東方末妹録   作:えんどう豆TW

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新しい一歩のために

 

 

 

「もう!本当に心配したんですから!」

「ごめんって」

 

 3日間我が家に監禁された私は、目の前で涙目になり真剣に起こる部下から目を逸らしながらこの場をどう乗り切ろうか考えていた。なにぶんこうなる状況を作ってしまった私の発言も本気のものだったのだ、どちらも悪いとは言えないだろう。

 

「それにしても美鈴がこんなに怒るなんて」

「そりゃ怒りますよ!もう魔力が戻らないなんて・・・私本気で・・・!」

「私だって嘘ついたわけじゃないんだよ、ほんとだから信じてよ」

「信じますよ!でもこのやり場のない気持ちはどこにぶつければいいんですか!!」

「う、埋め合わせは後日・・・」

「・・・絶対ですからね!!!」

 

 会話のキャッチボールというよりは一方的に剛速球を投げつけられるだけだったが、なんとか嵐は去った。後日私に何を要求されるかわからないが、それは未来の私に任せるとしよう。

 要するに私は血色を変えた美鈴にアリスの家から連れ戻されたわけだが、結局魔力は3日で快方に向かい8割がた戻ってきた。それを聞きつけた美鈴が怒りと喜びとその他いろいろな感情を込めた顔で私に突撃してきてから先のシーンは始まった。

 

「美鈴の迫力、すごかったね」

「私でも止められなかったわ」

 

 口々にお姉さま達や咲夜が雑談する中私一人が未来の埋め合わせに怯えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが埋め合わせ?」

 

 私は拍子抜けた。これが埋め合わせなら容易いといえば容易いのだが、病み上がりに申し付けるには些か厳しい内容ではないだろうか。

 

「はい、これが私の望みですよ」

「全快じゃないとはいえ、私に勝てるとでも?」

「勝てるかどうかじゃないんですよ」

 

 埋め合わせとは、決闘だった。決闘というか本気の手合せだ。お互いに殺す気で殺さず、といったほどだろう。

 

「別にいいけどね、リハビリには丁度いいかな?」

「ふふ、そんな余裕すぐにでも崩してみせますよ」

 

 何やら自信ありげな美鈴、とてもわくわくしている顔だ。なんだろう、見ていて気持ちのいい表情だな。思えば最近は色々なことがありすぎて人の表情をゆっくり見ることもなかった。私の家族はこんなに良い表情をしていただろうか。

 

「・・・?どうしたんですか?」

「ううん、いい感じ」

「?」

 

 わけがわからないというように首を傾げる美鈴。

 しかしながら流石は武人と言ったところか、私も少し考えればその考えに辿り着いただろうに。

 

「庭の後片付けはちゃんとしてね」

「うぐ・・・まあ、安い代償ですよ」

 

 顔を引き攣らせ笑顔が固まる美鈴。そんな美鈴を見ながらテラスからのレミリアお姉さまのボヤキが聞こえてきた。

 

「私の館なのに・・・」

 

 思わず苦笑してしまう。変にプライドの高いレミリアお姉さまのことだ、これでも丸くなった方だと思える自分も相当慣れてしまった。

 

「さ、そろそろ始めよっか」

 

 さて、そろそろよそ見をするのはやめよう。美鈴が待ちきれないとばかりにオーラを溢れさせている。応えてやらねば失礼にあたる。

 

「ここまで大見得切ったんだから、負けたら罰ゲームだよ」

「既に私の望みは叶いました、何なりとお申し付けを」

 

 後悔するなよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「咲夜、おかわり」

「はい」

 

 私の呼びかけに咲夜が答え、次の瞬間には空になったティーカップに紅茶が注がれていた。優秀なメイドは紅茶の味を変えることはない。

 ここにいるのは私と咲夜だけ。フランはパチュリーのところへ魔法の勉強と言って図書館の方へと走って行った。パチュリーと小悪魔は当然図書館、そして美鈴とリリィの決闘を見学しているのは私達二人だ。

 

「美鈴の動きも良くなったわねぇ」

「病み上がりでそれに対応するリリィ様の方が恐ろしいですわ」

 

 リリィの投影魔法は最近見ることが少なくなった。まだ改良段階なので云々とか言っていたが、今は魔力が足りていないのだろう。体術だけで美鈴と渡り合うリリィを褒めるべきなのか、吸血鬼の体術についていく美鈴を褒めるべきか。

 

「平和ねぇ」

「そうですね」

 

 吸血鬼は・・・と一括りにしてしまうのはあまり良くないが、少なくとも私もフランもリリィも好戦的な部類だ。それでもこの平和な時間はやはり心地よいもので、ついつい転寝でもしてしまいそうになる。太陽の光すらも私の平和を構成する一つの要素になるほどだ。まあ当たれば灰化するわけだが。

 今でも私はあの戦いが終わった後のことを鮮明に思い出すことが出来る。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「リリィ!リリィ!」

「だ、いじょうぶ・・・だから・・・」

「魔力が・・・パチュリー!」

「今供給中!静かにして!」

 

 ひび割れた肌から血が流れ出すのを手持ちのハンカチで何とか抑える。今のリリィには血の一滴ですら命にかかわることになるかもしれない。かもしれない、というのは本来放っておいても魔力の回復量と潜在魔力量は魔法使いよりも多い吸血鬼がここまで消費するなど前代未聞なのだ。私では対処できないかもしれないという焦りがこみあげてくる、それはこの場にいる全員に言えることだが。

 

「この戦いも・・・収束するから・・・」

 

 そう呟いてリリィは目を閉じた。それきり動かなくなった彼女の体をフランに任せ、私はアリスのもとへ行く。

 

「大丈夫よ、ひびの応急処置なら任せて」

 

 私が言葉を発する前にアリスは糸を用意した。治癒魔法とかそういった類では治せない、言うなれば疲労や消耗に数えられる部分が怪我よりもはるかに割合が大きい。つまりリリィ自身の治癒能力に任せるしかないのだ。この場をどうにか凌ぐことが出来れば後は安泰というところだろうか。

 アリスが糸を縫いながらこちらを向く。それでも手は止まらずに先程と同じ動きを繰り返している。

 

「思ったより私達のダメージが薄いわね」

「貴女は一番まずそうな攻撃喰らってたじゃない」

「流石の私もアレは意識が完全に飛んで行ったわ。でも治癒に時間がかかるほどの傷じゃなかった」

「・・・何が言いたいの?」

「完全にリリィから悪魔の力が抜けてないんじゃないかと思ってるのよ」

 

 アリスの言葉になるほどと頷く。確かに力のほとんどは消し去ることが出来たのだろう。それでも完全に奴が外に出ていなかったのだとしたらそれは看過できない。

 しかしそれでも私は首を横に振る。それはアリスの考えを否定する意味ではない。

 

「それでも私はリリィを信じるわ、もしあの子が完全にコントロールできるのならそれは助けとなるでしょう?」

「それはそうだけど・・・」

「大丈夫よ、もしものことがあればその時はまた私達が守るわ。もちろん貴女もやってくれるわよね?」

「・・・はぁ。断れないわね」

「断るつもりもないくせに」

 

 私の言葉にアリスが苦笑する。応急処置が終わったようで、彼女は立ち上がった。後ろに見えるフランの顔は不安の色を隠せていない。

 

「フラン、帰りましょう」

「お姉さま・・・」

「リリィが目を覚ましたときにこんな硬い地面の上じゃ嫌でしょう?一刻も早く連れて帰らないとね」

「・・・うん」

 

 これはリリィが目を覚ますまで暫くは治らないだろう。それでも私には見える、またこれも日常に収束し、変わらぬ日々を過ごしていく私達の姿が。

 

「さあ帰るわよ、私達の紅魔館にね」

 

 私の言葉にそれぞれが頷いた。

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「収束する、ねぇ」

 

 不思議なもので見事にリリィの言う通りになった。『運命を操る程度の能力』はもしかしたら私ではなくリリィのものなのではないだろうか。ちなみにそれをリリィに言ったら「経験則」と返された。

 

「あら、そういえばリリィ様に用事があったのに言いそびれてしまいましたわ」

「急用?」

「いえ、稗田家からの手紙です」

「あー・・・」

 

 前にリリィが断った幻想郷縁起のための取材だろう、今の彼女ならどう答えるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいよ」

 

 即答だった。隣の美鈴は決闘だというのに全ての技を往なされて少々不満顔だ。リリィがあまり無理をしたくないのを考慮してか、その文句は口から出ることはなかった。

 

「この間は嫌がったのに、いいの?」

「もう何も隠す必要もないしね、そんなに不都合もないよ」

「そう、なら後は貴女に任せるわ」

 

 その日は私は紅魔館を留守にしなければならないため、対応は全てリリィに任せなければならない。

 

「咲夜、リリィを助けてあげて」

「し、しかし私達はその日・・・」

「代わりに美鈴を連れていくわ」

「・・・かしこまりました」

 

 咲夜はここに置いていくことにした。中身は咲夜も確認していなかったらしくここで予定が少し狂うとは思わなかった。どうせ妖怪の山での会談だ、咲夜でなくともお供は務まるだろう。

 

「まあ、まずは縁起デビューが私の新しい一歩かな」

「ふふ、嬉しそうね」

 

 上機嫌な妹の顔は、今まで見たことないくらいに明るかった。太陽は苦手だが、私の隣にいつまでもいてほしい太陽もある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はいいことがありそうだわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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リリィ・スカーレット

 

種族:吸血鬼

 

能力『傲慢・憤怒・暴食の罪を司る程度の能力』

 

二つ名「無翼の吸血鬼」

 

危険度:極高

 

人間友好度:最低

 

活動場所:紅魔館付近、魔法の森

 

 紅魔館に住む吸血鬼姉妹の三女。数度に渡る交渉の末取材に応じて頂いた。以下は本人から聞いた話、私の推測、噂など色々なものを混ぜた結論となるのでご了承いただきたい。

 

・容姿や性格

 

 腰まで伸びた淡い桃色の髪が特徴。姉妹でお揃いのナイトキャップを被っていることが多いのですぐにわかるかもしれない。服装も全体的に色の薄いものが好みのようだ。最初に見た時は大人しい様子だったが、取材に応じた際には子供っぽいしぐさや表情が多く見られた。

 性格は好奇心旺盛(紅魔館のメイド十六夜咲夜、及び親密に関係の者の証言)。基本的に彼女の方から襲ってくることはないが機嫌の悪い時には保証はないとのこと。また非常に好戦的で妖怪同士での争いは珍しくないとのこと。

 

・能力について

 

 上記の能力については詳しく教えてもらえなかったが、まず人間に害が及ぶほどのものではないらしい。罪を司るともなれば地獄の閻魔にも及ぶ存在となるが果たして真偽は如何ほどのものなのだろうか。

 

・備考

 

 魔法の研究を趣味としており、魔法使いにも並ぶほどの腕を持つ。しかしながら彼女の使う魔法はほとんどが戦闘用で紅魔館に同棲するパチュリー・ノーレッジ氏(詳しくは『パチュリー・ノーレッジ』の項を参照)ほどの応用は出来ないようだ。尤も当のノーレッジ氏は嫌味と受け取ったようだが。

 また色々な妖怪と関係を持っており、妖怪の山に住む天狗や妖怪の賢者とも密接な関係にあるようだ。真偽を確かめる術はないが。

 

 

 

 

 

 

 以下は関係者による証言である。

 

・「自慢の妹ね、どこに出しても恥ずかしくないわ」(レミリア・スカーレット氏)

 

・「愛しの妹よ、どこにも出したくないくらいにね」(フランドール・スカーレット氏)

 

・「お互いに研究分野が違うからこそ意見の交換や議論が楽しくなるのよ」(パチュリー・ノーレッジ氏)

 

・「努力家ですよ、最後まであきらめない素晴らしい精神の持ち主です」(ノーレッジ氏の部下)

 

・「鍛錬によく付き合ってくれるんです、まだ超えることは到底出来そうにないですけど」(紅美鈴氏)

 

・「最近は料理も随分と上達なされたんです。・・・方向性は少し曲がっていますが」(十六夜咲夜氏)

 

・「あー・・・あいつは頑固だぜ、本の一冊も貸してくれやしない」(霧雨魔理沙氏)

 

・「・・・妹みたいな感じかしら?こんなこと言ったら殺されるかもしれないけど」(匿名希望)

 

・「数少ない購読者であり、数少ない友人ですかね」(匿名希望)

 

・「戦いになると人が変わったように鋭い眼をするんですよ」(魂魄妖夢氏)

 

 その他多数の者(ほとんどが人間ではないが)からの声が寄せられている。愛されているのがよくわかる。

 

・対策について

 

 どの妖怪にも共通する点として、迂闊に近づかないこと。また友好度は最低となっているため、あまり交流は勧められない。前述のとおり彼女は戦意がない限り襲ってはこないので、見つけてもあまり興味本位で近づいたりせずに通り過ぎるのが吉だろう。万が一彼女から近づいてきた際には下手に逃げたりせずに、最低限のコミュニケーションを図る方が安全である。一番避けてほしいのは機嫌を損ねることだけだ。・・・この館の姉妹全員に言えることであるが。

 

 

 

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「ふふっ」

「どうしたんだ、綾音」

 

 人里にある大きな貸本屋、看板には『鈴奈庵』と漢字で書かれている。そこで会話をする二つの人影があった。

 一つは長く白い髪を持った高身長の女性。もう一つはその半分ほどの身長の少女。二人とも一つの本に目を向けている。

 

「ほらここ、人間友好度最低だって」

「あ、ああ。彼女はそういっていたが」

 

 おかしそうに笑う少女と少し困った顔の女性。困り顔の女性は何がおかしいのか全く分からないというように少女を見つめている。

 

「嘘吐きね、あの人は人間のことが好きなのよ?」

「そうなのか?しかし・・・」

 

 女性が言いかけたところで少女は首を横に振った。

 

「だって、嫌いだったら今ここに私はいないわ」

「・・・そうか、そうなのかもしれないな」

 

 表情を変える女性、しかしその顔もまた複雑な色を浮かべている。そんな女性を見兼ねてか、少女は笑って女性を見上げた。

 

「私は諦めないことにしたの、だって先生が支えてくれるんでしょ?」

「それはもちろんだ、先生はいつだってお前の味方だぞ」

 

 女性は力強く頷いた。それが嬉しかったのか少女もまた小さく頷いて本に目を戻した。

 

「私の新しい一歩、貴女のおかげよ」

 

 少女は小さく呟き、そして―――

 

「ふふっ」

 

 そして少女はもう一度小さく笑った。

 

 

 

 

 




これにて本編は終了となります。ここまで読んでくださった読者の皆様、本当にありがとうございました。
後日談やその他の設定等はまた気が向いたら書くかもしれません。
最後にもう一度、読者の皆様ありがとうございました。
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