ファン・ガンマ・ビゼン
「あー、もう暇ねえ」
たく、あの蜂蜜幼女。 私達を便利屋かなんかだと勘違いしてんじゃないの?
「そう嘆くな雪蓮。 今はまだ雌伏のとき。 亡き孫堅様のためにも我々は生きねばならんのだ」
「そんなことは解ってるけどーーー。 暇なのは暇なのよ。 毎日こうも雑用仕事机仕事ばっかだと」
たくっ、と褐色の女・・・どちらも褐色だが・・・の眼鏡をかけた女性が頭を抱える。
「ねえ冥琳。 ちょっとだけ外に出ない? ちょっとだけ休憩しましょ?」
「仕事を始めてまだ幾ばくかも経ってないだろ」
「良いじゃない。 今日はね、外に出た方が良い。 私の勘がそう言ってるの」
「またお前の勘か。 いくら当たると言ってもそういつもいつも・・・」
「じゃあ冥琳、あとはヨロシク!」
「って!? 雪蓮!?」
パッ!と雪蓮と呼ばれた少女は窓から飛び出した。
「ここは三階だぞ!? 大丈夫か!?」
あわてて身を乗り出すが・・・
「ヨッ! ハッ! テイヤ!」
見事に壁や天幕、洗濯などを伝っている猿・・・もとい友人が見えた。
「あいつは・・・!!! ふぅ、まあいい。 あいつの部屋の酒全部祭殿に寄贈でもしよう」
そう決め、いつものように友人の残した仕事をこなすのであった。
ーーーーーーーーー
「ん〜〜! 美味しい!!」
ここは袁術の領地、大きな河の河口付近に位置している。
船による貿易が活発で、珍しい酒もよく見かけるものだ。
「おっちゃん! もう一杯!!」
昼間っからの酒というのはどうしてこう、美味いのだろう。
そんなことを考えながら孫策は酒を飲んでいた。
そんな上機嫌でいると・・・
『どういうことだ!! 約束が違うぞ!!!』
怒声が聞こえた。 よく聞き慣れた女の声だ。
「・・・蓮華?」
窓から身を乗り出してみると・・・
「我らが頼んだのは塩と茶だ!! こんな大量の蜂蜜頼んではおらんぞ!!」
「と、言われましても。 私どもは注文された品を届けただけなのですが」
「どの注文書だ!? 見せてみろ!!!」
そう言い、妹が商人風の男に近づいていき・・・
「死ねぇ!!!!」
突如腰から短刀を抜き、切り掛かってきた。
ビュン!
それより早い一刀が男の首を胴を分ける。
流れるような動きで周りの男を二人三人と続けざまに切りつける。
「やるぅ」
さっすが私の妹。
「貴様ら!! 私を誰だか知っての狼藉か!!!」
生き残ったのは二人ほど。
いや・・・
「知らん・・・な」
奥から一人。 大柄の男だ。
「誰だかは知らん。 だがしかし、その商人は袁家御用達だ。 尚且つ、先ほどの口振りから貴方は大切な取引を失敗したらしいな。 塩と蜂蜜を間違えるなどという簡単な失敗を」
「・・・紀霊」
「我が袁家の財を使い、商人を殺し、あまつさえ単純な失敗をする。 これは斬首ものだな」
「チッ! 蓮華じゃ分が悪いわね」
出てきたのは袁家の重臣、紀霊。
武勇に優れた猛将だ。 少なくとも蓮華に勝てる相手ではない。
にしたって、
・・・袁術、じゃないわね。
あの馬鹿にこんな真似はできない。 張勲が手を回したってとこかしら。
「さて、おっちゃん! お会計おねがい! おかわりは取り消しね!」
蓮華じゃ勝てないなら私が行くしかない。
そう思って席を立とうとしたとき、
「どこへ行くんだ?」
「・・・なに?あんた」
「邪魔すんなよ。 今いいとこなんだ」
「野次馬風情が首を突っ込まないで。 これは家族の問題なんだから」
「なんだ? お前あの大男と家族なのか?」
すっとぼけた顔をして聞いてくる。
「そっちじゃないわよ! どう考えてもあっちの可愛い方に決まってるじゃない!」
「へえー、そんな歳でもうあんな娘がいるのか。 大変だな」
「は?」
は?は?は? 今こいつなんていった?
姉ではなく母親? 私がそんな老けてるとでも言ってるわけ? 喧嘩売ってんのこいつ?
「・・・あんた、名前は?」
こめかみを引きつらせながら問う。 精一杯の仮面だが殺気まで隠せない。 そんな笑みだ。
だがしかし、そんなプレッシャーを当てられてもケロっとした態度を変えない。
「俺か?」
「あんた以外にいると思ってるのだとした相当のアホよ」
「ファン」
「ファン?」
ああ、と答える。
「ファン・ガンマ・ビゼン」
男はそう言った