師匠の構えを少しでも崩すように顔を狙うように突きを狙う。それでも師匠の構えは変わらず、容易く俺の剣は弾かれる。
弾いたと同時に師匠の攻勢が始まる。足を狙った払い。その攻勢を予測して俺は跳んだ。
空中にある木刀を手にし切りかかる。俺の攻撃に師匠は攻撃を合わせることで対応する。相変わらずこの人の攻撃した後の戻りには驚かされる。
木刀同士が激突する。つばぜり合いになろうという時、手の力を抜き俺は木刀同士が打ち合うその下に脚を滑り込ませ顎狙いの蹴りを放つ。
俺の目前すれすれを師匠の木刀が通り過ぎ、師匠は驚くほどの速度で後退した。
「ちぇっ、あとちょっとだったのに」
「まだまだ、だな」
片足で着地し、言ってみたら鋭い眼光で言われてしまった。双方、その言葉を交わしたらまたも打ち合いが始まる。
その日も一誠の敗北によって鍛錬は終了したのだった。
『奇剣』それが俺の選択した剣の型。おおよそしっかりとした型も、しっかりとした技も存在しない変幻自在の軽業師のような剣。
剣はくるくると回りそれを腕に固執せず脚でも剣を握り、体術も用いて敵を打倒する。自らの剣の腕を誇る人にとっては邪剣とも誹られるような剣。
常に機先を制するように立ち回り、足技も使用し、当身も躊躇なく使用して勝負に持ち込む。その剣に正義のようなものはなく、褒められるような剣ではない。
本来、このような我流の剣は長い年月を重ね、研究されてきた武術には劣るものだがそこは俺の師匠の腕である。我流の剣だろうが悪いと判断したところは打ち込みと勝負のあとの検討会で注意され、この剣はその動きからは想像できないほどに洗練されたものとなっていた。
個人的にはこんな奇剣よりも正当な剣術を使いたかったが悲しいことに一誠という人間の気の運用と体格、筋肉の付き方から考えても俺はこの剣に適合していた。
家に帰ってからは日課の居合いの形での素振り。その日は親に早く寝ろと言われるまで素振りを行っていた。
翌日、門下生が鍛錬を行う道場に由紀江の姿があった。振るわれる一刀はまさに剣聖の娘という名に恥じず、黛という正道の剣の才を感じさせるその一刀は見惚れるほどに美しい。自らの剣を卑下するつもりはないが、もうちょっとどうにかならんかったのだろうか。
由紀江はぎこちないながらも休憩のときには門下生と交流しているようである。門下生たちは恐れ多いと思っているのか遠慮してるようだがそれも時間が解決するだろう。
っと、俺も他人の心配ばかりしてないで自分のことに集中しなきゃな。
休憩中に本道場を覗きに行っていた俺は離れの道場に足を向けるのだった。
離れの道場に着くと少し長めの俺専用の木刀を手に師匠が目の前にいたときにどのように動くのかを脳内で再生していき体を運用していく。
誇るような技もない俺には長い年月をかけて目に焼き付いた師匠の動きを脳内で再生し、どのように体を運用していくのかを考え、その動きを体に叩き込み、とっさに動けるようにあらゆる場面を想定した動きを練ることしか出来ない。
木刀が回り、脚が空を切り、床にはキュッキュッとした子気味いい音が鳴り、この小さな道場という空間は一誠という存在を鍛え上げていく。
本日の鍛錬を終え、黛さんちの夕飯を頂く。食事の時に大成さんは口を開かないがそれを子供に強制させるつもりは無いらしく、由紀江が俺に声をかけて来ても怒るということはなかった。まぁ、その他の分野だと奥方と一緒に厳しく躾けているので言葉遣いや家事についてもちょっとしたお手伝いを今からさせていくらしい。
「あの、一誠さん」
「ん? どうした由紀江」
「今日の私の稽古見てくれましたか?」
「ん、綺麗な一振りだったと思うよ。休憩の時も見かけたけど頑張って門下生の人たちに声をかけていたね」
そう答えると由紀江はぱああっと喜びを顔に出す。それからは怒涛のごとくだ。どういったことを頑張った。稽古がすごく厳しかった。けどそれ以上に門下生の人に声をかける緊張の方が怖かった。一誠と一緒に稽古受けられないのがちょっと残念だったといったことを言われ、その言葉に一誠は柔らかく微笑むのであった。
なんとなくチラ裏にしたけどこれはチラ裏と通常投稿どっちがいいのだろうか
何分、チラ裏の意味すら曖昧なもので