夜、紅魔館のすべての人員を集めて開かれたパーティーは館の外にも聞こえるほどの賑わいだった。ただし今回ばかりは結界を使って外からの訪問を遮断、完全に身内だけのパーティにしたかったのだ。途中結界をぶち壊そうとした尖り帽子の泥棒が飛んできたが、私が直々に追い返してやった。
かくしてパーティは(7割くらい咲夜のおかげで)大成功、みな喜んでくれたようで何よりだ。咲夜は謙遜していたがセッティングやレクリエーションよりも即物的な料理の方が妖精は喜ぶだろうし、正直私一人でやっていたらとてもこんなことにはならなかっただろう。むしろ事故を起こしてよかったかもしれない。
「ふぅ~・・・」
運営もほとんどが終わり一息。あと考えることは片付けくらいだ。少し休んでいると隣にレミリアお姉さまが座って、無言でワインを差し出してきた。
「お疲れ様」
「どうも」
それを受け取り、一口飲んでから再び息を吐く。なんとも落ち着く味・・・さすがは紅魔印の高級ワインだ。
「貴女がパーティを開くなんて言い出した時はいきなりどうしたのかと思ったけど、結構前から考えてたのね」
「うん。まぁ私が気分転換にやりたかっただけだからね。お礼なんていらないわ」
「ふーん・・・ま、そういうことにしといてあげるわ」
ニヤニヤと笑いながらレミリアお姉さまもワインを口にする。気色悪いとか言ったら機嫌を損ねるので言わないでおく。
「・・・ねぇリリィ、貴女は幻想郷に来る前のこと覚えてる?」
「急にどうしたの?鮮明にとは言わないけどある程度は覚えてると思うわ」
いつの間にやらしんみりとした顔になって話し始める彼女に、思わず私は言葉が出なくなる。
「私は覚えてるわ。呪縛に苦しめられて、それでもなんだかんだ楽しかったあの日々」
酔ってるのかな?なんて思ってしまうほどにするするとワインを飲み干して昔話を続ける。
「ほんとはずっと怖かったの。私たちはリリィに心の底で恨まれてるんじゃないかって。私達と違う環境で育てられてしまった貴女を憐れんでいたことも全部知られていたのだろうから」
どうだっただろうか。父親が存命だった頃の話などあまり覚えていないし、私に残ったのは親殺しの汚名だけだ。恨まれるのは私の方だったのではないかと思っていたくらいだ。
「疑ってごめんなさい」
「私が本当に恨んでいたら今はないでしょう?臆病なんだから」
少しからかってもいつものように向きになって否定することもない。
「臆病、ね。いつもは見栄を張ってるけど、そりゃ家族のことだもの。最悪の事態をいつも想定して動いていたし、私が貴女達の枷にならないかいつも不安だった」
「でも、そんなことなかった。私の思いはきっと貴方達に伝わったのね」
にへら、と表情を崩して笑うレミリアお姉さま。見た目相応の幼い笑みに思わずこちらも微笑んでしまう。私が見た目のことをとやかく言える立場ではないのだが。
そこからは本当に酔っぱらってしまったらしくウフフウフフと笑いながら膝の上で寝てしまった。こんな珍しいものも見れて、開いた甲斐もあったというものだ。
「あ、リリィとお姉さまここにいたんだ」
しばらくするとフランお姉さまもこちらへやってきた。そして寝ているレミリアお姉さまを見てニシシと笑う。
「幸せそうな顔。ここ最近で一番って感じね」
「うん。私も久しぶりに見たかな」
フランお姉さまは良く子供っぽく笑ったりするから、いつもの調子だとしか思わないけれども。
「急にパーティなんて言い出すから裏があるのかと思ったけど、本当に何もなかったのね」
「失礼しちゃう。日頃の感謝を伝えるために企画しましたのに」
「ごめんごめん。・・・でも、リリィが敬語を使うと違和感を覚えるようになっちゃったわ」
今日はやたらと昔話をしたがる人が多い。そういう日なのだろうか。
「今からでも戻せますよ?別にどちらも意識してることではありませんし」
「やめてよ、変に距離感じちゃうじゃない。最初は私より大人びててすごいなぁなんて思ってたけど、全然気づけてなかった。もうみんなに隠し事なんてしないでよね?心配させないようにしてる貴女を見てるのが一番心配になるんだから」
隠し事をしているつもりはない。ただ一人で対処できると思っていただけだ。けれども、周りを心配させてしまうのならば控えなければとは思う。
「今回だって最初は自分一人で全部やるとか言って、すごく心配したのよ?まあ、結局叶わなかったけれど」
「・・・次は成功させてみせる」
「そりゃ努力するのはいいことだろうけどね。でも、人に任せるってこともちゃんと覚えてよね」
酔いが回ると人は脆くなるらしい。吸血鬼もきっと同じなのだろう。
「じゃあ、この後の片づけ手伝ってね」
「えっ・・・そ、それはその・・・」
「手伝ってくれるんでしょ?私運営で疲れちゃって人手が欲しいわ~」
「・・・むぅ、じゃあ手伝うわよ」
めんどくさそうな返事で会話が途切れる。
誰もしゃべらないまま吸血鬼が3人、薄暗い小部屋の中にいた。誰もがその雰囲気を壊さぬように、静寂を愛おしく感じるように何もせずに佇んでいた。
昔みたいだ、と私も感じた。たった3人、小さい少女だけがいた私たちの家。それでも心細さなんて感じないほど暖かい場所だった。それは家族が増えた今も変わらない暖かさだった。
あの後、片づけをしているとお姉さまも起きてきた。それどころか遊んでいた妖精メイドたちまでもがパーティの片づけに参加し、彼女たちの指揮を咲夜に任せた。
「「「「「リリィ様、今日はありがとうございました!」」」」」
誰が吹き込んだのやら。主催は私であると一言も言ってないのに妖精メイド一同からお礼をもらった。冷酷な吸血鬼を振舞うには、この館はどうやら小さすぎるみたいだ。
「ね?レミリアお姉さま」
「何よ。なんか失礼なこと考えてない?」
「なんにも」