東方末妹録   作:えんどう豆TW

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他縄自縛

 

 

 

 止まった時の中で息が詰まりそうな感覚を覚える。彼女の伸びた人差し指の先から黒い弾幕のようなものが妖夢に向かって飛んで行っているように見える。いや、正確にはもう既に当たっている。効力がまだないのか妖夢は少し後ろに下がっているだけのようだ。

 

「はっ・・・はっ・・・」

 

 私を息切れさせるほどの威圧感、それは決して弾幕から放たれたものではない。まるで私が時を止めることがわかっていたかのようにこちらを向くリリィ様の眼差しだ。

 咎めるわけでも蔑むわけでもなくただこちらを見つめている、それだけでこれほどの圧迫感を生むのだ。本来吸血鬼とはそういうものなのだろう。ただ私はリリィ様やお嬢様達に可愛がってもらっていただけだ。

 

「はぁ・・・はぁ・・・ふふっ」

 

 しかしこんな空気の中でも思わず笑みが浮かぶ。少なくともリリィ様から殺気は感じないからだ。ここで私が殺されるようなことはないだろうと確信を持つことが出来る、それくらい私はリリィ様を信用している。そしてそんな自分に思わず笑ってしまった。

 尤も気が触れるという割には落ち着いた雰囲気だ、どこかお嬢様達の話と食い違いがあるようにも思えたが今は気にしないことにした。

 問題は弾幕を受けた妖夢の方だ。リリィ様が攻撃の前に放った言葉は『死罪』。罪と罰を操る能力はこんなことまで出来るのだろうか。しかし本当にそうならばもう妖夢は助からない。つまり私がこうして時を止めている意味は最早ないのだ。

 そして時が動き出す。私が時間停止を維持できるのはせいぜい10秒前後だ。

 

「いてっ・・・あれ?なんともない・・・」

「・・・・・・」

 

 妖夢に異常はないようだ。幽々子はその様子を目を細めてじっと見つめていた。

 

「うーん大当たり!今死んだのは幽霊部分の方だね」

「なっ!どういうことだ!」

「今言ったじゃん、貴女は二分の一の確率で命拾いしたの」

 

 空気が鋭くなる。正確に言えばその空気を出しているのは妖夢だけでリリィ様はケタケタと子供のように笑っている。

 

「おいおい、どういうことだ?多重人格者ってやつか?」

「人格・・・そうね、少なくとも別人ってほどには感じられないわ」

 

 霊夢と魔理沙も口々に感想を述べる。あの二人に見られたのは拙かったかもしれない。

 

「もうちょっと時間があるみたいだけど・・・うん、帰ろうか」

 

 時間があると言った割にはその顔に少し焦りが見られた。十何年の付き合いだ、それくらいは私にもわかる。一体彼女は何を考えているのだろうか、それとも何も考えていないのだろうか。

 

「咲夜、行くよ」

「はっ」

 

 どのみち私は彼女に従う以外の選択肢を持っていない。”リリィ・スカーレット”に逆らうという選択はないのだ。暴走するようなら命を賭してでも押さえつけるつもりでいたが理性は保っているようである。

 

「前は久しぶりだったから力が制御できなかっただけよ。今は大丈夫だからそんなに殺気立たないでよ」

「・・・申し訳ありません」

 

 どちらかというとフランドール様に似ている雰囲気だろうか。聡明でありながら幼さを残すような・・・いや、我が主は全員そんな感じだったか。

 

「では白玉楼の皆様、御機嫌よう」

 

 私とリリィ様は幽々子たちにお辞儀すると門を共に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月明かりが照らす魔法の森の上空。背丈の違う二人が引かに照らされながら飛んでいく。重い沈黙を先に破ったのはリリィの方だった。

 

「咲夜は無口だよね。行きも喋ってくれなかったし、もうちょっと会話のスキルを磨いたら?」

「不要な会話はご気分を悪くするかと思いまして」

「つまんないなぁ・・・不興を買うなんて王様じゃないんだから」

「それでも主ですから。主従関係とはそういうものです」

「ふーん・・・」

 

 つまらなそうに仰向けになって飛ぶリリィ。咲夜はその様子をまじまじと見つめていた。

 

「聞きたそうな事だらけで頭の中がぐっちゃぐちゃってとこかな?」

「・・・はい。正直貴女が誰なのかもわからない、そんな状況です」

「ぷっ、私は私だよ。でも・・・そうだね、私が私だよ」

 

 リリィの言葉を聞いて余計に怪訝な顔をする咲夜。その顔を見てリリィは意地悪く笑った。

 

「もうすぐわかるよ。だってもう表側が擦り切れちゃってるから」

「お、表側?」

「そ、もう無いのと同じ。それでも500年弱の終着があって今の形を保ってるのかな。理性として作った人格が本能のようにしがみつくってのも面白い話だよね」

 

 咲夜は依然困惑顔だ。話を理解できていないからこそリリィは話しかけているのだろう。

 

「表側っていうのは正しくないな。正確に言えば隠れ蓑ってやつなんだけど・・・あ、わかる?隠れ蓑ってあの・・・」

「それはわかりますけど、いったい貴女は何から隠れているのですか?」

「何から・・・何からだろうね。今までは逃げるために必要だったけど、そろそろ戦わなきゃいけないんだ。もう準備は整った。後は私次第さ」

「戦う?リリィ様が?」

「うん、私にしかできないの。やっと思いついた方法、この機会を逃せばきっと二度と宿命から逃れられない」

「・・・私にもお手伝いできるでしょうか」

「さぁ?でも大丈夫、私は帰ってくるから。それまでお茶の用意でもしながら待っててよ。私はアッサムが好きなの、知ってるでしょ?」

「一体何をなさるおつもりですか?この十六夜咲夜、貴女様の為ならこの命惜しくなど・・・」

「そういうのじゃなくて・・・まぁこれは咲夜に話してもいいかな」

 

 少し迷った後リリィは高い木の上に降りた。咲夜も器用にその木の上に降り立つ。人間の彼女がなぜ飛べているのかという疑問はこの幻想郷では意味を持たないだろう。彼女は飛べるから飛べる、それだけだ。

 

「スカーレット家は今代で7代目・・・正確に言えばヴラド公から数えてね。不死身に近い吸血鬼がどうしてこんなに激しい代替わりをしているかわかる?」

「覇権争い、でしょうか・・・」

「ぶっぶー、不正解。覇権は常にツェペシュの血統が握って来たわ。まぁこれはお父様の蔵書から私が持ち出した者に書かれてあったんだけどね」

「お父様ですか?お嬢様からも聞いたことはありませんが」

「あー・・・間違っても聞かない方がいいよ。それこそ不興を買うからね」

「わかりました。お話を続けてください」

「うん。それでね、これは仮説なんだけど・・・ツェペシュの血統は呪いにかかってるんじゃないかと思うんだ」

「呪い…短命の呪いですか?」

「ううん、違うよ。正解は教えてあげないけどね」

 

 またニッと笑うリリィ。咲夜は少し困り顔でため息を吐いた。

 

「とにかく私で最後なの。だから何が起こるか正直わからないけど・・・でもこれがチャンスなんだと思う。最初で最後のチャンス、だから咲夜は待っててよ。ね?」

「・・・私めにはわかりませんが、ご命令とあらば」

「硬いなぁ・・・まあそういうこと。そろそろ休憩は終わりにしようか」

 

 軽く枝を蹴りリリィは飛び上がった。咲夜もそれに続く。

 

「咲夜も美鈴みたいに部下兼親友とかにする?」

「・・・驚きました、美鈴もタメ口とか使うんですか?」

「さあ?初めて会った時以来聞いてないしなぁ」

「それはちょっと聞いてみたかったですね」

 

 クスクスと笑い合う二人。いつの間にか外は雪が止んで雲の晴れた夜空が真上に広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紅魔館までもうちょっとですが・・・」

「色素を操るなんてわけもないよ、ほら」

 

 くるりとリリィ様が振り返る。その目は黒の部分などミジンコほどもなく純白に染まっていた。魔法か能力か、今の私にはどちらでもよかった。問題はお嬢様達なら気づいてしまうだろうということだ。

 

「大丈夫、バレないようにするから任せてよ」

 

 そう自信満々に言い切るリリィ様。おそらく彼女は()()の存在を忘れているのだろう。

 

「美鈴はもう館の中かな?・・・ってあれは・・・」

 

 門の方を見ているのだろうか、人間の私の視力では彼女に何が見えているのかわからない。

 

「総出でお出迎えみたいよ」

「まぁ、そうでしょうね」

「?」

 

 彼女は忘れている、私の周りに浮かぶ星形の魔道具の存在を。つまりは全ての会話は筒抜けなわけで・・・。

 門の前に降り立つ。リリィ様の言った通りパチュリー様まで外に出ている。

 

「お姉さま達にパチュリーまで外に出るなんて珍しい。お出迎えですか?」

「ええ、そんなところよ。リリィも咲夜もお疲れ様」

「ありがとうございます。さ、外も寒いので中に戻りましょう」

「・・・」

「パチュリー?私の顔に何かついてますか?」

「咲夜に持たせた魔道具には中継機能が付いてるって説明を彼女から受けなかったかしら?」

「あーそんなことも・・・あれ?」

 

 調子よくいつものように喋っていたリリィ様の顔が引き攣る。お嬢様達の顔は険しいままだ。

 

「家族に隠し事とはいただけないわね」

「・・・まぁ時間の問題だから遅かれ早かれこうなってたんだろうね」

 

 諦めたように首を振るリリィ様。次に目を開いたときその白は黒へと変わっていた。

 

「どうして貴女は出てこないの?いつもそうやって冷静さを保つように仮面で隠して・・・」

「それくらいえげつないもの抱え込んじゃってるんだよ。人格を分けて抑え込む方に専念なきゃいけないくらいにね」

「・・・話を聞いてもいいかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は二つ人格を作った。いや、一つと数えるにはあまりに薄っぺらいかな?その薄っぺらいのがいつも壊れては創りなおしてるいつもの私。でももう限界なんだ。だからそろそろ決着をつけなきゃいけない」

「・・・貴女は自分の中に何がいるかわかっているの?」

「見当はついてるよ。後は必要なピースを集めるだけなんだけど、これが難しくてね」

「必要なピース?」

「うん。ただそれを取ると一緒に力が全部出てきちゃうんだよね。だから皆にはそれを抑える手伝いをしてほしいんだ」

「待ってよリリィ。私達は何も知らないんだよ?それなのに一人わかりきった顔で解説されてもな」

「ごめんねフランお姉さま、それでも納得してもらえないかな?」

「・・・手伝わないとは言ってない。むしろそのために私達はここに来たんだ。ここで終わらせるために今までやって来た。でもまだ隠してることあるでしょ?全部わかるんだよ。お姉さまだってそう、みんなわかってる。わかった上で気づかないふりをしてたけど、もうここまで来てるんだ。話してくれてもいいじゃん!私だってお姉さまだって知りたいんだ!一体貴女になにがあったの!?お父様が死んだあの日、あの日本当は何があったのか教えてよ!無理やり納得するのももう限界なの!」

「落ち着きなさいフラン!」

「止めないでよ!お姉さまだって一緒でしょ!?」

「っ・・・それはそうだけど・・・」

 

 全員の視線がリリィに注がれる。当のリリィは悲しげな表情で俯いている。やがてその口が平がれるまで時が止まったように誰一人動かなかった。

 

「・・・無理だね。だってそれは”禁じられてる”から」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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