忘れ去られし大罪 ~The Nine Deadly Sins~ 作:キリュウ
それでは第3話はじまりま~す!
━━━バーニャの村
ここ、バーニャ村はブリタニア屈指と謳われる名水とその川辺に群生するグルートから造られるバーニャエールという酒が有名な村だ。その酒を飲みにわざわざ100マイル離れた場所から来る客もいるくらいだから、その酒がどれほど美味いのかが窺える。そんな酒を飲みに、ある少女もここバーニャ村に脚を運んでいた。
「
元気よく注文してきた少女を見て店主は大きくため息をついた。
「お嬢ちゃん、歳いくつだ?」
「
少女の言葉に店主は少し「うっ」と詰まってしまう。それを見ていた一人の客が今のやり取りと見て笑い出す。
「はっはっは、一本取られたな。けど嬢ちゃん、子供にはまだ酒は早ぇ。今はミルクで我慢しときな」
少女はその言葉に不満たらたらな顔で口をとがらせていた。
「私、子供じゃないわ。貴方たちよりよっぽど大人なんだから!」
「ほぉ~しかし、俺の目には13か14そこらの少女しか映っていないんだがな?」
その言葉に少女は顔を少し俯かせ何かを呟いた後、持ち物を持ってそそくさと店を出ていってしまった。
「おいおいグルト、あんまり小さい子を苛めるなよ」
「餓鬼が酒を飲むもんじゃねえのは当たり前だろ?それに特に今はよ・・・」
グルト呼ばれた客の言葉が最後の方だけ小さい物なっていた。
「けど、あの子の持ってた杖は結構立派なものだったな。俺たちより大人って言ってたことからもしかしたら学者か何か目指して旅してたのかもな」
グルトは先ほど出ていった少女の持っていた杖のことを思い出していた。杖を歩行の補助として使わない限り、他の用途と言えば魔法を使ったりする時に用いる際の触媒だ。あの子が歩行困難というわけではなかったから、恐らく魔法の研究をしたりする学者なのだろうと予想したグルトの考えは割と的を得ている。
「ほっほっほ、ここは酒場かい?」
少女が出ていって数分もしないうちに今度は一人の老婆が入ってきた。そして先ほど少女が座っていた席と同じ場所に腰を下ろした。
「あぁそうだが、何する?」
「そうだね、やはりここはバーニャエールをもらおうかな?」
「あぁ~実は分け合ってバーニャエールのストックが少ないんだ。だから多くて2杯までとさしてもらってるんだがいいか?」
「そうなのかい?まぁ私は構いやしないよ」
「すまねぇな」
そう言って店主はそそくさと準備し始める。
「うん、でも何があったんだい?近くの川の水が枯れかけてるのが理由の一つかい?」
老婆の言葉に反応したのはグルトだった。
「あぁそうさ。あの野郎のせいで川の水も干上がっちまうし、もうじきグルートも枯れちまう!」
「あの野郎?」
そこで店主がジョッキに入ったバーニャエールを一杯持ってきた。
「ほらよ。たんとあじわってくれよ」
「どれ、じゃあいただくとしようかね」
そして老婆は一口飲んだ。
「・・うん、美味い。噂通りの味だね。林檎の香りと深みのあるこのコクはそこらの酒じゃ味わえないよ」
「よくわかる婆さんじゃねぇか。それなのにあの野郎はこれを不味いなんて言いやがって!」
「ところでその男は何者なんだい?」
「聖騎士様だよ!」
「ほぉ、聖騎士様がね~」
老婆は特に驚くそぶりもなくジョッキに入ったバーニャエールを飲んだ。普通なら聖騎士は民を守るための存在。そんな彼らが、民を苦しめるようなことがあってはならない。なのに話を聞く限りでは川を干上がらせる要因になったのは聖騎士という。これだけでかなりおかしいことなのに、老婆は先ほど変わらない態度を取り続けていた。
「で、その聖騎士様は何をしなさったんだい?」
「あそこ、見えるか?」
店主は入り口とは反対側の窓を指さした。そこから見える場所に、一本の剣が地面に深々と刺さっていた。
「ある聖騎士様にバーニャエールを飲んでもらったんだが、不味いって言われちまってな。んでミードって奴がその聖騎士の飲んでたグラスに虫を放り投げたんだよ。まぁ怒っちまったんだろ。俺たちも言われた瞬間は結構頭にきてたからな。けどそれが聖騎士様の怒りを買っちまって、聖騎士様が剣をあそこに突き刺したんだ。それ以来、近隣の川から水が来なくなっちまってな」
店主はあらかたの経緯を話した後、また窓の方を指刺した。そこにはロープを片手に持った男たちが剣の周りに集まっていた。
「最初は皆で力を合わせて抜こうとしたんだけどな、やっぱ聖騎士様が打ち付けた剣だ。そう簡単に抜けるわけもなくてな。抜こうと躍起になる奴も今じゃだいぶ減っちまった。かくいう俺もそうなんだけどな。あれは抜けねぇよ」
窓の外ではロープを剣に括り付け数人の男とそのロープを括り付けた馬が引っ張っていた。しかし、それだけしても剣が抜けることはなかった。
「な?まぁそれでも一日に一回は皆で引っ張ったりしてるんだが、正直どうしようも無さからの気休めさ」
「ふんふん、なるほどね。確かにあの剣を中心に力場が広がっているね」
「力場?」
老婆は、ふむふむと頷き、残っているバーニャエールを飲みほし、二杯目を頼んだ。
「にしても婆さん、あんたも学者か何かなのかい?」
グルトが老婆に尋ねた。
「いんや、私はそんな偉いひとじゃないがね。どうしてそう思ったんだい?」
「いや、婆さんの持ってる杖が気になってな。さっき杖を持った学者っぽい嬢ちゃんが店に来てな、婆さんもそうなのかと思ったんだが、違うなら・・・ん?」
そこでグルトがあることに気が付いた。グルトは老婆の持っていた杖をじろじろと見だす。
「その杖、さっき持ってた嬢ちゃんの杖と同じだ」
グルトが気が付いたのは老婆の持っていた杖と先ほどの少女とが持っている同じだということだ。
「?似ているだけじゃないか。杖なんてどれも似たようなものだろ?」
しかし、グルトは同じものだと店主の言葉を否定した。グルト曰く、杖の持ち手の部分に埋め込まれている、赤い石が先ほどの少女の持っていた杖と同じらしい。
「あぁ、これ嬢ちゃんのものなのかい」
老婆は杖を持ちあげカウンターの上に置いた。
「ここに来る途中で拾ったんだがね?誰のものかわからなくて使わせてもらってたんだよ。そうかい、ならそのお嬢ちゃんがこれを探してるかもしれないね~。なら店主、この杖預かってくれるかい?その子が探しにくるかもしれないからね」
どうやらこの杖、老婆のものではなかったようだ。老婆は少女がここに来るかもしれないので店主に預けることにした。
「あぁ構わないが、これなくていいのか?」
店主は老婆の年齢的に杖が無くていいのかと尋ねる。
「わたしゃそんな年齢じゃないよ!だいたいね、杖なら持ってるんだよ」
店主もグルトも、いやどこにもないだろ、と思っていたが、いつのまにか老婆の左手には一本の杖が握られていた。これには店主もグルトも驚きを隠せなかった。
「え?......え?どうゆうこと?」
「ん?何に驚いてるんだい?」
「いや、婆さんさっきまで杖なんて持ってなかっただろ?」
「何言ってんだい?入ってきたときから2本の杖を持ってたよ」
老婆が自身満々に断言するから、店主もグルトもそうだったか?と納得せざるをえなかった。そしてジョッキの残りを飲みほし、老婆は来たときとは違う杖をつきながら店を出ていった。
「.....なんか不思議な婆さんだったな」
「.....そうだな........あぁ!?酒代もらってねぇ!」
「お前アホだな」
「やられた!あの婆!......っち!ところでグルト、馬車の件につい「あぁ~~~!!!見つけた!」」
店主の声は入り口の方から聞こえてきた大きな声によってかき消された。その声は何十分か前に聴いたこのある声だった。
「あぁ嬢ちゃん来たのかい」
叫び声の主はもちろん杖の持ち主の少女だった。少女はカウンターまで走ってきて杖にタックルするかのように抱きしめる。
「よかった~どこ行ったのかと思った~。でもあれ?私ここからは持ってでた記憶があるんだけど・・」
そこで少女は客と店主をじろりと睨んだ。
「盗みました?」
「「違うわ!」」
素晴らしいタイミングでの揃い方だった。
「でも、私気が付いたら杖が無くなってて誰かに取られたと思って探してたんですけど」
「あぁ何か婆さんが拾ってたみたいでな、ここにお前が来るかもしれないからってことで預けて行ったんだよ」
「そ、そうなんですか。ごめんなさい。早とちりしちゃって」
「まぁいい。ほらこれ」
店主は預かっていた杖を少女に渡した。
「ありがとうございます」
「次からは無くさないようにしろよ?それとさっきの話なんだがなグルト。運搬ようの馬車の修理完了したか?」
「いや、一つどうしても治せない部品があってな。買い替えてもいいんだが、金がな」
「・・あの~よかったらその修理手伝いましょうか?」
そこで横やりを入れたのは少女だった。少女は私が治してみせますよ、と胸を張って言う。しかし二人ともあからさまに無理だろという目線で少女を見る。しかしそんな視線を少女はまったく気にしなかった。
「さっき失礼なこと言ってしまったお詫びってことで!その部品、今あったりしますか?」
「いや、嬢ちゃん。気持ちはありがてぇがそう簡単なもんじゃねぇんだ」
グルトは少女の言ったことを信じておらず、笑ってあしらった。
「わかってますよ。でもまぁやるだけやらせてみたらどうです?騙されたと思ってやらせてください」
店主がグルトにやるだけやらせてあげたらどうだ?と目線で伝え、グルトは大きくため息をついた。
「仕方ねぇな、ほらじゃあちょっとついてきな。あぁお前も一応来てくれ」
グルトは店主にもついてくるように言い、酒場を出た。店を出て歩いたのは10分ほどだ。着いた場所には車輪が外された馬車があり、その近くに部品がちらほらと転がっていた。そしてグルトが問題の部品を少女に見せた。
「ほらよ。これがその部品だ。んでどうするんだい?嬢ちゃん」
「へへへ~任せてください!」
少女は渡された部品を壊れた車輪の近くに一つ一つ置いていった。何をしようとしているのかわからない二人は黙ってそれを後ろから眺めている。そして全部の部品を置き終わった少女はその場から数歩だけ下がり、杖を掲げた。
「
少女がそう唱えた瞬間、まばゆい光が車輪から発せられ、二人は目をつぶってしまった。そして光が弱まり、目を開けると、壊れていたはずの車輪が、なおっていた。
しかも先ほどまでは車輪を馬車から外していたはずなのに、なぜか馬車に付いた状態だ。何が起こったのか二人は理解できず数秒ぼぅっとしていたが、少女が二人の目の前で手を振ることで意識を戻した。
「い、今何をしたんだ?」
震えた声でグルトは障子に尋ねた。
「う~ん、それは秘密です!」
「ひ、秘密?」
グルトは、かくんと肩を落とした。
「いや、これって魔法だよな?嬢ちゃん魔法が使えるのかい?」
店主は割と落ち着いていた。だから目の前で起きたことが魔法によるものだろうと判断できいていた。しかし、少女は店主の言葉に頭を横に振った。
「違うんだよ。これは魔法じゃない。まぁ魔法って言ってもいいんだけど、厳密には違うんだ~」
少女は詳細を教える気はないらしく、あやふやな言い方をするだけだった。しかし、目の前で魔法を見る機会など市民には見る機会はなかなかなく二人は興奮していた。
「な、なぁ。もしかして嬢ちゃんならあの剣を抜けるんじゃねぇか?」
「た、確かに、できるかもしれないな」
少女は二人に剣とは何なのことか説明を受けた。そしてあらましを聞いた上で少女は言った。
「うん。できるよ。でもできない」
この言葉が二人には理解できなかった。できるが、したくない、ではなく、できるができない。これは明らかに矛盾している。
「うん?できねぇのか?」
「いや、できるよ」
「だ、だったら!」
「けど、もし私があれを抜いてしまったら
「....どういうことだ?」
少女は俯くだけでグルトの言葉に何も返事を返そうとしなかった。
「まぁグルト。馬車を直してくれただけで十分じゃないか。ありがとなお嬢ちゃん」
「・・・だな。何でもかんでも人任せってわけにはいかねぇからな」
「ごめんね。・・・けど大丈夫。あの剣を抜ける人が近々やってくるから」
「はは、それが聞けただけでありがたいもんだ」
グルトは笑って少女の頭を撫でた。少女は嫌がるそぶりはみせず、されるがままだった。
「よし、んじゃ馬車も直ったことだし、早速、酒を入れますか」
二人は馬車に酒を運び入れ始め、それを少女も手伝った。時間にしておおよそ20分ほどで全ての荷を入れ終えた。
「よし、じゃあ出発するかな」
「あぁ悪いなグルト。行先は結構遠いから気をつけろよ?」
「任せとけって。道中が危険なのはいつものことさ。嬢ちゃんもありがとな!」
少女はずっと黙ったままだったが、にこっと笑顔を見せながら馬車に乗り出した。二人はそんな少女の行動をやれやれと、諦めた顔をしながら眺めていた。
「それじゃ、目的地までしゅっぱ~つ!」
「はぁ~お嬢ちゃん、危険なことあるかもしれんが覚悟はできてるんだろうな?」
グルトは笑いながら聴いた。それに少女も笑顔で答える。
「もっちろん!自分の身は自分で守れるからね!そっちこそ私に守ってとか言わないでよ?」
「はっはっは、嬢ちゃんにはかなわねぇな~。んじゃ仕方ねぇ。行くか!」
グルトは馬車を引っ張る馬2匹を叩き、進むように促した。
「じゃあ行ってくるわ!帰ってきたら剣が抜けてるのを楽しみにしてるぜ!」
「あぁ任せとけ!嬢ちゃんも気をつけてな!」
「は~い!数日後に来る少年と女の子によろしくね!」
その言葉を言った丁度に馬の速度が上がり、酒場の店主がどんどん遠くに離れ小さくなっていった。
「ねぇねぇこれってどこまで行くの?」
「あぁエジンバラにある<麗しき暴食>亭って店さ!」
「・・・へぇ~そうなんだ」
明らかにテンションが下がった少女の声にグルトも気づいた。その酒場を知っているのだろうか?そしてその酒場に嫌な思い出でもあるのだろうか?訊いてもいいがおそらく答えてくれなさそうなので、グルトは好奇心を抑えた。しかし、黙っていてもいけないと思い何かないか考えていたところで今更ながらのことを少女に尋ねた。
「なぁ嬢ちゃん、今更ながらなんだが、嬢ちゃんの名前はなんていうんだ?」
「私?」
少女は何か考えるそぶりを見せ、う~ん、とうなった後にいつも通りの笑顔を振りまきながら言った。
「私の名前はね~・・・ヘルメス!」
ここから少女ヘルメスの旅が始まっていく。
次回もヘルメスさん回です.....おそらくw