真剣で私に恋してください   作:猿捕茨

15 / 35
二人で稽古

その日の夜、指定された時刻の指定された場所に向かうと既に一誠はそこに静かに佇み、天衣を待っていた。

 

昼間の蝉の鳴き声とは異なる虫の鳴き声が聞こえていたのに一誠がいる広場に足を踏み入れると先ほどまで聞こえていた筈の虫達の鳴き声がぴたりと止む。

 

いや、止んではいない。なのに一誠から発せられる静謐な雰囲気がこの場を支配し、天衣の耳に虫達の鳴き声を遠いものと感じさせている。

 

一先ず、その空気に呑まれないようにしゃんとしながら昼のお礼を改めて言う天衣。それに苦笑で返す一誠。

 

「さて、準備運動してからは俺なりの鍛錬の仕方をやろうと思ってたんですけど大丈夫ですかね? 一応大成さんに確認とって俺の自由にして良いって言われてるんですけど」

 

その空間に似つかわしくない間の抜けた一誠の声。この空間を作り出しているというのにその顔には何ら特別なことをしているようには見られない。恐らく本人に問い詰めても特別なことはしていないと返すのだろう。実際、一誠としては気を静め、鍛錬用ではあるが戦闘態勢へと姿勢を移行しているだけなので特別なことをしているといった考えはない。

 

天衣はその雰囲気に負けないように背筋を伸ばして一誠の提案に応える。ここで萎縮していては剣聖に勧められて彼を訪ねた意味がなくなってしまう。

 

「ああ、そちらの方法で構わない。私が頼んでいる身だしな」

 

「稽古だけでなく食費や宿まで頼まれましたけどね」

 

さらっと憎まれ口を言ってくる一誠。これにはしょげてしまう天衣。そのしょげた様子にまたも苦笑する一誠。不必要な筈の出費に少し憎まれ口をたたきたくなったが別段、同年代の女性を詰る趣味は持ち合わせていない。天衣にそこまで気にしてないことを伝えて準備運動に移る。

 

 

準備運動を適当に終わらせて対峙する二人。稽古の始まりである。

 

一誠は準備運動の時の慣らしでは真剣を用いていたが今回の稽古では万が一の時のことも考えて真剣と同じ長さの木刀である。

 

「えーと、自分の稽古のやり方としては試合した後に双方で動作や技に対する反省会開いてその後は反省点を考えた上での動きを意識した一人での鍛錬を予定しています。というか基本的に自分のやり方がこんなんだったんで他にやり方知らないだけなんですけど……それで大丈夫ですか?」

 

「ああ、それで大丈夫だ。ダメなところはしっかり指摘して欲しい」

 

「はいはい。橘さんも気になるとこあったら言ってくださいね。自分、大成さんに指導してもらったとはいえ基本的に我流なんで。そんじゃ、始めましょう」

 

そう言った瞬間に一誠の顔つきが変わる。

 

硬質な髪は一瞬にして逆立ったように感じ、柔らかかった眼差しは鋭い刃物を思わせる眼光を宿し、その身に纏う空気が鋼のような硬質な印象へと変わったように思わせる。

 

準備運動の時点で一誠の優れた身体能力を看破していた天衣は即座にその刃の領域から自らの得意な距離である近距離へと近づこうとしたところ一誠の方から近づいてきて天衣を驚かせる。

 

「言って置きますけど……」

 

自らの放った拳に木刀が斜めに合わせられ、滑る。

 

「自分、結構強いですよ」

 

それから先のことは黛由紀江に負けた時以上の衝撃を持って記憶に刻まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、どうしたものか」

 

息も絶え絶えの天衣を見やり一誠は思う。確かに天衣は一定以上の強さを持ち、またその速度は誇って然るべきものを持っている。

 

けれども驚くべきことに天衣は気を用いた業や動きを行って来なかった。いや、今までの動きから考えると出来ないに近いのかもしれない。

 

一先ずの彼女の指導方針としては気を扱えるようになるといったものが優先度としては上位にあたるようになるだろう。どうなっても使えなかったら死の一歩手前になるような状況になるとこういったものは使えると聞くから真剣で切りかかってみるといったことも視野に入れておく。

 

一誠個人はこういったことは好かないが強くなりたくて大成の紹介で自分のところを訪れたのだからどうにかして力になってやりたいというのが一誠の本心である。

 

天衣の呼吸が落ち着いてきた辺りで本日の問題点を洗い直し、気を扱うための心構えや運用法を教えていく一誠であった。

 

 

 

 

双方の意見交換が済むとそれからはそれぞれの鍛錬の時間である。

 

天衣は一誠に指摘された動きを精査しながら横目に鍛錬をしている一誠を見やる。

 

中空を舞う刃。空を切る鋭い蹴り。樹に打ち込まれる壮絶な掌打。

 

それらすべてが弛まぬ鍛錬の成果であることがわかる。

 

四天王と謳われていた自分を容易く討ち果たした存在。

 

最速を自負していたが彼の速度には全く着いていくことが出来なかった。それを悔しく思う。

 

けれど、彼の指摘は同じく速度を武器とする者である故かとても参考になるものが多い。

 

彼を紹介してくれた剣聖に感謝をしなくてはと天衣は思う。

 

 

 

そしてそれぞれの鍛錬を終えた帰り道、いくら不幸体質だからと言って別々の方角でもなしということで一緒に帰ることになった二人。

 

そしてそこで天衣としては驚くべきことが起こった。

 

一誠との帰り道、一誠と別れるまでなんら不幸らしい不幸に陥らなかったのだ。

 

ちなみに一誠と別れてからはチンピラに絡まれた。撃退したが。

 

ここで気になったのが先ほどの一誠と昼ごろの一誠との違いである。

 

昼ごろは一誠と一緒にいても不幸な目にあっていた。けれど先ほどまでは彼と帰り道なんら問題なく歩いていれたのである。

 

なにかあるだろうと宿に着くと即座に一誠に連絡を取る天衣。

 

連絡を受けた一誠は考え込むと気付いた。先ほどまであって昼ごろ身に着けてなかったものを。

 

真剣である。

 

そもそも日本において刀とは神聖視されていた時期があるような単なる武器に収まらないものがある。

 

そして刀の中には守り刀というものが存在する。

 

古来から邪気や災厄を祓うものとして扱われてきた刀である。

 

まぁ、何が言いたいかと言うと先ほど持っていた真剣が作用したのではないかと言いたいのである。

 

事の真偽を確かめる為に翌日、試しに天衣に一誠が真剣を預けてみると不幸な目にあう確率が激減したというのであるから驚きだ。

 

流石に一誠の刀を譲るわけにもいかず、大成に事情を説明し守り刀になりそうなものを送ってもらい、それ以降は天衣は守り刀を肌身離さず持ち歩くようになった。

 

 

なお、これ以降人の部屋に上がっても大丈夫という認識が天衣の中で生まれたのかただ単に食費がやばかったのかはわからないが夕食を一誠の家に集りに来ることが起こるようになった。

 

 

 

そして天衣は一誠と一月ほど共に稽古を行い、満足のいく結果を出せたのか実家へと帰っていくのだった。




橘さんの話が以前のだと急いで書いたというのもあってなんだかなぁといった内容だと自分でも反省したので書き直して二話にした。

それでも尻切れトンボな印象が拭えない。


そして旅行行ってる間にあった感想の指摘(何故か今は削除されてた)を旅行から帰ってきてからプレイして確認して修正。もし返信がなかったから削除したのであったらごめんなさい。
旅行先にまでPC持ち込んでなかったから自分で確認出来たら返信しようと思っていたのです。
と言っても橘天衣のしゃべり方や性格については資料少ないし、いろいろやってくの面倒だしでこのままになりそうですが。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。