東方末妹録   作:えんどう豆TW

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しばらく日常回でも


人間嫌いの吸血鬼
リリィの奇妙な探険~上~


 

 私達の移住から1週間が経った。

 私達の移住は”吸血鬼異変”と呼ばれた。この幻想郷では妖怪によって起こる事件のことを『異変』と呼ぶらしい。そして他に吸血鬼が幻想郷にいなかったことから”吸血鬼異変”という名前が付いたそうだ。

 私達はこの異変で幻想郷側に敗北した。もとより支配するつもりも出来る気でもいなかったが私は特に衝撃を受けた。なにせわざと負けるつもりでいたのだ、それが相手には余裕で攻撃を躱され挙句力が暴走するという大失態。見縊っていたと言わざるを得ない。

 あの一件から私はアリスと仲良くなった。アリスも私の力を抑えるのに協力してくれるのだそうだ。正直恥ずかしかったが今の私には手段を選んでいる余裕はない。何としてでもあの力を押さえつけなくては取り返しのつかないことになるような、そんな悪い予感がするのだ。

 しかしその件を除いても私とアリスは魔法という話題もあったので意気投合するのも早かった。パチュリーも混ざって3人で大図書館に集まることも少なくない。というか1週間ほぼ毎日アリスと一緒にいたといっても過言ではないほどだ。パチュリーからは「ほどほどにしないと貴女のお姉さま達が黙ってないわよ」と釘を刺された。実際に最近アリスへのフランお姉さまの視線が怖い。

 今日もアリスが大図書館を訪れる予定だ。私は自分でも気づかないくらい楽しみにしているらしく自然とスキップをしながら大図書館へ向かっていた。誰も見ていなかったがひとりで恥ずかしくなって俯き気味になってしまう。結局アリスが来る予定の随分前の時間に大図書館に着いてしまった。扉の前にいても仕方がないので中に入ることにする。しかし―――。

 

「あら、いらっしゃい。今日も早いのね、リリィ」

「おはようございます、リリィ様」

「パチュリー、こぁちゃん、おはようございます」

 

 にやにやした笑顔を浮かべてくる二人組が私の目の前にいた。ここ数日間ずっと私のことをからかうように喋りかけてくるのだ、別に私はアリスに変な感情を抱いているわけではないのに。

 これまで館の外でお友達というものが出来なかったが、幻想郷に来て既に二人も出来た。嬉しく思うのは当然だろう。

 

「なんですかその笑顔は」

「なんでもないわよ?ただ、ねえ?」

「ええ、微笑ましいと言いますか何と言いますか」

「友達が家に遊びに来るんですから、当然です」

 

 フンと鼻を鳴らして、まるで子供を見守る母親のような顔で見つめてくる二人から顔を背ける。フレンドリーなのは嬉しいが別にからかわれたいわけでもそんな慈愛に満ちた目で見られたいわけでもない。

 

「そういえばパチュリーから聞きましたよ、こぁちゃん随分と高位な悪魔だったのに身分を隠してたらしいじゃないですか。嘘吐きは嫌いですよ?」

「え、言っちゃったんですかパチュリー様。というか、それリリィ様が言うんですか・・・」

「どうせ館の皆にほぼ知られてるし、変わらないじゃない」

「その通りです。私は召喚された時から気づいてましたからね、フフン」

 

 非難交じりのこぁちゃんの視線から目をそらして得意げに語る。

 パチュリーの話によると、なんでも八雲紫の式神と互角に戦えるくらい強かったらしい。下手したらこの館で一番強いんじゃないだろうか・・・。

 

「悪魔というのは妖怪よりもっと概念に近い存在ですから、こうして憑代が無いと現世にいることが出来ないんです。こうして小さな憑代しか用意できなかったので力も魔界にいた時の3割程度しか出せませんよ」

 

 それは謙遜に不適切な説明だ。本調子だと紅魔館なんて一瞬で吹き飛んでしまうんじゃないだろうか。

 しかしそれとは別に疑問がある。レミリアお姉さまに聞いた話だと紅魔館のことも何か知っているようだったし、随分と遠い昔から生きているようだ。知識は年齢に比例するということだろうか。

 

「私の能力についても知ってるとか?」

「流石にそこまでは・・・ただ、その能力と内側に宿る狂気はセットで考えた方がいいと思います。あまり力を使いすぎなければ早々暴走することもないでしょう、リリィ様は優秀ですから」

「やっぱり物知りなんですね。なんでそんなことまで知ってるんですか?」

 

 私の質問にこぁちゃんは一拍置いて、

 

「そりゃあ、あくまで小悪魔ですから」

 

 キメ顔でそういった。さっぱり意味が分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリスが大図書館を訪れ、いつものように三人で談笑をする。口には出さないしどうせ否定するので言わないが、パチュリーもアリスと話すようになってから随分と社交的になったような気がする。ここに来る前は自分から挨拶をするような人じゃなかったというのに、自分の変化には相変わらず疎いものだ。

 自分の変化に疎いのは私も同じだ。アリスと関わるようになってから吸血鬼としてはあり得ない昼型の生活に変わりつつあった。ちなみに私が気が付いたのはついさっきだ。お姉さま達はまだ夜型だが私につられてか自然と起床時間が早くなってきているのにもおそらく気が付いていないのだろう。

 色んな意味でこの移住は紅魔館に大きな変化をもたらした。当たり前といえばその通りだが妖怪は永い時を生きる生物故、いろいろな変化に疎いのだ。知らず知らずのうちに小さな変化が積み重なり気づいた時にはもう手遅れに・・・・・・なんてことにならないように色んな所にアンテナを張っておかなければ。

 

「おーい、聞いてるの?」

 

 思考の深くまで沈んでいた意識はアリスの声で引き揚げられた。しまった、話を聞いていなかった。

 

「すいません、考え事をしてました」

「貴女の悪い癖よ?それで、明日貴女に幻想郷を案内してあげようと思ったんだけど・・・どう?」

「ホントですか?とっても嬉しいんですけど・・・その・・・大丈夫ですか?私と一緒にいるとアリスも吸血鬼の仲間だと思われたりしませんか?」

「いや私は貴女の友達だけど・・・別に大丈夫よ、ここの妖怪は異変を起こした程度で確執が生じるほど小さい器の奴はいないわよ。一概にとは言えないけどね」

「そうですか、ならいいんですが」

 

 正直こんなお誘いが待っているとは思わなかったので私は舞い上がっていた。いい機会だ、どんな妖怪がいるのかも見ておきたい。

 そういえばここでのルールがあることを忘れていた。ルールとは吸血鬼異変が終わった後に、八雲紫から紅魔館に言い付けられた契約のことだ。”血の契約”を使っているので破ることは許されない。

 その内容は許可なく人間を襲ってはいけない、というものだ。血は幻想郷の管理側から供給されるらしい。ついでに異変の一定期間の禁止も言い渡されたが、期限付きというのを見るとここでは異変を起こすこと自体はそれなりに認められているようだ。

 つまり人間さえ襲わなければ基本的に自由なわけだ。確かにアリスが私を連れ出そうと言ってくれたのも、比較的安全だからということで頷ける。妖怪としてそれはどうなんだという気もするが、不思議とここは畏れが充満している。そもそも八雲紫の存在が人間には基本知られていないので、人間にとっては安全ということでもないのだろう。

 それに、全妖怪に禁じられているのは()()()()()人間を襲うことだ。ウラを返せば里から出た人間は命の安全は保障されないということになる。そういった面もあってここは人間と妖怪がお互いに消滅することなくバランスを保っているのだろう。

 何はともあれ私は無事に外出できるようなので安心した。

 

「パチュリーもどうですか?」

「私はインドア派なの、お二人でごゆっくりどうぞ」

 

 パチュリーも誘ってみたがやんわり断られた。やけにおっさん臭いセリフを吐かれた気がする。

 

「じゃあ明日のいつもの時間に迎えに来るわね」

「はい、楽しみにしてます」

 

 挨拶を終えるとアリスは大図書館から出ていった。パチュリーと私が残されたところで自然とこぁちゃんが出てくる。

 

「聞きましたよ、アリスさんとデートなんてやるじゃないですか!このこのぉ」

「ちょ、ちょっとからかわないでください。明日は大事な敵情視察なんです」

「そうそう、大事なデートだもの。おめかしして行くのよ?」

「だからそんなんじゃないですって。ていうかパチュリーだってそういうのに疎いくせに」

 

 この二人はいつも――いつもといってもまだ1週間だが、私とアリスを恋人同士にしたいらしい。何百年も生きているんだから子供みたいなことを言わないでほしい。いや何百年も生きているからこそ何かと話題を見つけて退屈を潰そうとしているのかもしれない。それでも出汁にされる気はさらさらない。

 

「あら、私はこれでも身だしなみとかファッションには気を遣ってるのよ?」

「数百年間それと違う服を見たことないんですが」

「これが落ち着くの」

 

 おそらくあれ以外の服は持っていないのだろう。というかあれ以外見たこともないし、最初に来ていたボロボロな服は処分した。あれ?そういえば来たばかりの頃は美鈴が服を作るまで何を着ていたっけ・・・思い出せない・・・。

 悩む私を見てパチュリーは思い出したかしら?というようなドヤ顔をしている。結局パチュリーが何を着ていたかは思い出せなかったがこの顔を見て碌なものではなかったことを確信した。

 この二人のことは置いておいて明日からの幻想郷巡りを楽しむことだけ考えよう。お姉さま達に外に出ることを言っておいた方がいいだろうか。あの二人のことだから何も言わずに出ていくと心配するに違いない。そう結論付けて私は大図書館を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まずはレミリアお姉さまからだ。長女の許しを得ればフランお姉さまも許してくれるだろう。私はレミリアお姉さまの部屋の前に着くとドアをノックした。

 

「リリィです、今お時間よろしいですか?」

「いいわよ、入って」

 

 ドアを開けるとレミリアお姉さまは書類の処理をしていた。執務室ではなくここでということは私的なものだろう。

 

「すいません、お仕事中でしたか」

「いいのよ別に、それで用事って?」

 

 レミリアお姉さまは書類から手を放して顔をこちらに向けた。

 

「はい、実は明日アリスが幻想郷を案内してくれるそうなので外出許可をもらいたいと」

「外出許可ねぇ・・・まぁ、あの魔法使いもいることだし、いいわよ」

「ありがとうございます」

「あまり変なことをしてはダメよ?あなた偶に思いもつかない奇行に走ることがあるから」

「ひどいですよ、いくら私でも外でスカーレット家の名に泥を塗るようなことはしません」

「いや、そんな重いものを背負わないでもいいんだけど・・・」

 

 とても失礼なことを言われた気がするが、レミリアお姉さまからの許可は貰えたのでとりあえずはセーフだ。無茶はしないでね、とよくわからない注意を最後に私はレミリアお姉さまの部屋を出た。

 しかし問題は次だ。レミリアお姉さまからの許可を盾にすれば大丈夫だと思うが嫌な予感がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フランお姉さまの部屋の前に着くと、先程と同じようにドアをノックする。

 

「リリィです、入ってもよろしいでしょうか」

「いいよー」

 

 ドアを開けるとどうやらフランお姉さまは寝ようとしていたようだった。これは思わぬ幸運だ、これなら話さずに済みそうだ。

 

「申し訳ありません、睡眠の邪魔でしたか」

「別にいいよ、どうしたの?」

 

 目を擦りながらこちらを見るフランお姉さま。ここは目が冴える前に早めに退出した方が良さそうだ。

 

「いえ、大した用事ではなかったので」

「ううん、別にいいの。で、何の用だったの?」

「いえ、本当に大丈夫なので。それではおやすみなさ」

「リリィ」

 

 早々に退出しようと挨拶を終わらせ踵を返すが、名前を呼ばれ止まる。いや、別に止まりたかったわけではない。

 後ろから放たれるのは粘りつくような妖力。私の足は完全に動きを止め、冷や汗だけが止まらない。振り返ることも出来ずに後ろから聞こえてくる足音を聴くことしかできなかった。

 

「ねえリリィ、なんで逃げるの?」

「に、逃げようとなんかしてませんよ。ただ眠りを妨げるのは・・・」

「見え見えの嘘はいいの。あたしに用事があったけどあまり気が進まない内容だったからできれば話したくなかった。そうでしょ?」

 

 まるで心を読んでいるかの如くこちらの行動を言い当てるフランお姉さま。私は観念してアリスと外出することを打ち明けることにした。

 

「明日アリスと外出するので、一応知らせておこうと思っただけですよ」

「うん、ダメ」

 

 即答だった。

 

「レミリアお姉さまからはちゃんと許可を貰ってますよ?」

「アイツ・・・・・・・」

 

 私が使った盾は言葉のとげに串刺しにされてしまった。

 

「仕方ないなぁ・・・じゃあ、あたしもついていく」

「フランお姉さまもですか?人数は多い方が楽しいですもんね」

 

 フランお姉さまは私の返事に少し驚いていた。

 

「リリィはあたしがついていくの、何とも思わないの?」

「え?どうしてですか?」

 

 フランお姉さまの質問の意図がイマイチ掴めない。私が考え込んでいるとフランお姉さまも何やら思案しているようだった。

 

「なるほど、そういうことね・・・パチュリー達が囃したてるからてっきり・・・」

 

 ブツブツ呟くフランお姉さまの肩を叩くとハッと我に返ったようだった。

 

「どうかしましたか?」

「ううん、なんでもないよ。じゃあ明日私もお姉さまに言ってくるね」

 

 何がなんだかさっぱりわからないが、フランお姉さまが満面の笑みを浮かべているので良しとしよう。

 

 

 

 

 

 ちなみに次の日、フランお姉さまはレミリアお姉さまからの許可が貰えずに第2657次姉妹大戦が勃発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続きます
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