真剣で私に恋してください   作:猿捕茨

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結構時間は跳んでいく


小雪

突然だがうちの父は現在単身赴任をしている。それもマジ恋の舞台である川神である。

 

そして今日、中学2年生という年齢となった俺は母と一緒に久しぶりに父に会いに来たのである。

 

川神の地に降り立った一誠はこれが原作の地かと感慨深い思いになっていた。それと同時に体から漏れ出る気を体の奥底へと鎮める作業を行っていた。

 

隠形。すなわち強者から自らの力を隠す業である。というのもここは川神の地。後の武神と名高い川神百代に目をつけられでもしたら目も当てられない。

 

確かに一誠は強くなり、師匠である大成さんからも最近では勝利も得ることが出来るようになってきている。しかし、だ。それが必ずしも力を試してみたいという欲求につながるかと言えば一誠の場合はNOである。

 

一誠の力を求める理由は前世の死因のような状況に陥ろうとも生還するだけの力を得るというものであり、力を求める理由としては甚だ微妙なものである。

 

剣聖の教えを受けるうちに体を動かすことを楽しいと感じるようにもなったし、剣聖と名高い師匠を得たこともあり驕ることなく、さぼることなく鍛錬は続けているが元来、一誠という人物は争いごとをあまり好まない。

 

けれども今回、川神の地に来たのを理由として一誠は原作において変えなければと思っていたことを変えようとしていた。

 

それが榊原小雪の救済である。といってもいくつもルート分岐する作品が原作である世界であるので小雪が主人公たちと遊んでいる姿を確認出来たらなんら関与することなく去るつもりである。

 

しかし小雪が一人であることを確認したら小雪本人から話を聞き、自らの両親及び師匠である剣聖に相談し、場合によっては剣聖経由で川神院の鉄心をも巻き込んで小雪を救うと決めていた。

 

虐待を受けていると知っている娘を原作だと主人公たちと遊ばせれば救われていたからと楽観視し、その流れに持って行かせる程に一誠という人間は甘ったれでなかった。場合によっては両親に初めてわがままらしいわがままとして小雪を養女としてくれないかと言うつもりもあったし、それが断られたとしても小雪が入った養護施設に通って小雪の心のケアをする決意を固めていた。

 

 

本来ならばもっと早く川神の地の来て、彼女や葵冬馬と関わり、何らかの処置を行いたかったのだが一誠が住む地は石川の加賀。

 

神奈川の川神に来るには金銭的にも厳しかった。それだけでなく年齢的に親が許可しなかっただろう。

 

 

 

母が父と談笑しているのを確認すると二人に周囲を散策しに行く旨を伝え出かける。

 

 

小雪が大和と出会っていた場所は彼らの秘密基地のある場所で、尚且つ二人は違う学校に通っていた。それを考えると学区の境に近く、自然の多い場所であることが推察される。しっかりした場所までは流石にわからないので出会えたらめっけもん程度の考えである。

 

今回、一誠が川神に滞在する期間は一週間。夏休みを利用しての旅行のようなものだ。その期間に小雪を見つけられるかはわからない。

 

特徴的な少女ではあるが原作において彼女が大和にあった時期が具体的にいくつくらいの時なのかわからないのだから。

 

多分小学4年生ってのは覚えているのだが……見つからなかったら見つからなかったで市街地に行って道行く人や小学生に髪の白い女の子のをことを聞いてまわる所存である。

 

 

初日に見つけることはできなかったが両親のところに帰る道すがら聞き込みをしてみると大和たちが秘密基地として遊んでいる場所の特定は出来た。翌日はそちらに行ってみることにする。

 

 

両親には今日も出かけることを伝え、元気に外に出る。前日に判明した秘密基地の場所に行き待機していると大和たちより先に小雪が現れた。なんとも好都合。

 

現れた小雪は俺に恐怖心を抱いているのか近づいて来ようとしない。虐待されている影響か小雪は大人に対してかなりの恐怖心を抱いているようだ。中学に入って身長の伸びた俺も大人というカテゴリに入っているのかもしれない。

 

だが、俺はこんな時に備えてあるものを持ってきているのだ。それというのもバルーンアート用の風船。

 

慣れれば結構簡単にできるもので近づいてこない小雪にはあえて頓着せずに風船を膨らまし、ダックスフントを作ってみる。

 

ちらりと見てみると目をキラキラとさせているのがよく見える。差し出すようにダックスフントを見せたのだが欲しそうにしてるがまだ近寄ってきてくれない。俺の方から近づくと逃げて行ってしまいそうだ。

 

少々溜息をつき、また風船を膨らませる次に作るのは花である。小さな輪を花弁を作り出していき小雪の反応を見ていく。

 

そんな時である。

 

「あー! お前ら俺たちの秘密基地で何やってんだよお!」

 

 

めんどうなことになった。


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