界からプレイヤー達を解放しなければならない」

 

キバオウの不遜な態度をフォローするようにディアベルが言う。彼の言うことは正論だった。しかし、

 

「ディアベルさん、それってキズメルさんの犠牲をコラテラルダメージとして受け入れろということですか?」

 

「ああ、君達が彼女をどう扱っているか知らないが、彼女はNPCだプレイヤーの命には変えられない」

 

アスナの言うことにディアベルは厳しい表情で答えた。彼の言うことは正しいとアスナは心のどこかで認めていたのだろう。何も言えずに唇を噛んでいた。

 

「クエストをどう進めるかは俺達が考える。お前達の指図は受けない」

 

アスナを見かねコウガはキッパリと言い放つ。何か言いたそうなキバオウを制したディアベルは頼む。と一言告げてコウガ達を解放した。

 

 

「どうすればいいんだろう?」

 

酒場から出て、ホテルへ帰ろうと歩を進めながらアスナはコウガに問い掛けた。

 

「ディアベルの言うことは正しい。NPC1人の命より、プレイヤーの命を優先すべきだ」

 

「じゃあ、コウガ君はキズメルさんがどうなってもいいの?」

 

コウガは何も言わなかった。自分の激情を彼女に悟られたくはなかった。自分の生き方も心の内も、彼女には関係無い。罪も業も1人で背負うと決めているのだ。

 

「俺は…」

 

言いかけて、コウガは止めた。強い殺気を感じる。ゲーム内のどのパラメーターでもない自らの勘によるものだが、確信がある。どこかで誰かが見ている。

 

「行け」

 

「えっ、どういう…」

 

「どこかへ行け!」

 

コウガに怒鳴られてアスナは寂しそうな目を浮かべた。わかったわよ。小声でそう言うとアスナはホテルへ駆けて行った。

 

「いや〜無愛想だとは聞いてましたけど今のはマジでないですわ〜」

 

肩の力が抜けた気だるい声が背後からする。振り向くと鎖頭巾で顔を隠した男がいた。

 

「コウガさんでしたっけ、あなた女心ってものがわかってない。優しい言葉の1つや2つかけてあげるべきでしょう。あんな怒鳴り方したら綺麗な彼女を傷つけちゃいますよ〜」

 

「生憎と女心ってものがわからない男でね。今更どう思われようがどうでもいい。それよりも…貴様は何者だ」

 

いつでも抜刀出来るように魔戒剣を取り出しコウガは問う。

 

「自分、モルテって言います、よろしく。あ、こう答えたら何のようだって聞かれそうですね。面倒くさいんでそっちにも答えときますね。自分はキバオウさんの使いできました。用件は1つ、エルフを生贄に捧げろとのことです」

 

「指図は受けないと言ったはずだ。俺がどちらの道を行こうと俺の勝手だ」

 

「またまた、そうやってカッコつけちゃって〜。約束してくださいよ、NPCを殺すくらい、いいじゃないですか〜」

 

気に入らない。コウガは歯噛みした。モルテの言動が癪に障る。

 

「俺は帰る。キバオウには失敗したとだけ言っておけ」

 

モルテを睨んでコウガは言い、踵を返す。しかし、

 

「待てよ…」

 

冷たい声色でモルテが言い放った瞬間、コウガの視界にモルテからのデュエルの招待が届いた。

 

「何のつもりだ」

 

「本当は街の外へあんたが出たのを見計らって背後から襲って脅迫するつもりだったんだけど…それじゃ面白くないだろう?黄金騎士さん」

 

そう言うことか、コウガは察した。モルテの狙いはキバオウの伝言を届ける事ではない。いや、確かにキバオウから伝言を預かったのは事実だろう。しかし狙いは、それを口実にコウガと戦うこと。

 

「知ってるか、完全決着のデュエルで勝った方は相手のストレージから好きな物を頂戴出来る。PKやった時みたいにな」

 

ニヤけた顔でモルテが言う。

 

「くだらん。俺を殺しても牙狼は手に入らない。あれはこんなことで手に入る物じゃない」

 

コウガは言い返した。そもそも牙狼の鎧はストレージに入っているものじゃない。魔戒剣からSAOのシステム“カーディナル”ヘアクセスし、そこに保存してある鎧のデータを文字通り召喚している。

しかし、モルテに言っても無駄だろう。

 

「お前の言うことなんか信じねえよ」

 

やはり、飽き飽きとコウガはため息を吐く。しかしモルテの次の言葉がコウガに我を失わせた。

 

「俺と戦え、黄金騎士。じゃないと可愛い彼女がどうなるか…」

 

モルテが言った瞬間、コウガは完全決着デュエルの了承ボタンを押していた。

 

「ほう、やる気になったか!」

 

モルテが狂気に顔を歪ませる。場外ヘ出られないようにリング状のデータの帯がコウガ達を囲む、デュエル開始への1分のカウントダウンが始まった。モルテはハチェットと呼ばれる片手斧を取り出しコウガの出方を伺う。コウガはギリギリと歯軋りしながらカウントダウンが終わるのを待っていた。

やがて時が来て、デュエルが始まった。

 

「シャアアア!」

 

蛇のような声を上げ、モルテが片手斧を振り下ろす。コウガは右手1つで腕ごと止めると、モルテの腕を払って右の裏拳を食らわせる。

 

「…ッ!片手だけで初撃を…⁉︎鎧のスペック頼りじゃないのか⁉︎くそっ!」

 

フットワークを刻みながらモルテは再び、ハチェットで襲いかかってきた。コウガはモルテの手の甲を蹴って攻撃を逸らすと左手に呼び出した魔戒剣の柄頭でモルテの喉を突く。

 

「ゴホッ!」

 

喉に不快な衝撃を受け、モルテが咳き込む、しかしすぐに復活し3度目の攻撃を仕掛ける。その刹那…

 

「え?」

 

信じられない。そんな声をモルテが上げた。なぜ、ハチェットを持った自分の肘から下の腕が地面に落ちているのだろう。

モルテが思った直後、カチン、とコウガが剣を鞘へ納め終わるのが見えて、モルテの心が折れた。

 

「嘘だ…俺の反応速度よりも速く抜刀と納刀を行うなんて…」

 

勝てない。モルテは唖然として腰から砕け、途中終了、つまり降伏ボタンを押した。

 

「あの女には近付くな、次は腕じゃ済まないぞ」

 

「わかった…」

 

モルテの鎖頭巾がずれ落ち、素顔があらわになる。その目は恐怖に染まっていた。

 

「明日の朝、キバオウ達を呼び出せ、俺が話をつける」

 

顔を近づけ、コウガはドスを効かせて言った。そうしてモルテを解放してやった。

 

『答えは出たようだな』

 

「ああ…」

 

ザルバに短く答えるとコウガはコートを翻した。

 

 

どういうことだろう。昨晩呼び出された酒場ヘアスナは再び訪れていた。起きて朝一番、コウガに言われたからだ。酒場にはアスナの他にもキバオウ、ディアベル、ヒースクリフ達、有力ギルドの人間も来ていて何が始まるのかと、落ち着かない様子だった。

そんなところヘ、しばらくしてコウガが現れた。

 

「呼び出したのは君かい?コウガ君?」

 

1番にヒースクリフが口を開く。彼にここに来るように告げたのはジャビだったが、彼女は自発的に人を呼び出したりするようなタイプではない。キバオウにコウガ達の情報を流したのも金を積まれたからに過ぎない。

 

「そうだ」

 

やはりな、合点がいった。ヒースクリフは椅子に深く腰掛けた。

 

「エルフのクエストをどうするか、決まったのかい?」

 

ディアベルが聞いて、アスナはハッと息を飲む。結局コウガは自分に何も相談せずに決めてしまった。そうなるだろうとわかっていたが、悔しくて傷ついた。

 

「コウガ君、やっぱりキズメルさんを…」

 

恐る恐るアスナが問うとコウガは答えた。

 

「あの女は、キズメルは誰にも渡さない。俺はクエストを放棄する」

 

言い切ったコウガに酒場に集まったプレイヤー達がどよめいた。

 

「なんでや、理由聞かせてもらおか?」

 

ギリギリと歯がみしながらキバオウが聞く。

 

「例え偽りの命であろうと、それを生き抜く権利はある。キズメルが自らの意思で俺達に敵対するなら、その時は迷わず彼女を斬る。だが、仲間になったことに付け込んで彼女の命を奪うことは出来ない」

 

「コウガ君…」

 

噛み締めながらアスナは彼の名を呼ぶ、自分の意思を無視したことはショックだったが、コウガの出した答えは嬉しかった。心の無い男ではない。アスナの信じたかったコウガそのものだったから。しかし、

ドンッ!キバオウが机に拳を打ち付けていた。

 

「何言い出すかと思ったら、なんじゃその綺麗事は!みんなの命がかかっとるんやぞ!」

 

「キバオウさん!」

 

「ディアベルはんは黙っといてくれ!もう我慢ならん、孤高を気取りやがって、なんでゲームクリアに協力せんのや」

 

キバオウに問いにコウガは答えない。答える必要は無いと言わんばかりだ。

 

「責任取れ」

 

キバオウは非情に告げた。

 

「この層のフロアボス、1人で倒して来い」

 

『そいつは無茶だ。鎧の装着限界時間は99.9秒、今のコウガのレベルじゃそれまでにフロアボスを討滅することは出来ない。もちろん生身でもな』

 

キバオウの命令にザルバが反論する。しかし

 

「いいだろう」

 

コウガは迷うことなく了承した。

 

『コウガ!』

 

ザルバが珍しく声を荒げる。それだけ大変なことなのだろう。アスナは確信する。

 

「私も行くわ!」

 

仲間だから、1人では背負わせない。アスナはその一心で手を上げた。だがそれに対するコウガの返事はあまりに酷いものだった。

 

「失せろ」

 

「えっ」

 

「足手まといだ…」

 

コートを翻し、アスナに背を向けてコウガは言うと、そのまま酒場から出て迷宮区へ歩いて行った。

 

 

第3層迷宮区、キバオウ達が切り開いていたのだろう。すでにボス部屋の前まで開拓されていた。

 

『コウガ、本当にやる気か?』

 

心配するようにザルバが問い掛ける。コウガはああ…と短かく答えた。

 

『アスナの嬢ちゃんに正直な気持ちを言わなくて良かったのか?』

 

藪から棒になんだ。コウガは思ったが、ザルバなりに死地に赴こうとする相棒への気遣いなのだとすぐに気付いた。

 

『お前さんも面倒な奴だな、死んで欲しくないって言ってやりゃあいいのに』

 

「AIのくせに知ったようなことを言うな。人間はそんな単純じゃない」

 

『お前さんはその中でも選りすぐりだぜ』

 

呆れたようにザルバが言う。そうかもな、コウガは自嘲したが口にはしなかった。

 

「行くぞ」

 

告げて、コウガは扉を開けた。

件のモラックスは部屋の1番奥の壁と一体化していた。

 

『要塞時計とはよく言ったものだ。気を付けろコウガ』

 

ザルバが言った瞬間だった。

 

「なっ…!」

 

鉄のアームに繋がった巨大な刃物が四方八方からコウガに襲いかかって来たのだ。

 

「ぐっ!」

 

魔戒剣を盾に直撃は避けた。しかし、無視出来ないダメージがコウガのHPを減らす。

 

『マズイぞ、直撃を食らったらリカバリー出来ない』

 

「わかってる!」

 

剣の刃で、敵の刃を受けながらコウガは怒鳴る。言われなくても戦っている自分が1番よくわかっている。この初見の敵を相手にどう戦う?さっきザルバが言っていた通り、今鎧を纏ってもモラックスの体力を全て持っていくことは出来ない…いや…

コウガはある事を思い出すと魔戒剣を掲げ、鎧を呼び出した。

 

『どうするつもりだ?コウガ、どう見立てても間に合わんぞ』

 

牙狼剣を左手の甲に乗せて引く独特の構えを取る牙狼にザルバが問う。牙狼は魔導火を生み出すライターを取り出した。

 

「烈火炎装を使う」

 

『新スキルか…実験もしていないが大丈夫か?』

 

キズメルと出会った時に習得した牙狼のスキル。ザルバも効果を把握していないそうで、実験を後回しにしていた。だが、方法を選んでいる暇は無い。

 

「行くぞザルバ、最後まで付き合え」

 

『いいぜ相棒、お前が死ねば牙狼とともに俺も消える。地獄まで付き合ってやるさ』

 

ザルバが言うと、牙狼はライターを点火し牙狼剣に火を付けた。システムのアシストが次にどう動けば良いのか教えてくれる。

牙狼は剣を振り、緑色の炎の斬撃を飛ばした。炎の斬撃がモラックスの無数の腕、刃物の付いた鉄のアームを弾き飛ばし、壁と一体化する本体に直撃してダメージを与える。すると炎の斬撃は回転して牙狼に跳ね返って来る。牙狼は宙に飛び、跳ね返って来た斬撃をその身に受けた。ボウッ!牙狼の体が緑色の炎で燃え上がる。これが烈火炎装、魔導火を纏い、攻撃力を跳ね上げる。だが、デメリットもある。

 

「HPが…!」

 

まるで燃えるようにHPがガリガリと削れていく。このままでは制限時間を待たずにHPが燃え尽きる。

 

『急げ!』

 

ザルバが叫ぶ。牙狼は襲い来るアームを斬り捨て道を開くとモラックスの本体へ牙狼剣を突き立てた。

 

「うおおおおおおおおおおおおお!」

 

猛々しく吠え、牙狼はモラックスを何度も何度も斬りつける。牙狼のHPがレッドゾーンに突入する。それでも、死を恐れることなくモラックスを斬りまくった。

 

「グアアアアアアアア」

 

モラックスが砕けるのと同時に牙狼は鎧を解除した。congratulations の文字がボスの部屋に浮かんだ。

 

『残りHP10、なんとか生き残ったな』

 

「腹が減った…」

 

フラフラになりながらコウガは言うと解放された4層への階段を登って行った。

 

 

足手まといだ。コウガに言われた言葉がアスナの脳裏に浮かぶ。確かにそうだったかもしれない。あんな凄い鎧を持っているのだ。自分の力などあっても無くても同じ、それどころか守らなければならない分、余計な荷物だったのかもしれない。だけど…白と赤のユニフォームに身を包みながらアスナは思う。

 

「私は私のやり方でこの世界を生き残る。コウガ君、いつかあなたに追い付く」

 

着替えが終わったアスナはホテルのロビーに出る待っていたのはヒースクリフとその仲間達、つまり血盟騎士団である。

 

「これからお願いします。ヒースクリフさん。いえ、団長」

 

「うむ」

 

血盟騎士団副団長閃光のアスナ。後にそう呼ばれるアインクラッドトップクラスの豪傑が誕生した瞬間だった。

 




起承転結の起が終わり、次回から時間が飛びます。
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