時間はあったけど書いて形にするより設定を脳内で妄想するのが楽しかったんや!
石蕗一誠に軽蔑の意志を伝えてから二週間が経った。
その間、由紀江は常にあわわ状態で過ごしており、妹からの報告で一誠は橘天衣を部屋に泊めており、見方によっては同棲ともとれるような生活を送っていると聞いている。
拙い……本気で拙い……今となっては一誠も人間であるし、イライラしたりしてそれを百代にぶつけたのかもしれないとか実際は本当に百代のことを考えてあの攻撃を行ったりしたんじゃなかったかなーとか思ってみたりしている。
というか今更ではあるが元から親しい関係であったから遠慮なく色々言ってしまったが、今までの事を振り返ると百代の方がもっと酷いことをやらかしているではないか。
ヤンキーで自分に襲い掛かってくるとはいえ過剰防衛というか攻撃してくるのを楽しんで、しかも倒したら彼らに嫌味やその他色々な言葉を投げかけている。
何故気付かなかった、知らず知らずの内に風間ファミリーの空気に毒されていたのか。
そうだよな友達の沢山(一般的には少ない)いた地元を離れて知っている人が一誠しか居らず、しかも初めて一誠や元からいた友達を仲介しないで得た友達だ。
舞い上がってもしょうがない。うん、自己防衛終了。
そして現在沙也佳から入った情報を聞いた結果として、早く仲直りして現在共に生活しているという天衣との生活の調査に行きたい。
なにせ自分が一誠に対して怒った原因である百代が気分よく普段の生活を送っているのだ。これでは自分だけ一誠さんと気まずい雰囲気になるなんて損ばかりではないか。
いやいや損とか考えている場合ではなく!
普段は週末には必ず一誠の部屋を訪れて、暇な時にも訪れていたのが二週間も部屋に行っていない。一誠はこれで由紀江の心配をしていないのだろうか? そんなに年上との同棲が楽しいのか畜生。
由紀江は手入れしている刀に理不尽な怒りを込めて握る。
そもそも由紀江は些細な争いであれば自分の方から謝る気質である。それは一誠との関係でもそうであったはずであるが基本的に一誠も自分が悪いと思った時はさっさと自分から謝ってくる。
ただ、今回は一誠自身、自分も一部悪いと思っていても恐らく百代に自らの気を打ち込んだことは決して謝らないだろう。
それが由紀江としても仲直りの方法が思いつかない原因になっている。地元では友達がいたとはいえ対人関係においては能力値の極端に低い由紀江だ。このような状況に陥ったことなどないし、それの解決方法など思いつきもしない。
一誠に謝れば恐らく一誠はいつもの如く穏やかな微笑で許してくれるのだろう。ただ、今回のことにおいて由紀江が謝るとというのは由紀江の中で「何か」違うのだ。なんというか、なぁなぁの関係になってしまう感じがしてしまう。それはいけないことだ。
「悩んでいたって、時間は解決してくれないんですけどね……」
自分が一子程に行動力溢れる人間だったのであれば二週間も一誠と顔も会わせることがないということは無い筈だ。
けれど、ダメなのだ。あの時ほどの怒りは無いとはいえ自分の中で納得できなければ顔を合わせることはできないのだ。ただ、その納得できる何かが思い浮かぶ前に一誠の近くに天衣が現れてしまっただけで……考えているだけで泣けてきた。
ああもう、何かしら納得できる何かが自分の中で得るためにはどうすれば良いのだろうか……
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小雪はそれなりにうきうきしながら一誠の住むマンションへと歩を進めていた。それというのも旅行から帰って来てからこっち、一誠の部屋を訪れることがなかったためである。
一誠の部屋を事前連絡も無しに訪れると何故か一誠のジャージを着て部屋を掃除している女が居た。
「「……………」」
双方共に時が止まる。
こいつは誰だ?
小雪は一誠が誰かと同棲しているという情報は得ていない。最近一緒に鍛錬している相手がいるとは聞いていたが男だと思っていた。
天衣は突如として部屋を訪れた小雪に驚くほかない。ついでに部屋の中だからと油断して一誠がくれたジャージで気を抜いた姿を見られたのが地味に恥ずかしい。
「えっと、どちら様でしょう?」
「それは僕も聞きたいところなんだけど」
取り敢えず双方の事情を知っているであろう一誠はこの場にいなかったので努めて冷静に対応して自己紹介をしあう二人。
双方の事情を聞いてとりあえずは一誠の知り合いであるという認識を改める。
ただ小雪としては旅行の時に聞いた一誠の好みの容姿に近い天衣が一誠の部屋で居候をしていると聞き、危機感を募らせてちょっと涙目である。しかも居候の期間は天衣が一誠との鍛錬で納得いく調子になったらという実際は期限なんて天衣の思い次第でどうにでもなるというモノなのだから危機感は更に上がった。
天衣が一誠が返ってくるまでゆっくりしてくれと言って淹れてくれた紅茶は一誠が淹れてくれた紅茶よりも美味しくはなかった。これなら私の方が上手く淹れられると地味に優越感を感じる小雪。
しばらく雑談に興じていると部屋のドアが開き
「ただいまー、ん? 小雪が来てんの?」
という一誠の呑気な声が聞こえてくる。
「んー、最近遊びに来てなかったから来ちゃったのだ!」
「来るのは構わないけど事前連絡くらいはくれよ。今日は夕飯食ってくの?」
「食べよっかな」
「了解っと。あ、天衣さん掃除任せちゃってすいません」
「いや、居候の身だしな。当たり前のことだよ」
色々と一誠には聞きたかったのだが夕飯のお誘いに釣られて詰問は後日でいいだろうと流す小雪。そして冷蔵庫を開いてぶつぶつと言っている一誠を見ると小雪はやっぱり一誠が好きなんだなぁと改めて自分の感情を再確認する。
ただ近くにいるだけでこんなにも胸の鼓動が高まる。近くにいるだけでこんなに安心する。もしかしたらこれは子供が父に向ける親愛なのかもしれないとも思うがけれど、小雪としてはこの感情が恋であればいいと思う。
そうして一誠を見つめていると天衣が少し小雪を見てニヤニヤとした顔を向けているのを感じ、そちらに視線を向けると
「小雪ちゃんは一誠が好きなんだねぇ」
と一誠には聞こえないように耳元で囁く様に言ってきた。そういわれた瞬間に耳まで沸騰するとでもいうように純白の肌を紅潮させる小雪。またもニヤニヤする天衣。人を弄るよりも弄られることの方が多かった天衣だがこの純情な少女は見ていて飽きない。
天衣としても一誠のことは好ましく思っているし、付き合ってくれと言われれば喜んで付き合う程度には想っているが、それは恋なのかと言われると微妙なところだ。今は先ほど知り合い、そして自己紹介の席で一誠との関係を必死に探ってきた少女の恋の行方を見ていたい。
そんなやり取りを二人でやっている間、その様子に気付きもしないで冷蔵庫の中身と夕飯に出来そうな料理を考えていた一誠は冷蔵庫をパタンと閉じて柏手を一つ。
「メニュー考えるの面倒だから今日は外食しよう!」
と高らかに宣言するのだった。
暫く一誠の部屋で時間を潰してから車で一誠おすすめの店まで向かうのだった。
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由紀江が同じクラスの友達と遊んだ帰り、自分が歩いている歩道とは反対の対向車線に見知った車を見つけてしまった。
一誠の車だ。しかも助手席には小雪が乗り、後部座席には天衣も乗っている。時間帯や小雪の上機嫌な様子を見るに食事をしにいくのだろう。
なんだこれ、なんだこれ。
一誠を軽蔑した罰だと言うのだろうか。憧れの人が自分が思っていた非道なことを行ったから諌める目的で言ったというのにこの仕打ちはなんだと思考が沈んでいき、うなだれてその日は島津寮に帰って寮生に心配される由紀江だった。
翌日、自分だけではこの状況は脱出出来ないと判断した由紀江は岳人を頼った。
親しい間柄だけれども双方共に譲れないものがあり、喧嘩とは言わないが関係が冷えてしまった。どうすれば良いかと聞いてみたら
「そんなもん全力で喧嘩して、心の中にあるもん全部出し切ってすっきりすれば勝手に仲直りしてるもんだろ」
というありがたい言葉を貰った。由紀江の中には何故かそれは天啓のように感じられてしまった。だからだろう、その日、学校の帰りにそのまま一誠が鍛錬しているという山に向かい、一誠を待ち受けた。
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この状況はなんなのだろうか?
一誠は困惑していた。普段、鍛錬をしている場所に天衣と共に向かってみれば静かに正座をしながら待っている由紀江がいた。
最近はぎくしゃくして交流を絶っていた由紀江が何か決意を秘めた目でこちらを睨み付けてくる。
「一誠さん」
静かな闘気をたたえた言葉が一誠に向けて発せられる。その全身から漏れてくる静謐な気に天衣は思わず身構える。それに一誠は泰然自若としてただ、「なんだい」と答えた。
「何も言わず、私と戦ってくれませんか?」
覚悟を決めた瞳だ。
何を考えてこのような行動をとっているのかは一誠には推測出来ないが、それでも由紀江なりに真剣であるということは伝わってくる。ならば年長者として正面から受け止めるだけである。
天衣との鍛錬を予定していた為に、天衣にやってもいいかと視線だけで許可をとろうとすれば天衣は静かに首肯をして二人の邪魔にならないように離れた気に体を預ける。
そして一誠は自らの持つ刀を抜き放ち、一回転させてからパシッと音を立てて自らの右手に握る。
その姿を確認してから由紀江も刀を抜き放ち
「ありがとうございます。私の我儘に付き合ってくれて……行きます!」
全力の踏込を持って一誠に仕掛けた。
この作品におけるそれぞれの立場
・一誠に対する恋愛感情
由紀江=小雪≧天衣
・一誠からの恋愛感情
天衣>小雪≧由紀江
・一誠に対する好いてるアピール
小雪>由紀江≧天衣
・外堀の埋まりぐらい
由紀江>小雪=天衣
こんな感じ