ソードアート・オンライン牙狼〈GARO〉   作:憐憐

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絶狼

「ピナ…嫌だよ!ピナ!」

 

35層の森の奥でシリカは悲鳴を上げた。

“ビーストテイマー”彼女の異名の元であった相棒が今消え、《ピナの心》と言う結晶に姿を変えた。

 

「う…あ…」

 

ピナを打ち倒したモンスターがシリカの見る。しかし、シリカに抵抗する気は無かった。この狂気の世界で生きていく理由が無くなった。1人では生きていけない。また1人になるくらいなら…

 

「ピナ…私も…」

 

そっちに…そう言いかけた直後だった。ブーメランのように回転しながら両刃の剣がモンスターを斬り裂く。

 

「よっ!」

 

黒いロングコートの男が現れ、両刃の剣をキャッチするとそれを2本の小振りの剣に分離させ、連続斬りでモンスターを八つ裂きにした。

 

「大丈夫?何かあった」

 

2本の剣を納めた長い黒髪を乱雑になでつけた少年は、振り返ってシリカに問い掛けた。

 

「ピナが、ピナが…」

 

 

SAOではモンスターをテイムすることが出来る。しかし、それは非常に低確率。情報を得た何人かが挑戦したことがあるが、何度やっても何度やっても、ついに成功する者は出なかった。そんなある時である。ウィンドドラゴンの子供のテイムに偶然成功した者がいた。それがシリカだった。シリカはその子をピナと名付けた。現実世界で買っていた猫の名だ。シリカはピナと共に戦い、寝食を共にした。ピナの力は回復、シリカはその力に何度も救われた。いや、力にだけじゃない。デスゲームのプレッシャーに挫けそうになった時もピナの存在に救われた。その場だけのパーティーじゃない、真に信じられるあの子がいたからシリカは心を殺さずに生きて来れた。なのに…

 

「私、パーティーに参加したんですけど、アイテムの分配で揉めて…引き下がれば良かったんですけど…私、天狗になっていたんでしょうね。あなた達なんていなくても良い!って、それで1人になって、モンスターに襲われて」

 

「大方事情はわかった」

 

35層の主街区のレストラン、シリカかこれまでの経緯を語ると黒髪の少年はよくわかったと頷いた。

 

「ピナは大切な友達だったんだな…」

 

生クリームメガ盛りのケーキを口に放り込みながら少年は言った。

 

「はい、でも…私のせいで…」

 

なんて愚かな事をしたのだろう考えるだけで涙が出てくる。

 

「おいおいおい、泣くなよ…」

 

「でも…」

 

「大丈夫さ、ピナは戻ってくるよ」

 

「えっ⁉︎」

 

シリカの涙を見て、焦った様子で言った少年の言葉にシリカは耳を疑う。死んだはずのピナが戻ってくる?

 

「どういうことなんですか?」

 

問われた少年は得意げな表情で答えた。

 

「プネウマの花っていうアイテムがあれば、使い魔を生き返らせることが出来るんだ」

 

「本当ですか⁉︎」

 

「ああ、でも、そのアイテムがあるのは48層だ」

 

「48層…私、頑張ります。時間がかかっても…」

 

「タイムリミットは二日間だ」

 

聞いたシリカは言葉を失った。35層の標準レベルのシリカが48層の安全圏のレベルまで鍛えようと思うと確実に二日では足りない。

 

「やっぱり、私じゃ…」

 

「出来る。俺がいる、俺はレイ。困っている人達を助けるのが仕事の騎士だ」

 

「一緒に行ってくれるんですか」

 

「その通り」

 

シリカの顔が華やいだ。確かに初対面の彼を信用して良いのかという心配はある。だが、ピナにもう一度会えるというのであればもう手段など選ばない。

 

「お願いします」

 

シリカはレイに頭を下げた。

 

 

『ゼロ、本当にあのお嬢ちゃんに付き合うの?」

 

その日の夜のこと、宿の部屋で女性の顔を模したペンダントがレイに話しかけた。

 

「言ったろ、俺は騎士だ。困っている人達を助けるのが仕事だ」

 

『そうね、あの時からそのように生きるとあなたは決めているものね』

 

「ああ、だからシリカちゃんも助けるさ。とりあえず明日の冒険の作戦会議に付き合ってもらうぜ、シルヴァ」

 

レイはペンダントの相棒シルヴァに言うとシリカのいるとなりの部屋に行った。

 

「シリカちゃん良いかな?」

 

えっ⁉︎レイの訪問を予見していなかったのか、シリカは焦ったような声を出す。ドタバタ部屋の中で暴れる音がしばらく聞こえて、ドアが開いた。

 

「どうぞ」

 

「そんなかしこまらなくて良いよ」

 

苦笑いしながらレイは部屋に入り、適当な椅子に腰掛けると、テーブルの上に地図を開く。シリカを向いに座らせてからレイは切り出した。

 

「明日の朝一番に48層に行く。装備は…そうだな、これでどう?」

 

言うとレイはストレージから防具やら武器やらを取り出して広げる。そのどれもが今のシリカには過ぎたるものであった。

 

「すごい!」

 

「全部あげるよ、俺は使わないから」

 

物凄い勢いで遠慮しようとするシリカに半ば押し付けるように装備を与えるとレイは続けた。

 

「明日の朝一番に48層へ行く。目的の物がある思い出の丘まではレベル上げも兼ねてゆっくり進んでいこう。俺の見立てじゃ日暮れまでにはここに帰ってこれるはずだ」

 

「わかりました」

 

シリカが言うとレイはにっこり微笑む。しかし直後に何かに気付いたように玄関を凝視した。

 

「どうしたんですか?」

 

「いや…」

 

なんでもない風に視線を戻すレイ。しかし微かな声でシルヴァとやり取りをした。

 

『掛かったわね』

 

「恐らくな…」

 

 

次の日、朝早く起きたレイとシリカはホテルの一階で朝食を取っていた。

 

「美味い」

 

そう言って朝食を頬張るレイをシリカは引き気味に見ていた。それもそのはず、レイは朝からテーブルにスイーツのフルコースを並べてガツガツ食べているのである。シリカとて女の子の端くれ、甘い物は好きである。そんなシリカが胸焼けする程の量をレイは平らげていた。

 

「食べないの?」

 

あなたのせいで食欲減退しました。そう言える程、肝は座っていない。なんとか愛想笑いを作ってサンドイッチを口に放り込んでいた時である。

 

「あら、シリカじゃない」

 

鮮やかな赤髪の女がねっとりとした口調で言って、シリカ達のテーブルを見下ろした。

 

「ロザリア…さん…」

 

会いたくない顔だった。何を隠そうこのロザリアという女、昨日シリカと喧嘩した女なのである。「そのトカゲが回復してくれるからアンタは回復アイテムはいらないでしょ」喧嘩の元となったセリフを思い出す。高圧的な言い方もピナを馬鹿にする言葉も許せなかった。しかしここで感情に任せてしまったが故にピナを死なせてしまったのである。同じ過ちは2度と犯すまい。シリカは何も言わずに顔を伏せた。

 

「こちらのイケメンは誰?というかあのトカゲは?もしかして死んじゃった?それでトカゲの代わりにイケメンに媚びを売ったってわけ?」

 

クスクスと笑いながらロザリアが言う。シリカは固く唇を噛んだ。そんなシリカを見ていたレイがついに口を開いた。

 

「沈黙は美徳って言葉がある。お喋りな女はモテないぜ」

 

ニカッと快活な微笑みを浮かべるレイだったが、思わず生唾を飲んでしまうような殺気を放っていた。見ていただけのシリカが肩を震わせてしまったのである。向けられたロザリアはというと「なによ」と震えた声で負け惜しみを言って立ち去ってしまった。

 

「すごいですね」

 

まるで剣豪か何かのよう。自分とは比べ物にならないくらい戦いの経験を積んできたのだということは容易に想像できるほど、レイの迫力は凄かった。

 

「大したことないよ、こんなの望んで得たものじゃないし」

 

そう言ったレイの目はどこか寂しげだった。

 

 

48層、ここは通称フラワーガーデンと呼ばれている。層全域が緑豊かで巨大な花畑が点在している。

 

「綺麗…」

 

主街区の街中に広がる花畑にシリカは息を飲む。レイがアイテムを調達しにショップに行っている間、シリカはずっと花を愛でていた。

 

「コウガ君、見て見て!綺麗だよ!」

 

「興味無い」

 

不意に現れたカップルにシリカは目を向けた。シリカとて年頃である。人並みにああいった光景に憧れがあった。

私も誰かとあんな風になれるかな?

 

「どうしたの?」

 

背後からレイに肩を叩かれてシリカは振り向くさっきのカップルはすでにどこかへ消えていた。

 

「なんでも、行きましょう!」

 

元気よく言うとシリカはレイを背後に歩き出す。レイも揚々と続いた。

 

 

「シリカちゃんスイッチ!」

 

レイの合図で飛び出す。ソードスキルの閃光を纏ったシリカの短剣が巨大植物型モンスターを刺し貫いた。

 

「やった!」

 

戦ったのは今までよりレベルの高い相手だったが、それほどHPを損なうことなく勝つことが出来た。これがいつもの層の仲間達なら命の危機すらあるような相手だったのに。すべてはレイのサポートあってことだった。

 

「レイさん、すごいですね」

 

シリカは感心した。短めの片手直剣を二本持ち、順手と逆手を状況に応じて切り替える操る変幻自在のバトルスタイルは他に見た事が無いが、彼のおかげで余裕を持って敵を倒す事が出来た。

 

「どうしてそんなに強くなったんですか?」

 

「内緒」

 

シリカが聞くとレイはおどけて答えた。目は笑っていなかった。

 

「さて、そろそろ目的地だ」

 

そう言うとレイは速足でズンズン丘を登って行った。

そうして小高い丘を登ったその先にそれはあった。一面に広がる花畑とその中心にある白い岩。

 

「あれが?」

 

「そう、目的の物はあの岩の上にある」

 

レイに言われ、シリカは岩へ駆け寄った。その天辺には注意深く見なければ見失ってしまいそうに小さい可憐な花が咲いていた。可哀想と思いつつ引き抜くとネームウィンドウが開く。《プネウマの花》目的のアイテムだった。

 

「レイさん!やりました!」

 

シリカは顔を綻ばせ背後で腕を組んでいたレイに言う。レイは微笑んで相槌を打つとシリカに言った。

 

「良かったねシリカちゃん。その花の雫を心アイテムに振りかければピナは蘇る…けど…」

 

「けど?」

 

「おい、出て来なよ」

 

突然レイが顔を険しくして声を上げた。すると背後の林の木の陰からゾロゾロと男達が数人、姿を現す。

 

「ひっ!」

 

男達を見て、シリカは小さな悲鳴を上げた目の前の彼らの頭上にあるプレイヤーアイコンはすべてオレンジ、つまりこのゲーム内における犯罪行為に手を染めている事の証明だったからだ。

 

「レイさん!」

 

「まあまあ、落ち着いて。おい、まだ隠れてるだろ出て来いよ」

 

レイが言うともう1人、今度は女が姿を現した。

 

「やるわね、剣士さん」

 

「ロザリアさん⁉︎」

 

姿を現した女にシリカは驚愕した。因縁のあるロザリアだったのである。ロザリアはオレンジプレイヤーの男達を率いる様に立ち、レイと相対した。

 

「狙いはプネウマの花ってところかな?」

 

「ご名答、竜使いのシリカ、相当たんまり溜め込んでると思って前々から張ってたのよ。狙い通り貴重なアイテムを手に入れてくれたわ」

 

嬉々として語るロザリアを見てシリカは察した。

 

「オレンジギルド…」

 

他のプレイヤーを襲い、殺すなどして利益を得る集団。ロザリアのアイコンはグリーンで犯罪者扱いはされていないが、それが彼らの手口なのだろう。

 

「私を殺すつもりで近付いたんですか?」

 

「ええ、世間知らずのお嬢ちゃんは良いカモだったわ」

 

言って、ロザリアは下卑た笑いを浮かべる。控えるオレンジプレイヤー達も今か今かと得物を弄んでいた。

 

「じゃ、そろそろお喋りも面倒臭くなってきたから、そろそろ死んでもらいましょうか。やっちまいな!」

 

ロザリアが声を上げる。それを合図に総勢10人のオレンジプレイヤーが一斉にレイとシリカ目掛けて突撃してきた。しかし、

 

「ウアァ…」

 

ゴスン。横から現れた不気味なモンスターにオレンジプレイヤーが数人弾き飛ばされた。

 

「何⁉︎」

 

思わずシリカは声を上げた。《ゲメルス》と記されたモンスターはその後も無差別にその場のプレイヤー達に襲い掛かって来た。

 

「丘の主の登場ってわけだ」

 

「あんたこれを知ってて!嵌めたわね!」

 

レイが嬉しそうに語ると、ロザリアは半ば半狂乱になって叫ぶ。

 

「そうだよ、タイタンズハンドのリーダーさん。シリカちゃんと予定を話し合いながらあんたらが罠に嵌るのを楽しみにしてたんだ」

 

短めの2つの直剣を肩に担いでレイはしたり顔で答える。昨晩の時点でレイは何者かがシリカの部屋の前で聞き耳を立てていたことを看破していたのである。

 

「どうする?あんた達のレベルじゃゲメルスには歯が立たないぜ。黒鉄宮の牢に入るってなら助けてやっても良いけど?」

 

「黙れ!誰がアンタの助けなんか!」

 

ロザリアが怒声を上げて拒否する。しかし

 

「助けて!」

 

1人のオレンジプレイヤーがゲメルスに鷲掴みにされ、口と思わしきところへ持ち上げられた。捕食しようとしているのだ。

 

「うわあああああああああ!」

 

死の恐怖を感じた絶叫が辺りに響く。しかしその刹那、レイが投擲した二本の剣がゲメルスの腕を斬り落とした。

 

「グオ?」

 

ベチャとゲル状の腕が地面に落ちる。するとその腕は土に吸収され、新しい腕がゲメルスに生えた。

 

「うわ…マジで面倒臭い奴なんだな…」

 

レイが言った瞬間、ゲメルスから解放されたプレイヤーが悲鳴を上げて逃げようとする。すると投擲したはずのレイの剣が不自然な軌道を描いてターンしそいつの足を切って転ばせた。

 

「全員、動くな!動いたら殺す…」

 

殺気のこもった宣言に全員が足を止めた。本気だ。誰もがそう思わされた。レイは皆が足を止めたの見ると、小さく呟いた。

 

「It's show time」

 

レイは二本の剣を掲げ2つの円を描いた。剣を振り下ろすと円は1つに重なり、鋭い銀の光がレイを照らす。そして円形のゲートから召喚された銀の鎧がレイに装着された。

 

「何これ…」

 

鎧を纏ったレイにシリカは息を飲んだ。

 

銀牙騎士 絶狼(ぎんがきし ぜろ)行くぜ…」

 

絶狼はそう言うと巨大化した2つの剣《銀狼剣》を構え、ゲメルスに挑んだ。

 

「ウオオ」

 

「遅い!」

 

襲い掛かるゲメルスの腕を絶狼が斬り刻む。しかし、それはすぐに再生してしまう。

 

『ゼロ、心臓を探すのよ』

 

これでは埒があかないとシルヴァが絶狼に助言するする。

 

「わかってるよ」

 

絶狼はそう言うと、鎧の中で目を閉じ、耳に神経を集中させた。すると、ドクンドクンと音がクリアに聞こえて来る。この世界にいるのは所詮アバター、仮初めの姿でしかない。プレイヤーから心音は聞こえない。ならこの心音の持ち主は、ハッキリしている。

 

「あそこか!」

 

心音の発生源を突き止めて絶狼は声を上げた。ゲメルスの胸のど真ん中、そこに弱点がある。絶狼は銀狼剣を連結させて双刃刀にすると、電光石火の速さでゲメルスの胸を突き貫いた。

 

「ふん!」

 

胸から剣を引き抜くと連結させた剣を分解し、血糊を払う様に剣を振り下ろす。爆発四散するゲメルスを背後にレイは鎧を解除した。

 

「すげぇ…」

 

「バケモンだ…」

 

レイの戦いを見ていたオレンジプレイヤー達は震えながら声を上げた。直後、レイから「死にたかったら逃げても良いよ」と笑顔で凄まれ、全員武装を解除した。

 

 

「カッコよかったですレイさん。鎧を着て変身するなんて!」

 

目を輝かせて語るシリカにレイは苦笑いを浮かべてクリームを盛ったコーヒーを啜った。2人は今、35層のホテルへ戻って来ていた。ロザリア率いるタイタンズハンドは無事レイの手によって残らず牢へとぶち込まれた。

 

「レイさん、なんでロザリアさん達タイタンズハンドを探していたんですか」

 

レイの狙いが彼女達であったことはすでに思い出の丘からの帰り道に聞いていた。シリカが気になったのはその先であった。

 

「初めに会った時も言ったけど、俺は騎士。困っている人を助けるのが使命なんだ。あいつらを追っていたのは、あいつらの被害にあった生き残りからの依頼なんだ」

 

放浪の旅の途中、レイはその依頼主と出会い。涙ながらに奴らを捕まえてくれと頼まれたそうだ。

 

「そうだったんだ…レイさん優しいんですね」

 

レイがボランティアで戦いを引き受けたことを知り、シリカは彼を褒めそやした。悪人であっても殺めることなく等しくモンスターから守る姿を目の当たりにしている。騎士を自称するだけのことはある。まるでヒーローの様だ。

そうやって褒めちぎっていると、レイは違うと声を上げた。

 

「そんなんじゃない。俺はある男に殺すために旅をしてるんだ」

 

「えっ…殺す?」

 

言ったレイのただならぬ迫力にシリカは肩を震わせる。レイは構わず続けた。

 

「今から半年前、俺は月夜の黒猫団というギルドに所属していた。だがある日、俺を除いたギルドメンバーが皆殺しにされた」

 

「誰がそんなことを…」

 

「俺と同じ鎧を纏う男…そんなのは1人しかいない。黄金騎士」

 

シリカは目を見開く。黄金騎士、攻略組に協力するソロプレイヤーである。常に1人で最前線に身を置き、危険な偵察や困難なミッションを請け負っている。フロアボスの威力偵察に1人で行ってそのまま討滅したなど、アインクラッド全土に色々な伝説を持つ勇者として名を馳せている。そんなプレイヤーがレイの仲間を殺した。にわかには信じられなかった。

 

「何かの間違いじゃ…」

 

「いや、あの時見たあの影…あの影は鎧を纏った者の影。なぜ俺の仲間を殺したのかはわからない。でも、だから俺は真実を知りたいそして…」

 

「仇を討つ」

 

「ああ、刺し違えても」

 

レイの決心が本物であることがシリカにはわかった。ただ、玉砕覚悟で戦おうとするレイを黙って送り出すことは出来なかった。

 

「レイさん、死んじゃダメです。必ず生きてください。また一緒に冒険しましょうよ。今度はピナと一緒に!」

 

シリカが言うとレイは目を丸くし、そして微笑んだ。

 

「シリカちゃん…わかった。また会おう」

 

そう言うとレイはシリカを置いてホテルから出て行った。

 

 

『ふふ、大事な約束が出来ちゃったわね?』

 

35層の転移門前、シルヴァは悪戯っぽく言った。

 

「そうだね、だが黄金騎士は必ず倒す。サチ達の仇は必ずとる」

 

大いなる決意を胸にレイは転移門をくぐった。

 

 

 

 

 


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