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トラックで能力を得る。能力は時間停止。
降る雪が雨になる雨水という季節。春はまだまだ先に感じる寒さだが、確実にやってきている。
デパートや電車の暖房が暑いと実感できた。着込みすぎたかなと思いながら、私は地下鉄の階段を駆け上がる。
雨が降っている。雨具は今、昔から使っている紺色の小さな折り畳み傘しか持っていない。不満気に空を見上げ、雨脚の強さを確かめる。これならきっと大丈夫だろう。小さな紙袋をブリーフケースに入れ、小さな傘でその鞄を守り、雨の中へ私は飛び出した。
足早に帰り路を急ぐ。いつもなら、スーツのズボンに水が跳ねるのを気にする私だが、今日は違う。
順調に行けば、約束の時間には間に合うだろう。そう思い、信号の点滅を気にせず交差点へ飛び出した。
右隣に、大型トラックが迫っていた。
ぶつかる。鞄を守るようにして、衝撃に耐えようとした。何も起こらず、私はゆっくりと目を開けた。トラックは変わらず、目の前に合った。勘違いで良かった。停止してくれていたトラックの運転手に謝ろうと、後ろに下がり運転席を見上げる。
トラックの運転手は私を見てなかった。ある一点を凝視している。不思議に思い、その目線を追った。なんだ?渋滞しているのか?先程まではスムーズに進んでいたと思ったが、全ての車が止まっている。進む気配がない。そうか、私は渋滞に助けられたのか。そう思いながら、トラックの前を通り過ぎ、横断歩道の真ん中まで差し掛かった。
雨音が急にしだした。私は驚き、体を震わせる。いつの間にか止んでいた雨が、また降りだしたのだ。急いで横断歩道を渡りきり、そのまま家まで走っていった。
「ただいまー!」
元気よく挨拶するが、彼女からの返事はない。電気がついておらず、部屋は暗い。これを見るたびに、くじけそうになる。そしてそう思う度に、私は彼女を愛していないのかと、自責の念が生まれる。
私は部屋の電気をつけ、部屋の隅に座っていた彼女を見つける。
「ただいま」
私がそう言葉をかけると、彼女は微笑み、「おかえり」と言ってくれた。このときは、本当に嬉しい。あのときと変わらない笑顔を向けてくれるのだ。
私はキッチンに立ち、夕食を作る。もう慣れたものだ。彼女もお皿を並べてくれる。そんな彼女を見て、未だに悩む。彼女をキッチンに一人で立たせるかどうか。時間が有るときは、二人で料理をする。しかし、私がいない時や、今日みたいに遅い時間のときは、彼女に料理はさせていない。一人でして失敗したら、彼女はものすごく落ち込むだろう。その後の処理も恐らくできなくなるかもしれない。もし、それでやる気が無くなったら、と考えると怖い。
夕食後、私は彼女に今日あった出来事を聞く。彼女が書いた日記を見ながら、一つ一つ確かめていく。
「おー、テレビ見たんだ。すごい、その後、掃除したんだ」
「……覚えてない」
「大丈夫だって。ここに書いているから、ゆっくり思い出せばいい」
「うん」
「今日も頑張ったな。よし、ゆっこにプレゼントだ」
「プレゼント?」
彼女は首を傾げ、答える。私は彼女が忘れた思い出の品を、彼女に見せた。イルカのペンダント。私が前にもプレゼントしたことを彼女が忘れても、私は彼女に渡す。
「可愛い」
良かった。まだ、彼女は好きなイルカのことを覚えていてくれた。私はイルカに自分を重ねた。もし私が忘れられても、このイルカのように私のことを好きになってほしい。そんなことを思う。
彼女をベッドに寝かしつけ、私はそのベッドに腰掛けた。彼女はすでに寝息をたてている。ああ、明日なんか来なければ良い。
「今の、このままの君でいて欲しい」
忘れ去られるなんて嫌だ。昔の思い出話が出来ないなんて嫌だ。私のことを「誰?」なんて言ってほしくない。自分のことを「私の名前はなんて言うの?」なんて言わせたくない。
私達にどんな繋がりが合ったのか、彼女は忘れ始めている。もうこれ以上、進行してほしくない。
「時間が止まれば良いのに」
この前に投稿した佐天さんの話に誘導しようと思って書いたけど、無理だな。
もっとみんなが佐天さんの話を投稿するべきだ。