真剣で私に恋してください   作:猿捕茨

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入学

 

いやはや、島津寮に来て最初に出会ったのが風間で良かった。これが風間か源さん以外の面子だったら適当に挨拶して後の事は由紀江と麗子さんに任せてさっさと帰るところだったが来た相手が風間となれば話は変わってくる。

 

以前の縁もあるので、出来れば由紀江を此方になじませる手伝いをしてもらいたかったのだ。尚、こういうことに向いているだろう大和にそれを頼まないのかと聞かれれば、小雪の最初の頼みを断ったこともあってやや悪印象を持っているので選択肢に入っていない。小さいことと言うなかれ。可愛い妹のような存在が壊れる寸前だった時に突き放したのに対して良い印象を持てと言うのが無理な相談なのだ。まぁ、ただ交流する分には別に良いんだが交際したいとなったらブッ飛ばす自信が一誠にはある。

 

風間が部屋に入ってその姿を確認して話しかけたのだが風間は一誠の姿を覚えていないのか首を傾げてしまっている。

 

「んー? 会ったことあるって言われても心当たりないんだけど」

 

それも仕方のないことだろう。7年前の時に小雪とキャップと会ったとき、小雪はその後のごたごたもあって一誠が帰るまで一誠たちと一緒にいたが風間はあの一度きりなのだ。忘れられていたとしても仕方あるまい。

 

「覚えてないのも仕方ないな。ってことは改めて自己紹介したほうが良いか。これからここの寮にお世話になる由紀江の……まぁ、兄みたいなもんの石蕗一誠だ。よろしくな」

 

そう言った後に隣にいる由紀江にも目配らせをする。

 

「あ、本日よりこの寮でお世話になります。黛由紀江といいます。よろしくお願いします」

 

言った後に背筋を伸ばしてお辞儀をする由紀江。それに対して風間も挨拶を返して自己紹介をする。

 

双方の自己紹介が終えると風間もお茶の席に入ってくる。この寮の住人なのでなんとも簡単に馴染んでいる。

 

一誠の名前を聞いてからどこかで聞いたことがないかと考え込んでいるようだがたった一度の、それも何年も前の出会いを思い出すことは難しいだろう。それでなくともあのころの時期は彼らにとって椎名京や川神百代との出会いがあったのだ。一度出会ったことのある一誠のことなど忘却のかなただろう。

 

ふとそういった考えが浮かぶが今は由紀江を頼むのが先である。

 

「出会って早々ですまないんだがお願いをしても構わないかな?」

 

「ん? どうしたんです?」

 

「いやね、ここにいる由紀江はつい先日こちらに来たばかりでね。出来ればここらへんの地理に詳しい人に色々紹介してもらいたいんだ。それにこの寮にいるってことは君も川神学園の生徒だろう? 厚かましいかもしれないが学園で教えておくべきことなどがあったら由紀江に教えて欲しいんだ」

 

「それくらいなら別にいいっすよ」

 

何のためらいもなく了承する風間。隣では由紀江がそのような厚かましいお願いをなどと心配したり俺のお節介にちょっと不満げだったりと忙しそうに顔を変化させている。

 

「代わりにっちゃなんですけど俺からも聞きたいことがあるんですけどいいっすか?」

 

「ん? どうぞ」

 

「どれだけ思い出そうとしてもこう、なんか引っかかったように出てこないんですけど。俺、いつごろに会ったことあるんです?」

 

その言葉に苦笑する一誠。別に教えてもいいのだがどうしようか。

 

「んー、小雪に聞いてみたらどうだろう? それでわかると思うよ?」

 

その言葉にまた考え込む風間。いまも風間と小雪の間に交流があることは小雪経由で知っている。結局あの一件の後、小雪は風間ファミリーに入るのを見送り、風間個人との交流にとどめているようだ。

 

「あっ!」

 

と声がすれば風間が考え込んでいた体勢から勢いよく立ち上がり

 

「ユキの口からよく出てくる男の名前だ!」

 

と言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後は特にトラブルらしいトラブルもなく風間とちょっとした話をして俺は翌日由紀江を迎えに来ることを伝え、改めて麗子さんに挨拶をしてから帰宅するのだった。

 

入学式は明日であり、入学式に来たいのにどうしても外せない用事が入ってしまった大成さんにお願いされて入学式の様子を動画と写真両方で納めてくるように言われているのだ。

 

まぁ、由紀江の入学式が楽しみでないかと言われば嘘である。すごい楽しみである。それは川神学園であるとか関係なく由紀江の成長を見てきた身としての楽しみだ。先日行われた由紀江の卒業式には一誠も参加して思わず大成とともに涙したほどである。翌年の沙也佳の卒業式も大成とともにビデオカメラ片手に号泣することが容易に想像出来る。

 

夕飯の食材を買い出しながら家に帰った後の準備するものを脳裏で確認していく一誠。

 

スーツはクリーニングから返ってきたものをクローゼットに収納してあるし、ビデオカメラとデジカメは充電をしなければならないだろう。

 

本来楽しみにしているのは由紀江だろうにそれ以上に楽しみにしていることを自覚している一誠だった。

 

まぁ、入学を果たしてしまえば原作内であったような大和を中心とした誰かしらの恋愛模様が繰り広げられるだけだろうから気にする必要はない。武神に関しても彼女の力を推し測る能力は原作を鑑みるに戦闘をしてない時はそれほど高い訳ではないだろう。それなら名の通った武芸者でない自分であれば隠形をしていれば川神学園に行っても何かされることはないだろうと楽観視している一誠。

 

夕食を終えて、竹刀袋に真剣を入れて鍛錬に繰り出す日課を終えて家に帰ればいい時間である。明日の入学式に備えてさっさと寝るのだった。

 

 

 

 

 

早朝、朝食を済ませて由紀江の待つ島津寮に行く一誠。シャキッとしたスーツ姿は180㎝という一誠の身長にぴったりと合い、精悍な印象をより強めるアイテムとして機能している。

 

そして今回は歩いて島津寮へと向かっていると二階の窓からこちらを覗き込んでいる由紀江が見えた。手を上げると窓から引っ込んでいく由紀江。今頃階段を下りてこちらに来るのだろう。

 

玄関が空いて川神学園の制服に袖を通した由紀江が出てくる。

 

「麗子さんに挨拶はしてきたか?」

 

「ええ、大丈夫です。それじゃ、行きましょうか?」

 

「ああ、時間的には余裕あるけどいい席座りたいし行こう」

 

「もう! 別に入学式なんてそう大したことないのわかってるのにまた父上に頼まれて撮るんですか!?」

 

「まぁね。それに大成さんだけじゃなくて俺も楽しみだよ。こんなに美人に成長した由紀江の成長の記録を撮るんだから責任重大だな」

 

そう返せばもう! 一誠さんなんか知りません! とそっぽを向いてしまう由紀江。とはいえ美人だなんだと褒めたからか僅かに見えるその頬はうっすらと赤みがさしている。

 

暫く歩いていると川神学園が見えてきた。そして校門に差し掛かったあたりで案内役の生徒に引き留められてしまう。

 

そう、由紀江だが俺が再三にわたって入学式くらい持って行くのを止めろと言ったのに魂だからと強情を張って真剣を持って来てしまったのだ。まぁ、持って行くなら行くで国からの許可証を持って来ているし警察の方にも事前に一誠が連絡を入れているので然したるトラブルになる、といったことはなく許可証と警察への確認などをして安全が確認されたことから生徒に解放される由紀江。それに対して一誠は思わず小言を言ってしまう。

 

「だから言ったんだ。ここは小さいころから由紀江を知っているような地元じゃないんだから、真剣なんていらんトラブルの素になるって」

 

「ですがこれは!」

 

「はいはい。魂な。ま、どうしても持っていたいってんなら色々対処の仕方ってもんがあるんだからあそこで生徒に声かけられたからって挙動不審になっちゃダメだろう」

 

「だ、だって知らない人に声掛けられたら緊張しちゃうに決まってるじゃないですか!」

 

「これからお世話になる先輩かもしれんだろ。いつもの稽古の時みたいにハキハキとしゃべれば大丈夫だって」

 

その言葉に顔を不安に歪ませてしまう由紀江。地元では少ないながらも友人を持てたが一誠が色々と手を回したが故に出来たという最初の経緯があってか由紀江は友人を作ろうとした時にどこかで一誠に甘えを出してしまう。頼られて悪い気分にはならないが地元以外では一誠の交友関係もたかが知れている。

 

「はいはい、ただでさえ真剣を見てクラスメイトになる人が怯えるかもしれないから頑張って友達作るんだよー」

 

投げやりに由紀江に言い渡すと保護者用の体育館入口へと入場をしていく一誠。もう一応とはいえ結婚できる年齢になったのだ。初めての場所での友達作りくらい自分で頑張れというものだ。

 

 

 

かなり早い時間に入場したからか最前列のかなりいい席をとることの出来た一誠は三脚を取り出してビデオカメラを設置し、片手にはデジカメを持って入学式が始まるのを待っていた。

 

そして入学式が始まってからはテンパって動きの堅い由紀江や入学式の雰囲気が伝わるように全体を撮って行く一誠。

 

入学式を終えると生徒達はその後色々と説明が待っているもので、手持無沙汰になって暇な一誠。

 

由紀江と一緒に昼をしたら午後からは大学の方で春セメをスタートするガイダンスが待っている。

 

適当な喫茶店に入ってからお茶をし、由紀江を待って昼を一誠の奢りで事前にメールで小雪から教えて貰ってたランチの美味しい店で済ませ、大学へ向かうのだった。

 

 

尚、スーツでそのまま大学へ向かったので大学からの友人には「もう就活か? ずいぶんと気の早いことだな」と言われてしまうのだった。

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