風間の投げる小枝が中空を舞い、一誠の手に渡る。既に8本の小枝が空を舞っている。
その様は小枝が意志を持ち、ダンスを踊っているかのようだ。小雪の目にはそのように映ったし、それは風間も同様だろう。
アイスのことなど忘れて見入ってしまう。小枝を投げ出すのも忘れてしまい、一誠が投擲を目で催促するほどだ。
魅せられるというのはこういうことを言うのだろう。子供ながらに二人はその華麗な手さばきに見惚れてしまった。
ポンポンとテンポよく中空を舞う小枝を見ていると突然その流れに乱れが生じた。一誠が手元を意図的に狂わせて失敗させたのだ。
二人はそれを残念に思う。あの時間がずっと続けばいいのにと思ってしまうほどにはそう感じた。
「やれやれ、失敗してしまった。アイスは小雪ちゃんのものだな」
そう一誠が言うとたった今気付いたかのような反応を二人してする。そんな反応を見て一誠は微笑む。自分のやったこを二人が真剣に見ていてくれたのだ。うれしく思わないはずがない。
「とはいえ、10本目のときもちょっとだけ手元が危うかったからキャップにも残念賞ということで一番安いのを買ってあげよう」
そう言ってみれば二人して笑顔になる。子供の笑顔というものは何物にも勝る宝だという言葉を感じさせる満面の笑みだ。
「それじゃあアイスの買えるような場所を教えてくれないかな? 兄ちゃんはここらへんは初めてでね。詳しく知らないんだ」
「ごめん。ぼくもここのあたりは知らないの」
「それじゃ俺が案内するよ! こっちに美味しいアイスを出す店があるんだ!」
そういって駆け出す風間。それに微笑ましいものを感じながら小雪の手を取り一緒に歩き出す一誠。差し出され、握られた手に落ち着かないながらも笑顔でついてくる小雪。
その背中には楽しいという感情があふれていた。
風間に連れていかれたのは仲見世通りに軒を構える和菓子屋。季節がらなのか茶店の部分ではアイスやかき氷なども販売してるようだ。これには一誠も驚いたが基本的に小遣いを貰っても文庫本を買うかどうかという一誠としてはアイスの値段にどうこういうつもりはない。
堂々と店に入っていく風間に次いで小雪を連れて店内に入り、注文をしていく。
風間は言いつけを守って店で一番安いアイスを、小雪はジャンボパフェを、一誠は水まんじゅうを頼んで次いでに三人分飲み物を頼んで待つことにする。
「そーいや兄ちゃんの名前聞くの忘れてたけどなんていうんだ?」
「ぼくも気になってたー」
「ん? 俺か? 石蕗一誠。ついでに言っとくと中学二年生だ」
「わー! ぼくもっと大人の人だと思ってたよー」
「ほんとほんと! ぜってえ高校生とかだと思ってた!」
「それは俺が老け顔だと言いたいのかなー?」
がおー、と襲い掛かるふりをする一誠。それに対してケラケラ笑う二人。尚、一誠の容姿は決して老け顔といったものではなく、精悍な印象を与える目鼻立ちの整った顔立ちをしている。二人が実年齢より年上だと判断したのは一誠の落ち着いた物腰や店員への注文の仕方を見てなんとなく判断したものだ。
注文したものが届くまで談笑して過ごし、アイスが届くと真っ先に風間が飛びつく。
「かあああ、頭にキーンときた」
そう笑いながら言う風間に呆れながら一誠は水まんじゅうを一口放り込む。餡の控えめの甘さと冷たさが火照った体にちょうどいい。
小雪は運び込まれたパフェに苦戦しながらも頑張って食べていく。普段触れることのない甘く、蕩ける甘味に顔を綻ばせ食べている姿を見ると一誠としては問題はまだ解決してないんがらも微笑ましい気持ちが溢れて来て堪らない。
「すっごいおいしいよー。一誠兄ちゃんも食べてなよ! はい! あーん」
微笑ましい気持ちで小雪を見てたらそう申し出られてしまった。
その申し出に照れくさい気持ちを苦笑で隠し、口を開ける。確かに和菓子屋としての拘りか、パフェに使われるあんこや抹茶はとても芳醇な香りと味で、子供でもとても美味しく味わえるものだった。
「うん、美味しい! それじゃお礼にこっちの水まんじゅうをあげよう」
お返しとして水まんじゅうを進呈する。お姫様の口に水まんじゅうはあったようで顔を綻ばせる。
「あー! 俺だけ仲間外れにすんなよー!」
そう言ってすねようとする風間に苦笑しながら水まんじゅうを分けてあげた。小雪の方も分けてあげようとしている。
さて、思ったよりも和菓子屋での談笑が楽しく、時間を取ってしまった。小学生ならばそろそろ帰る時間といった頃合い。
支払いを済ませ外に出ると空は夕焼けになろうかというころ。
「二人を引き留めちゃったからな。年上として家まで送っていこうじゃないか」
ちょっとした茶目っ気を混ぜながら提案する。それに対して風間は苦笑しながら
「兄ちゃん何言ってんの? ここらへん詳しくないのに。俺は近所だから大丈夫。小雪を送っていってやってよ」
「むう、店とかに詳しくないだけで道なら結構覚えているぞ。っとそれじゃ小雪ちゃんを送らせて頂きましょうか」
「えっと、いいの?」
「ああ。俺の暇つぶしに付き合ってくれたお礼にな。遅く帰って親御さんに怒られちゃまずいから怒られそうなら兄ちゃんが謝ってあげるよ」
親御さん、という言葉を口にした時に小さく震える小雪。ふとした瞬間に目についた見えにくい場所にあった痣を思い出して痛ましい気持ちが湧きあがるが今はこの感情に蓋をする。ある程度の信頼は得ることができたと思うが今はまだ虐待されていることを言うまではいっていない。
「それじゃ、キャップ。しっかり注意して帰るんだぞ」
「わかってるって。心配性だなぁ兄ちゃんは。あっ! 小雪!」
「なーに?」
「こんどまた俺たちの秘密基地に来いよ。そんときゃ仲間に入れてやっから」
しばし呆然とする小雪。感情の整理がつかないように顔から表情が消えかけていたが突然がばっと顔を上げると精一杯の笑顔で
「うん!」
と頷くのだった。
チラ裏から通常投稿にしたらアクセスが一気に増えた。
すげぇ。
そして同時にここまで小雪編が長引くと思わなかった。もっとあっさり終わらせるつもりだったのにまだ終わらない。
なお、大和じゃなくてキャップを出したのはニヒルな文章?を書くのが面倒だったからという。