征夷大将軍 源頼朝   作:パパイヤ

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一話 プロローグ

征夷大将軍 源頼朝。武家政権の創始者であり、政治的手腕にも秀でており、人心掌握術も得意であり、後の正室である、北条政子をはじめとする多くの偉人達から、評価の高い彼ではあったが、彼が主人公とされる物語や作品は少ない。その理由の一つに挙げられるのが、同族兄弟の殺害である。自分の出世の為に同族を殺したのだ。

 

そして、そんな彼が、現代にクローンとして蘇ったとしたら...どうなるのであろうか。環境も、立場も、交友関係も全く違う場所に生まれたのならば、彼は史実の通りではない、弟思いの兄になれるのであろうか。

 

答えは誰にもわからない。だが、今ここに九鬼財閥のとある計画により、偉人達のクローンが生み出された。その中に、[源頼朝]・[源義経]この両名が含まれていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜九鬼本社ビルにて〜

 

「マープル。例の計画はどうなっている。」

 

金髪で、とても年配の方とは思えぬほど、鍛え上げられた肉体をした老執事が言った。

 

「ヒュームかい、順調だよ。心配するようなことはありゃしないさ。」

 

それに答えたのは、マープルと呼ばれた、これ又ご年配の女執事。とてもではないが、お茶を入れたり主人の着替えを手伝ったりするようには見えない。

 

「ヒュームは計画の心配なんかしてませんよ、アナタが心配なんです。マープル。」

 

優しそうな微笑を浮かべる、無駄のない所作。二人と比べると普通に見えてしまう老執事が一人、会話に入り込んできた。

 

「余計な事を言うな、クラウディオ。串刺しにするぞ」

 

「おお、怖い怖い。それは怖いですね。」

 

「はぁ...全くアンタ達は」

 

クラウディオとヒュームが言い争っているのを見て少し笑うマープル。

 

「ああ、そういえば、マープル。例の子供達を受け入れる学校のリストですが、あなたの部屋に送っておきましたので、後でご確認ください。」

 

「悪いね、クラウディオ。あんたにゃいつも迷惑かけちまって」

 

「良いんですよ、好きでやっていることですから。」

 

そう言って、クラウディオは優しい笑みを浮かべた。

 

「さあさあ、アンタらはもう仕事に戻りな。(アタシ)も戻るからね。」

 

「ああ、そうだな。いつまでも俺達が席を空けていたら九鬼が回らなくなる。」

 

「今はまだ、我々が必要です。」

 

「だが、何れは俺達も引退する。本格的に後継者の育成を始めた方が良いのかもしれんな。」

 

「そうですね。」

 

「アンタらは...いや、何でもない。」

 

何かを言おうとして、途中で言うのをやめてしまったマープル。その後、何度聞き返してもマープルは何も言わなかった。

 

そして、諦めてヒューム達がその場を後にした。

 

(二人とも...わたしゃもう諦めてんだよ。後続の育成なんてどうせしても無駄さ。最近の若者は辛いからやめる。苦しいからやめる。面白くないからやめる。やめても自分たちには家があるから、親がいるから、やり直せるから...本気で挑もうとしない。)

 

「嘆かわしいねぇ。」

 

(後を任せられる者なんて、いつまで経っても現れなんてしないよ。)

 

マープルは諦めていたのだ。この世界に。いまの世の中の若者達に。

 

そして、こう考えた。

 

ーーいないなら、出てこないなら、作れば良いじゃないか。

 

そうして目をつけたのは、過去の偉人達のクローンを作るという計画。過去の彼等ならば、歴史を突き動かしてきた彼等ならば、いまの世の中を変えられるかもしれない。自分たちの後を任せることができる。心からそう思うことができるであろう。

 

そうしてマープルの計画が始まった。

 

最初に選ばれた過去の偉人は、

 

・葉桜清楚(項羽)

 

・武蔵坊弁慶

 

・源義経

 

そして、

 

・源頼朝

 

であった。

 

そうして、マープルがクローン計画を考え、始動してから数年が過ぎた。

 

「義経、お前は頼朝に劣るのだ。頼朝に勝っているところなど、一つも無い。」

 

「い、いきなり如何したのですか、

()()。」

 

史実にあるのとは違い、義経、頼朝は共に女であった。

 

「いきなり?いきなりでは無い。今迄ずっと思ってきたんだ。」

 

テストの成績で言えば、圧倒的に頼朝の方が優れている。交友関係についても、人脈の広さは義経の何倍にもなる。しかし、武術面だけにおいては義経に軍配が上がるのだ。

 

史実でも、自ら兵を率いることは少ないとされている頼朝だが、本人自身は、武芸に秀でていたのだ。しかし、それでも義経には及ばない。精々、そこらの武術家よりも少し優れている程度でしかない。

 

それが、頼朝は気に食わなかったのだ。何かにおいて、妹である義経に負けるというのは嫌だったのだ。武芸を披露する機会があるたびに、義経は功績(褒めてもらう事)を掻っ攫っていく。それが、どうしても気に食わなかった。

 

そしてとうとう我慢の限界が来て、今に至るのだ。

 

「そんな事言ったって、何すれば良いのさ頼朝。」

 

気怠そうに義経の家臣である弁慶がそう頼朝に問うた。

 

「そんな事、決まっている。決闘だ!」

 

「義経は、戦うと言うのなら容赦はしない。」

 

「負けたら、この学校を退学して他の学校に移る事。いいな?」

 

「うん...って、え?」

 

「頼朝は、義経、お前を倒す事で更に強くなる。...さあ、武器を構えろ、義経!!」

 

そう言って、頼朝は腰から日本刀のレプリカを抜く。レプリカとは言っても、実際に当たるととても痛い。痣が残ってしまうこともある。

 

「義経は、持ち掛けられた勝負は、絶対に受けて立つ。勝負だ!姉上!!」

 

義経も腰から日本刀のレプリカを出す。

 

「おいおい、勘弁してくれぇ...ま、義経がやるっつーなら良いんだけどよ。」

 

そう言って弓を番える少年、那須与一が何処からか現れた。

 

「めんどくさいけど、私達は()()()を勝負に乱入させないように、足止めするとしますか〜」

 

気怠そうな声だが、弁慶は真剣モードに入った。

 

「きちぃな〜、本当に。義経、出来るだけ早く倒してくれ。じゃねぇと、俺たちが保たねえ。」

 

善処する、と返事が返ってきたが頼朝も弱くはない。義経が負けることはないだろうが、時間は多少掛かるだろう。

 

「こんな下らない事は辞めろ。後でマープルさんとかに怒られるぞ。」

 

先程、鬼と呼ばれた少年...と言うには少し背の高い男が現れた。本当に同級生なのかと疑うほどに鍛え上げられた肉体。勉学も非常に優秀で、彼が慕っている頼朝と互角である。

 

()()、ここは黙って見てる訳には...いかないよねー。」

 

東鬼(とうき)、性は無く名しかない九鬼ですら、素性を掴む事が出来なかった子供だ。

 

そんな彼に一応聞いてみたが、無駄であるという事がすぐに分かった弁慶は、途中で言うのをやめる。

 

「此処で、義経と頼朝が勝負して決着がつけば必ず二人は袂を別つ事になる。其れだけは阻止しなくてはならない。お前達も、あの二人が今以上に仲が悪くなって話さないようになる...何てことは嫌だろう?」

 

弁慶と与一の二人を説得しようとしている東鬼(とうき)であったが、全く効果は無かった。

 

「そんな事になるわけないでしょ、主だよ?主なら頼朝ともやって行けるさ。」

 

「ああ、流石に二度と話さなくなるなんて事にはならねぇよ。転校もマープル達が許すわけないし。」

 

誰もそんな事になどならない、と高を括り東鬼(とうき)の話に耳を傾けようとしない。

 

「そうか、未だ分からないのだな...ならば、」

 

突然、東鬼(とうき)の闘気が膨れ上がる。あまりの闘気に肌がビリビリと痛み始める。

 

「お前達を、捻り潰してでも、止めるまで。」

 

更に闘気が膨れ上がり、圧倒的な実力差を本能で感知し、膝を着いてしまう二人。

 

「ぐっ...相変わらず凄いなぁ〜。さすがに骨が折れる。」

 

本能的に着いた膝をなんとか上げて武器を構える。構えた錫杖のその矛先はブレ捲っている。

 

「怯えているのならば、武器をおさめろ。雑兵に用はない。」

 

その時、ヒュン、と音がして東鬼(とうき)の右側の地面に弓が刺さった。

 

「案外、二体一なら勝算があるかもしれないぜ?」

 

そう言っている、与一の弓を構える手も震えている。

 

「そんなに俺に潰されたいのか、ならば望み通りにしてくれる!!!」

 

そう言うと、東鬼(とうき)は体全体を気で覆い、身体強化を施していく。何重にも重ね掛けした身体強化の影響か、紫の瘴気のような物が彼を覆い、姿が完全に見えなくなる。瘴気の中から、特徴的な彼の赤い二つの眼が弁慶と与一を見据える。

 

「こりゃぁ...死ぬかもな。」

 

そんな物騒なことを言う与一。

 

そして、遂に勝負という名の蹂躙が始まった。

 

先制攻撃を仕掛けたのは弁慶だった。東鬼(とうき)の鳩尾を狙った弁慶の名に恥じぬ非常に重い突きの一撃を放った。

 

風を切るヒュンヒュン、といった音を出しながら、ものすごい速度で東鬼に迫る。しかし、東鬼はあっさりとそれを交わし、弁慶に蹴りを入れて吹き飛ばす。

 

「ぐっ...」

 

肺に入っていた空気がすべて押し出されるような力で蹴り飛ばされ、芝生の上に仰向けに倒れてしまった。その弁慶に追い討ちをかけるために猛スピードで弁慶に迫る東鬼。

 

其処に三本の矢が東鬼に迫り、進行を妨げようとする。しかし、全て紙一重で避けて行ったため、全くスピードが落ちていない。

 

「クソッ!手数が足りねぇ。」

 

そのあとも何本も撃つが、一向に当たる気配がない。しかし、東鬼の進行を多少なりとも妨げることには成功した。

 

お蔭様で、弁慶が体を起こして体制を整える時間を稼ぐことができた。

 

「やれやれ、無意味だと何故わからない。敗北は必至だと言うのに。」

 

肩を竦め、やれやれと首を振っているのが瘴気を纏った今でもわかる。

 

「そんなの、アンタも分かってるんじゃないの?...主を守るためだよ。」

 

「ああ、そうだ。義経のところにお前なんて行かせられねぇよ。」

 

「そうか...その忠義は尊敬に値する。だがな、」

 

少し緩んでいた弁慶と与一だったが、再び気が膨れ上がり、前回とは比べ物にならない闘気に警戒する二人。

 

「俺の頼朝に対する忠誠心はそれを遥かに凌駕する。」

 

あまりに巨大な気のせいか、空気が軋む。まるで世界が彼に恐怖しているかのように...

 

「見せてやろう。俺の必殺の一撃を...」

 

「え、殺すの?殺されるの?俺達。」

 

崩技(ホウギ)覇掌底(ハショウテイ)!!!」

 

腰を深く落とし、右手の掌底を前方に放つと、

 

ズガガガガガゴガガガガガガン

 

と、とんでも無い破壊音が草原の辺り一帯に鳴り響き暫く、地震かと思う程揺れ続けていた。

 

直感から武器をかなぐり捨て、全力で右側に飛んだ二人はなんとか、技の効果範囲外に出ることができたが、自分達が元いた場所を見てみると、草は吹き飛び、地面は抉られ、錫杖と弓はグシャグシャに潰れていた。

 

「運が良かったな。」

 

ゾワッとして鳥肌がたった二人。低い声でそう言い放った本人は、最早二人には興味がないのか、頼朝と義経の決闘している現場へと向かった。

 

「アレはやばいぜ、姉御。」

 

「わかってる。...ゴメン、主。もう、これ以上は止められない。」

 

武器が壊れてしまった以上何もできない二人は、戦闘の疲れもあって、その場を動くことはできなかった。

 

東鬼が現場に着いた頃、義経と頼朝の戦闘はもう既に終わってしまっていた。

 

ーー頼朝の敗北という形でーー

 

「主よ、起きられるか?」

 

「・・・。」

 

「やれやれ、困ったお人だ。」

 

そう言って、肩に頼朝を担ぐとその場から立ち去ろうとしたが、急に止まった。何事か、と義経が思って見ていると彼はこちらに振り返り、

 

「さようなら」

 

そう言って、立ち去っていった。

 

その後、義経達はマープルから頼朝と東鬼とその他数名が転校、転勤になったと伝えられた。どこの都道府県の学校に行ったかも知らされなかった。頼朝の希望という事で。

 

あの時東鬼が言った言葉に耳を傾けていれば...

 

『此処で、頼朝と義経が勝負して決着がつけば必ず二人は袂を別つ事になる。其れだけは阻止しなくてはならない。お前達も、あの二人が今以上に仲が悪くなって、話さないようになる...何てことは嫌だろう?』

 

義経と頼朝がここまで連絡も何も一切なしの、険悪な仲になる事などなかったのではないか、と。

 

何度も何度も、弁慶と与一は思っていた。その事を義経に話すと、

 

「終わってしまった事は仕方ない。義経は、頑張ってお姉ちゃんと仲直りするから見ていてくれ、弁慶!」

 

そう言って、明るい笑顔で笑った。

 

手紙を送ったり、電話を掛けてみたりしたが効果は何もなく、話すこともできなかった。

 

失敗する度に、泣きそうな顔になる義経を見ている弁慶と与一も辛かった。

 

ーーそして、義経と頼朝の決着から何年かの月日が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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