A-1で出た大成さんとか結構最初に出ちゃう。
黛家の遠縁にあたる石蕗家。
そこに生まれた男児が一人。
この者、家同士が遠縁でありまた、近所でもあったことから剣聖と名高い黛大成によって名づけられる。
その名も石蕗一誠。
この男児、確かな理性の光を宿し子供にしては早くから言葉を解し、早くから多くを学んだ。
しかしそれも仕方なきこと。なぜなら彼は転生者だったのだから。
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さて、この石蕗一誠と名付けられた男児。この世に新たな生を受ける前である前世において二十一歳という若さで通り魔に襲われる女性がこの男を盾にしたゆえにこの世を去った男であった。
その為、若干の女性に対する不信感を植え付けられながらも新たな生に感謝し、前世のような状況に陥ろうとも生還出来るほどの力を求めた。
そこで齢4歳になるときに両親に打ち明けたのだ。何かしら武術が習いたいと。それならと両親が連れて行ったのが黛家の道場であった。
これには一誠も驚いた。なにせ彼が目にしたのは生前、ゲームとして楽しんでいた世界の住人だったのだから。
入門は快く受け入れられた。というのもこの一誠という男児。なんの因果か、それとも転生故か武術に対する類い稀なる才を持ち合わせていた。それこそ大成氏を凌駕するほどの才を持ち生まれたのである。
大成氏が試しに木刀を振らせてみたところ、見事な一振りを魅せてみせた。これには大成氏も、振った本人である一誠も驚いた。石蕗一誠はこの日を境に毎日黛家での稽古に参加することが確定したのである。
そして一誠が黛道場に入門して一年が経とうとする頃、黛家では新たな命が生まれようとしていた。
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いつもは殆ど足音を立てない大成さんが足音荒くうちの両親の運転する車に乗り込んで来る。その顔は焦っているようにも見える。
それもしょうがないことだろう。なにせ今しがた大成さんの奥方が産気づいたというのだから。尚、この連絡は奥方自身がうちの両親に電話してきてわかったことである。
一年ほぼ毎日この道場に通い、大成さんとも親交を深めてきたと思うがこの人の機械音痴ぶりには流石に呆れた。電話をする時はいつも奥方に番号を押してもらってから受話器を手に取るほどである。なので奥方のその行為はうちの両親に対するSOSである。黛の家には車がなく、タクシーを呼ぼうにも旦那は役立たず。奥方の判断は正しいものだった。
うちの母が奥方を落ち着かせ、父が法定速度をガン無視する勢いで車を走らせ、病院に到着した。手続きの諸所を母に任せ、陣痛室の前でオロオロする大成さんだが正直、妊婦的にそのようにしていても目に入らないのでシャキッと構えていてもらいたいものである。
むしろ奥方と一緒にいてやれと思うが機械の多い場所に彼を置いておくと壊しかねないのではないかと奥方が危険視し、部屋の前で待機させられてしまった。前世では年の離れた妹が生まれる時に立ち会ったが、この出産という行為にはえらく時間がかかる。分娩室に入ってからもかなりの時間を要するし、分娩台に上がってからも初産婦であれば1時間以上かかるのもざらだ。前世にてその経験をした自分は近くの椅子に腰かけ、落ち着かない大成さんに声をかけて少しでも冷静になれるように父と一緒に話し相手を務めさせていただく所存である。この身がガキじゃなけりゃ家で留守番しながら素振りでもしてたんだがなぁ。
奥方が分娩台へとあがってから1時間がたった。自分と父が大成さんに声をかけてももはや彼にその声が届くことはないようだ。オロオロするばかりの彼を見て父と一緒にこりゃダメだと放っておくことにした。そして母が買ってきた飲み物で喉を潤していた時だった。産声を上げて新たな命が誕生したのは。
そう、この日、黛家に大成をして私を超える才と称えた黛由紀江が誕生したのであった。
黛由紀江。正直、この世界は前世の世界と殆ど遜色のない世界であり、この世界の基となったであろう原作におけるヒロインである彼女の誕生が齎したものは自分にとって大したものではなかった。
基本的に既に自分はこの世界の住人であるのだという認識は生まれているし、それによって彼女に対する態度が劇的に変わるということはないだろう。
精々が大成さんの家に通っているので知り合いになるか年も近いということもあり兄のようになるかといったところだ。ロリコンのつもりはないのでしっかりと兄として接していかなければなと心を改める一誠であった。
なんで俺はこんなもん書き始めたのか……