東方末妹録   作:えんどう豆TW

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付和雷同の黒き翼~中~

 

 

 

「北条時海、それが俺の名前だ。好きに呼んでくれて構わない」

「はぁ・・・なら北条殿と」

「堅苦しいなぁ・・・ま、それも慣れてるけどな」

 

 やはり若者らしい軽い口調だ。若者と言っても千年は軽く生きているだろう。しかしさらに年長者の多いであろう天狗社会で天魔になるほどの信頼を勝ち取ったのだ、青二才ということもないだろう。

 

「それで、話とは?」

「ああ、言うまでもなく屋敷の外に集まった老害共の処理だ」

 

 やっぱりか。私が屋敷を訪れてからというものこの屋敷が複数の妖怪に囲まれている。どの妖力も半端に強いので余計に質が悪い。これが大天狗だというのなら私一人で何とかならなくもないが、あまり天狗と軋轢を作るのも得策ではない。しかしこのまま外に出てもタダでは済まないだろう。

 

「大天狗を選び直した方がいいんじゃないですか?こいつらは全員処分して」

「くくっ、厳しいなスカーレット殿。だがそう上手くはいかんものなんだよ」

「なぜです?」

「腐っても今まで地位を築いてきた者どもだ、それなりに影響力はあるんだよ」

「なるほど、だからあくまで説得という形を取ってるんですね」

「そういうことだ、まあ御先は真っ暗だがな」

 

 なんというか、古きを温めすぎて腐らせたような社会だなというのが今までの印象だ。権力者がそこにしがみつくのは当たり前のことだが、それを上から黙って見ていなければならないというのも変な話だ。

 そんなことを考えていると一人の天狗が部屋に入ってきた。細身で長身の男、黒い翼は烏天狗であることを示している。まるで音も気配も感じなかった、これがこの国に伝わるニンジャという者だろうか。

 

「天魔様、ご報告があります」

「ここに天魔はいないぞ」

「・・・」

 

 何食わぬ顔で天魔が言った言葉に、文ともう一人の天狗がため息を吐いた。このやり取りを見ていると文は天魔とそれなりに近い立場にあるのかもしれないと思う。

 

「・・・北条、大天狗達が外で抗議しているぞ」

「知ってるよ松前。んで爺共はなんて?」

「侵入者を見過ごした挙句屋敷に入れるとは何事だ、と」

「はぁ・・・客人だと言って追い返せ」

「それで奴らが大人しく引き下がるとでも?」

「頭がお堅いからなぁ・・・」

 

 どうやら二人は深い仲のようだ。天魔という役職についているときとそうでないときでスイッチを切り替えているのだろう。紫と言い天魔と言い束ねる側の人間はこうでもしないとやっていられないのだろうか。レミリアお姉さまと私では距離が近すぎるので見栄を張っているのかスイッチを入れているのか判断できない。

 

「やはり大天狗の選び直しは仕方ないか・・・」

「なんだ、そこの吸血鬼殿にも言われたのか」

「そういうわけだ。どうだ文、大天狗に立候補すればはたて共々一発承認してやるぞ」

「前にも断りました。そんな面倒なこと私は御免です」

 

 話を振られた文は即答で拒絶した。天魔と仲がいいのかと聞くと大天狗時代の部下です、と耳打ちされた。天狗は縦社会だと聞いていたが実力者に限ってはある程度関係があやふやのようだ。文から上司への尊敬の念が感じられないのはそういうことだろう。

 

「文のように有能な烏天狗がたくさんいれば話は別なんだがなぁ・・・」

「私は無能な上司の方が下から操りやすくていいんですけどねぇ・・・」

 

 天魔と文は二人同時にため息を吐いた。残念ながらその内容は大きく異なっている。その二人を見て松前もまたため息を吐く、負の連鎖だ。

 

「吸いますか?」

「え、なんですかこれ・・・」

「タバコです。とっても落ち着くんですよ」

「ならお一つ・・・・・・・ごほっ!げほっ!なんですかこごほっ!」

 

 文にタバコを勧めてみる。火をつけてあげると勢いよく吸い込んでしまったらしく咽かえっていた。涙目で恨めしげに睨んでくるが私は悪気があったわけじゃないので両手を前に出して勢いよく振っておいた。

 

「・・・大丈夫ですか?」

「・・・・・・・・」

 

 一応心配しておく。声が出ないほど咽てしまったらしく暫く肩で息をしてその場にへたり込んだしまった。

 

「いや、コントをしている場合じゃないんだが・・・」

「あ、すいません」

 

 そういえばこの屋敷は現在包囲されているんだった。別に私だけこっそり帰る手段もあるのだが、ここで一人だけ逃げてしまうのも後味が悪い。それにここで恩を売っておけば後々役に立つかもしれない。もちろん後者が本音だ。

 

「話を戻そう。大天狗を処分できない理由だが、現在大天狗の中でも俺と最後まで張り合った天魔候補がいる。こいつが他の大天狗を取り仕切っていると言っても過言ではない」

「それに反対する者は?」

「奴らは自分の地位が第一なのさ。取り仕切る奴が何であれ自分の地位が守れれば考えることもせずにそいつに賛同する。まったく、これで大天狗を名乗るんだから呆れるもんだ」

 

 なるほど、大体全体像が見えてきた。大天狗、その中でも力のある者が取りまとめる保守派。天魔を中心に烏天狗達から成る革新派。そしてこの二つが山の外と同調するかどうかで争っている、と。では入り口で私に襲い掛かってきた白狼天狗はどうなのだろう。

 

「残念ながら白狼天狗は大天狗の下だ。白狼天狗を取り仕切ってたのは俺じゃないんでな」

 

 ああ、それで最初に私達への当たりも強かったのか。いや元々吸血鬼への恨みも合わさって相乗効果で感情が爆発したのかもしれない。

 いつの間にか辺りは日が落ちかけて、暗闇に染まろうとしていた。山の木々のおかげもあって、帰りに日傘は必要なさそうだ。というかこれ以上遅くなるとお姉さま知多が心配してしまう。

 

「それじゃ私はそろそろ帰ります」

「ちょ、ちょっと何言ってるんです!?こんな状況で無事に帰れるわけないでしょう!」

 

 私が帰ろうとすると文が慌てて私の腕を掴んで止めた。私のことがそんなに気に入ったのだろうか、客を引き留めるなんて相当だ。

 

「確かに文の色んなところが見れて楽しかったですけど、そろそろ帰らないとみんなが心配するので・・・」

「え、えぇ!?あ、いや、その」

 

 何故か顔を赤くしてしどろもどろになる文。何か変なことを言っただろうか。横にいる松前も苦笑いだ。

 

「と、とにかく!ここから出るってどうするつもりですか!」

「人の家の玄関から出ないでどこから出るんですか。屋根ぶち抜いて出ていったのなんて白黒の魔法使いくらいですよ」

 

 そういえば魔理沙は私の留守の間本を盗みに行っていないだろうか。今度フランお姉さまについて行って確かめた方がいいかもしれない。

 

「玄関から出るって、外は囲まれてるんですよ!危害を加えられることはないでしょうけど、相当面倒な連中ですよ」

 

 ああ、なるほど文は私を心配してくれているのか。排他的な天狗の中でも文は友好的なのかもしれない。単に私が気に入られただけかもしれないが。

 

「心配してくれてありがとうございます。でも大丈夫ですよ、だって――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今からは私達(きゅうけつき)の時間ですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほ、本当に大丈夫ですか?」

「ええ、ご心配なく。また遊びに来ますね」

「天魔の家に遊びに来るって・・・お前さん変わってるなぁ」

「松前さんでしたか?今度手合わせでもお願いしたいですね」

 

 私の言葉にますます変なものを見る目になる松前。幻想郷に来てから顔を合わせれば皆友達みたいなイメージが私に根付いてしまったため少し修正する必要があるのかもしれない。些細なことだ。

 

「で、ではお気をつけて」

「はい、そちらこそ」

 

 最後に意地悪な笑みを作ってからかってみる。最後は天狗三人で苦笑いだった。

 扉を開けると十数匹の老天狗が待ち構えていた。私が出てくると思っていなかったのか驚いた表情の者が何人かいる。暫く睨み合っているとその中の一人が前に出てきた。

 

「これは吸血鬼殿。我らが妖怪の山に何か用ですかな?」

「妖怪の山と紅魔館の間に不可侵条約と中立条約を結びに来ました」

 

 私の言葉に周りがざわつく。目の前の天狗は目を細める程度だったが、本能はそれなりにあったと思われる。

 

「それはおかしいですな。何故我々への相談が無いのでしょうか」

「私に聞かないでください。相談する価値もないと思われてるんじゃないですか?」

 

 少し挑発してみるとすぐに怒気が増した。威圧だけは一人前だ。

 

「悲しいですなぁ、一応我らも大天狗という役職にあるのですから会議の一つでも開いてくださればよいものを」

「だから私に言われても困りますって。あ、でも貴方達は締結に賛成しますか?」

 

 答えはわかりきっているが一応聞いてみることにした。もし意外な結果になれば天魔に報告してあげることにしよう。そんな塵芥程度の期待を抱いてみるが―――

 

「決まっているでしょう、反対です。信用ならない者と条約を結ぶなど以ての外」

 

 知ってたけどね。ある意味では天狗社会の実情に確信が持ててよかったと言えるかもしれない。私は短く息を吐くと一つタバコを取り出して火をつけた。タバコ一つで警戒する天狗達がどれほど臆病なのかよくわかる図だ。

 

「で、すぐに帰りたいので通してもらえますか?」

「罷り通るとお思いですか?今から天魔様と共に事情を聞かせてもらいますぞ」

 

 天狗の群れが一歩私に近づく。やはり戦闘は避けられないみたいだ。私は煙を一気に吐き出すと体をどんどん気化させていく。

 

「妖術か!?」

「狼狽えるな!風で吹き飛ばすのだ!」

 

 リーダーと思しき天狗から指示が飛ぶが、その寸法は既に文が実践済みだ。

 

「あ、うあああああ!?体の中に煙が入って・・・」

 

 気化した私の体は一人の天狗の中にどんどん入っていく。こうして固形物の中に入れば気化して軽くなった私の体も簡単に動かせる。実体がないのでダメージも通らない。

 

「ご・・・がぼ・・・・・」

 

 残念ながら一人の犠牲を必要とするのが欠点だ。この男には私の駒として生涯を終えてもらうことになるが仕方ない。そもそも弾幕ごっこは乙女の嗜みだから男の彼には関係ないし、紫にも言い訳はできるだろう。

 

「お、おいお前!どこへいく!」

「カ・・・える・・・デ・・・・」

 

 ああ、上手く声帯を震わせることが出来ない。これは修行が必要だ。とりあえず神経を動かすことは出来るのでこのままUターンして帰ることにしよう。

 

「止むを得んか・・・全員、攻撃を許可する!」

「し、しかし」

「このまま帰らせるものか!かかれぇ!」

 

 今日だけで大勢の天狗に襲われるという案件が二件も発生してしまった。しかも私は何もしていないのだから不運もいいところだ。博麗神社にいってお祓いでもしてもらおうかな。

 ちなみに先程の契約により私はこの天狗達を殺すことは出来ない。それは向こうも同じなのだが、殺すほどの危害でなければ契約内容に触れない。

 

『各陣営ともにお互いの死人を出すことは出来ない。弾幕ごっこによる事故はそれに該当しない。ただし殺意の有無を考慮する』

 

 これが簡略化した契約書の訳文だ。尤も契約者の天魔が大天狗を追放とした場合にはこの契約の対象とならない。今は天魔が説得の方向で話を進めているので当分は彼らもこの契約に従うことになるだろう。

 ただし今私が彼らの仲間の身体を乗っ取る行為は契約に反しない。私は乗っ取っているだけだからだ。そして彼らもまた殺意を持ってこの体に攻撃することを許容される。契約書に触れることはこの戦いで一切行われていないのだ。

 何が言いたいかというと、大天狗達は私の契約書の内容を知らないということだ。彼らは私をその気になれば殺せると思っているし、契約違反による処罰の内容も知らない。

 

「ぐぎゃあああああああ!!!」

 

 大天狗達の攻撃を受け私の体の持ち主が悲鳴を上げる。何人かの天狗が怯むがそれでもなお攻撃は続けられる。

 

(容赦ないですね・・・。リーダーの指示に従って必死に攻撃を続けるだけ、大天狗の地位を貰った物たちが誰にでもできる駒役とは皮肉もいいところです)

 

 声に出して言ってやりたかったがこの体じゃ碌に声も出せない。既にボロボロで息はない上に風のせいで余計に声が通らない。

 宿主が息を引き取ってしまったため私は霧状の体を外に出す。このままでは飛ばされてしまい集めるのが面倒になるので、体を元に戻していく。基本的に吸血鬼は霧になってからは蝙蝠にならないと元の体に戻れない。

 

「卑劣な・・・」

「貴方達が殺したんでしょう?自分の地位の為なら他人の命なんてどうでもいいでしょうに」

「黙れ!」

 

 私は出来るだけ彼らを挑発して隙を見て逃げることにした。一人の怒号を合図にして次々に罵倒が飛んでくる。

 

「弱い犬ほどよく吠えますねぇ」

「き、貴様ァ!」

 

 彼らの怒りは有頂天だ。そろそろ陣形に乱れが見えてもいい頃だが、リーダー格の大天狗がなかなかうまく指揮を執っている。だがそれもここまでだ。

 

「『クランベリートラップ』」

 

 フランお姉さまを真似してみた劣化コピー。相手を狙いながら周りの弾幕が動きを阻害する技だ。さて、弾幕ごっこを忌避する彼らはどこまでこの弾幕を避けられるのだろうか。尤もじっくり見ていることもできないので私は早々に山を下りることにした。

 

「良い夜を」

 

 最後に彼らに聞こえるようにセリフを吐く。私からのメッセージはちゃんと伝わっただろうか。

 空に浮かぶ三日月のように、私の口もまたぱっくりと割れるように吊り上っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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