東方末妹録   作:えんどう豆TW

33 / 69
戦闘は次回


シュレディンガーの吸血鬼

 

 

 

『すいませんお姉さま方、巫女を通しちゃいました』

 

 魔法陣から少しノイズの入った声が聞こえる。声の主は今更確認するまでもない、我が最愛の妹、リリィ・スカーレットだ。

 横のフランを見るとそれなりに緊張しているようだ。リリィは罠を作るだけと言っていたので、突破された報告を聞いても驚きはしない。だがそこで脱落しなかっただけの実力はあるということだろう。

 そういえばリリィの報告によれば侵入者は魔法使いと巫女の二人だったはずだが、魔法使いは途中でリタイアになったということだろうか。

 ふぅと息を吐いて思考を霧散させる。別に人間の心配がしたいわけではない。弱い人間には用はないのだ。

 この人間との出会いによってリリィが変われるかどうか、私が心配なのはそれだけだ。

 これまで人間との接し方が殺伐としていただけあってリリィの人間に対する感情はかなり歪なものになっている、と私は考えている。

 八雲紫に怒りを見せたあの時の顔は失望に満ちていた。きっと彼女はそれだけ人間を見てきたのだろう、私達よりもよく知っているのかもしれない。

 いつどこで知ったとか、どんな関わりがあるとか、そんなことは今になってもわからない。それでも彼女は人間を知っているからこそ複雑な感情を持っているのだろう。もしかしたら能力故に『原罪』を抱える人間の起源に触れているのかもしれない。

 だから彼女は人間に期待する。そして吸血鬼だから人間を見下す。侮蔑と期待の感情が混ざり合った彼女の目は人間という種族をどのように捉えているのだろうか。結局のところ私には理解することのできない領域なのだろう。

 私にできることはただ一つ、多くの者の運命を手に入れて狂気からリリィを救い出す運命を手繰り寄せることだけだ。

 

「お姉さま、大丈夫?」

 

 気づくとフランが心配そうな表情で私の顔を覗き込んでいた。どうやら考え事をしているうちに険しい顔になっていたようだ。

 大丈夫だとすぐに返そうとしたが、ふと考えてみる。フランはいったい何のためにこの異変に参加したのだろう。

 

「ねえフラン、あなたは今回の異変をどう思う?」

「・・・は?」

 

 私の質問にフランの目が丸くなる。何を言いたいのかわからないという表情で固まるもうひとりの妹に少し微笑みながら質問を続けた。

 

「いやね、私の目的はもう何百年も前に話したし、今回の異変もこれまでのことも全てそのためだけに行ってきたわ。あなたはどうなの?」

「ああ、そういうことね」

 

 心得たという顔になったフランは少し考えた後にこちらに向き直った。

 

「あたしは壊すことしかできないからお姉さまについていくしかないわ、それが正解だと信じてるから」

「あら、随分と信頼してくれてるのね」

「当たり前でしょ、姉妹なんだから」

 

 最後の言葉は少し照れくさそうにはにかみながらだった。可愛らしいフランの姿に思わず笑みがこぼれてしまう。

 

「それに、リリィを助けたい気持ちはみんな一緒だもん」

「ええ、そうね」

 

 答えはわかりきっていた。少し弱気になっていたのかもしれない、フランの言葉を聞いてどこか安堵する私がいた。

 ふと数年前に移住が済んだ後にフランと交わした会話を思い出した。丁度私がこの地に住む妖怪の力を見誤っていたため、心労が祟って弱っていた時期だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私達は本当に幻想郷(ここ)で生きていけるのかしら・・・」

 

 ぽつりと呟いた言葉に反応したのは同じ部屋にいたフランだった。

 

「大丈夫よ、だって一人じゃないでしょ?」

 

 私がいるから、とは言わなかった。一人じゃ無理でも紅魔館の全員が力を合わせれば何とかなるということだろう。

 

「ねえお姉さま、久しぶりにチェスしない?」

「チェス?いいけど・・・」

 

 フランとは何度もチェスをしていたが最近はあまりしていなかった。私はかなり強いという自負はあるがフランとは五分五分といったところだろう。彼女もスカーレット家の血を引く才能あふれる吸血鬼なのだから当然と言えば当然だ。

 結局5戦して2勝3敗、今回は私の負けだ。

 

「あたしはキングにはなれない」

 

 勝負が終わった後、急にフランが話し始めた。最初は何を言いたいのかわからなかった。

 

「あたし達が一番守りたいリリィがキングなはずなのにね。きっとあの子は紅魔館の住人(あたしたち)のためなら喜んでポーンにもナイトにもなるわ」

 

 何を言わんとしているかは大体わかってきた。しかしまだ意図は掴めない。

 

「お姉さまはじゃあ何だと思う?」

「私?リリィがキングならクイーンとかルークかしら・・・」

 

 しかし私の言葉にフランは首を横に振った。まさか姉の価値をあまり高く見ていないのではないだろうか。

 私のジトッとした視線に気づいたフランは少し意地悪な笑みを浮かべて口を開いた。

 

「お姉さまはプレイヤーの立ち位置よ」

 

 最初はフランの言葉の意味が分からず考え込んでいたが、ようやくその意味を悟りハッとなった。

 私には私にしかできないことがあると言いたかったのだろう。私の能力は決して戦闘に向いたものではないし、館の中でも攻撃的な能力を持つフランは自分に任せろということなのかもしれない。

 

「一人で抱え込むのは馬鹿な妹だけで十分だよ」

「ふふっ、そうね」

 

 呆れたように笑みを浮かべるフランに対して私も同じように微笑む。いつの間にか成長していた妹が少し遠く見えて寂しくもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉さま本当に大丈夫?さっきからぼーっとしてるけど」

「大丈夫よ、それより気づいてる?」

「近付いてくる気配が一つ。中々大きいね」

「少し隠れましょうか」

「うん」

 

 隠そうともしない大きな気配を感じる。私とフランは蝙蝠となって大広間の天井まで移動した。

 暫くすると大広間の扉が開かれた。入ってきたのは紅白の巫女服を着た少女だった。巫女は辺りを見回すと大広間に響き渡る声で叫んだ。

 

「そろそろ姿、見せてもいいんじゃない?お嬢さん」

 

 ここで姿を見せずじまいというわけにはいかない。蝙蝠になった体を集めようとした、その時だった。

 大広間の地下に続く床が勢いよく開けられ、中から黒白の帽子を被った少女が出てきた。あまりの出来事に私は動けなくなる。フランも私と同じようだった。

 

「っ!はぁ・・・なんだ、霊夢か」

「あら魔理沙。なによ、何か不満?」

「いやいや、お互い命があってよかったって話だ」

「はぁ?どういうことよ。ていうか顔色が悪いわよ、大丈夫?」

 

 肩で息をしながら霊夢と呼ばれた巫女と魔理沙と呼ばれた人間―――魔力を感じるので魔法使いだろうか、二人が会話をしている。魔法使いの方を見るにリリィの部屋に入ろうとしたのだろうか、よく命があったものだ。

 

「っと、いるいる。悪寒が走るわ、この妖気」

「そ、ここがラストステージね」

「なんで強力な奴ほど隠れるんだ?」

 

 魔法使いの方も何とか回復し辺りを見回す。そろそろ頃合いだろう、私とフランは蝙蝠化を解いて姿を現した。

 

「能ある鷹は尻尾隠さず・・・よ」

 

 フランがドヤ顔で答える。残念ながら能ある鷹が隠すのは尻尾ではなく爪だ。そんな残念な妹を憐れんだ目で見つめていると魔法使いの方が一瞬ぽかんとして呆れた表情を浮かべた。

 

「・・・脳なさそうだな」

「人間だけよ、脳なんて単純で科学的な思考中枢が必要なのは」

 

 魔法使いの言葉にフランはそっぽを向いて答えた。小難しいことを言っているがそれはリリィが言っていた言葉だ。

 

「お前らアレだろ?ほら、日光とか臭い野菜とか銀のアレとか・・・夜の支配者なのになぜか弱点の多いという・・・」

「そうよ、病弱っ娘なのよ」

 

 フランは機嫌を損ねてしまい黙っているので、代わりに私が言葉を返した。

 強さには必ず代償が必要だ。吸血鬼の場合はそれが弱点の多さなのだろう。これもリリィが言っていたことだ。いや、パチュリーだったかもしれない。

 魔法使いと会話をしていると、巫女が思い出したように口を開いた。

 

「そうそう、迷惑なのあんたが」

「短絡ね。しかも理由がわからない」

 

 とぼけてみるが今回の異変のことだろう。そもそも太陽が日光なんて有害なものをまき散らすから悪いのだ。尤もそんなことを言ったので「じゃあ、異変は決まりですね」と言ったリリィに負担を強いることになってしまったのだが。

 

「とにかく、ここから出ていってくれる?」

「ここは私の城よ?出ていくのは貴女だわ」

「この世から出ていってほしいのよ」

 

 その言葉が合図となり妖気を解放させる。巫女は動じないが魔法使いの方は少し体を強張らせる。隣のフランも同時に妖気を解放したので人間一人を怖気づかせるなど容易なことだ。

 しかし巫女が思い出したように再び口を開く。

 

「ああそうだ、一つ聞きたいことがあったわ」

「何?今は気分がいいから答えてあげるけど、水を差すようなら殺すわよ?」

「この館にはスペルカードルールが敷かれて無いの?途中で影からこそこそ攻撃してくる奴がいたんだけど」

 

 巫女が言っているのはきっとリリィの用意したトラップのことだろう。リリィの隠密行動で気配を感じ取るとは大したものだ。しかしここで存在を教えるわけにはいかない。

 

「さあ?罠なら用意したけど身に覚えがないわ」

「ふぅん・・・ま、あんたじゃないみたいだしいいけど」

 

 私の答えを聞くとすぐに巫女は興味を失ったようだった。しかし次は魔法使いの方が震える声で問いかけてきた。

 

「じゃ、じゃああの部屋も罠の一部だったってことか?」

「あの部屋?あら、見ちゃったのね」

 

 脅すように笑みを浮かべ妖力を高めると魔法使いは顔を引き攣らせた。

 

「・・・どうやら倒すしか生還する方法はないみたいだな」

「そうね。もし負けたら死ぬよりひどい目に遭い続けるわよ、死ぬまでね」

 

 なぜなら隣のフランが怒っているからだ。彼女にとってリリィの部屋に近づいたということ自体がタブーだったようだ。つくづく運のない魔法使いだ。

 

「やるしかないってわけだ!行くぜ霊夢!」

「声が大きい。言われなくてもやるわよ」

 

 巫女は全く表情を変えることなく答える。手には札と針のようなもの。魔法使いは六角形の道具を持っている。

 さて、お前たちはどこまでやれるんだろう。私が抱くのはリリィと同じ感情、期待だ。フランは少し違うかもしれないが、それもリリィのためになると思ってここに立っているのだろう。

 だから私は応える、(フラン)の信頼に。紅魔館の皆のために。

 だから私は願う、(リリィ)の幸福な未来を。

 そして私は笑う、この先の運命を見据えて。

 嗤う、呪われた運命を。決して変えられない宿命と諦めてきた今までの先祖たちの諦念を。

 今日、私達の運命は変わるのだ。いや、変えるのだ。確定した未来なんて、面白くないでしょう?

 

 

「こんなにも月が紅いのに・・・」

 

 その言葉に込められた感情は私にしかわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――楽しい夜になりそうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前みたいに長くしすぎても判りづらいだけなので分けさせていただきました
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。