真剣で私に恋してください   作:猿捕茨

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戦闘描写ってなんなん

あ、本日二話目です。


天衣VS百代

 由紀江と一誠のそれなりに激しかった対決から数日。約束を守るために天衣と一誠は川神院へと向かっていた。

 今までは大丈夫だと思っていたが、これから以前惨敗した川神百代と戦うことになるのかと思うと心臓の鼓動が速まり、知らず早足になりかける。

 私はこんなにも弱かったのだろうか?

 下手な考えが思わず脳裏をよぎる。けれどもそれも一瞬の事だ。

 

「ほら、らしくなく緊張なんかする必要ないですよ」

 

 そういって隣を歩いていた一誠が肩を揉んでくる。人によってはセクハラだと騒ぎ出すような行為なのだが今の自分にはありがたかった。うん、下手に考えすぎる必要なんてないんだ。

 

「私はただ、全力を出せばいいだけだったな」

「そゆことです。まあ、もし負けちゃったらヤケ酒付き合いますよ」

「負けるの前提で言うんじゃない、この馬鹿者が」

「ははっ、その調子ですよ」

 

 うん、緊張がほぐれてくる。川神院へ向かう足取りも落ち着いてきた。これから立ち向かう百代に苦手意識は残ってしまっている。けれど、こちらには頼もしい男が背中を支えてくれているという思いが胸を満たしている。

 ああ、これだけ心強い味方がいるんだ。ただ闘争を求める獣の百代に負けて堪るか。

 

「そんじゃ、祝勝会するために買った食材を無駄にしないために勝って来てくださいよ」

「それを聞いてはますます負けられないことになったじゃないか」

「ええ、期待しています」

 

 まったく、視界に映る川神院からは百代の昂ぶった気が立ち上っているのが見えているというのに一誠の空気に流されてしまう。けれど、これでいいのか。気負わないでいこうか。

 

 

―――――――――――――――――

 

 

「よく来てくれたの」

 

 そういって鉄心が川神院の入り口で二人を迎える。天衣はぺこりとお辞儀をしたが一誠は百代からことの次第を少し聞いたからかジト目で鉄心を見ている。その眼にはしっかりと「爺馬鹿は良いが自分に迷惑かけるな」と語っている。

 たらりと鉄心の背中を熱くもないのに汗が流れる。けれどそれに気づいていながら空気を読まないで天衣が静かに川神院の対外試合場に歩を進め、それを溜息一つはいて一誠が続く。

 

「やれやれ、おっそろしい目をしおるの。しかし……用意してきた相手が橘の娘か……今のモモの相手が務まるかのう」

 

 その呟きが聞こえたのだろう。まるでけがらわしいものを見るかのような目で一誠が睨んできていた。全く、こちらが悪いとはいえ、怖い怖い。

 

 

「今回の対戦相手は天衣さんでしたか」

「そうだ。以前破った相手でやる気が湧かないか?」

「まさか、見た目やその動作で侮って痛い目を見たんで今度はそんなことしませんよ」

「まさか百代からそんな言葉が出るとはな」

「いやだなあ、可愛い後輩の成長を素直に喜べないんですか?」

「少なくとも先輩として今日は勝たねば後輩の成長を喜ぶところまでいけないな。それに可愛い後輩はそんなこと言わんよ」

「あはは、仕方ないですね」

 

 皮肉めいたやりとりをした後、天衣は線引きされた舞台の外で正座でこちらをまっすぐに見ている一誠に向かって笑いかけると口だけで『私の成長を見てくれよ?』と言うと一誠からは『楽しみにしてますよ』と返ってくる。

 

 

 

――――――――――――さぁ、リベンジマッチを始めよう。

 

 

 

 相対する天衣から一気に今まで感じたことが無い程の気が噴き出す。豪風のように荒々しく、けれどそれを過ぎればまるで先ほどの気の奔流などなかったかのように無風とでもいうように天衣から感じられる気が亡くなってしまった。

 

「さあ、始めようか」

 

 けれど天衣はそれに頓着せずに腰に佩いていた小太刀を抜き放ち構える。ああ、なんてことだ。天衣は百代の知らないワザで来てくれる。それは天衣が以前百代に敗れてから身に着けたワザということだ。

 それを見て百代が感じたのは歓喜。うれしい。自分に再度新たなワザを携えて挑んできたのだ。しかも先ほどの気の奔流は以前の天衣にはなかったもの。

 ああ、試合が始まるのが待ち遠しい。

 

「ああ、始めよう! ジジイ!」

 

 思わず審判役を請け負った鉄心に催促の言葉を投げかける。

 

「まったく辛抱がないのう……双方、共に問題は無いか?」

 

「無い」

「あるわけないだろう!」

「ああ、でも――――――」

 

 問題ないと言ったその口でけれど、と天衣は言葉を紡ぐ。

 

 

「瞬間回復は常に意識しとけよ、百代? 多分、かなり深い傷が増えると思うからな」

 

 

 そう言った。その言葉に野獣の如き笑みを見せる百代。目線だけで鉄心に開始の合図を催促する。

 

「まったくもう……それでは!」

 

 双方が構える。天衣は半身で小太刀の切っ先を百代に向けて静かに構え、百代は我慢できぬとばかりに前傾姿勢でいまにも飛び出しそうな構えだ。

 

「はじめええええええええええええい」

 

 

 

「まずは小手調べだ! か・わ・か・み・波!」

「バカが! そんな無駄の塊のような技で今の私を捉えられると思うな!」

 

 百代の手の平から極太のエネルギー砲が発射される。けれどもただ百代の強大な気を外界に押し出しただけの技とも呼べないようなものだ。今の天衣には恐れるほどのものではない。

 一足で百代の側面に回ると内界に回した気を加速させて自らの身体能力を一気に加速させる。

 

「まずは一撃!」

「ッッ!!」

 

 百代の背後を通り抜けるように移動した天衣。その手には血塗られた小太刀があり、手の中でくるりと回されてその血が払われる。

 その動きを思わず茫然と見てしまった百代は足元から襲ってくる予想していなかった痛みに即座に瞬間回復を発動する。

 

「足の腱を!」

「ダメじゃないか百代。自らの視界をもさえぎる様な技を使っては」

 

 どうやら自分はまだ天衣を侮っていたらしい。小手調べなんてものをしている状況じゃない。むしろ自分が全力を出して勝てるかどうかの相手だ。

 ああ、嬉しい。

 ああ、楽しい。

 あああああああ、どれだけ私を喜ばせてくれるんだこの人は!

 

 

 

 

 百代が興奮して一撃を加えるべく天衣に襲い掛かっているのを横目に鉄心は驚愕していた。天衣の実力にではない。いや、それも含まれているがけっして主はそこではない。

 百代が放ったかわかみ波の先には正座していた一誠がいたのだ。しかも鉄心が周囲の安全の為に張った結界の外ではなく中に。危険だと思った。だからどうにか助けようとしたのだ。

 

 けれど、必要なかった。正座したままの姿で自らの刀を抜き放ち、百代の放ったかわかみ波をかき消した。そう、切ったのではなくかき消した。なんというワザだ。

 確かに彼が強いだろうとは思っていた。百代をたきつける為に彼が百代より強いとも言った。けれど実際に彼の腕前の一端を見たのは鉄心をしてこれが初めてだ。百代は天衣に夢中で今のワザを見てはいないだろう。

 けれど、これでは百代より強いどころではない。剣聖め、なんという化け物を育ておったのだ。

 

――――――彼が暴走したとき、止められる者がいなくなってしまうではないか。

 

 内心で思った時に一誠はこちらを向き鉄心の目から見てもとてつもない速度で掻き消え耳元に「ご心配なく、自分は戦闘狂でもなければ無為に他者に剣をむけませんので」という言葉を残して元の場所に戻ろうとする。

 けれど一瞬何か思いついたのかまたも鉄心に近づくと「ああ、それと――――――天衣さんは速度だけでしたら自分よりも上ですので」気を付けてくださいね。というかのように微笑をたたえて元の位置で正座の形に戻る。

 一瞬の出来事。けれど鉄心はそれに盛大に顔を顰めるのであった。

 

 

 

 

「そら、既に二十に近い重症を負ったぞ」

「クソッ!」

 

 あまりの素早さに天衣を百代は捕まえることが出来ないでいた。

 なんだ、この素早さは。以前と比べることすら烏滸がましいほどの眼にもとまらぬ連撃が百代に加えられる。自分も一誠に気を打ち込まれてから普段以上の鍛錬に励んだというのにまるで追いつけていない。

 途中から天衣の動きを観察することに集中することでどうにか目が慣れてきて動きは見えるようになってきたがそれは百代の資質が優れているからだ。本来ならばこんな短時間で追いつけるような速度ではない。

 

 既に天衣の言うように二十近い傷を負い、その為に瞬間回復でエネルギーを大量に消費してしまっている。

 どうする。どうすれば天衣を捉えることが出来る。ブラックホールを出すか? いや、その動きの初動を見せたならば即座に切りつけられるだろう。

 瞬間回復という自らの業に任せて突撃を仕掛けるべきか? いや、天衣の獲物は小太刀だ。由紀江の使うような刀ならば自らの体に突き刺させることで動きを封じることも出来るだろうが小太刀では突き刺させて動きを止めるような動きを見せれば即座に引くだろう。

 やはり、攻撃してくる瞬間のカウンター、これに賭けるべきか。

 

「やっとの本気か。エンジンがかかるのが遅いな」

「はははっ、耳に痛いですね」

 

 天衣からの皮肉に苦笑しか出ない。天衣は言っているのだ。闘いを楽しもうとして手加減をするなと。

 少なくとも今回は最初の一撃を除いて本気でいたつもりなのだが天衣から見ればその動きの違いから今から本気をだしているように感じたのだろう。

 手加減をして戦うことに慣れ過ぎた。少しでも闘いを長く楽しみたかった。けれど、天衣との闘いは彼女が首を狙えば即座に終わるようなものだ。刃物を使った戦いは本来一瞬で決まるというのだろう。

 

 ああ、勿体ないなぁ。なんて思っていたら自分の中に打ち込まれていた一誠の気が爆発的に高まって行く。まるで今回の闘いに感傷を持ち込むなと主張するようだ。事実一瞬一誠の方を見れば百代を睨み付けている。

 なんだ、ここに打ち込まれた気は今回妨害するためかなとか微かに思っていたのにそんなことなかったのか。最初の出会いが出会いだったので百代としても一誠の事を心の底から信じることが出来ていなかったのだ。

 実際自分は失礼な態度だったと思うし、そんな自分に本当に相応しい対戦相手を用意してくれるなんて……

 

 ああ、この人とも戦いたかったなぁ。

 

「気が散っているぞ!」

「ッッ!」

 

 一瞬気を抜いたら天衣の小太刀が脇を掠り、そして百代に捕まれないようにと天衣は一誠が得意とする足技を持って百代を弾き飛ばす。

 あまりに強く弾いた影響だろう。肋骨の何本かが折れたのか瞬間回復をまたも使ったようだ。けれど、先ほどの腑抜けた雰囲気は払しょくされている。

 

「すいませんね。思春期なもので」

「どの口がいう!」

 

 天衣がまたも不規則な動きで百代に接近してくる。

 躱せない。そう判断してから百代の行動は決まっていた。

 

 天衣の小太刀が太ももに触れたと知覚した瞬間に百代はある技を発動する。

 

「人間爆弾!」

 

 百代を中心に大爆発が発生し、そのエネルギーが鉄心の張った結界を軋ませる。掴むことは出来ない。だからこそ近づいてきたところを自爆技で巻き込む。

 本来の人間爆弾の威力よりは落ちるだろうが少しでも天衣にダメージを与えれば本来のスピードを少しでも殺せる。ならば百代にも勝機は見えてくる。

 

「ッツ! 少し効いたぞ百代」

 

 遠く離れた位置に少し服の破れた天衣がいた。どうやらダメージはそれなりに与えることが出来たようだ。

 代わりに気を練った斬撃を爆発の瞬間に何撃が貰い、瞬間回復を数回連続で使わなければ回復出来ないような傷を負わされたが。

 だが、それだけの犠牲を払ったかいはある。

 

「これからが本番ですよ!」

「それはこちらのセリフだ!」

 

 ほんの少し速度の落ちた天衣を百代は捉えていた。そもそも先ほどの最速の状態の天衣の速度に目はどうにかついていくことの出来ていた百代だ。自然、速力が落ちれば対応することが出来るようになってくる。

 

 天衣が近づいてきたと同時にカウンターを発動する。

 

「はああああああああああああ、無双正拳突き!」

「以前敗れたそれを食らう訳にはいかんのだ!」

「なっ!?」

 

 天衣は、上体の移動だけで百代の無双正拳突きを躱して見せた。

 

「そら、動きが止まっているぞ!」

 

 刃が突き立てられる。

 

「それを待ってました!」

 

 突き立てられた瞬間に百代の腕は素早く伸びきった天衣の腕を掴み自らのワザを繰り出す。

 

「ダブルで行きます! 川神流 雪達磨! 炙り肉!」

「ッグ……やられるかあああああああああああ」

 

 百代の繰り出す全てを固める冷気と紅蓮の炎を繰り出す技を受けながら天衣はその柔軟な股関節を生かしてほぼスペースの無いところから垂直に脚を振り上げ百代の顎を狙う。

 その鋭さを感じ取ったのか百代も深追いはせずに掴んでいた腕を話してその脚撃を回避する。

 

「はあはあ、これで……片手は潰すことができましたよ」

「ふん、瞬間回復に頼っているような者が生意気を言うんじゃない」

 

 やせ我慢である。天衣の腕は後で気を用いた治療を受ければどうにかなるが相反する属性のワザを一瞬の内に食らい、この戦闘中に使うことは叶わないだろう。

 けれどそれに対する百代も余裕があるわけではない。既に瞬間回復の残りは一回使えるかどうか。他に川神流の奥義を使う余力などない。

 瞬間回復に頼り過ぎていたという天衣の言葉はまさにその通りだ。今回の試合において普段以上に瞬間回復を使わされ続け、他のワザを使う余裕がなかった。

 もう、こうなったら最後は瞬間回復になぞ頼らず自分の最も得意とするワザを繰り出すしかないだろう。

 

 双方共に次が限界、それを理解しているのだろう。最後の一撃を加える為に踏み出した一歩は双方同時だった。

 

「あああああああああああああああああああああああ」

「はああああああああああああああああああああああ」

 

 相手の顔が至近距離に迫る。

 

「無双――――――」

「我流――――――」

 

 百代は前回の試合の時に用いた最後の技を全力で!

 天衣は一誠に付き合って貰った結果編み出した最速の一撃で!

 

 

「正拳突きいいいいいいいいいいいいいい」

「断ち風えええええええええええええええ」

 

 

 

 

 両者の全力を籠めた一撃が交差し、時が止まる。

 

 双方共に一撃を加えたというのは確実だ。一誠も鉄心もそれは確信している。

 

 そしてその後の動きも両者同時だった。

 

 

――――――ドサッ

 

 

 倒れた。両者同時に。百代は天衣に切られた箇所から血を吹き出しているし、天衣は天衣で百代にやられた片手の損傷が激しい。

 

 何も言えなかった。けれど、動かねばならない。

 

「双方、同時に倒れた。この勝負引き分け! 急いでモモと橘の娘の治療を!」

 

 一誠が天衣を抱え、鉄心は百代の来ていた胴着を使用して止血。その後川神院の修行僧たちに二人の治療をするように伝えるのだった。

 

 一誠が修行僧に治療をお願いするとき、天衣は途中で意識を取り戻したようでぼんやりとした瞳で一誠を見据えると

 

「なあ、一誠。私は勝てたのか?」

 

 と問うてきた。

 

「いいえ」

「なら負けたか?」

「いいえ」

「なんだ、祝勝会はお預けか」

「ま、引き分けでもよろこんどきましょう」

「ふふふ、君は相変わらず武術をやっているような人と異なることを言うな」

「そうでしょうか?」

「悔しいよ……」

「そうですね」

「まだ、君の所で君とともに鍛錬をしてもいいかな」

「ええ、天衣さんの気の済むまでご一緒しましょう」

「ありがとうな、一誠」

 

 静かに微笑んで天衣は治療を開始されるのだった。




もうぐずぐずですよホント
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