東方末妹録   作:えんどう豆TW

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UA10000越えありがとうございます、これからも精進していきたいと思います


エピローグ、そして新たなるプロローグ

 

 

 

 

 ここは紅魔館の救護室。決して広くはないその部屋には普段の紅魔館ではあり得ない人数がいた。

 2つあるベッドは全て埋まっている。一人は金髪で人形のような容姿をした少女、もう一人は淡い桃色の髪を姉に撫でられている少女だった。彼女の顔はどこか苦しそうで、悪夢を見ているようにも見える。

 愛おしそうに桃色の髪を撫でる少女――レミリアは何も言わずに黙っている。

 横には彼女の妹のフランドールが座っている。ベッドを挟んで向かい側には他の紅魔館の面々がそれぞれ心配そうにベッドに横たわる少女――リリィを見つめている。

 もう一人ベッドに横たわっている少女の名はアリスという。彼女は魔法使いで先程までリリィと戦いを繰り広げていた。

 その横には金髪の女性が二人座っている。

 一人は九つの尻尾を揺らしながら主人の動向に気を配っていた。彼女は八雲藍という九尾の妖怪だ。

 もう一人は黙ってレミリアをジッと見つめいる。時折退屈そうに体を伸ばしたり欠伸をしたりと寛いでいるように見える。彼女は藍の主人であるスキマの大妖怪、八雲紫である。

 その向かいには淡い紫の髪を弄る女性がいた。彼女もまた退屈そうにしているが、主にリリィを見つめていた。しかしその目は紫のような鋭いものではなく慈愛に満ちたものだった。

 三人はアリスの方を見向きもしない。なぜなら彼女は既に目を覚ましていたからだ。また、そこまでの仲でもないのかもしれない。

 各人が沈黙を破らず、その場から動かないでいる。紫はレミリアに状況の説明を催促するように目で訴えているがレミリアはそれも意に介さずにリリィの様子を見続けている。彼女にとって妹のことは最優先であり、それに比べれば自分より実力が上の者からの威圧など無いに等しい。

 やがて我慢が出来なくなった紫は口を開いた。

 

「そろそろ説明してもらえないかしら、レミリア・スカーレット。客人を待たせるのは館の主として失格よ?」

「別に待てなんて言ってないわ、今すぐに帰ってもいいのよ」

「貴女、自分の立場が分かっているの?」

 

 紫からの言葉もまるで届いていないかのように半分うわの空で返すレミリア。しかしリリィの容体が次第に良くなっていくのを確認すると紫の方に顔を向けた。

 

「貴女が聞きたいのは何かしら?私が戦いの途中で抜け出したこと?それなら私達の負けでいいと言ったはずよ」

「そんなことじゃないわ、どの道私達が勝っていたじゃない」

 

 紫はこの少ない会話の中でレミリアの真意を見抜こうとしていた。

 八雲紫は聡明な妖怪である。聡明という言葉すら彼女を表すには足りないほどだ。

 彼女はいくつか分析を終えていた。

 一つは今ベッドに横たわっている少女、リリィ・スカーレットのことについてレミリアは話そうとしていないということ。恐らく聞かれても少ない情報で煙に巻こうとするだろう。

 もう一つは彼女達の侵略は本気ではなかったということ。もし本気で幻想郷を乗っ取るつもりでいれば目の前にいる幻想郷の管理者に何も手を出さないというのはおかしな話だ。

 そして八雲紫は結果をはじき出す。この場に長くいても収穫は少ない、と。そこまでの分析を1秒ほどで済ませて再び口を開く。

 

「まあいいわ、ここに幻想郷に住む上での契約をまとめた紙があるから目を通しておいて。拒否権はないわよ」

 

 そしてスキマを開いて帰ろうとする足を一旦止める。

 

「幻想郷は全てを受け入れるわ、残酷にもね」

 

 レミリアたちの聴こえる声で呟くとまた足を動かした。

 しかし今度はレミリアが口を開く。

 

「そこの魔法使い―――アリスといったかしら?少し話があるから残りなさい。帰りには護衛をつけるわ」

「ええ、私もちょうど聞きたいことがあったの」

 

 アリスはベッドから起き上がらずに言った。元々ダメージが回復していないので起き上がれないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紫たちが帰ったのを確認してから、レミリアはアリスの方を向いて話を始めた。

 

「この子はね、生まれながらに狂気を宿しているの。これは宿命、運命なんて生ぬるいものじゃない、自然の理のように決定されていること」

 

 レミリアはリリィの髪を撫でる手を止めずに、しかし暗い顔で話す。

 

「その狂気が私との戦いで顔を出したってことね」

「そうよ、私は貴女が戦っていた時のリリィの様子を詳しく聞きたいの」

「そうね・・・恥ずかしいことに私も恐怖で中々直視できなかったわ。ただ人格が変わっていたように感じられたわ」

「人格?」

「まあ、口調が崩れたりしてたわね。後は戦い方もかなり違ったかな、本来の彼女は理詰めをするように効率的に外堀を埋めるような印象だったわ。どちらかというと魔法使いのソレに似てる。でも狂気に支配されているときは力で押しつぶすような感じだったかしら」

 

 アリスの話をレミリアや他の面々は真剣に聞いている。

 

「ありがとう、貴女には悪いけどとても参考になったわ」

「それはどうも、それで貴女は妹のことをどうしたいの?」

「当然助けるわ、どんな手を使ってでもね」

 

 アリスの問いにレミリアは即答した。口調には確固たる決意が見受けられる。

 

「そう、じゃあ私にも手伝わせてくれない?」

 

 しかしアリスの返答にレミリアは驚いて目を見開いた。横にいる者も同じく、しかしフランドールだけは敵意を含んだ目でアリスを睨んで口を開いた。

 

「これはあたし達の問題だよ、部外者が首を突っ込まないで」

「別に直接的にってわけじゃないわ。本当にお手伝い程度よ」

 

 フランドールの眼は尚もアリスを睨んでいる。

 それをちらりと一瞥したパチュリーが今度は口を開く。

 

「それで何を求めるの?物資の供給位なら見返りをあげてもいいけど」

「別に何を求めるってわけじゃないわ。ただあの子が助けを求めていたから、それだけよ」

 

 レミリアは考え込んで黙っている。フランドールはその姉の様子を見てため息交じりにアリスから顔を逸らした。二人を無視してパチュリーは話を続ける。

 

「いいんじゃないかしら。どうせ私達だけじゃ正直方法も手詰まりだったし、新しい出会いが運命を曲げることにもなるって言ってたじゃない」

「・・・・・・そうね、確かにそうかもしれない」

 

 やがてレミリアは頷いた。美鈴や咲夜たちもレミリアの意見には賛同するということだろう。

 

「見返りは図書館の使用権でどうかしら?ここの魔法図書館は魔法使いにとっては宝の山だと思うけど」

「別に見返りを求めてるわけじゃないんだけど・・・そういうことなら有難く使わせてもらおうかしら」

「決まりね」

 

 パチュリーはそういうと席を立って部屋を出ようとした。そして扉の前で立ち止まるとアリスの方を向いた。

 

「魔法使いとして忠告しておくわ。見返りは必ず求めなさい、さもなくば後で求めてもいない見返りが自分に降り注ぐわよ」

 

 それだけ言うとパチュリーは部屋を出た、小悪魔がパチュリーの後を追いかける。

 アリスは茫然としていた。

 

「パチュリーはいつもああなんです。絶対に等価交換の法則を重んじる、魔法使いとしてのプライドの一つなんでしょう」

 

 初めてこの部屋に響く声。声の主はベッドに横たわったままだった。

 

「リリィ!もう大丈夫なの?」

「はい、迷惑をかけてすいません」

「これくらい大丈夫よ。・・・・それより、いつから起きてたの?」

 

 レミリアの顔にようやく笑顔が戻る。隣のフランドールや美鈴、咲夜も安堵の息を漏らす。

 

「パチュリーが出ていく少し前です、アリスとの会話は聞こえてました」

「じゃあ・・・」

「はい、まさか自分だけが隠し通せていると思っていたなんて。傲慢なところはまだ治ってないみたいです」

 

 申し訳なさそうに呟くリリィにレミリア場困ったような笑顔を浮かべていた。

 

「また約束を破って・・・いつでも一人で抱え込まないって言ったじゃない」

「ごめんなさい・・・でも、怖くて・・・」

「大丈夫よ、私達が絶対に守ってあげるから」

「レミリアお姉さま・・・」

 

 レミリアはリリィを抱きかかえるように手を回した。暫くリリィは黙っていたが、やがてレミリアの胸の中からすすり泣く声が聞こえた。美鈴や咲夜はどこか嬉しそうに見つめフランドールだけは不満げにレミリアを見つめていた。

 

「どうしていつもお姉さまばっかりこんな役なの?あたしも一度はこういうことしたいんだけど」

「あなたが手のかかる子供みたいな性格だからじゃない?」

「そんなことないよ!っていうか子供っぽいのはお姉さまの方でしょ!」

「何よ!文句あるの?だったら少しはリリィに頼られるお姉ちゃんになってみたら?」

「むっかー!もう怒った!表出ろ!」

「そんな汚い言葉づかいを教えた覚えはないわ、これは再教育が必要ね!」

 

 次第に賑やかになっていく救護室。リリィの顔にも笑顔が浮かんでいる。

 居心地悪そうにアリスが呟く。

 

「あの・・・私邪魔みたいだから帰るわね」

「送っていきますよ、護衛ってたぶん私のことでしょうし」

 

 苦笑交じりに美鈴がアリスに話しかけた。

 やがてアリスと美鈴に続き咲夜も部屋を出る。

 

「運動不足の箱入り吸血鬼のくせに言うじゃない!力ではあたしに勝てないくせに!」

「力がすべてだと思ってる時点でお子様なのよ。戦いってものを教えてあげるわ!」

 

 二人とも実践らしい実践は先程の紫との戦闘が初めてだ。ましてや戦いという戦いを知っている者はこの吸血鬼姉妹の中にはいないだろう。

 この数日間のピリピリした空気がようやく無くなったとリリィは感じて再び目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、報告は?」

「はい、紫様。あの館は幻想郷のパワーバランスの一角を担うには十分な力を持っているでしょう。これで天狗もしばらくは大人しくなるかと」

「ええ、そうね。私もそう思うわ。けれどね・・・」

「あの吸血鬼ですか」

「そう、あまりにも不確定な要素が多すぎて不明としか言えないけれど」

 

 和風の屋敷の一室で二人の女性が将棋盤を挟んで向かい合わせに座っていた。

 一手、一手、また一手とお互いに駒を動かしながら会話をする。

 

「確かに、あの館には未知数なものが多すぎます・・・本当に幻想郷に入れてよかったのですか?」

 

 九尾の女性――八雲藍は少し不安げに向かいの女性、八雲紫に問いかける。

 しかし紫は落ち着いて駒を動かし、口を開いた。

 

「忘れたのかしら、藍。幻想郷は全てを受け入れるのよ、それはとても残酷な話ですわ」

 

 王手よ、と紫は言葉を放つ。

 藍は将棋盤を見たまま固まっている。暫くしてふぅと息を吐いてから紫に向き直った。

 

「参りました」

 

 静かな一室に駒同士がぶつかるジャラジャラという音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




吸血鬼異変終了です
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