真剣で私に恋してください   作:猿捕茨

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福引

商店街で買い物をしていると現在商店街でやっているらしい福引券を貰った。

 

さて、これをどうしようかと悩む。昔からこういったクジやら福引やらの類いは基本的に良いものを当てた記憶がない。こういったものが得意だったのは前世では年の離れた妹の独壇場だったのだ。その経験故か、一誠は個人的にこういったものを知り合いに譲ることが多い。

 

大学の友人に渡すのは、と大学の友人達の顔を思い浮かべていき却下することにする。他に残るというとこれに喜ぶのは麗子さんあたりだろうか? だからといってこれを渡すためだけに島津寮に顔を出すのもなぁ。

 

商店街をエコバック片手に歩いていると目の前に白い髪の知り合いの背中が見えた。これは丁度いいというものである。

 

「よ! 丁度いいところにいてくれたな」

 

「ん? 一誠じゃん。どうしたの?」

 

小雪の隣にまで急いで行き声をかけると呑気な声が返ってくる。

 

「いや、福引券貰ったんだが俺はこういうのに関しては運がないんでな。よかったらこれ受け取ってくれないか?」

 

そういって手に持つ福引券を差し出す。小雪は特に躊躇することなく受け取り

 

「福引やってるのって確かこの先だよね? それじゃ一緒に福引いっちゃおうよ!」

 

と一誠の手を取って走り出した。おいおいいきなりすぎやしないかと思わないでもないが小雪だから仕方ないかと呆れつつ歩調を合わせる。

 

商店街の一角。福引をやるためだけに特別に誂えられた一角で主婦の方々が福引券片手に並んでいる姿が見えてくる。

 

残念賞のティッシュも何だかんだで役に立つからか結構並ぶ人は多い。

 

「おおう……結構並んでるんだね」

 

「そらしゃーない。丁度スーパー辺りで半額とかの値札が貼られる時間帯だからな」

 

「でもでも、福引券って溜めてから一気に使うのが普通だと思う!」

 

「そんなもん人それぞれだろ。俺らは今回普通に貰った分を使おうとしてるんだし」

 

「一誠はこういう時に気の利いた一言が出てこないよね。これからこの列に並ぶ乙女に何か一言!」

 

「おつかれ。ま、この後俺の部屋にまで着いて来るってんなら実家から送られてきた食材使って飯作ってやんよ」

 

「おおう……ちょっと想定外の一言が出てきたけど嬉しいお誘いだからついていくことにする!」

 

きちんと両親に連絡入れておけと忠告してそれなりに動きのある列を詰めていく。

 

列に並ぶ隣で小雪は携帯電話を取り出して家に連絡を入れている。その表情は明るい。

 

ふと気づくと現在福引を行っている人物の頭にある特徴的なバンダナが視界に映った。はて、風間が一体このような場所に何か用があるだろうか? まぁ、福引をしているのだろうが持っている福引券の数が多いのかかなりの回数ガラガラを回している。

 

「うおおおおおおおおお! 俺の豪運よ! 今こそ吼えろおおおおおおおおお!」

 

年甲斐もなくそんな発言をしているので他人の空似ということもないだろう。原作知識とかもう完全に忘れているのだがこの時期に何かあったっけ?

 

風間がかなりの速度で回していたガラガラを止める。そして出てきたのは銀色の玉。

 

大当たり―! と福引を担当していた商工会の人がベルを振って祝福する。どうやら二等が当たったらしい。

 

「二等だって! やっぱ運いいよねーキャップって」

 

隣でそう言う小雪。関心している場合ではない。出来れば小雪にも良いものを引いて貰いたいのだ。実用品が当たったら交渉して一誠の部屋に置かせてもらいたいという下心もあるのでしっかりしてもらいたい。ガラガラの前でちっくしょー、一等じゃなかったかーなどとのたまいながら商品を受け取り去っていく風間を見ながら思わず思ってしまう。

 

風間が去ってからは大量の福引券を使用するといった人は現れず、あっさりと小雪の番が回ってくる。

 

商工会の人が小雪の手渡した福引券を手に持ち、小雪に福引の回数を告げる。

 

商品の一覧を見てみると残っているのは一等に二等、あとはいくつか目ぼしい商品が残っているといったところ。出来れば四等の掃除機がもらえたらうれしいといったところか。二等は二つ用意してあったようで風間が取った分が差し引かれ残り一つとなっていた。

 

「一誠応援しててね! 僕頑張るよー」

 

「おー、がんばれー」

 

かなりの棒読みである。別にそこまで期待しているわけではないのだ。

 

一回目はティッシュに終わり、少し落ち込む小雪。こいつは感情が顔にストレートに出やすいから見ていて飽きない。

 

もう一回! と声を上げながらガラガラを回す小雪。そこで一誠は見た。ころりと落ちてくる玉の色を。

 

まるでスロー映像のようにゆっくりと落ちていくように見える銀色の玉。思わず愕然としてしまう。いくらも時間を空けずに二等が当たるなんて……

 

大当たり―! の声が響き渡り商工会の人も思わず何度か確認してしまう程だったが無事二等の箱根への団体旅行券を受け取る小雪。

 

「へっへーん! どうだ!」

 

と胸を張りながら自慢してくる小雪。思わず頭を撫でてしまう。

 

「よーくやった! 流石にそれを俺が貰う訳にはいかないから小雪が行きたい人達と行ってきな」

 

その言葉に疑問符を浮かべる小雪。

 

「何言ってんの? 僕が一緒に旅行に行くとしたら一誠と冬馬と準に決まってるじゃん」

 

お前こそ何を言ってるのかと問いかければ、小雪たちの所属する2-Sでこういった旅行に行く人はいないだろうとのこと。

 

そういえばお坊ちゃんやお嬢様のいるクラスだったねSクラス。他に誘う人はいないのかと聞いても親達はGWも忙しいだろうとのことなので最大10名の団体旅行券をたった4人で使うという勿体ないことをすることとなってしまった。

 

行きはやっぱ電車なのだろうか? あそこらへんは前世での実家が近かったこともあって車が必要じゃないかと思ってしまう一誠だった。

 

 

 

 

 

小雪と一緒に夕飯を共にし、流石に彼女を一人で返すのは不味いだろうということで車で実家まで送っていく一誠。

 

送り終えてからそのまま鍛錬に直行し、汗を流してから家に戻ると由紀江からメールが届いていた。ずいぶんと珍しいことである。寮と一誠の部屋はそこまで離れていないので何かあれば直接部屋に来るのだが彼女からメールが来るとは……

 

メールの中身を確認してみると箱根旅行に行くことになったのでお土産は何がいいかというものと明日以降は旅行の準備に忙しいので一誠の家に行くのは旅行を終えてからという内容だった。

 

そのメールに一誠は自分も箱根旅行に行くことになったので土産はいらないと返して就寝するのだった。

 

 

 

 

 

 

尚、翌日の一誠の携帯には由紀江からの理由を問い詰めるメールが結構な量来ていたのは余談である。

 

事情を説明したらこちらの旅行に同行したいとか言い出したのでそれを諌めるのに苦労したのもまた余談である。




今更ながらに気付いてしまったこと。
マジ恋Sの公式HPでは由紀江の妹は2歳下という記述があるがA-1での沙也佳ルートでは大和が三年の時に一年として入学している。
二歳下なのに一学年下として入学している……あれ?
誕生日も由紀江10月の沙也佳4月……あれ?

とりあえず、この作品では沙也佳は由紀江と二歳差ということにしておきます。

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